上田竜也、葛藤の中で挑む“心の闇” 『リプリー』で見せる新境地
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インタビュー
上田竜也 (撮影/キム アルム)
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すべて見る上田竜也はまっすぐで嘘が付けない男だ。この取材が行われたのは、舞台『リプリー』の稽古前。「台本を読み解くのが難しくて、理解できていない」と正直に記者に話す姿は、誠実さすら感じられる。本音トークの彼が挑むのは、息をするように嘘をつくトム・リプリー。誰よりも魅力的で残酷、孤独な青年だ。人間の心の闇を描いた傑作サスペンスで上田竜也の新しい魅力が引き出されることは間違いないだろう。
台詞と向き合うプレッシャー
巧妙で冷酷でありながら、人を惹きつける主人公・トム・リプリーを描く舞台『リプリー』。1960年にアラン・ドロン主演で映画化され、日本では『太陽がいっぱい』として公開され、世界的にヒット。1999年にマット・デイモン主演で再映画化されるなど、幾度となく映像化されてきた往年の名作が待望の日本初上演を果たす。主演を務めるのは、デビュー以降、映像、舞台で幅広く活躍し、多彩な魅力を発揮してきた上田竜也だ。
「この舞台のお話をいただいたのは、ちょうど音楽劇『謎解きはディナーのあとで』のゲネプロをやっていて、バタバタしていた時でした。過去にマット・デイモン主演で映画化されるなど、映像もありますが、僕は観ていなくて。今回は日本版の舞台と言うことで、また映画とは違った雰囲気の作品になると思うので、映像に引っ張られないように観ないで挑むかもしれません。映像のお芝居にこだわらず、演出家の宮田さんの演出を素直に受け止めたいと思っています」
P・ハイスミスの小説によって生み出された『リプリー』。物語は1950年代初頭、ニューヨークで自堕落に生きている青年トム・リプリーに、ある富豪からの依頼が舞い込むことから始まる。富豪の息子であるリチャードを連れ戻すことが任務だ。イタリアに渡ったトムは、次第にリチャードの華やかな生活に魅了され、羨望や嫉妬、様々な感情が渦巻くようになる複雑な心理が描かれる。
「今は苦戦しながら、台本を読んでいるところ。想像力が乏しいこともあって、話の内容を理解するのが大変で……(笑)。台本を2ページ読んだら一度閉じて、また1時間後に1ページ読んでという繰り返しなので、なかなか読み進められない。本が読めないという時点で自分には向いてないのかなと心が折れそうでしたね。しかも、今回今まででいちばん台詞が多いかもしれないので、台詞と向き合うプレッシャーもあります」
これまで演じた役の集大成という気持ちでいます

最近は穏やかな役を演じることが続いていたという上田。昨年は音楽劇『謎解きはディナーのあとで』で執事役、カンペ劇場『潜入バーテンダー』では潜入捜査官、今年はドラマ『聖ラブサバイバーズ』ではバンドのベーシスト役など、演じる役どころはバラエティーに富んでいる。今回のような非道徳な犯罪者の役でどんな新たな表情を解き放つのか、楽しみでならない。
「今回はサイコパス的な要素が強い役なんですよね。この1年間くらいは、ドラマや舞台では、結構分かりやすい作品が続いていたので、自分の中では覚悟を持って演じなくてはいけない役だと思っています。久しぶりにこういう難解な役が来たなって思いましたからね。トムを演じるのは、自分にとって大きな挑戦になりそうです。過去には複雑な話の舞台に出演したことがあるので、これまで演じた役の集大成くらいの気持ちでいます」
まだ稽古に入る前の取材ということで、「役をよく理解できていない」と正直に打ち明ける上田。これまでも作品や役を理解するのに大変だったと語るのが、2014年に出演した蜷川幸雄演出の『冬眠する熊に添い寝してごらん』と2015年に出演した舞台『青い瞳』だ。『冬眠する熊~』では伝説の熊猟師の子孫である兄弟役、戦争の中で自分の居場所を探す切ない人間喜劇『青い瞳』では、戦後に生きる若者で、チンピラグループに染まり切れないサムを演じた。
