『私はあなたを知らない、』中野量太監督インタビュー 「“人と関わる喜びを知ってしまった人間”を描きたかった」
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すべて見る『兄を持ち運べるサイズに』の中野量太監督の新作『私はあなたを知らない、』が、明日28日(金)から公開される。本作は中野監督の約10年ぶりのオリジナル作品で、これまで監督が描いてきたテーマやモチーフが高純度で結晶化したような傑作になっているが、その創作過程は苦労と迷いの連続だったようだ。

本作は、東浜朝子(早瀬憩)が祖母の死去を機に、亡くなった母・紗月(堀田真由)の過去について知るところから物語が始まる。母はかつて、シングルマザーで幼い朝子と暮らしていたが、半年間だけ、西山夕平(坂口健太郎)と名乗る孤独な青年と交際していたという。朝子は当時の記憶はまったくないが、幼い朝子と母、そして夕平は同じ時を過ごすこともあったようだ。そして、朝子は、かつて自分を娘のように愛してくれたという夕平が母を殺し、現在は刑務所にいると知る。かつて、3人に何があったのか? この過去に朝子はどう向き合うのか?
中野監督はこれまで『チチを撮りに』や『湯を沸かすほどの熱い愛』『浅田家!』など数多くの監督作を手がけており、原作がある作品でも監督のカラーがしっかりと出ているのが特徴だ。本作はオリジナル作品だが、着想を得た実在の事件があったという。
「7、8年前にネットで見たニュースがあったんです。家族を知らない青年が、シングルマザーに出会って、彼女には小さな娘がいて、3人は一緒に暮らすようになって、青年はその子から“パパ”と呼ばれるようになる。彼は初めて家族のぬくもりを知ったけど、数ヶ月で青年とシングルマザーの女性は別れてしまった。青年は初めて知った家族のぬくもりを忘れられなくて、最後にはその女性を殺めてしまう、という事件でした。読んだ瞬間から心を掴まれましたけど、当時はこの題材を自分が映画化できると思わなかった。映画をつくる以上、僕は主人公に入り込むことになるんですけど、人を殺めるということを追求できないと思ったんです。
それから数年が経って、本作のプロデューサーさんから声をかけてもらった時にふと、今ならできるんじゃないかと。いまは各地で戦争が起こっていて、ニュースを見ると“100人が死にました。子供が何人亡くなりました”と連日、目にしますよね。正直、この状況が本当に嫌で、自分に何ができるのか考えた時に、ひとりの人間が、ひとりの人間を殺める、ひとりの人間が亡くなることで、周りの人間がどれだけ変わってしまうのかを丁寧に描くことだと思ったんです」
そこで中野監督は、着想を基にオリジナルで脚本を執筆することになったが、この作品には原案はない。そのすべては中野監督のオリジナルだ。
「本当に……大変でした(笑)。この題材でやるって決めて書き始めたんですけど、やっぱり途中で“人を殺める”とはどういうことなのか分からなくなってきて……プロデューサーに『人を殺さない脚本に変えませんか?』って言ってみたり(笑)。だから、脚本を書いている時も悩みましたし、編集してる段階でも悩んでいました。人を殺めるということ、そしてその後に訪れる“赦し”をどう表現すれば良いのか? そこが本当に分からなかった。でも、よく考えたら、他の作品で家族について描いている時も、“家族とはこういうもの”とか“家族とはこうあるべき”とは考えていないんですよね。それぞれに家族の形があるわけですから。そう思えた時に、“赦し”とは何かを考えるのではなくて、この映画における“夕平と朝子の場合の赦しとは何だろう?”と考えるようになった。そこから少しずつ進んでいきました」

夕平を演じたのは坂口健太郎。中野監督は「今回は“カッコ悪い坂口健太郎”を撮りますよって毎日言ってましたね」と笑顔を見せるが、ふたりは時間をかけてスクリーンの中の夕平を創造していったようだ。
「僕自身も答えを持っているようで、持っていない状態だったので、とにかく話し合いました。僕は坂口健太郎はカッコいい人だと思っていますけど、そこに寂しさや憂いのようなものがある俳優でもあると思っていたんです。だから、この役では“カッコいい要素”が寂しさや憂いを邪魔しないように毎日、『カッコ悪く撮ります』って言い続けたのかもしれないですね(笑)。今回は僕のこれまでの映画で一番、テイクを重ねていると思います。何度も何度も撮影しながら、一緒に探り合って夕平をつくっていった。お互いの夕平を近づけ合いながら撮影していった気がしています」

監督が語る通り、中野量太作品に登場する家族はみなそれぞれに状況もあり方も違う。それどころか、中野監督の作品は家族を描くのではなく、“自身の人生に介入してくる他者”を描くために、家族を取り上げている印象すらある。
「人間はたったひとりでは生きていけないと思っていて、自分ひとりで生きていると思うほど滑稽なことはないと思うんです。誰かがいることで、自分は生きているんだと思える。愛されることもあれば、憎まれることもあるわけですけど、誰かがいることで自分の存在に気づく。それを描くために家族を描くことが多いのかもしれないですね」
夕平と、紗月・朝子の親子に血縁はない。しかし、この3人の関係は中野監督がこれまでの作品で繰り返し描いてきた関係を最も高い純度で描いているようにも見える。
「まったく意識はしていないですけど、言われてみると、変化することを恐れていた夕平は、紗月と朝子に出会って変化し、自分が存在していることを教えてもらった。だからこそ、この関係に固執して、自分の存在を証明しようとする。人と関わらない方が楽なんです。でも、そこに喜びはない。だからこの映画ではきっと“人と関わる喜びを知ってしまった人間”を描きたかったんだと思います」

人と人との関わりの喜び、難しさ、悲しみを、さまざまな形で描いてきた中野監督にとって本作はひとつの到達点のような作品になった。そう筆者が語ると、監督は「計算し尽くして、全部見てくれ!ってところまでは行き着いていないと思っていますから。まだまだ上に行けますよ!」と笑う。
「この映画が、自分にとってどういう立ち位置にあるのかは、よく分からないです。ただ言えるのは、この映画の現場は本当に楽しく撮ることができた。やっと、そのぐらいの余裕は持てるようになったのかもしれないです。撮影現場は基本的には苦しいんだけど、とても良い現場だったと思います。これからも撮っていきたいと思いますし、実は次の映画もすでに撮り終わっています!」
『私はあなたを知らない、』
8月28日(金) 新宿ピカデリーほか全国公開
(c)IDKYPs./Pyramide Productions
取材・文:中谷祐介(ぴあ)
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