東野圭吾『手紙』の朗読劇 A.B.C-Z五関晃一が“殺人犯の弟”の感情を丁寧に拾い上げる
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VISIONARY READING『手紙』囲み取材 (左から)溜口佑太朗、綺咲愛里、五関晃一、室龍太、橘花梨、松永勝忢
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すべて見る東野圭吾のベストセラー小説を、斬新な映像演出を交えて朗読劇にしたVISIONARY READING『手紙』が5月20日に開幕。前日の19日にはゲネプロの模様が公開され、上演後には五関晃一(A.B.C-Z)、室龍太らキャスト陣の取材会が行われた。
原作はこれまで映画、ドラマ、舞台、ミュージカル、朗読劇と様々な形でメディア化されるなど、多くの人々に愛されてきた名作。強盗殺人犯の弟となってしまった主人公が、世間の偏見や差別などの苦境にさらされながら、それでも生きていくさまを描き出す。
物語は、主人公の直貴(五関)の兄・剛志(室)の裁判から始まる。両親を亡くし、それでも自分が直貴の親代わりとなって直貴をなんとか大学に進学させようと困窮した剛志は、ある家に空き巣に入り、見つかったために殺人を犯してしまう。剛志には無期懲役の判決が下され、ごく普通の高校生から“殺人犯の弟”となった直貴の生活は一変する。

続いて、スクリーンにはアニメーションによる東京と思しき街並みが映し出され、ジョン・レノンの「イマジン」をBGMに、突然現れた怪獣が街を破壊していくさまが描かれる。怪獣の存在は直貴にとって、平穏な日常を破壊し、彼からすべてを奪っていく象徴として、この後も劇中に様々な形で幾度となく登場することになる。

事件の後、直貴は働きながら通信制の大学に通い始め、その後、通学制の課程に転籍し、大学生活を送る。幼なじみの祐輔(溜口佑太朗/松永勝忢のWキャスト)に誘われ、お笑いコンビを結成し徐々に活動の場を広げ、合コンで知り合った朝美(橘花梨)と付き合い始めるなど、少しずつ自分の手でつかみ取った人生を歩み始める直貴。
だが“怪獣”は突然、大きな足音を響かせ、直貴の前に現れ、容赦なくすべてを奪い去っていく。夢、淡い恋、仕事、家族……人生のあらゆる局面において“殺人犯の弟”という烙印は、彼が少しずつ積み上げた信頼や愛情、関係性を粉々に打ち砕いてしまう。「俺、なんか悪いことしましたか?」――ある場面で直貴がポツリと漏らす諦めと絶望が入り混じったこの言葉に胸が詰まる。
直貴役の五関は、自身の学費のために罪を犯した殺人犯の兄を持つ主人公の苦悩や絶望、葛藤、怒り、憎しみ、哀しみ、そして時折見せる喜びや笑いなど、無数の感情を丁寧に拾い上げ、ひとつひとつの言葉に込める。
室が演じる刑務所に収監中の直貴の兄・剛志は、ひたすら直貴に手紙を書き続け、そして、そんなことが許されるような立場ではないと理解しつつも、寂しい刑務所生活の中での唯一の慰めと言える返事を待ち続ける。能動的に何かをするということができない立場にあって、取り返しのつかない罪を犯した男の後悔や懺悔の思いなど、様々な思いが室の発する言葉からも伝わってくる。直貴が過酷な現実に直面し、人生の変遷を辿る中で、どのような感情でこの男を捉えればいいのか? まさに観る者の心を揺り動かすような存在感を静かな佇まいの中で見せてくれる。
直貴を取り巻く周囲の人々も魅力的だ。直貴の背負うものの重さを知りつつも、常に寄り添い続ける由実子(綺咲愛里)。笑いによって、直貴に救いをもたらす親友で相方の祐輔。「イマジン」が歌う理想と社会の現実のはざまで揺れ動く朝美。それぞれに違った角度から直貴の人生に光を当て、それぞれに社会や世間というものの希望や絶望を体現している。


直貴と刑務所の兄・剛志、周囲の人々をつなぎ、時に希望の光をもたらし、時に怒りや憎しみ、絶望、ゆるしを伝える道具として重要な役目を果たすのが「手紙」である。EメールやSNSを介してのコミュニケーションが主流となり、いまでは手紙を書くということがほとんどないという人も多いだろうが、改めて手紙というものが伝える熱量の大きさ、そこに綴られた言葉の重みというものに気づかされる。
小説として誕生し、これまで映画、ドラマ、舞台など様々な形で描かれてきた本作だが、相手に「読んでもらう」ことを目的に投じられる手紙というコミュニケーションツールが物語の軸を担っていることにより、朗読劇という刑式との抜群の相性の良さを感じさせる。決して明るく楽しい話とは言えないが、巧みな映像表現と手紙というツールによって、観る者の心にすっと優しく沁み入る物語となっている。

ゲネプロ上演後には五関、室らキャスト陣が報道陣の前に姿を見せた。五関は“VISIONARY READING”と銘打った本作について「ずっと座ってしゃべるだけでなく、我々も動いたりしますし、その中で照明や映像、音楽が重なり合って素晴らしいシーンになっていくのが感情と共に見られます。すっと入って理解できて、感動できる物語になっていると思います」と見どころを語る。
室は自身のシーンの「頑張りどころ」として、後半の独白シーンに触れ「永山(耕三/演出)さんから稽古の序盤に『ここは覚えてくれ』と言われて『え? 朗読ちゃいまんの…?』と言ったんですけど(苦笑)、与えられた任務、課題をしっかりまっとうできたらと思います!」と意気込みを語ってくれた。
取材・文:黒豆直樹
<公演情報>
VISIONARY READING 『手紙』
原作:東野圭吾『手紙』(文春文庫)
脚本:土城温美
劇中コント脚本:塚本直毅(ラブレターズ)
演出:永山耕三
出演:
五関晃一(A.B.C-Z) 室龍太
綺咲愛里 橘花梨
溜口佑太朗(ラブレターズ)/松永勝忢(十九人) ※Wキャスト
※Wキャストの出演日程はチケット販売ページよりご確認ください
2026年5月20日(水)〜24日(日)
会場:東京・よみうり大手町ホール
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/tegami/
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