【展示レポート】『ほぼ、空:青木淳+リチャード・タトル』 3つのエレメントで美術館の空間全体を再構成した建築家と美術家の実験的試み
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『ほぼ、空:青木淳+リチャード・タトル』展示風景
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すべて見る建築家の青木淳と美術家のリチャード・タトルによる二人展『ほぼ、空:青木淳+リチャード・タトル』が、9月23日(水・祝)まで東京オペラシティ アートギャラリーで開催中だ。プレス内覧会で取材した作家の談話を交えてレポートする。
青森県立美術館、京都市京セラ美術館(西澤徹夫との共同設計)などの設計で知られる青木淳。京都市京セラ美術館では館長も務め、美術や文学などにも造詣が深い。一方、リチャード・タトルはアメリカ・ニュージャージー州に生まれ、現在はニューヨークとニューメキシコを拠点に活動。絵画とも彫刻ともいえる自由な表現で、国際展にも数多く参加している。
企画したキュレーターの能勢陽子は「建築を空気に喩える青木さんと、美術作品を光に喩えるタトルさんのコラボレーション」だと語る。建築とは、人それぞれが持つ異なる価値観や速度を許容する自由な空間をつくることだという青木。美術作品とは、真実や美から得た感動や恩恵を観客と共有する媒介だというタトル。「人間の生活に欠くことのできない光と空気が混じり合う、これまで見たことのないような自由な空間が生まれるのではないか」と思い、展覧会を依頼したという。

東京オペラシティ アートギャラリーを訪れたことのある人は、いつもと違う空間づかいに驚かされるだろう。青木の提案で、全体で一つの展覧会に見えるよう、企画展示室、収蔵品展および若手の平面作家を紹介する「project N」の展示室、ミュージアムショップの入れ替えが行われた。普段はミュージアムショップとして使われている部屋が最初の企画展示室となり、3階のコリドール(廊下)がミュージアムショップに。また、収蔵品展示室は企画展示室になり、今回は収蔵品から青木が選んだ野又穫作品が下階の企画展示室内に展示されている。


展覧会全体は、タトルが提案した「柱」「バスケット」「色の帯(ストライプ)」という3つのエレメント(要素)で構成されている。ストライプの色の帯は、色や物質を帯びた光 や照明を意味する。また、天井から吊るされたバスケットは、もみの木の枝を載せている。


青木は、なぜ柱かは聞かされていないが、それぞれがどこにどうあるべきか、タトルと対話を重ねたという。「垂直に立つ大きな柱は、自ずと特殊な感情とともに見上げることになるが、そこから視線を水平に降ろしていくと、初めて空間というものが認識される。今回は、柱というものがなぜ生まれたのか、原点に戻るようにしてどんな空間があり得るだろうかと考えていった」と話す。
なかでも、タトルが「偶然性」を取り入れ、青木がそれを受け入れながら配置を決めたことは興味深い。柱やバスケットは、タトルが会場図面に小石を3つ投げて落ちた地点、あるいはその地点を中心とした同心円上やその交点に配置されている。半分壁に埋まっているような柱は、2つの部屋(空間)にまたがる地点に小石が落ちたことに由来する。それはジョン・ケージの「チャンス・オペレーション」を連想させる。「チャンス・オペレーション」とは、ケージが中国の易経に倣い、コイン投げなどを行って運や偶然性に委ねて作曲した手法である。

また、天井の高さで柱の長さも変わる。天井の低い部屋では、さきほどまで見上げていた柱頭のてっぺんを見ることになる。また、バスケットから床に落ちた葉が散っている状態も偶発的だ。鑑賞者が葉の上を歩いたりすることで、作品が少しずつ変化していく。
さらに明るい場所と暗い場所ではエレメントの印象が異なる。一つの展示室の中でも暗い部分と明るい部分を作り、光と影が交互にありながら空間を緩やかにつなげている。自然光と人工光の両方の光を用いた空間もある。青木とタトルの間にあったのは、谷崎潤一郎の『陰影礼賛』だ。「陰影とは、光があって闇があるという二項対立ではない。光は影であり、影は光である、光と影の間に互換性があるのです。明るいか暗いかではなく、そのどちらでもいいし、どちらかだけでもない不安定な中の関係を指す」という青木。柱があることで影ができるが、筆者はそれを木陰のように感じた。

上階奥の「プロジェクトN」の展示室では、東山詩織の有機的な絵画の合間に、色の帯が見える。歩を進め、階段の中空に吊るされて見上げていたバスケットが、上階の床と同じ高さに見えてくる。筆者は、重心が地面から離れ、空に放り出されたような浮遊感を感じた。

「展覧会を巡る中で、鑑賞者がポジティブなエネルギーを受け取り、わからなさを共有しながらも一人一人が何か意味や考えを見出す出発点となるような展覧会であればいいなと思っています」とタトル。
「建築というものはリノベーション、改装であり、もとのものがあって、それを変えることだと思っています。我々がこの世に存在するときも、自分より先に世界があり、その世界をどう変えるかと試行錯誤している。 だから何かをつくっているわけじゃないんですね。展覧会もまた、すでにあるものを活かし、見えなくなっているものはまた現れ直すように、美術館の空間をある期間変えるものだと捉えています」と青木。
具体的なリノベーションで言えば、過去の展覧会の建材をベンチや什器などにアップサイクル(再制作)している。また、柱は、鉄筋コンクリートの型枠材をPCシートというプラスチックのような紙で巻いて制作された。少し無造作にも見える絶妙な造作は、今は物質がその形をしていて、展覧会後は剥がされ、また別のものになるという循環のサイクルを予感させる。

「建築とアートの調和を目指した」というタトルが使った木や石は、建築の根源的な素材であると同時に、詩的なものにも感じられる。青木もタトルも、つくるということは、何かの働きかけで、見えなかったものが立ち現れるようにすることだ、と考えているようだった。エレメントは3つとシンプルだが、それらの呼応に加え、展示室の形状や広さ、明るさ・暗さ、鑑賞者の動きなど複数の要素が交差する。鑑賞者もまた場をつくる一員として、それぞれの空間体験を持ち帰ることができる。
取材・文:白坂由里
<開催情報>
『ほぼ、空:青木淳+リチャード・タトル』
2026年7月18日(土)~9月23日(水・祝)、東京オペラシティ アートギャラリーにて開催
公式サイト:
https://www.operacity.jp/ag/
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