「初めての蜷川幸雄さんの作品と『青い瞳』は、自分にとって難しい舞台でした。まず話がちょっと分かりづらくて、出てくる単語も結構、難しかったんですよ。台本を読み解くのが大変でした。普段、使わないような言葉もたくさんあって、お客さんがどう解釈するのかなと思いました。その時は、こちら側が分かりやすく演技をすることを考えて演じましたね」
昨年、仲間との絆と成長を描く青春小説『この声が届くまで』を出版した上田。構想から約10年、バンド活動に全力で立ち向かう主人公が憧れの武道館を目指す物語を執筆した。物語を紡ぐ経験はあっても、台本を読むのは、また違う思考回路を使うという。
「基本的に小説を読むのって、苦手なんですよね。昨年、小説を書きましたけど、僕が書いているものって全然、難しくないですから(笑)。書くのと、読むのとは全然違うじゃないですか。とくにこの『リプリー』は解釈が難しい。記者の皆さんは、『リプリー』の台本を読まれて、理解できましたか? どう捉えたのか、僕に教えてくれませんか?(笑)」と、記者たちを見まわす場面もあった。
演出家の宮田慶子とは今作が初めてのタッグに。宮田は、「トム・リプリーは非道徳な詐欺師・犯罪者でありながら、その華麗さと上品さ、不安定に揺れる繊細な心が世界中に惹き付けてきました。舞台として挑戦できることにとても興奮します。集中力が高く、シャープで陰影のある人物造形をなさる上田竜也さんが作り出して下さる『リプリー』に今からワクワクしています」と期待を寄せている。
「宮田さんの演出は初めてなので、楽しみですね。宮田さんが求める世界観に近づくため、こういうところが魅力の作品だということから、いろいろお話をまず聞けたらいいなと思っています。宮田さんはもちろん、リチャード役の木村了さん、マージ/ソフィア役の潤花さんたち共演者の皆さんとたくさんお話することから初めて、チームワークよく一致団結して、作品を作り上げたいです」
お客さんの拍手から手応えを感じたい
これまでたくさんの舞台に立ってきた上田だが、舞台上でも観客が楽しんでいるのが肌で感じられるのが舞台に立つ醍醐味だという。
「『謎解きはディナーのあとで』のようなコメディ作品だと、みんな笑って、楽しんでくれているのがすごく伝わってきたんですよ。今回はコメディではないので、最後どのような想いになって拍手して下さるのか、気になります。お客さんの表情からは心の底まではわからないから難しいところですけど、その拍手から手応えが感じられたらいいなって」
先輩や後輩の舞台を観劇する機会もあるという上田。そんな時は、「自分が本当に感じたことを伝えたい」と思っており、嘘のない、まっすぐな感想を伝えるタイプなのだとか。
「自分が舞台を理解できて、楽しかったなと思わないと、なかなか感想って言いづらいものですよね。先輩や後輩の舞台を観たら、やっぱり感想を伝えなくてはならないじゃないですか。舞台後に挨拶して話すとき、どんな言葉をかけたらいいのかなって思いますからね。そういう時は、自分が感じたままの感想を言います。そう考えると、自分は分かりやすい舞台が好きなので、今回の『リプリー』はチャレンジですよね」
上田といえば、ミュージカル『Endless SHOCK』シリーズで2020年から数年間にわたって堂本光一演じるコウイチのライバル・タツヤ役でショーに懸ける熱い男を演じていた。これから役者としては、どんなビジョンを持って走り続けるのか、気になるところだ。
「映像では、とくにこだわりなく、いろんな役を演じたいなと思いますけど。やりたいのは、観た人の感情を動かすようなハートフルな作品。感動を届ける役割をやってみたいですね。とはいえ、今年やったドラマ『聖ラブサバイバーズ』みたいな、のほほんとした作品もやっていて楽しかったですけどね。ステージに関しては、やっぱりお客様が楽しんでもらえるような作品をやっていきたいです」
最近、嫉妬を感じた人物は?

