歌舞伎町で堪能する歌舞伎というエンターテインメント 歌舞伎町大歌舞伎 三代猿之助四十八撰の内『獨道中五十三驛』開幕!
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歌舞伎町大歌舞伎 三代猿之助四十八撰の内『獨道中五十三驛』より (撮影:細野晋司)
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すべて見る歌舞伎町大歌舞伎 三代猿之助四十八撰の内『獨道中五十三驛』が5月3日に東京・THEATER MILANO-Zaで開幕した。
『獨道中五十三驛』は、京都・三条大橋を起点に江戸・日本橋を目指しながら五十三次の宿場での物語が展開する、四世鶴屋南北による作品。明治以降は上演が途絶えていたそれを、1981年に三代目市川猿之助(二世市川猿翁)が復活上演。巡業を含めると今回が15回目の上演となる人気狂言である。
復活上演では7時間以上もかかったという長大な物語が公演を重ねるなかで凝縮していったが、今回はさらにわかりやすくしようと、朗読劇「こえかぶ 朗読で楽しむ歌舞伎」とのコラボレートを考案。その回の出演声優が、様々な人物を声で演じ分けながら物語の骨子や五十三次の旅で起こることを届け、歌舞伎俳優が、復活上演時から変わらず演じ続けられている大きな二つの場面を見せていくことになる。
その二つは、市川中車が十二単をまとって宙を飛ぶ猫の怪を初役で勤める「『岡崎無量寺』市川中車 宙乗り相勤め申し候」と、市川團子が13役を早替りで演じる「浄瑠璃 お半 長吉『写書東驛路』常磐津連中 市川團子十三役早替りにて相勤め申し候」。さて、この今までにない試みがいったいどんなものになるのか。その楽しみ方については、幕開きの口上に登場する團子が一つのヒントを与えてくれた。
座席に座って目に入るのは、中車演じる化け猫をはじめ、物語の場面が描かれた道具幕。開幕を知らせる柝が打たれると、その幕がさっと落ち、爽やかな水色の裃姿の團子が現れ、『獨道中五十三驛』が、当時人気だった弥次さん喜多さんでお馴染みの『東海道中膝栗毛』をもとに、同じく人気だった怪談ものをミックスした作品であることや、「こえかぶ」とのコラボについて端的に説明する。そのなかで、「こえかぶ」で自身が演じる主人公・丹波与八郎が登場したら「これは團子が勤める役だと思っていただければ幸い」と補足。なるほど、朗読を聞くときも具体的に役者の姿があると想像が膨らみやすいというわけである。

初日の「こえかぶ」を担当したのは、「地獄先生ぬ〜べ〜」シリーズの鵺野鳴介(ぬ〜べ〜)役などで活躍している置鮎龍太郎。演台だけが置かれた舞台で、三条大橋から日本橋までの地名と富士山の絵が描かれた幕を背に朗読を始める。舞台セットはなくとも、その場所に移る度に後ろの地名が光り、与八郎が走れば雲が流れるような照明が幕に当たり、人が殺められればおどろおどろしい太鼓が鳴り、と臨場感は抜群。何より、そんなに声色を変えずともその人物の特徴がすぐさま伝わってくる置鮎の表現力が、有無を言わさず引き込んでいく。

物語は、由留木家の家督相続に必要な二つの家宝が、赤堀水右衛門とその父・官太夫に奪われるところから始まる。彼らに襲われたのは、由留木家家臣で与八郎の父である与惣兵衛。与八郎は父の仇となった赤堀親子と奪われた宝を追って、身分違いながらも想い合う重の井姫とともに東へ向かっていく……。と、ここで置鮎が舞台からはけ、生身の与八郎(團子)と重の井姫(市川笑也)が登場。質素な着物の与八郎に対して鮮やかな赤の十二単の打掛の姫。その身分の差を目の当たりにしながら観る二人の踊りが切ない。ただし、それだけでは終わらない。埋めた宝を掘り出した官太夫(市川欣弥)と、旅の途中の弥次郎兵衛(市川猿四郎)喜多八(市川喜猿)まで現れて、暗闇で探り合う歌舞伎の「だんまり」という表現方法のなかで宝がそれぞれの手から手へ渡り、最後には宝は官太夫に、なぜか十二単が弥次喜多に渡ってしまうのだ。そして二幕では、その十二単が中車演じる化け猫に渡っていく。

