Text:小川智宏 Photo:Yukitaka Amemiya
Diosのワンマンライブ『Mirrored』が、8月23日東京・EX THEATER ROPPONGIで開催された。今回彼らが繰り広げたのは、たなか(vo)が作り上げたストーリーを軸にさまざまな楽曲が組み合わされて構成されるハイコンセプトなライブ。火星と地球をつなぐ壮大な世界観のなか、Diosの音楽に新たな光を当て、ひとつのメッセージを浮かび上がらせ、オーディエンスに強烈な印象を残した一夜は、彼らが新たな意思をもって踏み出した一歩を象徴するものとなった。その模様をレポートする。
まず、このライブを貫く物語について説明しよう。舞台は移住計画によって人類が進出した火星。過酷な環境に耐えるために身体を「義体」と呼ばれる機械に置き換えた人々が暮らす世界で、主人公の青年は、地球で出会った少女への想いを胸に長年生きてきた。自分はなぜここにいるのか、存在の意味を見出せず孤独に苛まれる彼は、彼女に向けて手紙を書こうとして書けないまま、寄る辺のない日々を過ごし、夜の街を彷徨い、さまざまな風景や人を見て、そしてやがてひとつの「答え」に辿り着く――。そんな、SF的な舞台設定のなかで展開する人間の心の物語が数々の楽曲によって浮かび上がるというのがこの『Mirrored』だ。その幕開けを告げたのは、ササノマリイのピアノとIchika Nitoの奏でるハープ。ステージの上方から物語の世界を示唆するような巨大な月が降りてくると、ステージに登場したたなかが「残像」を歌い始めた。<新しい世界へ 世界へ/誘われてもわたしはここにいたいよ>……主人公の切実な想いを物語るようなこの曲が終わると、場内は厳かな拍手に包まれた。
ササノの弾くピアノの音色に乗せて「Diosです、どうぞよろしく」とたなか。揺れるろうそくの火が映し出される中、「喪失のワルツ」が届けられる。そして「陽炎」がふつふつと沸き上がる感情を伝え、家を飛び出した主人公の姿を森や街の中を歩く足音が聞こえてくるなか、「劇場」が始まっていった。Ichikaの弾くファンキーなギターがナイトクラブのムードを描き出していく。そんなふうに楽曲が物語のシーンを描き出していくのだが、何よりバンドのグルーヴがとてもいい。3人にサポートドラムの山本晃紀(LITE)を加えた4人が鳴らすアンサンブルはとてもソリッドで肉体的だ。
「One Night Cruising」を経ての「逃避行」。月にこの日初めて、ステージ上のメンバーの姿が映る。オーディエンスを煽るように手を振り上げるたなかの姿に、会場のボルテージが一気に高まっていく。そしてIchikaのギターソロがエモーショナルに響き渡ると、たなかは「どうもありがとう!」と叫んだ。「今回は、新しい表現を作ってみなさんにお届けしてえという願望のもと、新しい物語を作って。映画でも舞台でもミュージカルでもなくて、音楽のライブではあり続けるんだけれども、それ以上の何かをみなさんに提示できたらと思っております。お付き合いお願いいたします」。そう今回のコンセプトを伝えたたなかが「ササノ、いけますか? Ichika、やれますか? 山本さんはどないですか?」とメンバーに呼びかけ、3人が自身の音でそれに応えるとライブは次のチャプターへ。重厚なセッションから「鬼よ」が始まっていった。
このセクションでは「B.U.G.」や「My Gasoline」、そして「Virtual Castle」とアグレッシブな楽曲が次々と披露される。その狂騒はメンバーもオーディエンスも問答無用に盛り上げていき、場内は手拍子や歓声に包まれるが、この物語のなかでは、その熱狂がかえって主人公の孤独を浮き彫りにしていくようにも思える。Ichikaの「今日のステージさ、いつもはフラットだけど、なんか段差あるよね」という言葉の通り、この日のステージセットには階段や台がいたるところに置かれ、たなかはその中を動き回って歌っている。「これが俺の体力を削っているところはある」というたなかだが、なんだか楽しそうだ。Ichikaも初めてギターをワイヤレスにして、ステージの反対側まで行けると嬉しそう。確かに、どこかストイックでもあったDiosのライブが、いつも以上に躍動しているのが観ていてもはっきりとわかる。たなかも楽器を弾いたら?とか、歌下手アピールをしているIchikaも歌えば?とか、マインドの面でも、ガチガチのコンセプトとは裏腹に、3人とも自由を感じているようだ。