出演作で舞台の楽しさを感じた作品を尋ねると、2009年に東京グローブ座で上演した『ロミオとジュリエット』だという。シェイクスピアの原作から現代風のアレンジが加えられた作品で主演のロミオ役を演じた。キスシーンもあれば、コミカルタッチな場面も盛りだくさんの舞台だ。
「いちばん最初にやった舞台『ロミオとジュリエット』は、自分の中で舞台ってこんなに人の心を動かすことができるんだという手応えと達成感があって、楽しかったです。愛するロミオが死んだと思い込んで、ジュリエットが後を追って死ぬ場面では、グローブ座がシーンと静まり返って。涙を流す人がいたり、泣いている人たちの鼻をすする音が聞こえてきたり。感情を揺さぶることができたんだなと感じられたその瞬間、この舞台は成功だなと思いました。初めての舞台で舞台芝居というのがどういうものなのか、何も知らなかったんですけど。発声の仕方や台詞の滑舌を勢いのままやる中で、いろんなことを演出家さんや共演者に教えていただきましたね。あの作品でお芝居が好きになったので、自分にとってターニングポイントになる作品との出会いでした」
そして、上田にとって、好きな舞台のナンバーワンは、自身の出演経験がある『Endless SHOCK』。思い入れのある大切な一作だという。
「いや~、好きな作品と言ったら、それはやっぱり『Endless SHOCK』しかないですよ。舞台の世界観が強烈だからこそ、観た後、なかなか余韻が抜けないんですよね。それは、演者も観ている側も同じなのかな。ショービジネスの世界に生きるエンターティナーたちの生き様を演じるのは大変ではありましたけど、だからこそ大切な一作になりました。歌もダンスもショーも殺陣も詰まっていて、みどころ満載ですし、『Endless SHOCK』は最高のエンターテインメントだと思います」
トムがリチャードと親交を結ぶうち、次第にリチャードに羨望と執着が入り混じるような暗い欲望が芽生え始める。最近、上田にとって、嫉妬と羨ましさを感じた人物は?
「たくさんいると思いますよ。誰だろうな。身近なところで言ったら、Novelbrightの竹中雄大ですね。雄大は、歌がめちゃくちゃ上手いんですよ。一緒にいる時、カラオケで歌ってくれることもあるんですが、『これだけ上手かったらいいな~、僕も歌が上手くなりたい!』という強い想いが湧いてきますね。まあ、素直に言えば、憧れと嫉妬の気持ちもあるかもしれないし、向上心を掻き立てられる相手でもあるのかな。僕は雄大の歌に感化されて、ボイストレーニングを始めましたから」
時代を超えた名作『リプリー』で新しい風を巻き起こすのが、主演の上田の役割。難解な今作に覚悟を持って挑むということで、大きなプレッシャーを感じている様子だ。
「まだ自分自身が作品を理解できてないですからね。難しいのが苦手な僕のファンの方や足を運んで下さったお客さんに、何か感じとってもらえるように、分かりやすく伝えられたらいいなと思っています。上手く伝わるのかなぁ……。お客さんの目線を大切にして、3時間でどのように楽しんでもらう作品にするかということを考えたいです。そもそも僕は舞台って楽しんでもらうためにやっているので、お客さんが満足してもらえたら、もうそれでいいんですよね。出演者や演出家含め、自己満足だけの舞台にはせず、頑張らないといけないなと思っています。観て下さった方にこの舞台を観て、良かったなと思ってもらえて、いろんな感情になってもらえたら嬉しいです。そのためには稽古では大変な中でも面白さを見出して、この作品をしっかり解読したいと思っていますので楽しみにして下さい」
撮影/キム アルム、取材・文/福田恵子
<公演情報>
舞台『リプリー』

原題:THE TALENTED MR RIPLEY
原作:パトリシア・ハイスミス
舞台脚本:フィリス・ナジー
翻訳:伊藤美代子
演出:宮田慶子
出演:上田竜也 木村了 潤花 板倉武志 長友郁真 川上麻衣子 鶴見辰吾
【東京公演】
2026年5月6日(水・休)~24日(日)
会場:東京グローブ座
【大阪公演】
2026年5月29日(金)~31日(日)
会場:COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
関連リンク
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/ripley-stage/
公式サイト:
https://ripley-stage.jp/
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