そんなふうにすべてがつながっていくのがこの作品の面白さだろう。場面が変わり、お松とお袖の姉妹が由井民部之助という同じ男を愛した話が朗読されて序幕が閉じると、二幕では、そのお袖(市川笑三郎)と民部之助(市川青虎)が江戸へ向かっている。民部之助も由留木家の者として逆臣赤堀を追っているのだ。さらに、一夜の宿を求めた二人を無量寺に案内するおくら(市川喜介)は弥次喜多から十二単を買い、無量寺の堂主は死んだと聞かされていたお袖の母・おさん(中車)。しかしそのおさんは山猫が化けていて、猫は由留木家に恨みを抱いている。しかも面白いのは、そんな因縁めいたつながりによって展開していく猥雑で壮大な物語に、恐怖より高揚を感じるということ。化け猫が人間たちを襲う場面も、エンターテインメントとしていかに怖がらせるかを考え抜かれていて、どんどんその荒唐無稽な世界に飲み込まれてしまう。化け猫に操られてアクロバティックに回転し飛ぶおくら。障子に飛び散る血。口元が血で真っ赤に染まった猫の形相……。宙乗りで十二単を着て飛び去っていく中車の手が最後まで細かい動きを見せ、観客を操るかのようであったのも、何とも憎らしい。
三幕では、大井川を渡っているときに足を撃たれて動けなくなった与八郎が、自分の命を犠牲にした重の井姫の念力によって再び江戸を目指すまでの様子が情感たっぷりに朗読される。締めくくりの語りがまるで声の見得のように感じられ、大いに余韻を残した。
そして再び團子が登場。「ここから一気呵成に大汗かいて走り回りますので応援のほどを」と口上。信濃屋丁稚・長吉、信濃屋娘・お半、芸者・雪野、長吉許嫁・お絹、弁天小僧菊之助、土手の道営、お半母・お繁、鳶頭・政吉、雷、船頭・浪七、江戸兵衛、江戸兵衛女房・お六、与八郎の13役早替りの始まりだ。13役といっても、長吉→お半→長吉→お半など、2役3役を何度も入れ替わる場面もあり、単に13回替わるというものではない。まさに大汗かく奮闘である。しかも、それぞれの役に『於染久松色読販』『弁天娘女男白浪』『山帰強桔梗』『浮かれ坊主』など下敷きとなっている作品があるだけに、「一つひとつの役の性根を勉強した上で臨みたい」と話していた團子のこと、わずかな場面であってもその成果が窺える。お半の純朴さ、芸者の大人っぽい所作、許嫁に去られたお絹の狂気、お繁のしっとりとした色香、お六の粋と、女方の演じ分けも見事。しなやかさのなかにキリッとした芯が見える長吉、正体がバレて「知らざあ言って聞かせやしょう」と開き直るあの名台詞も心地よい弁天小僧、力強く飛び跳ねながらひょうきんな悪玉踊りを見せる道営、いなせで色気のある鳶頭、胸元も顕にいかにもカッコいい船頭、キレッキレの動きで悪役の凄みを感じさせる江戸兵衛といった立役も、空の上の雷役もユニークな動きを見せて、今後の團子の可能性を感じさせる。


与八郎として登場する最後は、民部之助とともに、水右衛門(中車)との立廻り。途中で3人の見得で決まり、3人並んで「まず今日はこれぎり」の切口上で幕となる。これもいかにも歌舞伎らしいエンターテインメントである。歌舞伎町で歌舞伎をとの思いから始まった“歌舞伎町大歌舞伎”が開催されるのは1年ぶり2回目だ。街も劇場も、歌舞伎座とはまた空気が違う。ここだから味わえるものを堪能するには、もってこいの作品である。

取材・文:大内弓子 撮影:細野晋司
<公演情報>
歌舞伎町大歌舞伎
三代猿之助四十八撰の内
『獨道中五十三驛』(ひとりたびごじゅうさんつぎ)
【出演】
市川中車 市川團子
市川笑也 市川笑三郎 市川寿猿 市川青虎
【こえかぶ:出演】(日替り・出演日順)
置鮎龍太郎 福山潤 細谷佳正 小林裕介
内田直哉 櫻井孝宏 石谷春貴 蒼井翔太
野島健児 山口勝平 速水奨 内田夕夜
東地宏樹 関智一 岡本信彦 森久保祥太郎 吉野裕行
※出演者は変更になる場合があります。
※こめかぶ出演者の出演回はチケット販売ページよりご確認ください。
2026年5月3日(日・祝)〜26日(火)
会場:東京・THEATER MILANO-Za
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/kabuki2026-milanoza/
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