『トイ・ストーリー5』の必見ポイント!
ディズニー&ピクサーの最新作『トイ・ストーリー5』が全世界で絶賛を集めている。1995年に誕生した『トイ・ストーリー』は今年で日本公開30周年を迎える人気シリーズでファンの期待値も相当に高いが、7年ぶりの新作は観客の予想を遥かに上回る完成度だ。なぜ、本作はシリーズ最高傑作と称されるのか? その魅力に迫る。
※このページは映画の内容に少しだけ触れています。お時間があれば、映画を観た後にも改めて読んでみてください。
“泣いた”を超える深い感動
持ち主のボニーと暮らすカウガール人形のジェシーや、スペースレンジャーのバズらおもちゃたちに危機が迫る。ボニーの両親が最先端タブレットの“リリーパッド”を買ってきたからだ。ジェシーの調査によると、ボニーの家の近所の子どもたちはみんなデジタル機器に夢中で、おもちゃで遊ぶ時間が減っているようだ。ある家の庭で捨てられたおもちゃがジェシーに警告する。「おもちゃはもう終わりだ」。でも、ジェシーは信じている。ボニーはおもちゃで遊ぶことが大好きな子だと。そこで彼女は行動を開始。ボニーの元を離れたウッディに連絡をとる。
当たり前すぎて言われなくなってしまったが、『トイ・ストーリー』の最大の魅力は、魅力あふれるキャラクターたちの活躍がとにかく楽しく、アイデア満載の展開が次々に描かれることだ。おもちゃたちはみな個性豊かで、欠点はあるけど愛らしくて憎めない。そんなおもちゃたちが私たちの“日常”を舞台に大冒険を繰り広げるのだ。私たちが何げなく使っている階段も、小さなおもちゃには“壮大な山”に見えるだろう。彼らはベッドの上によじのぼるのだって苦労するし、リビングだって広大な土地に思えるだろう。電池で動くおもちゃにとってバッテリー切れは大問題。どんなに急いでいても人間が来たら、動くことはできない。
『トイ・ストーリー』は、子どもが遊ぶサイズの玩具を主人公にしたことで、平凡な日常を映画史上最高に楽しいアドベンチャーランドに変えた! 『トイ・ストーリー5』では、彼らの冒険はさらに大きなスケールで、さらにワクワクする描写で描かれる。あるキャラクターは馬に乗って華麗に草原を駆け抜け、あるキャラクターは“スパイ映画”のようにそっとある建物に潜入。息詰まる追跡劇もあれば、カーアクションや、ピクサー史上屈指のロマンスシーンまである! エンタメ映画のワクワク要素が“全部盛り”になっているのだ。これまでのシリーズをまったく観ていなくても最後まで楽しめた、という声が多いのも納得だ。
その一方で、本作は「感動した」という感想もとても多い。『トイ・ストーリー』シリーズは長年にわたって人間のために奮闘するおもちゃたちのまっすぐな想いや、ひたむきな姿を描き、多くの観客を魅了してきた。本作はその集大成的な作品になっており、持ち主に寄せるおもちゃの想い、子どもたちとおもちゃの絆、時が流れても変わらない気持ちが丁寧に描かれる。
本作の結末には何か大きな出来事が起こるわけではない。しかし、この結末を観た者はみな心が震えるだろう。思わず涙がこぼれる人もいれば、上映が終わったあとも映画の余韻が消えない人もいるはずだ。なぜか? この結末は観る人それぞれの“思い出と記憶”を直撃するからだ。いま子どもの人も、かつて子どもだった人も、本作の結末は観る者の心に問いかける。私は何を大切にしてきたのだろう? 時が経った私はあの時の気持ちを今も忘れていないだろうか? そして、現在の私が本当に大切にしているものは何だろうか?
『トイ・ストーリー5』では、観る人それぞれの過去や経験や思い出に寄り添い、心の奥底にあった想いを“呼び覚ます”ドラマが描かれる。現在もおもちゃが大好きな人も、親になって子とおもちゃで遊んでいる人も、最近はおもちゃで遊ぶこともなくなった人も、それぞれが本作の結末を“自分のこと”だと思うだろう。あの家で、あの場所で、カウガール人形のジェシーは何に出会ったのか? スクリーンに映る物語はひとつだ。でも、そこで感じることが観客によってここまで違う映画は少ない。あなたは言い切っていい。これは”私の映画”だと。
ボニーの悩みから見えてくるもの
「トイ・ストーリー」シリーズは長年にわたって持ち主の人間のために奮闘する“おもちゃ”たちのドラマを描いてきたが、本作では人間の女の子ボニーのドラマが物語の中心に据えられている。
青年アンディから彼が大事にしていたおもちゃを引き継いだ少女ボニーは、おもちゃで遊ぶことが大好きな子だ。誰よりも想像力が豊かで、おもちゃを手にすると自然に新しい世界が広がり、様々なドラマが頭の中に浮かんでくる。同じおもちゃでも毎回、遊び方や、登場する世界が変わり、プラスティックの使い捨てフォークも自分で工作して新しいおもちゃにしてしまう。こんなにもおもちゃが好きで、新しい遊び方や世界を想像できるボニーと遊べるジェシーたちは本当に幸福だ。
でも、彼女には引っ込み思案の面があり、小学校ではなかなか友達ができない。ボニーは友達づきあいが苦手な子ではない。とても明るくて、優しいのに、人よりも少しだけ内気なので、一緒に遊びたくても自分から声をかけることが苦手なのだ。そこでボニーの両親は愛する娘のためにタブレットの“リリーパッド”を買って来る。リリーパッドはネットに接続されていて、“お池”と呼ばれるネット空間で友達とチャットをしたり、ゲームができる。好奇心旺盛なボニーはすぐにリリーパッドを使いこなせるようになり、パッド経由でお友達を見つけることができたようだ。
でも、なぜかボニーから笑顔が消えてしまった。“お池”で知り合ったお友達の家にお泊まりに行ったのに、部屋でそれぞれのパッドをさわるだけ。ボニーは本当はいつものように想像力を膨らませておもちゃで遊びたいのに、周囲の子どもたちは、おもちゃを“卒業”してデジタル機器を使っていると彼女に言う。だからボニーは自分は本当は何がしたいのか、自分が何を楽しいと思っているのか、ますます言えなくなってしまう。
観客はボニーの姿から多くのことを感じるのではないだろうか? 誰よりも優しくて、彼女にしかない能力や長所があるのに、周囲が違う方向に進んでいるため、本人はなぜか自信をなくし、内気になってしまい、自分の思っていることを伝えたり、自分の楽しみを貫くことができない。あなたもこんな経験を、こんな想いをしたことはないだろうか?
