BUCK∞TICKのギタリストであり、ボーカリストであり、数々の名曲を世に送り出してきた星野英彦が、60回目の誕生日を迎えた2026年6月16日。彼の還暦を祝うスペシャルなワンマンライブ『Ruby Horizon 60』が、東京・SGC HALL ARIAKEにて開催された。
本公演はBUCK∞TICKの2026年初ライブでもある。この半年間、星野自身が「いろいろと準備をしている」と語っていただけに、期待度は最高潮に達していて、チケットはもちろんのこと、当日のグッズも早々にソールドしてしまった。本日の主役は、飄々としていて自然体。少々控えめなところもある。そんな彼を全力で祝おう、全力で盛り立てようという、ファンの熱い思いが、場内には満ち溢れていた。ステージを彩る真っ赤な緞帳が、逸る気持ちを高める。そんな“どんと来い”状態の観客を、いきなり骨抜きにしたのは1曲目の「スピード」だった。
トライバルなデジタルビートのSEでメンバーが登場すると、大歓声があがった。星野が手を振ると、彼を呼ぶ声が一層大きくなる。その歓声を割るように、今井寿(vo&g)が鳴らしたアルペジオは、「スピード」のイントロだった。それは昨年末の日本武道館公演でラストに演奏した曲で、一瞬にして余韻を引き戻してくれた。なんとも粋なオープニングだ。メンバーがまとっているのは、この日のためだけの衣装で、ワイドなシルエットのパンツは裾が揺れて優美である。星野は黒のキラキラしたジャケットの下に、赤のロングシャツをのぞかせていた。「今日は久しぶりのBUCK∞TICKです。Tonight Show、彼のバースデーパーティーです。還暦セレブレーションパーティーライブ。Let’s Enjoy!楽しもうぜ。ハリアッパ!」。今井の口上に続けて披露されたのは「渋谷ハリアッパ!」。間奏で今井が「Happy Birthday to You」の歌を盛り込み、序盤からお祝いモード全開である。
本編のセットリストは、星野曲ばかりに偏るわけではなく、アルバム『スブロサ SUBROSA』の楽曲と、これまでに披露してきた既存曲を織り交ぜながら、BUCK∞TICKの現在地を示すものになっていた。しかし、その並びは予測不能で、次に何がくるのかワクワクさせられた。どちらもサイケデリックで浮遊感のあるロックナンバーだけど、トリッキーな星野作曲の「CREAM SODA」からの、ドリーミーな今井作曲の「夢遊猫 SLEEP WALK」への流れは斬新だった。「ゲイジュツは、バクハツ……ですか? いくぜ、有明ディスコ。ダッダッダッダ DADA DISCO!」という今井の一声で始まった「DADA DISCO - G J T H B K H T D -」から、「スブロサ SUBROSA」へ。ヤガミ・トール(ds)が叩き出す力強いビートを軸に、観客の身体を自然と揺らすダンスチューンが続く。歯切れのいい樋口豊(b)のリズミカルなベースが牽引する「From Now On」もまた心地よいグルーヴを生み出し、フロアを大きく揺らした。「ロックンロールをやりまーす」と宣言した「雷神 風神 – レゾナンス #rising」では、会場の熱気がさらに上昇。アップチューンが続いた会場の空気を一変させたのは、「薔薇色の日々」だった。甘美でメロウなメロディに乗せて響く星野の歌声は、4人体制になった当初よりもさらに表情豊かになり、ステージを照らす温かな光とともに、観客を包み込んでいく。今井と観客とのツインボーカルが感情を揺さぶる「SANE」では、反復されるリズムの上を自在に駆ける今井のギターソロが鮮烈な印象を残した。
