Base Ball Bear『SHIBUYA NONFICTION Ⅲ』スリーピースの強さと現在地 そして、存在をめぐる祝祭として【オフィシャルレポート】
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Base Ball Bear『SHIBUYA NONFICTION Ⅲ』 Photo:AZUSA TAKADA
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すべて見るステージ後方に掲げられたのは、公演のメインビジュアルをあしらったバックドロップのみ。映像演出はない。スリーピースのロックバンドがそこにいる。ただそれだけ。結成25周年、メジャーデビュー20周年のアニバーサリーイヤーを走るBase Ball Bearが9月4日にLINE CUBE SHIBUYAで開催した主催公演『SHIBUYA NONFICTION Ⅲ』は、その“それだけ”がどれほど豊かで強じんなことなのかを証明しながら、その強さを土台にして、ゆかりの深いゲストアーティストたちと音楽で交歓する祝祭の一夜だった。
いつものようにXTC「Making Plans For Nigel」のSEが流れるなか、メンバーがステージに登場し、「17才」で幕が開く。疾走するエイトビートと4つ打ちを融合させた青春ナンバーの輪郭が、ホールの空気にくっきりと浮かび上がる。続く「BREEEEZE GIRL」も含めて、冒頭2曲で提示されたのは過剰さとは無縁の、平熱のままエモーショナルなバンドグルーヴである。ここは熱量だけで押し切れるライブハウスではない。演奏の輪郭がさらけ出されるホールである。だからこそ、際立つ。この数年、ライブサウンドを根底から見直し、3人の出音がぶつかり合う“点”ではなく、にじみ合う“面”として音像を組み直してきたバンドの成果が、目の前で鳴っていた。



現時点での最新作『Lyrical Tattoo』からの「caramel dog」は、どっしりとしたグルーヴの上でファットに歪んだギターが分厚く鳴る、UKロック由来の質感を宿した1曲。7月に全国ツアーを完走してもなお、アルバムのモードが過去形にならず動き続けていることを示していた。そして「いまは僕の目を見て」。2019年9月4日配信のEP『Grape』のリード曲を、くしくも7年後の同日に演奏したことになる。自主レーベル設立とともにスリーピースの表現を再定義した時期の曲が、完成形の3人によって鳴らされる。25年の現在地確認として、これ以上ない選曲だろう。「いまは僕の目を見て」という言葉自体、画面越しではなく目の前の存在と向き合えという『Lyrical Tattoo』の思想に直結していると思うのは、考えすぎだろうか。
そして、中盤の流れが白眉だった。関根史織のベースがけん引する長いイントロからうねりだす「Transfer Girl」は、ファンクネスを“ロックバンドのグルーヴ”として昇華し、踊らせる、その手つきの証明だ。「Transfer Girl」の歌詞に描かれるのは、深夜のプールの情景と、夏の終わりに線香花火が落ちる刹那のくちづけ。その線香花火の火を受け渡すように「senkou_hanabi」が始まる。9月4日という日付を思えば、必然の接続だろう。さらに「夏の細部」のアウトロではシューゲイザー的なフィードバックノイズが深く立ち込め、堀之内大介のパーカッションと渦を巻きながら、土着的でサイケデリックなファンクネスを宿した「Endless Etude」へなだれ込む。まるで、夏の怪談を音楽で体感するようなディープかつダークな反復のグルーヴが会場を覆う。音がどれほど異形化しても、彼らはあくまで“真顔”だ。それは、演奏中の表情云々ではなく、バンドの態度として。エモーションをあおらず、当然のことのようにやってのける。この真顔のすごみこそ、スリーピースのBase Ball Bearの核心である。
そして「PARK」。小出祐介自身が高密度の押韻を畳みかけるこの曲は、自主レーベルDGP RECORDS=Drum Gorilla Park Recordsの名を歌詞に宿す、事実上のレーベルアンセムである。ラッパーたちを迎える直前に自前のラップを放つ。

「真夏の条件」で夏の曲のゾーンを締めた後、最初のゲストとして呼び込まれたのはvalknee。その衣装には、スタイリストがあしらったというBase Ball Bearの25周年を祝う飾りが揺れている。最も新しい縁である彼女と鳴らす「生活PRISM」は、コロナ禍のリモートワーク下の生活を刻んだ『DIARY KEY』収録のシティポップの系譜にある楽曲だ。valkneeの確かなスキルとギャルマインドに裏打ちされたラップが、バンドの平熱のグルーヴの上でしなやかに跳ねる。ここから、ライブはコラボレーション史をさかのぼり始める。


