漱石と“坊っちゃん”が交差する──井上芳雄×三浦宏規×土居裕子が紐解く名作の魅力
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インタビュー
左から)土居裕子、井上芳雄、三浦宏規 (撮影:興梠真帆)
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すべて見る音楽座ミュージカルの傑作、『アイ・ラブ・坊っちゃん』が東宝製作で上演される。苦悩の底にあった文豪・夏目漱石が、『坊っちゃん』の執筆を通して自己を回復していく姿を史実とフィクションを織り交ぜて描き、「日本のオリジナルミュージカルの到達点」と評された作品だ。漱石役の井上芳雄、坊っちゃん役の三浦宏規、そして1992年の初演でも同役を演じた漱石の妻・鏡子役を務める土居裕子に、作品の魅力やお互いの印象、オススメの楽しみ方を聞いた。
夏目漱石は、今の自分たちのジレンマの第一人者

――まずは、今回のご出演が決まった時の心境をお聞かせください。
井上 音楽座の作品はずっと好きで、これまでに『シャボン玉とんだ 宇宙(ソラ)までとんだ』と『リトルプリンス』をやらせていただきました。『アイ・ラブ・坊っちゃん』もすごく好きな作品なんですが、お話をいただいた時は、今の年齢でやれる役があるのかなと。夏目漱石ってもっと年上だと思ってたから、自分には早いんじゃないかと思ったんです。でも改めて聞いたら、早いどころか漱石のほうが年下だった(笑)。文豪という、今までにやったことのないタイプの役に挑戦できるというのもあって、有難くやらせていただくことにしました。
三浦 この作品は、音楽座さんが生み出された日本屈指の名作ミュージカル。僕は常日頃から日本の作品をやりたいと思っていたのと、何より芳雄さんと初めてミュージカルで共演できることが嬉しくて、絶対やりたいと思いました。
土居 まさかもう1回この作品に、しかも同じ役で出演する日が来るとは全く思っていませんでした。お話をいただいた時、頭に浮かんだのは坊っちゃんの家の女中である清役だったのですが、清は『坊っちゃん』世界の人なので漱石との絡みがないんですね。ヨッシー(井上)とは……そうあえて呼ばせていただきますが(笑)、『リトルプリンス』で共演させていただいて本当に楽しかったので、鏡子さん役ならばまたあの楽しさが味わえると思って、やります!と言わせていただきました。

――現時点で、この作品にどんな魅力を感じていますか?
土居 『坊っちゃん』は、漱石の筆が一番乗っていた時期に書かれた小説ですが、そこに至るまでには、すごくデリケートな精神状態だった期間も含めてさまざまな葛藤がありました。小説『坊っちゃん』の世界と漱石の実生活がクロスオーバーしているところが、やはり何よりの魅力だと思います。
三浦 坊っちゃんという役に、漱石が自分を投影しているような描かれ方なんですよね。キャラクター性という意味では似ていないふたりですが、同じタイミングで同じセリフを言うシーンもあって、芳雄さんと息を合わせてできるのがいいなって思います。これは作品の魅力というか、僕の感想ですけど(笑)。普段、芳雄さんからはパワーをいただいてばかりなので、作中くらいは漱石にエールを送れるような坊っちゃんでいたいと思って取り組んでいます。
井上 ミュージカル的な魅力にあふれた『坊っちゃん』パートだけでも面白い上に、お芝居がメインの漱石パートも楽しめる、贅沢な作りのミュージカルですよね。それと稽古をしていて改めて思うのは、夏目漱石は今の自分たちにとって重要な人物だということ。日本が近代化しようとしてる只中で漱石は、西洋にどう近づけばいいのか、そもそも近づくべきなのかを日々悩んでいた。彼は、今の自分たちが抱えてるジレンマの第一人者みたいな人なんですよ(笑)。特に西洋のミュージカルをやることが多い日本の僕たちにとって、学ぶところのある人だなと思います。
夫婦漫才のような芳雄・漱石と土居・鏡子
――お互いの印象、俳優として素敵だなと思うところを教えてください。
井上 土居さんはもうね、奇跡のミュージカル女優ですよ。ご自身は何と言うのかな、ちょっと心配になるようなところのある方なんですけど(笑)。
土居 『リトルプリンス』の時も、「土居さん、昨日ここの台詞抜かしましたよ」「えっ、そう?」みたいなことが結構ありましたね(笑)。
井上 そう、ご本人は台詞を抜かしたことを気づいてないんです(笑)。でも俳優としては、僕も昔から映像で観ていましたし、僕よりちょっと上の世代には宮川浩さん、福井晶一さん、吉野圭吾さんのように、“土居裕子に憧れてミュージカルを始めた”俳優がゴロゴロいるんですよ。土居さんと結婚するつもりだった、とか言う人までいますからね(笑)。そういう意味では伝説級の方なのに、ずっと活躍されているところが本当にすごいな、素敵だなと思います。音楽座を辞められてからも、オリジナルミュージカルも翻訳ミュージカルもストレートプレイもやられていて、背中を追いたい役者さんですね。