「物事には優先順位っていうのがあって、冥王星で死ぬのって、何番目かな?」。今井の奇妙なMCにどよめきが起こると、「って何言ってんだろ……ハハッ」と自分でツッコミを入れて、「まあ盛り上がりましょう。今日はハレの日です。ぶちあがろうぜ、冥王星だ!」。その言葉を合図に雪崩れ込んだ「冥王星で死ね」、続く「THE FALLING DOWN」では、シャッフルビートに乗せて歌う今井のボーカルが力強い。ボーカリストとしても進化を続けたことを改めて感じさせる場面だった。即興的に鳴らしたキーボードの音に乗せた、「天使がラッパを吹いている。見えるか、天使がラッパ吹いてるぜ」との語りから始まった「ガブリエルのラッパ」は、終末的なイメージと高揚感が交錯するドラマティックな展開に。そして本編を締めくくったのは「BOY septem peccata mortalia」。自由にステージを動き回る今井、星野、樋口の3人を、ヤガミがどっしりとしたリズムで支える。観客のクラップも加わり、会場全体がひとつの大きなうねりとなっていた。曲が終わる頃、ステージは真紅の照明で染まった。今井が残した狂気にも似たギターの残響が、いつまでも場内に鳴っていた。
祝福ムードがより一層高まったのは、2度のアンコールでのこと。ハレの日にふさわしい、鮮やかなヤガミのドラムソロで魅了した後、今井、樋口がステージに戻ってきた。「ドラムス、ヤガミ・トール a.k.a. アニイ!ベース、樋口豊 a.k.a. ユータ!」と今井がメンバー紹介を始めると、樋口も「先輩!今井寿!先輩!」と今井を紹介する。そして今井が「あとひとり……還暦BOY、還暦セレブレーション、星野英彦!」と紹介するものの、本人が登場する様子はない。すると、緞帳が開いて大きなスクリーンが現れ、「風のプロローグ」をBGMに幼少期の写真から始まる星野のプロフィールムービーが流れ始めた。その最後に、モノクロの映像で星野の後ろ姿が映ると、大歓声があがった。ゆっくりステージに向かう背中が映し出され、赤いスーツを着た主役が不敵な笑みを浮かべ、時折投げキッスをしながらステージに登場した。今井がスタビライザーを鳴らして軽快に「Happy Birthday to You」を歌うと、大きなステージにケーキが運び込まれた。メンバーや観客も入れて記念撮影をした後、「今日も上までいっぱい来てくれてありがとうございます。有給取って来てくれたんでしょ? ありがとね。好き♡ 大好きだよ、ありがとう」と感謝を述べる星野。さらに「この歳になっていろいろ新しいことをやったりしてますけど、歳だなんだと言ってないで、いろいろやってみましょうよ。そして一緒に歳を取って……いや、歳を重ねていきましょうよ。とにかくいい人生にしていきましょう」と語ると、大きな拍手が沸き起こった。ここからはサプライズの連続だった。
1曲目は、2007年に星野のソロプロジェクトとしてデビューしたdropzのナンバー「I spy」。dropzはCDリリースだったので、観客の前で演奏するのは今回が初となる。BUCK∞TICKバージョンはよりロック色が強くなっていて、手を後ろに組んで女性ボーカルの英語詞を歌う星野の姿は新鮮だった。続いて、今井も星野も椅子に腰掛け、星野が鳴らすアコースティックギターでのイントロに、会場は思わず息を飲む。演奏されたのは「ミウ」。この夜を象徴する場面のひとつだった。「ミウ」は、作曲者の星野が、珍しく作詞をする櫻井敦司に歌詞の方向性を綴った手紙を渡したというエピソードも含め、ファンに愛されているBUCK-TICK屈指の名バラードだ。楽曲が生まれた原点に立ち返るように、静かに響く星野の歌声を聴きながら、当時櫻井もこの声でこのメロディを聴いていたのだな、などと想いを馳せた。その余韻を吹き飛ばすように放たれたのは「ダンス天国」。星野が歌うアッパーかつ妖艶なディスコチューンに、会場のボルテージが再度上がった。
