Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
ぴあ 総合TOP > 落語の名作を演劇化。演劇の強みを目一杯使って、演劇人が魅せる『死神』~牧島 輝×水野美紀×倉持裕インタビュー

落語の名作を演劇化。演劇の強みを目一杯使って、演劇人が魅せる『死神』~牧島 輝×水野美紀×倉持裕インタビュー

ステージ

インタビュー

ぴあ

左から)作・演出の倉持裕、共演する水野美紀、牧島 輝 (撮影:藤田亜弓)

続きを読む

演劇と落語を掛け算した演劇作品を創造しようと立ち上がった、企画の第1弾として『死神』が登場する。作・演出を手がけるのは倉持裕。演劇での活躍が目覚ましい牧島 輝が主人公の八五郎を、自らも演劇ユニットを旗揚げしている水野美紀が死神を演じる。金なし甲斐性なしの八五郎が死神に授けられた策によって思いがけない人生をたどるユニークな物語は、演劇としてどう立ち上がろうとしているのか。

死神が女性に?! 落語の骨格を活かしつつ、新たな「死神」を立ち上げる

──まずは倉持さんに、落語の「死神」を演劇の『死神』にするにあたって、脚本・演出で大事にされたことをお伺いできればと思います。

倉持 「死神」は古典落語のひとつと言われていて、長年語り継がれてブラッシュアップされた、無駄のない強固な骨格を持っている話です。なので、まずそこは崩したくないと思いました。でも、そのままやるのはつまらないので、その骨格を保持したままどうアレンジするか、どんな新しい解釈ができるか。いろんな噺家さんのいろんなバリエーションがあるので、それと被らない発明をしなくちゃいけないなという気持ちで臨みました。

──牧島さんと水野さんは、出来上がった脚本を読まれてその発明にどんな感想をお持ちになりましたか。

牧島 「死神」を落語で聞いたときは、八五郎と死神をメインで追っていく感じだったんですけど、いろんな登場人物がいていろんな生活があって、その中で出来事が起きているということが、演劇になって初めてちゃんと感じられて。だから、この人とはこういう関係性があるんだとか、この人のこのひと言で変わっていくんだとか、八五郎が左右されていくいろいろな要素を、より面白く感じています。

水野 私がまずびっくりしたのは、落語では男だった死神が女だというところです。「私が死神なんだ! 死神はおばちゃんなんだ!」と(笑)。それから、落語って噺家さんの発する音から自由に想像して楽しむ面白さがあるものだと思うんですけど、演劇は視覚から入ってくる面白さがあるなと、稽古をして改めて感じています。今、倉持さんの鋭いオモシロ演出により、思っていたよりもけっこうコメディになっているんですけど。落語を聴いて頭の中で想像しているものの、たぶん10倍くらいキャラクターたちが動いて跳ねて、面白い要素が足されているので、すごく賑やかになっていると思います。

──本当に死神が女性だったことには驚きましたが、どう演じようと思われていますか。牧島さんも本作の八五郎をどう捉えておられるか、お聞かせください。

水野 私個人的には、死神はこの世に存在しないものなので何でもありだとは思っているんですけど。今は、死神なりのポリシーとか思いを一本通して、それが最終的に伝わるような作り方ができたらいいなと探っているところなんです。貧乏神と死神の違いも自分の中では曖昧ですし(笑)。面白い演出をつけていただいている中で、あまり小さくまとまらずに、型破りなところもあればいいなとも思いますし。まだ考えている途中ではありますけど。でもみんなはどんどん、「バカだなぁ」と思える、愛着が湧くキャラクターになっていっています。