悩んだり迷ったりしながら自分の想いを貫くことの大切さを学んでいくボニーは“ピクサーの王道キャラクター”だ。『レミーのおいしいレストラン』で周囲の偏見に立ち向かいながら料理人を目指したネズミのレミー、家族から反対されても音楽の道を決して諦めない『リメンバー・ミー』のミゲル少年、そして孤独を抱えながら自分を受け入れてくれる相手を探し求める『星つなぎのエリオ』の主人公エリオ……私たちが共感した、感動したピクサー映画の主人公たちの系譜にボニーもいる。
おもちゃが大好きで、想像力を発揮して遊びたいボニーは、周囲の声に流されるままだろうか? それとも自分の好きな道を見つけ、自分の想いを話せる相手に出会えるだろうか? ボニーに注目することで、本作はさらに深みを増すだろう。
“それでも”を乗り越えた愛情
本シリーズの最大の特徴は、“おもちゃは決して人間に生きていることを知られてはならない”というルールが敷かれていることだ。彼らは持ち主のために必死に行動するが、人間が入ってくるとすぐに動きを止めて“おもちゃらしく”床に置かれた状態になる。だから、彼らがどんなにがんばっても、どれだけの愛情を注いでも、絶対に人間に伝わることはない。アンディもボニーも、ウッディやバズ、ジェシーが自分のために奔走してくれたことを知らないのだ。
「トイ・ストーリー」シリーズは、その基本的な設定の中に“見返りを求めない愛情”が備わっている。彼らは持ち主のために懸命に行動するが、直接に何かを伝えることはできない。おもちゃたちがどれだけ努力しても、時に人間は、彼らの行動を“存在しなかった”かのように振る舞う。だから、おもちゃたちは持ち主を信じるしかないのだ。
本シリーズが圧倒的にユニークで特別な理由のひとつはこの“おもちゃのルール”が生み出すドラマと感情だ。自分は話しかけることはできない。それどころか生きていることすら伝えられない。彼らは“それでも”持ち主のために行動し、冒険し、その幸せを願う。その愛情は親が子に注ぐ心に似ているのかもしれない。映画の作り手たちがまだ見ぬ観客を思って全力で映画をつくっている時の気持ちに近いのかもしれない。もしかしたら、あなたもウッディやジェシーのような純粋さで、誰かを想った経験があるかもしれない。
だからこそ、おもちゃたちはいつも“不安”を抱えている。「トイ・ストーリー」シリーズには打倒すべき明確な敵はいない。彼らの問題はいつも自分たちが抱える不安だからだ。新しいおもちゃが来たことで、自分が持ち主の一番のお気に入りではなくなったらどうしよう? 持ち主がいつか成長して捨てられることになったら? それは事故やトラブルではなく不安なので、実際にはまだ起こっていない。起こるかどうかもわからないが、そんな不安を抱いてしまう。
“それでも”おもちゃたちは、持ち主と同じ時を過ごすことを選ぶ。そこに『トイ・ストーリー』が他のシリーズでは描くことのできない感情とドラマがある。愛した相手は自分を裏切るかもしれない。自分を捨てるかもしれない。その可能性をすべて受け入れた上で“それでも”相手を想うことができた時、その愛情は誰にも壊すことはできない。
だからこそ、最新作でジェシーが物語の中心にいることは大きな意味を持つ。持ち主に捨てられる“かもしれない”不安に震えている他のおもちゃたちと違い、ジェシーはかつて持ち主に“実際に”忘れられ、捨てられた経験があるからだ。そんな彼女が過去に自分が注いだ愛情とどう向き合うのか? 自分の中にある“それでも”の感情とどう付き合うのか?
『トイ・ストーリー5』は本シリーズにしか描くことができない、そして最新作でしか描くことができない感情を描き出す。私たちは、不安や周囲の声や自分の中の弱さに向き合い、“それでも”を乗り越えて、誰かを大切にできるだろうか? そこにある純粋な想いは、たとえ愛した相手とはなればなれになっても、どれだけの時間が経っても、その輝きを失うことはないだろう。
本作は繰り返し観ることで新たなドラマを発見し、自分の中にある感情を発見できる映画だ。大きなスクリーンで、おもちゃたちの冒険と葛藤と愛情に何度でも向き合ってほしい。
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