Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
ぴあ 総合TOP > 広上淳一×牛田智大、ショパンで目指す「対等なコンチェルト」

広上淳一×牛田智大、ショパンで目指す「対等なコンチェルト」

クラシック

インタビュー

ぴあ

(左から)広上淳一、牛田智大

続きを読む

フォトギャラリー(4件)

すべて見る

NHK交響楽団創立100周年記念演奏会(青森・宇都宮)に向けて、指揮者・広上淳一とピアニストの牛田智大が顔を揃えた。注目はショパンのピアノ協奏曲第1番。若き才能が新たな高みを目指す、コンチェルトに込めた思いを二人に聞いた。

「隅田川を歩いたことある?」

牛田が初めて広上と共演したのは12歳の時、ショパンのピアノ協奏曲第2番だった。

牛田は「この世界に入って最初にいただいたお仕事が、広上先生とのコンチェルトでした。すべてがそこから始まったという感じです」と振り返る。

その時、広上に「隅田川を歩いたことはある?」と聞かれたことが今も忘れられないという。

牛田 たとえば、好きな人と一緒に歩いている時に「ああ、いいな」と心の内から湧き上がるような気持ちを音楽で表現しないといけない、という先生らしい表現でした。第2番の第2楽章は美しくて清廉な作品ですけど、初期衝動的な感情もあらわさないといけない。ショパンのコンチェルトを弾くたびに、このエピソードを思い出すんです。

一方の広上は「覚えてないなあ」と笑いながらも、そこには若い才能に対する思いがあったという。

広上 その頃、僕は50代。自分が老年期に入っていく中で、才能ある若者たちが出てくるわけです。牛田くんのような、いわゆる早熟な才能にマスコミが騒ぐでしょ。多感な時期に、いろんな意味で紆余曲折を味わうだろうなと思いながら、すくすく才能を伸ばしてほしいと思った。それがなぜか隅田川になったんでしょうね。

ショパンの二面性

ピアニストが探求するショパンは、演奏家の数だけバリエーションがある。「自分はやっぱり、どうしてもショパンの人間的な部分を推したい」と言う牛田には、どのようなショパン像が見えているのか。

牛田 人間としてのショパンと、音楽家としてのショパンってちょっと違うんです。彼の手紙を読むと、すごく激しくて、言葉遣いも荒いし、差別的なところもあるし、かなり癖の強い人だとわかる。でも、彼は人間性をそのまま音楽に投影することをよしとしなかった。芸術的良心、という言い方もできますが、音楽は統制された上品なスタイルの中に収めるべきだという考えを持っていたんだと思います。

ショパンの音楽は「センチメンタルで甘い」というイメージで語られがちだが、牛田が弾きたいのはその奥にあるもうひとつの顔だ。

牛田 上品なスタイルは保ちながら、音楽の裏側に人間的なショパンを感じられるように弾きたいと思っています。

広上は、そんな「演奏家の二面性」を役者にたとえる。

広上 ショパンだって誰だって、芸術は負の感情から生まれるものも多いし、圧倒的に魅力的でしょ。演奏家は譜面という台本を渡されて、ショパンが伝えたかったことを代わりに伝道するわけです。当然、作品の中の闇を感じて、共感しながら弾いているとショパンと同化してきたりする。素顔との区別なんてわからないです。

寄り添う、ではなく対等に

この公演で演奏するピアノ協奏曲第1番で、牛田は「新しいことをしたい」と意欲的だ。

牛田 ショパンの協奏曲はいわゆる古典派なので、どうしてもピアノの妙技が目立って、オーケストラが後ろについてくるイメージになりがちです。でも、僕は常にすべての楽器が対等であってほしい。

ピアノ対オーケストラではない。それぞれの楽器と、ある瞬間はデュオになり、ある瞬間ではトリオになる。室内楽のような親密な関係性を求めているという。

牛田 コンチェルトのソリストが舞台に呼ばれると、「よくいらっしゃいました」みたいな雰囲気になることがありますが、そういう“お客さん”状態になってしまうのは嫌です。コンチェルトでもオーケストラに「これが自分たちの音なんだ」という感覚で演奏してもいただきたいし、それを引き出すのが僕の仕事だと思っています。

それを聞いた広上は、「ショパンのオーケストレーションは、一つひとつの音のハーモニーに愛がある。僕もね、N響のきれいなサウンドと彼のピアノとの対話を、良い形で引き出したい」と答えた。

厳しい寒さが共鳴する

牛田は、公演地のひとつである青森県について「10代の頃から何度か訪れていて、なぜかいつも雪の季節だった」と振り返る。その時に見た吹雪の風景は、ヨーロッパの作曲家たちの思いと、どこか重なるところがあるという。

冬の寒さの中にインスピレーションを得た作曲家は多い。東北の雰囲気は、その感覚に近いものがある。

牛田 東北の方たちは、厳しい寒さの中でも、心に火を灯す術を持っている。そういう思いが根付いた土壌というのは、クラシック音楽と通じると思います。僕も福島の生まれなので、東北で弾けるというのはすごくうれしいことです。

真面目、でも闘志がある

インタビュー中、終始落ち着いて話す牛田に、広上は「まだ26歳ですよ。真面目なんです」と言い、「彼が40歳、50歳になった時、どんなピアニストになっているのかなあ」と目を細めた。

広上 彼は落ち着いているんだけど、心の中はものすごい闘志をみなぎらせているのだと思います。これからどんどん燃えていくだろうし、間違いなく日本の音楽界を牽引していくピアニストになる。

ショパンはもちろん、ラフマニノフ、リスト、モーツァルト、ベートーヴェン……ピアニストが避けて通れない偉大な壁は、あまりにも大きく険しい。一生をかけての修行だ。

牛田は、「傲慢な言い方になるかもしれないけど」と前置きしつつ、自分の考えを話す。

牛田 作曲家が楽譜に書いたことを完璧に再現できる演奏家なんていないと思います。でも、これまでの演奏家が気づけなかったことに気づいたり、実現できなかったことができるようになるかもしれない。新しい可能性を常に考えながら、他の演奏家が成し遂げられなかった高みを目指していきたい。

静かに闘志を燃やす26歳は、広上とN響という大きな力を借りて、ショパンコンチェルトの新しい形を見せようとしている。

取材・文:北島あや

公演情報

【青森公演】
青森朝日放送開局35周年記念 NHK交響楽団演奏会 supported by SG
日程:7月11日(土)
会場:リンクステーションホール青森

【栃木公演】
NHK交響楽団演奏会 supported by SG
日程:7月12日(日)
会場:宇都宮市文化会館 大ホール

【出演】
指揮:広上淳一
ピアノ:牛田智大
NHK交響楽団

【曲目】
ショパン:ピアノ協奏曲第1番 ホ長調 作品11
ドヴォルザーク:スラブ舞曲第1集 作品46

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/nhkso2026-at/

フォトギャラリー(4件)

すべて見る