牧島 僕も八五郎のことを「バカだな」って思います(笑)。でも、これだけ後先のことを考えずに刹那的に生きられるのは、ちょっとうらやましいです。

水野 もはやパンクだよね。内田裕也さんみたいな(笑)。

牧島 生き様がカッコいいなと思う瞬間もあるので。こんなふうに生きられたら楽しい瞬間をいっぱい持てるだろうなと。

水野 女泣かせだしね。

牧島 たくさん笑わせているとも思うんですよね。そのどっちにも転べそうなギリギリをやっている感じが、魅力的だなと思います。

水野 こういう男の生き様は、男性は憧れるものなんですか(と、倉持さんに)。

倉持 人によるんじゃないですか。俺は全然好きじゃないけど(笑)、ああいう破滅型に憧れる人はいるし、とくに若いときはそうだと思うけど、だいたい男は一度は憧れる。

牧島 僕は自分がなりたいとは思わないけど、見ているのはいいなと思います。

水野 牧島さんみたいないい男が演じることで、憧れちゃうかもしれないですよね。牧島さんの八五郎は憎めないし。

倉持 そうそう。牧島くんがやるからカッコよくなっているけど、本来、落語の「死神」の八五郎がカッコいいということはないと思うんです。そこも今回の発明ですね。

“カッコいい八五郎”と、演劇だからこその視覚化

──ではそのキャスティングはそもそもどういう狙いからだったのでしょう。牧島さんと水野さんの舞台俳優としての魅力も含め、倉持さんにお話しいただければ。

倉持 牧島くんに関しては図らずも今出てきたように、落語の「死神」にはなかった、主人公の男がカッコいいという、斬新な解釈になったのがいいですよね。しかも、「そんなバカな」っていうようなことしか言わないから、ともすれば悪ふざけしているみたいに見えてしまう役なんですけど、ふざけているように見えない、少なくともこの人は本気でそう信じて喋っているんだなと思わせる芝居をしてくれているから。お客さんが「そんなバカなことあるわけない」と我に返らずに最後まで観ることができるんじゃないかなと、まだ稽古序盤ですけどそんな手応えを演出としては感じています。

水野 主観と客観がバランスよくある方ですよね。

牧島 (顔を歪めて聞いている……)

水野 褒められると嫌そうな顔をするんですよ(笑)。

倉持 だいたい嫌なもんだよね。

水野 私は褒めてもらって大丈夫です(笑)。

倉持 でも、死神役を女性にしてみようという話になったときに、本当に水野さんが浮かんで、ご一緒するのは15年ぶりくらいですけど、すごく上手くなったなと思っています。偉そうな言い方になりますけど、前はきれいなのに面白いという貴重な存在だなという印象だったのが、そこに上手さが加わった。

水野 ありがとうございます。成長できたんですね、私も。

──とくに死神という見えない存在を視覚化するにあたっては、どんなところにこだわっておられますか。

水野 見えない存在だけど、八五郎にだけは見えるというのが面白いですよね。こだわっているのは、死神っぽくゆっくり動いてみたり、言葉や動きの端々に怖がらせる要素を入れてみたり、でもどうやら神様の中では階級が低くて虐げられているみたいなのでそんなに偉そうにしていなかったり、というところでしょうか。その中で「ここは急に速く動いて」と人外のものの動きを求められたり、倉持さんに面白い演出をされているので、メリハリのある死神を目指しています。

倉持 演劇で実際に視覚化するというのはやっぱり難しいことなんですよね。想像してもらえるのが落語の強みであって、たとえば、遊郭に行ってとんでもなく美しい花魁が出てきたというときも、お客さんはそれぞれの理想の美しさを想像しながら聞いているわけですから、それを視覚化するとなったら誰に演じてもらうんだっていう話になる(笑)。だから、美男美女が出てくる話はやりたくなかったんです。

水野 良かった。花魁じゃなくて死神で(笑)。

牧島 いや、死神もけっこう大変ですよ(笑)。

倉持 そういう意味では、死神が美しい女性だったとか、八五郎がカッコよかったとか、今回は逆の裏切りがありますよね。あと、最初に牧島くんが言っていましたけど、ほかの登場人物たちが視覚化されるのはまさに演劇の強みで。噺家さんがひとりで何人も演じ分けるという難しいことを演劇だと簡単にできますから、複数の人物がワーワー喋っている場面をあえて書いたりしています。だから、演劇にとって難しいことに挑戦するというよりは、落語が苦手としていて演劇が得意とするところを意識しながら、書いたり演出したりしています。

滅びの美学と、“生きる”ことの物語

──公式サイトには、メインテーマ曲「愚人の流儀」を牧島さんが歌われている動画が公開されています。音楽はこの作品においてどういう役割を持つことになりそうでしょうか。

