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ステージぴあと“ごはんいきませんか?”── [第2回]石黒麻衣(劇団普通)

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石黒麻衣(劇団普通) (撮影:石阪大輔)

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「ステージぴあ」が、気になる演劇人とその人にとって馴染み深い場所で一緒にご飯を食べながら、その人の“これまで”と“これから”について語り合う誌上連載企画「ステージぴあと“ごはんいきませんか?”」。連載第2回に登場してくれたのは、劇団普通の主宰で作・演出を手掛ける石黒麻衣さん。

身近な日常を独特のテンポ、そして全編茨城弁というスタイルで創作を続け、読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞、そして岸田國士戯曲賞候補に名を連ねる演劇人となった石黒さんが向き合う演劇のリアルとは? 高校時代の石黒さんにとって身近な存在だった、茨城県水戸市にあるコンサートホールや劇場を備える複合文化施設、水戸芸術館内のカフェで話を聞いた。

地元茨城での演劇体験はゼロ

――石黒さんと言えば、やはり茨城ということで今回、水戸芸術館にあるサザコーヒー(茨城県を拠点に展開しているコーヒーショップ)でお話を伺わせていただきます。

石黒 私は出身が茨城県の那珂市で、水戸市内の高校に電車で通っていました。学校は水戸芸術館の先にあって、朝は水戸駅からバスでしたが、帰りはいつも友達とおしゃべりしながら駅まで歩いて帰っていて、水戸芸術館の広場でたむろしたり、気になる展示があれば見たりしていました。

――今年1月には、水戸芸術館内のACM劇場で『季節』の上演が行われました。高校時代からなじみのある場所での公演、感慨もひとしおだったのでは?

石黒 本当に、まさか自分がここで公演をやらせていただけるとは思ってもいなくて……。学校の帰り道にいつもなじみのあった場所で、自分がやりたいこと、自分の作品をやらせていただける。想像もしていなかった未来で、すごく不思議な感覚でした(笑)。 私は高校演劇をやっていたわけでもなく、当時はACM劇場で演劇を見たこともありませんでした。私の中で水戸芸術館は音楽のコンサートホールのイメージのほうが強いくらい。高校時代から演劇をやっていたら、また違った感慨があったのかもしれませんけど……。 ただ、今日も制服姿の高校生やお子さん連れのお母さんの姿が見えましたが、水戸芸術館があまりにも街になじんでいて、敷居が高くなく、気軽に展示やミュージアムショップをのぞいたりして、意識せずにアートに触れることができたのは、いま思えばすごく良い経験だったと思います。

『季節』を上演した水戸芸術館ACM劇場にて

――第33回読売演劇大賞優秀演出家賞受賞の対象作品を携えての地元での公演、反響はいかがでしたか? 東京での公演と反応の違いなどはありましたか?

石黒 笑いのポイントが東京と茨城では違っていて面白かったですね。東京だとケンカのシーンやシリアスなシーンでみなさん、静かに息をのむようにご覧になっていたんですけど、水戸では「そうだ、そうだ」という感じで、みんなすごく笑っていました。

@水戸芸術館
@水戸芸術館

――「学生時代、演劇に触れてこなかった」そうですが、演劇の世界に足を踏み入れることになったきっかけは?

石黒 茨城で生まれ育って大学入学を機に上京したんですが、高校、大学と学生時代を通じてまったく演劇に触れてこなかった人間です。新卒で社会人になって、パソコン業務で座りっぱなしだったので体を動かそうとボクササイズを始めても続かず(苦笑)、そんな時に「ふと思い立って」通い始めたのが、上野にある小さな劇場の一般向け演劇ワークショップだったんです。見学だけで帰るつもりだったのが読み合わせに参加して、気づいたら次の週も行くことになり……。
来られる時に来ればいいというゆるいワークショップでしたが、「何が面白いか?」に対してはすごく厳しくて、そこで15分の一人芝居をつくったりしている内に「こうした方がいいかも」、「こうすればもっと面白くなる」とアイデアがわいてきて「自分でやってみよう」と思い立って劇団普通を始め、いまに至ります。

――ちなみに劇団普通というネーミングはどのように?

石黒 いろんな名前の候補を書き出してみて、候補のひとつに劇団普通がありました。「劇団健康」とか「大人計画」とか、漢字4文字の劇団に憧れがあったんです(笑)。第1回公演は『宇宙がこわい!!』という一見、普通とはかけ離れたタイトルの作品だったんですけど(苦笑)。常識では宇宙が存在していることを理解しているけど、日常生活との繋がりをなかなか想起しづらいということから考え付いたタイトルで、そういう意味では日常に普通に存在しているものを改めて考えてみる、みたいな思いは当時からあったんだと思います。

演劇のリアルを求めたら茨城弁だった

――戯曲の執筆の方法についてもお伺いします。石黒さんの作品は、家族や親戚、友人といった身近な人々の会話によって紡がれていくことが多いですが、物語はどのように生まれ、そして育てていくんでしょう?

