高橋一生主演、心溶かす珠玉の映画『ラプソディ・ラプソディ』──結婚から始まる!? ラブストーリー【おとなの映画ガイド】
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『ラプソディ・ラプソディ』 (C)2026 利重 剛
続きを読む知らない間に自分が結婚させられていたらどうする!?──地味めな40代独身男を高橋一生が演じ、ラブコメの新たな傑作の1本になりそうな映画『ラプソディ・ラプソディ』が、いよいよ5月1日(金)から全国公開される。名バイプレイヤーでもある利重剛監督、13年ぶりの作品だ。横浜の魅惑的な空気と大西順子の軽やかなジャズをわき役に、少し謎めいて、ほんわかした味わい。こんなウェルメイドな映画に出会いたかった!と思う人も多いのでは?
『ラプソディ・ラプソディ』
パスポート取得のために戸籍謄本を取ってみたら、なぜか知らない人が“妻”として記載されていて、自分は1年前に結婚していた! もちろん心当たりはない。役所の窓口で聞いてみたら、結婚届って割と簡単に届けられるんだってことがわかる。いろいろ係の人を問い詰めてみるが、肝心のところは、個人情報で開示できない、という。さあ、こんなとき、普通は警察に相談しようと思うのだろうけれど、この映画の主人公・夏野幹夫くんはそう思わなかった。

彼が知りたかったのは、妻の欄に書かれた“繁子”って誰だ?ってこと。人とのコミュニケーションがあまり得意ではなく、40過ぎまで、なんとなく女性と付き合わずに過ごしてきた。不器用だけど、なんとか仕事はこなし、普通に生きてきた。こんなことをされるのって、訳がわからない。結婚詐欺?かもしれないが、実害は、とりあえずない。でもなぜこんなことをしたのだ、また、どうしてできたのだ? まず、繁子さんって人を探そうと調べ始めたのだが……。

脚本も手掛ける利重剛監督が考えたのは、そんな“結婚から始まるラブストーリー”。利重と言えば、見れば「あの人だ」と思うほど俳優としてもおなじみの顔。実はPFF(ぴあフィルムフェスティバル)出身監督で、自主映画の世界でも有名な存在だ。
『ザジ ZAZIE』(1989)で商業デビューを飾り、『BeRLiN』(1995)で日本映画監督協会新人賞を受賞、『クロエ』(2002)がベルリン映画祭に出品されるなど高い評価を受けているが、なにしろ寡作の人。『さよならドビュッシー』(2013)以来、13年ぶりの新作なのだ。しかも、今、ヒッパリダコの高橋一生起用とあらば、観る側の期待度も高ぶるわけで。

この映画のキモは、幹夫くんを演じた高橋一生と、繁子さん役の呉城久美、このふたりの、なるほどそんな人いそうだという存在感。
『岸辺露伴は動かない』シリーズでは尊大かつエキセントリックな感じのキャラを派手に演じている高橋だけれど、今回は、なんでそんなに優しいの?と思える、絶対に怒らない男性の役。
かたや、彼とは対極にいそうな、ほとんど見ず知らずの男と入籍までしてしまう大胆で、ちょい過激な女性。演じている呉城久美は朝のテレビ小説『まんぷく』で主人公の親友を演じ、注目された、どちらかというと演劇畑の役者さんだ。つまり存在そのものが新鮮。人間関係を含め、環境を壊しまくり、予測不能の動きをし、幹夫くんを振り回す。一体何者?と観ているうちに、だんだん愛おしくなってくる不思議な魅力がある。
そんな、生き方に不器用なもの同士がおそるおそる、その距離を縮めていくところは、なんだか身に染みる。

幹夫くんの、頼りになる伯父さん役には利重監督が役者として出演、恋心を寄せる会社の同僚役の池脇千鶴、繁子の友人でゲイキャラがハマっている芹澤興人、祖母役の大方斐紗子といった、味のある俳優たちがふたりを盛り立てる。そんなすみずみまでうまく組み立てられたアンサンブルもこの映画の楽しいところ。

ホテルニューグランドから始まり、横浜がふんだんに映し出され、バックには、世界的なジャズ・ピアニスト、大西順子の音楽が優しく流れる。
ウディ・アレンがジョージ・ガーシュインの『ラプソディ・イン・ブルー』をフィーチャーして『マンハッタン』の街を描いたように、利重監督は、軽快で自在なジャズのメロディとともに、ヨコハマをもうひとつの主役にした。ほんとに、可愛らしい映画を作ってくれました。
文=坂口英明(ぴあ編集部)

(C)2026 利重 剛