倉持 脚本を書いている途中に、今回の音楽監督で曲を作ってくださった中村中さんからデモテープが届いたんです。どう脚色しようかと迷っているときに、“滅びの美学”を歌っているようなこの曲がきて、「そうだな、八五郎にカッコよさもあるな」と、それで方向性がわかった気がしたので、中さんの曲が脚色の方向性を決めたとも言えます。

『死神』 メインテーマ「愚人(ぐにん)の流儀」 MV

──牧島さんは歌ってみていかがでしたか。

牧島 難しい曲でした。でも、昨日みんなで歌ってみたんですけど楽しかったです。

水野 リズムがめちゃくちゃ複雑なんですよね。

牧島 そうなんです。難しい仕掛けを中さんがいっぱい作ってくれていて、そこが歌えるようになるともっと乗りたくなりますし。ガンガン前に進んでいく曲なので歌っていて楽しいです。歌詞も、倉持さんがおっしゃった滅びの美学が入っていたり、難しい漢字を使っているけど噛み砕くとバカなことを言っていたり。英語の歌詞も、何かちょっとメタファー的でもあるのかなと思ったりもして。とにかく面白いです。ズルして生きるみたいな勢いがあって(笑)、好きですね。

水野 歌うところは楽しいシーンになりそうですね。

倉持 ミュージカルのようなシーンになりますけど、1年くらいの間に起きたことを1曲2〜3分の中で表現できるんですから、それも演劇の強みだなと実感しています。

牧島 落語で立ち上がって踊りながら歌うことはあまりないでしょうし。歌うといってもこんなに言葉数の多いノリのいい曲はない気がします。

倉持 やっぱり演劇ならではですよね。

──作品全体としては人の“生き死に”が描かれていくことになります。そのテーマについては、どんなことを思われますか。

倉持 死神が言うんですよ。「寿命を全うしなきゃいけない」「途中で勝手にやめちゃダメだ」「一生懸命生きろ」と。そのわりには、「寿命は決まっていて死ぬことはどうにも止められない」と言ったりもする。だから、落語の「死神」は死生観の真理を突いているなと、脚本を書きながら思っていました。そこに八五郎夫婦が子どもを欲しがっているという設定を加えたので、この作品では徹頭徹尾“生”の話をしているかもしれません。だから、お客さんはずっと“生き死に”のことを感じながら観ることになるでしょうし。何かひとつの答えが出てそれを持って帰るということはないと思いますが、八五郎を観て笑いながら、生きることと死ぬことを考えてもらえればいいんじゃないかなと思います。

水野 寿命の長さがろうそくで視覚的に表される場面があるんですけど。人それぞれに寿命というものがあって、ろうそくの火みたいに燃えているものだとしたら、じゃあ自分はどうなんだろう、自分の人生をどう燃やし尽くすのか、どう生きるのか、ということは、何となく想像しながらご覧になる方もいらっしゃるんじゃないかなと思いますよね。

牧島 ただ、ろうそくの長さと太さが決まっているとしたら、もう生き方まで決まっちゃっている感じがするじゃないですか。それは寂しいから、自分の気持ち次第で変えられたらいいなとは思います。自分のろうそくが誕生日ケーキに刺すくらいのサイズだったら、マジでショックですよ(笑)。

倉持 でもそこで、「はじめから決まっているものじゃない」と反発しながら観て、「自分で変えてやる」くらいなことを思ってもいいんですよね。

取材・文:大内弓子 撮影:藤田亜弓
スタイリスト=(牧島)中村剛 衣装協力=(牧島)ANTOK(@antok__design)
ヘアメイク=(牧島・水野)橋本庸子

<公演情報>
H&Aプロデュース企画 第1弾
『死神』

作・演出:倉持裕(原案:三遊亭圓朝『死神』より)

出演:牧島 輝 樋口日奈 浅利陽介 玉置孝匡 香月彩里 立川志の春/水野美紀

【東京公演】
2026年4月11日(土)~26日(日)
会場:紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA

【兵庫公演】
2026年5月2日(土)~4日(月・祝)
会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

関連リンク

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/shinigami/

公式サイト:
https://www.h-and-a-planning-shinigami.com/