そんなモードを象徴するように「自由」が披露される。「縛られてねえと次の自分が見えないんだよね。枷を、鎖を身にまとうことでしか、その重さでしか俺たちは成長できないんだと思います」。曲を始める前にたなかはそう話していたが、このライブ自体も、まさにDiosが自らに課した「枷」なのかもしれない。「王」「醜形の女神」とライブはどんどんテンションを上げるなか、「&疾走」がEX THEATERに鳴り響くころには、その勢いは最高潮に、ササノがリードしてコール&レスポンスが起き、シンガロングが生まれる。スクリーンに映し出される、筋骨隆々の謎の男がひた走る映像も、みなぎるDiosのエナジーを象徴するようだ。「ナイスランですね、みなさん」と息を切らしたたなかがオーディエンスを讃える。「最初、コール&レスポンスしてみようかって思ったときは、こんなに聞こえることになるとは思っていませんでした」と弾ませた声が、彼の感じた手応えの証だ。
「今回のライブ、いろいろ考えるのが本当に楽しくて」とたなか。思いついたアイデアが多くのスタッフの手によって実現したことに感謝しながら、それに応えていく意思を語り「やる気あります!」と高らかに叫ぶ彼の表情はとても晴れやかだ。「でも、EX THEATERでは俺の脳みそのなかにある『もっとこれやりてえ』は100%出てなくて。だから俺は、もっとでっかくならなきゃいけないんだっていうのを真摯に感じました。何も決まってないんですけど、2年後、アリーナでやれるように頑張ろうと思っております」という力強い宣言に沸くオーディエンス。「Mirrored」の物語はそろそろ佳境だが、このライブはDiosにとって、ここから始まる新たなストーリーの始まりなのだ。そんなバンドの気分と呼応するように、ライブの物語はここからどんどん希望に向かって開けていく。Ichikaの繊細なギターソロから繰り出された「ラブレス」が再びシンガロングを巻き起こすと、8月5日にリリースされたばかりの新曲「無理」へ。ゴリゴリのリフが炸裂するロックチューンが響き渡ると、主人公の胸中に芽生えた新たな想いを描き出すような「また来世」を経て、ライブはクライマックスに突入していった。
「裏切りについて」、そして「天国」を終えると、「じつは本命はここからで」とたなかが口を開く。「次の曲のために俺はこのライブのシナリオを書いたし、みんなにいろいろなものを作ってもらったし、みんなに集まってもらいました」という言葉を伝えると、いったんマイクを置いたたなかは頭上に浮かぶ月を見上げる。すると月が一瞬にして青く輝く地球に変貌した。そして歌われるのは、この「Mirrored」の物語の結末を告げる「火星より愛をこめて」だ。主人公がついに書き上げた手紙は、どんなに遠く離れていても想うことはできるし、何かを伝えようとすることはできる。<いつか届く>というリフレインは物語の「答え」であると同時に、今まさに新たな挑戦に向けてスタートを切ったDiosの気持ちだ。コーラスに合わせてオーディエンスの手が揺れ、歌い終えるとたなかは深々と一礼。その彼に、祝福のような拍手が降り注いだ。その後のアンコールでは肩の力の抜けた表情で改めてこの先に目指すものを口にするメンバーたち。たなかは「ついてきてね!」とオーディエンスに笑いかける。そして最後に「花霞」が美しい一体感を生み出すと、画期的だった『Mirrored』は今度こそフィナーレを迎えたのだった。
<公演概要>
Dios Live 『Mirrored』
2026年8月23日 東京・EX THEATER ROPPONGI
【Setlist】
1. 残像
2. 喪失のワルツ
3. 陽炎
4. 劇場
5. One Night Cruising
6. 逃避行
- Instrumental Session(Gt/Key/Dr)
7. 鬼よ
8. B.U.G.
9. My Gasoline
10. Virtual Castle
11. 自由
12. 王
13. 醜形の女神
14. &疾走
- Ichika Solo
15. ラブレス
16. 無理
17. また来世
18. 裏切りについて
19. 天国
20. 火星より愛をこめて
ENCORE
21. 花霞
Dios オフィシャルサイト
https://dios-web.com/