鳴り止まないアンコールに応えて、迎えたダブルアンコール。赤い頭巾と赤いちゃんちゃんこ、“60”を形どった大きなメガネをかけて、日の丸の扇子を持つ、という出立ちで星野が登場。どよめく会場に、「着替えてきた。これが見たかったんだろ?」と、したり顔。「もう一回この男と「TIKI TIKI BOOM」をやりたいなと、呼んでしまいました」と、呼び込んだのはLUNA SEAのJ。「TIKI TIKI BOOM」と言った瞬間に大歓声が起こるほど、昨年の『LUNATIC FEST.2025』でのコラボレーションは強烈なインパクトを残していた。Jは「この場を借りてBUCK∞TICKのみなさんとファンのみなさんにお礼を」と、ルナフェス出演のお礼を述べ、「メンバー全員の想いをつれて来ました。RYUICHIの想い、SUGIZOの想い、INORANの想い」、そして一拍おいて「真矢くんの想いも」と、熱い思いを語った。さらに「Happy Birthday to You」を歌って、60本の薔薇の花束を星野に渡すと、いよいよ「TIKI TIKI BOOM」へ。実に楽しそうにステージを駆け回ったり、「チキブンブーン!」と爆音コーラスを響かせるJにつられて、4人も思わず笑顔になる。続く「ICONOCLASM」でも今井とのツインボーカルで骨太な歌を聴かせ、颯爽と帰っていった。
「今日はあっちゃん連れてきたから」と言った今井は、このダブルアンコールのタイミングで、櫻井が履いていた黒いショートブーツに履き替えていた。「この誕生日会もそろそろ締めかね」と、モニターに足をかけ、そのブーツをポンポンと叩いてから語りかける。「あっちゃん、ヒデが還暦だってよ」。それはとても自然な流れで。だけど奇跡のような瞬間でもあった。今までこんなふうに柔らかに、名前を呼んで語りかけたことがあっただろうか。5人は一緒にいるのだと、これまで以上に感じさせられた瞬間だった。星野の誕生日の時によくそうしていたように、ステージの真ん中でバナナのプレゼントを抱えて笑っているのかもしれない。悲しみよりも、温かい気持ちに包まれた。「ラスト、一緒にぶちあげようぜ!なあ、あっちゃん」と再び呼びかけると、ラストナンバーの「Baby, I want you.」へ。ヤガミの重厚な4つ打ちと、樋口のファンキーなベースリフが生み出すグルーヴに、メロディックな今井のギターとソリッドな星野のギターが厚みをつけるダンスチューン。アウトロで今井は「Happy Birthday to You」のフレーズを盛り込み、何度も「Baby, I want you.」と繰り返していた。それはメンバーと観客一人ひとりに向けて放たれているように聴こえた。
終演後、ステージの撮影を許可する影アナが星野自身だったり、会場を後にする際に手渡されたアンケートの中に、赤いスーツ姿のポストカードが入っていたりと、振り返ってみれば、祝う側だったはずが、最初から最後まで手厚くもてなされた感覚だ。多幸感に満ちたこのスペシャルな公演は、星野にとって節目のライブであったことに違いはないが、BUCK∞TICKにとってもまた、新しい扉を開いたライブになったのではないだろうか。気負いなく、フラットに楽しんでいるメンバーの様子を見て、そんなことを思った。『Ruby Horizon 60』──そのタイトルが示す地平線の向こうには、まだ見ぬBUCK∞TICKの未来が広がっている。
<公演情報>
『Ruby Horizon 60』
6月16日 東京:SGC HALL ARIAKE
【/ Setlist】
1. スピード
2. 渋谷ハリアッパ!
3. CREAM SODA
4. 夢遊猫 SLEEP WALK
5. DADA DISCO - G J T H B K H T D -
6. スブロサ SUBROSA
7. From Now On
8. 雷神 風神 - レゾナンス #rising
9. 薔薇色の日々
10. SANE
11. 冥王星で死ね
12. THE FALLING DOWN
13. ガブリエルのラッパ
14. BOY septem peccata mortalia
EN 1
1. I Spy
2. ミウ
3. ダンス天国
EN 2
1. TIKI TIKI BOOM
2. ICONOCLASM
3. Baby, I want you.
BUCK∞TICK オフィシャルサイト
https://buck-tick.com/