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揺れるは幽霊、新たなフェーズの幕開け 雪国と競演した『オールトの雲を抜けて』追加公演をレポート

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揺れるは幽霊自主企画『オールトの雲を抜けて』追加公演 Photo:mizu

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Text:サイトウマサヒロ  Photo:揺れるは幽霊・集合写真:mizu / 雪国:Natsuki Hamanaka

6月28日、東京・新代田FEVERにて、揺れるは幽霊の自主企画ツアー『オールトの雲を抜けて』追加公演が開催された。昨年11月から今年2月にかけて地元である岡山と東名阪を巡ってきた同ツアーの締め括りで、ツーマンの相手としてインディーロックバンド・雪国を迎えた。つい先日、レーベル・Oaikoへの所属を発表したばかりの彼らにとっては、2024年の始動から現在までの集大成にして新たなフェーズの序章として、大きな意味を持つ公演だったことだろう。オーディエンスからの注目度も高く、チケットは見事ソールドアウトとなった。

◼︎雪国

雪国のライブは、会場内に流れていた穏やかなBGMから、ほとんど継ぎ目なくライブが始まった。穏やかなアルペジオ、京 英一(g,vo)の触れれば壊れてしまいそうなファルセットが、そっと新代田FEVERに満ちていく。やや強い空調が効いたフロアの無機質な肌触りは数分前と変わっていないはずなのに、そこにはもう別の時間が流れている。柔らかいシートに腰掛けて車窓の向こう側を眺めているような穏やかさの中で、歌声が地声に切り替わると同時に歪んだコードが鳴らされて、ハイハットが開いていく。ちょうどトンネルを抜けて、視界が開いていくように。

結晶のような輝きを保ったまま、歩調を少し早めて「羽化」「架空の君へ」が演奏される。音数は極めて絞られているからこそ、京が「僕は生きる 生まれ変わる」というフレーズに込めたわずかな熱がバンドに伝播していくのを、敏感に感じ取ることができる。雪国の音楽の静けさは、騒々しい日々からの逃避ではない。むしろ、微かな針の振れを見落とさないための、注意深い眼差しによって保たれている。火を灯さずとも、手のひらの体温だけで雪がゆっくりと解けていくように。スイッチを踏んで何かを切り替えるのではなく、あるがままのうつろいが描写されていく。

中盤は比較的起伏の多いドラマチックなナンバーが続いた。「二つの朝」の直線的なリズムに合わせて、観客がわずかに身体を揺らす。「東京」では、美しいコーラスワークからギターソロへと、語り部のバトンがそっと渡される。彼らは曲間に言葉を挟む代わりに、静謐な空気感を守りながら、次の曲へと糸の端と端を結び合わせていく。その光景を見ていて、ああ、このくらいの緩やかな共鳴と連帯でいいのだと思う。車窓の先を眺める横顔を見て、あなたは何を考えているのだろうと想像する。だけど、その答えを知ることは永遠になくていいのかもしれない。

「夕立」は、雪国のレパートリーの中では珍しく演奏が止む刹那が目立つナンバーで、彼らが鳴らし続ける呼吸や揺らぎをむしろ際立たせた。終始なだらかに流れていくようなセットリストの中で、その一瞬の断絶は明確な分岐点として機能する。終着駅が近付いているようだ。

「最後の三曲は新曲をやって終わろうと思います」。京がそう告げると、雪国は再び演奏へと戻り、ライブは終盤へ向かっていった。そこにある熱をつぶさに掬い取って、線路の先まで運んでいく。そんな雪国らしい進化の気配を感じさせるクライマックスだった。

◼︎揺れるは幽霊

続いて、この日のホストである揺れるは幽霊が姿を現す。静まり返った場内に佐古(g,vo)の息を吸う音が滑り込んで、彼らの時間は始まった。幕開けは1st EP『mnemeoid』でもオープニングを飾る「亡霊の君へ」。繰り返される「消えないで」という細い声が今にも霧の中に消えてしまいかけそうな瞬間、強く踏み抜かれたファズが鳴いて、空間が丸ごと、轟音の渦に飲み込まれた。ジャグラー(ds)が一打一打を力強く叩き込んで、その余韻がいくつも重なっていく。曲が終わって功凌(b)が「よろしくお願いします」と告げると、ハッと目を覚ましたように会場から歓声と拍手が巻き起こった。