土居 ヨッシーは、ミュージカル界を背負っている方。ついこの間まで中国残留孤児の役をやっていて(『大地の子』)、漱石役にすぐには入れないんじゃないかと思っていたらもうスコンと切り替えられていますし、その合間にもたくさんのお仕事をされていて。それだけ自分の中の、クリエイティブな心がうわ~っと持ち上がっていらっしゃるんでしょうね。三浦さんとは初共演ですが、今や若手ミュージカル俳優のなかでも飛ぶ鳥を落とす勢いの方。私は音楽座の作品のなかで……これ、言っていいのかな?
井上 言っちゃいましょう! 知らないけど、何言うか(笑)。
土居 言っちゃおうか(笑)。音楽座の作品は全部好きなのですが、大人っぽい完成度としてはと言うのかな、『アイ・ラブ・坊っちゃん』はとても好きだったんです。その主役を、ミュージカル界のトップを走るおふたりがやってくださるなんて、私が言うのは変なのですが、この作品はこの上なく光栄だぞ!と思っています(笑)。

井上 僕は宏規のことは昔から知っていますが、意外と根性というか、ガッツがあるんですよね。元々踊りから始めて、きっと悔しい思いもしながら歌と芝居にも取り組んできて、それぞれの精度をどんどん上げてきているのを見ると、僕が思っている以上に貪欲なんだなと思います。自分は踊りができるから歌はこれくらいでも、とは全然思っていない感じがして、ミュージカル俳優はこうあるべきだなと。すごいなあ、頼もしいなあと思って見ています。
土居 うんうん、こうして和物にまで挑戦されますしね。
三浦 恐縮です……。僕からおふたりのことを話すのはおこがましくて難しいんですが……まず芳雄さんに関しては、働き過ぎです!(一同笑)
井上 全然褒めないじゃん(笑)。
三浦 いや(笑)、“ミュージカルと言えば井上芳雄、井上芳雄と言えばミュージカル”みたいなトップスターがこれだけ働いていたら、若手が「疲れた」とか言えないじゃないですか。もうちょっとだけ、もうちょっとだけ! 休んでいただけると我々も、少しゆとりをもって暮らせるかなと(笑)。でも本当、お芝居だけじゃなくすべての面において超一流の方として尊敬している芳雄さんと、ミュージカルで共演するのは僕の夢であり目標でもあったので、芳雄さんがどうやって作品を良くして、ご自分の役を深めて、稽古場の雰囲気を作られるのか、近くで見られるのは財産だと思っています。そして土居さんは、最初にシーン稽古をした時にもうなんか、(上を向いて目頭を押さえながら)こうなりました(笑)。僕だけじゃなくその場にいた全員が、「土居裕子さんってすごい!」って打ちひしがれるくらいの佇まいと存在感で……。この台本って、漱石が悪者に見えちゃうこともあり得るじゃないですか。
井上 やりようによってはね。漱石、ずっと怒鳴ってるから。
三浦 はい。でも全く悪く見えないのは、もちろん芳雄さんのお力でもありますが、鏡子が土居さんだからなんだろうなと。
土居 だって私、1回やっていますから。
三浦 いやいや。なんだか夫婦漫才を見ているような気分にさせてくれる、芳雄さんと土居さんにしか出せない雰囲気がもう出来上がっていて、僕は「これが本物の役者かー!」と思いながら、日々勉強させていただいています。