石黒 戯曲を書く時は物語ありきではなく、まず「見たいシーン」が浮かんできます。『季節』(2025年シアタートラムにて初演)では、親戚が一堂に会してワチャワチャと話している画が浮かびました。それが動き出し、最初は音のない映画みたいなんですが、「何を話しているのかな?」と耳を澄ますと、パクパクと動く口から少しずつ声が聞こえてきて、物語が回り始めるんです。

――登場人物たちが全編にわたって茨城弁を話すようになったきっかけは?

石黒 茨城弁で芝居をやり始めたのは、『病室』(2019年初演)からで、なぜかというと、実際に話されていたのは茨城弁だったから。意図的に「茨城弁で書こう」と思っていたわけではなく、自分が書きたいと思うシーンで話されているのが茨城弁だったんです。それまで、リアリティのある会話をいかに舞台上で自然に表現するか? を考え、家族や友人の話、バスや病院の待合室で聞こえてきた会話を頭の中にイタコのように呼び起こして文字にして、いかにお客さまに伝わるものにするかという研究を続けてきました。そして、これならいけると思い上演したのが『病室』でした。

――ストーリーありきではなく、シーンから発想するという点も含めて、やはり日常のリアルな会話を舞台上で表現することに惹かれているんでしょうか?

石黒 私自身すごく不器用な人間だからこそそう思うのかもしれませんが、誰かと会話をする時、相手との関係性や周りの状況に合わせた声の大きさやトーン、言葉選びなど、いろんなことを頭の中で無意識に考えて話していると思うんです。それって本当にすごいことで、素晴らしい仕組みによって、素晴らしい仕事が頭の中で行なわれているのに、普段は意識されていない。ものすごくもったいないし、私はそこに“美”を感じるんですね。

――舞台上で意図的にナチュラルな会話を再現したい?

石黒 そうですね。物語ではなく、(頭の中の)システムこそがドラマティックだと思います。ですから、『病室』以前から、リアリティのある会話を追求してエチュードで作品をつくるなどいろんな実験をしてきてきました。現実のリアルな会話とリアリティのある会話とではまったく違い、本当の現実のリアルな会話では再現性がないんです。私が演劇ワークショップに通って学んだ最も大事なことのひとつが「プロは、再現性のあるものをつくらなきゃいけない」ということ。再現するには、意識して仕組みを理解していないといけない。
当たり前ですが、会話というのは目の前の相手に情報を共有できればいい、相手以外、周りの人々に伝えるためのものじゃないですよね? そのリアリティを損なわずに、エンターテインメントとしていかに劇場でお客さまに見せるか? 常にそのギリギリのラインを狙ってせめぎ合いをしています。

――ところで、演劇には触れてこなかった時代の石黒さんが夢中になったり、影響を受けたと思うカルチャーはありますか?

石黒 両親も兄も読書好きで、家にたくさんの本があり、私もいつも読んでいました。子どもの頃は、まだインターネットもなかったですし、情報源と呼べるものはTVや雑誌、あとはイミダスくらい(笑)。田舎のヒマな子ども時代だったので、ヒマつぶしは本を読むことでした。本は自分で買うのではなく、父の蔵書や兄が買ったものを読んでいたので、まさに雑食。赤川次郎から宮本武蔵、さまざまなエッセイまでとにかく何でも読んでいました。読書以外では、父親がレコード好きで、家にレコードを聞くための部屋をつくるくらいだったので、よく一緒に聴いていました。

――徐々に大きな劇場での上演機会も増え、読売演劇大賞優秀演出家賞(『秘密』、『季節』)を受賞、そして岸田國士戯曲賞の最終候補(『季節』)に入るなど、石黒さんに注目しているお客さまも増えていると思います。こうした状況をどのように受け止めていますか?

石黒 もともと、劇団を大きくすることは考えずに小さなギャラリーで始めた活動でしたから、「信じられない」というのが正直な気持ちです。ただ、最初は「賞をいただけたら嬉しいな」くらいに軽く考えていましたが、時間が経つにつれて、それだけ期待をかけていただいているという責任も感じるようになりましたし、毎回、自分の限界を超えて挑戦していかなくてはいけないという戒めになっています。

――今後の活動や新たに挑戦したいことなどがあれば教えてください。

石黒 『病室』以降も茨城弁による会話劇を書いているのは、あくまでも自分が見たいシーン、そこで紡がれている会話が茨城弁でなされているからなので今後、見たいシーンから標準語が聞こえてくれば、その言葉でも書きたいなと思っています。やらせていただける機会があれば、海外の戯曲の上演にも挑戦してみたいと思います。

取材:小川里菜(ステージぴあ編集部)
文:黒豆直樹
撮影:石阪大輔
協力:水戸芸術館

石黒麻衣プロフィール

茨城県出身。劇作家・演出家・俳優。2013年に劇団普通を旗揚げ。独自の会話における間と身体性によって醸し出される緊張感を特徴とした作品に取り組んでいる。
茨城弁による全編方言芝居が注目を集め、昨年『秘密』(再演)と『季節』で、第33回読売演劇大賞優秀演出家賞受賞。6月上旬に劇団普通新作公演を予定している。

水戸芸術館 オフィシャルサイト:
https://www.arttowermito.or.jp/

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