2曲目の「fragment」でも、佐古の歌声は誰かに届けるというより、独り言や祈りのよう。しかしその背景で鳴るバンドの音は、音源から受けていた印象よりもはるかにダイナミックだ。そのコントラストはまるで、ひとりでは抱えきれない痛みや苦しみが洪水のようにあふれ出して、心の容量を満たしきった末にこぼれてしまうような感覚を思わせた。記憶と感情のメモリーがオーバーフローした結果として表出する、すべてがマキシマイズされた音楽としてのシューゲイザー。大きくうねるテンポチェンジを織り交ぜた演奏が、リスナーの胸を鷲掴みにして揺さぶっていく。

佐古はMCで、「今日は来てくれてありがとうございます。うれしいなあ」と感謝を伝える。プレイ中とはギャップのある素朴な語り口は、雪国が放つある種の緊張感と対照的だ。その不器用さこそが、揺れるは幽霊の音楽に切実さをもたらしているのかもしれない。弾き語りの歌い出しから始まったのは「鯨骨群衆」。音数を絞ったアンサンブルと残響のゆらめきがオーディエンスを深海へと沈み込ませながら、ソリッドなリズムと弦を掻きむしるような日高(g)のギタープレイが、抑えきれない疼きを喚起する。「追憶」から「hollow」に至る繋ぎ目でバンドサウンドがバーストすると、功凌はベースを頭上に掲げ、日高は制御不可能なノイズに感情を委ねる。佐古の「ずっと足りない」という歌が、剥き出しのシャウトに変わっていく。どこにもいられないから、誰かが見つけてくれるまで、ここで叫ぶしかない。そんな痛切な思いが、甘美な音世界を単なる快楽にとどめない。

そんな彼らの在り方がライブ序盤で刻み込まれただけに、この日リリースが告知された新曲「from」でバンド像が軽やかに更新されていくのも鮮烈だった。そうだ、どこにも居場所が見つからないなら、まだ誰も行っていない場所へと飛び立てばいい。無重力空間に漂うようなリバーブのアルペジオに続いて、キャッチーで幾何学的なリフが響き、裏打ちのビートが突き進む。これは追憶の中に留まり続けた揺れるは幽霊が、ようやく前へと動き始めるためのサウンドトラックだ。

私たちは移動し続けている。場所を、時間を、記憶の中を。そうしてどこかに向かい続ける過程で、雪国と、揺れるは幽霊と、この日ここに集まった一人ひとりは交わった。辿り着いた先で私たちに明確な繋がりはなくても、その交差した記憶だけは残り続ける。そんなことを思わせたのが、続く「夕さり」だった。浮遊感を湛えたスローなナンバーに、オレンジと青のノスタルジックなコントラストを描く照明が重なる。長い時間をかけて揺蕩う歌と音が、漂流した先で残る記憶のように温かい。

功凌がツアーの手応えを振り返り「こんなに美しいツアーありますか?」と投げかける。長かった特別な季節の一区切りに向けて、走り出す時が来た。ドラムソロから流れ込んだ疾走感あふれる「angel number」、そして本編を締めくくる一曲は「echoes of fading girl」。最後は感傷を撹拌するようにビートを加速させて演奏を終えた。賞賛の拍手がそのままアンコールを求める拍手に変わると、再登場して正真正銘のラストは「ポイント・ネモ」。痙攣するようなギター、ダンサブルなリズム、柔らかなメロディが一体となり、静かだけれど確かなダンスと熱狂の中で、ライブは幕を下ろしたのだった。ツアータイトルにして「from」の歌詞にも登場する「オールトの雲を抜けて」という言葉が示すように、遠くへと向かっていく二組の現在地と目線の先が表れた一夜だった。

<公演概要>
揺れるは幽霊自主企画『オールトの雲を抜けて』追加公演
6月28日 東京・新代田FEVER
出演:揺れるは幽霊、雪国

【雪国 / Setlist】

1, Blue Train
2, 羽化
3, 架空の君へ
4, 二つの朝
5, 東京
6, ひぐらしの夢
7, 夕立
8, クララ
9, 月台
10, カゲロウ

【揺れるは幽霊 / Setlist】

1, 亡霊のきみへ
2, fragment
3, 鯨骨群衆
4, 追憶
5, hollow
6, from
7, 夕さり
8, angel number
echoes of fading girl
en. ポイント・ネモ

雪国 オフィシャルサイト

https://ykq2.jp/

揺れるは幽霊 Lit.Link

https://lit.link/yureruwayurei

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