――お三方のほかにも魅力的なキャストの皆さんが揃っていますが、特に共演が楽しみな方はいらっしゃいますか? ちなみに公式サイトのコメントでは、山嵐役の小林唯さんから三浦さんのお名前が挙がっていました。
三浦 唯君とは『レ・ミゼラブル』でマリウスとアンジョルラスとして共演していて、「プライベートでも仲がいい」って、唯君は言うんですけど。僕、プライベートでは会ったことないんですよ(笑)。唯君は、人とご飯に行くのは3か月に1回って言ってたくらい、プライベートで外に出てこない人なので。
井上 普段何をしてるか分からない人だよね(笑)。DIYをしてるって聞いたことあるけど。
三浦 それも知らなかったです(笑)。ただ現場ではずっと一緒にいて、僕は年上の唯君にすごく甘えさせてもらっています。唯君は僕を「わがまま坊っちゃん」、僕は唯君を(歌のことばかり考えているという意味で)「歌バカ」と呼んでるんですよ、もちろん親しみを込めて(笑)。だからそういう意味では、喧嘩もしますけど、
井上 喧嘩もするの?
三浦 違います、劇中で、ですね(笑)。山嵐は坊っちゃんにとって大事な存在で、親友にもなっていく人。尊敬する気心の知れた先輩と、山嵐と坊っちゃんという関係性で役を作れるのはすごく楽しみですね。『レミゼ』では台詞のやり取りがなかったので、お芝居でがっつり絡めるのも嬉しいです。
土居 私はやっぱり芳雄さん、芳雄君、ヨッシー。
井上 呼び方、全然定まらないですね(笑)。
土居 定まらない(笑)。鏡子には漱石とのシーンしかないので、何をおいてもヨッシーとの共演が楽しみですね。本当に頼りになる存在です。
井上 こちらこそ、初演に出られていた土居さんがいてくださるだけで感じ取れることがたくさんあります。でも春風(ひとみ)さんも、「あれ、初演からやってたかな?」って感じがしますよね(笑)。たださすがなんですが、音楽座の清より動きが機敏で。
三浦 速いですよね! パッと見たらもういなくて、「あれ?」って(笑)。
井上 これからどうなるか分からないですけど、今のところ「この清、元気だな!」と思って見ています(笑)。松尾(貴史)さんとは初共演ですが、とっても魅力的な歌を歌われる方。演出のG2さんと仲が良くて、ふたりだけで笑っていて僕たちには何が面白いのか全く分からないことが結構あるんですが(笑)、そういう俳優さんって演出家にとって必要ですよね。彩(みちる)さんは宝塚を卒業して1作目ということで、素敵なお芝居と共にまだほんのりと宝塚の空気をまとっていて。
土居 マドンナがドレスを着るシーンの稽古で、「うわー、これだ!」というマドンナにもうなってましたよね。それで言うと宏規さんも、袴を履いた姿を初めて見た時に私、「ああ坊っちゃん!」って言っちゃったくらいぴったりで。本当に魅力的な方ばかりです。
『坊っちゃん』は三浦宏規の自伝のよう!?
――ちなみに、夏目漱石のことはどれくらい予習して臨むのがオススメですか?

井上 どうなんでしょう、小説『坊っちゃん』は読んでおいたほうがいいんですかね?
土居 読まないよりは読んだほうがいいかなぁ。面白いですし。
三浦 面白いですよね! 初めて読んだ時、自分の自伝を読んでるのかと思いました。
井上・土居 ええ~?
三浦 窓から顔を出したら飛び降りてみろと言われて飛び降りてやったとか、ナイフを持ってたら切れないだろうと言われて自分の指を切って見せたとか、そのままではないですが、幼少期の三浦みたいだなって(笑)。僕が膝をケガしたのも、バレエの授業参観で親御さんがいっぱい来てるなか、いいところを見せようと思っていつもより高く跳ぼうとしたからなんです。
井上 無鉄砲だなあ(笑)。
土居 本当、坊っちゃんだ!
三浦 でも僕みたいに無鉄砲じゃなくても(笑)、小説『坊っちゃん』は普通に面白いと思います!
土居 漱石のなかでも読みやすいですしね。あとは『漱石の思ひ出』という、夏目鏡子さんの口述をもとに書かれた本も、夫婦の価値観が同じだったことが分かってとっても興味深いです。
井上 どんな作品もそうでしょうけど、漱石のことを知れば知るほど楽しめる、というところはあるでしょうね。でも、知らなくてもきっと楽しめる。
土居 そうそう! その通りだと思います。
――では最後に軽めの質問を。タイトルにちなんで、皆さんそれぞれの「アイ・ラブ・〇〇」を直感でお答えください!

三浦 アイ・ラブ・芳雄! 理由はさっきお話しした通りです(笑)。
井上 いいのか俺で(笑)。でもありがとうございます。土居さんはどうですか?
土居 アイ・ラブ・愛媛。この作品の舞台は松山で、私は子どもの頃を宇和島で過ごしました。坊っちゃんは松山のことがあまり好きではなかったようなのですが(笑)、松山は坊っちゃん列車や坊っちゃん団子など、坊っちゃんに関連するものがたくさんある可愛い街なんです。「~~ぞなもし」「~~じゃろう」という愛媛弁も可愛いですし、いいところで子どもの頃を過ごしたなあと思います。
井上 ミュージカル界で言うと、石丸幹二さんも愛媛出身ですよね。僕は何だろうなあ。
土居 アイ・ラブ・家族、どうですか?
井上 あ、僕のを決めてくれるんですか(笑)。でもそれで思いつきました、アイ・ラブ・今飼ってる犬! もう10年くらい一緒にいるんですけど、元々妻の犬なので、今まではそんなに愛情がなかったんですよ、「いるなあ」くらいで(一同笑)。でもこの前体調を崩した時に、たまたま家に誰もいなくて、1週間くらい犬とふたりきりになって。やったことがなかったブラッシングを毎日して、目ヤニとかも取ってあげて病院にも連れて行ったらすごい仲良くなって、遅まきながら今、犬のことをすごく愛してます(笑)。
取材・文:町田麻子 撮影:興梠真帆
スタイリスト=(井上)吉田ナオキ /(三浦)小田優士 / (土居)松本裕子
ヘアメイク=(井上)川端富生 / (三浦)AKi / (土居)川又由紀
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※当選後、お送り先メールアドレスについてご連絡頂ける方のみご応募ください。個人情報につきましては、プレゼントの発送以外には使用いたしません。
<公演情報>
ミュージカル『アイ・ラブ・坊っちゃん』
【ストーリー】
1906年、39歳の夏目漱石は教師を辞め、小説家として独立する夢と、家族を養う安定した生活との間で揺れ動き、鬱々とした日々を送っていた。妻・鏡子や幼い娘に苛立ちをぶつける一方、鏡子もまた夫と心を通わせられない寂しさを抱えている。そんな中、漱石は高浜虚子に新作『坊っちゃん』の構想を語る。正義感あふれる主人公・坊っちゃんは、内面に闇を抱える漱石とは対照的な存在だったが、漱石はいつしか坊っちゃんに自らを、結核で亡くなった親友の正岡子規を山嵐に重ね、自分では叶えられなかった冒険物語に筆と心を躍らせ、執筆に没頭していく。やがて登場人物たちを通して自身の内面と向き合い始めた漱石は、創作の中で葛藤を深めながらも、物語に救われるように筆を進めていく。生きる意味を問い続ける中で、漱石は果たして『坊っちゃん』を書き上げることができるのか──。
(人物相関図)

演出:G2
音楽座ミュージカルオリジナルプロダクション
総指揮:相川レイ子
演出:ワームホールプロジェクト
脚本:横山由和・ワームホールプロジェクト
作曲・編曲:船山基紀
【キャスト】
漱石:井上芳雄
坊っちゃん:三浦宏規
山嵐:小林唯
登世:彩みちる
赤シャツ:松尾貴史
清:春風ひとみ
鏡子:土居裕子
林アキラ 山野靖博
伊藤かの子 今村洋一 大音智海 小熊綸 小原悠輝 管谷孝介 中野太一
長谷川暢 般若愛実 藤咲みどり 三浦優水香 山根海音 蘆川晶祥
鈴木弥人/涌澤昊生(Wキャスト) 植木紗菜/内夢華(Wキャスト) 早川一矢(Swing)(五十音順)
【東京公演】
2026年5月1日(金)~31日(日)
会場:明治座
【札幌(北海道)公演】
2026年6月7日(日)~14日(日)
会場:札幌文化芸術劇場 hitaru
【大阪公演】
2026年6月22日(月)~28日(日)
会場:SkyシアターMBS
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チケット情報:
https://w.pia.jp/t/ilovebottyan/
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