Ryohuとの「ido」は、2011年のシングル「short hair」のカップリングとして呂布名義の彼と制作した曲を、小出が「まだ人前でやったことのない曲」と紹介して披露した、実質のライブ初演。フレッシュなミクスチャー感覚が、あのころの空気を真空パックしたように今に響く。 福岡晃子(accobin)が合流した「クチビル・ディテクティヴ」では、2010年の座組がそろった。2022年の『日比谷ノンフィクションⅨ』では福岡が来られず、橋本絵莉子が代役を務めた経緯があるだけに、この再会の意味はひときわ特別に感じる。演奏前のMCで福岡が口にし、小出が激しく同意した「スリーピースで、この音圧、すごいよ!」という言葉は、現在進行形のBase Ball Bearの本質を突く証言でもあった。



本編もいよいよ大詰め、続いて姿を見せたのはRHYMESTER。2018年の『日比谷ノンフィクションⅦ』以来、8年ぶりの共演となる。鳴らされたのは『C2』収録の「The Cut」。ディスコやファンクといったブラックミュージックへの接近を推し進めた同作のなかでも、最も攻撃的な到達点にある。バンドが刻むヘヴィなリフの上を宇多丸とMummy-Dのマイクリレーが鋭く切り結び、DJ JINのスクラッチがバンドとぶつかり合いながらアンサンブルの摩擦熱を上げていく。やはりRHYMESTERが持つ“キング・オブ・ステージ”の異名は伊達ではなく、その求心力は一切すり減っていない。日本語ラップの王道とギターロックが、互いの土俵を明け渡さないままかみ合うこの曲の緊張感は、Base Ball Bearがヒップホップを装飾ではなく構造から昇華してきた歴史そのものを物語っていた。




そして、岡村靖幸。2015年に岡村靖幸 w 小出祐介名義でリリースされた「愛はおしゃれじゃない」は、この夜のコラボレーション曲のなかで唯一、小出が「迎えた側」ではなく「迎えられた側」だった楽曲である。それを自らの主催公演で鳴らし返す構図には、Base Ball Bearの客演史が一方通行の招待ではなく、シーンとの相互の行き来として積み重ねられてきたことが表れている。岡村靖幸のステージに客演するときはハンドマイクで臨む小出が、ここではギターを弾きながら歌う。そして、関根史織のベースと堀之内大介のドラムが、岡村流ファンクの粘るビートをバンドのグルーヴとして立ち上げる。スリーピースの生々しい躍動で岡村靖幸を踊らせる——ホスト側としての立場の反転が、痛快だ。その上で歌い、踊る岡村のパフォーマンスは、円熟という言葉すら似合わないほど現役のままである。日本語のファンクをアップデートし続けてきた表現者と、ロックバンドの文法でファンクネスを血肉にしてきた後進が、リリースから10年余りを経て同じステージでこの曲を共有する。コラボレーションゾーンは、ジャンルと世代を越えた縁の集合体が、そこにあった。

最新作『Lyrical Tattoo』は、亡くなった人、疎遠になった人、そしてインターネット上の存在という三つの「存在と不在」をひと続きに考える作品だった。この日、表題曲は演奏されていない。にもかかわらず──いや、演奏されないからこそ──セットリストはその思想を構造で語っていたようにさえ思う。かつて関わった存在と再会し、同じ場所で音を鳴らす。ゲストが去った後、3人だけで鳴らした「changes」は、変わっていくことを肯定する2008年の曲で、メンバーの脱退も含む変化を重ねたこの25年、バンドを止めずにBase Ball Bearだからこそ描き、鳴らせるロックミュージックを体現し続けてきた3人の矜持が乗っているように感じられた。



アンコールで鳴らされたのは「short hair」。浮遊するギターの余韻が、祝祭の熱をゆっくりと日常の手触りへ引き戻していく。いかにもこのバンドらしい幕引きだった。
なお、この日のアンコールではいくつかの発表もあった。『天使だったじゃないか』と『Lyrical Tattoo』のアナログ盤、そしてオリジナルポータブルアナログプレーヤーが、結成25周年の当日である11月11日(水)に発売されること。2027年1月には恒例イベント『新春ベースボールベアーちゃん祭り』が初のツアー形式で3都市を回り、2月からは対をなす2枚のミニアルバムの総仕上げとなる全国ツアー『LIVE IN LIVE ~Lyrical じゃないか~』が12公演にわたって行われること。ストリーミング全盛の時代に、針を落とすフィジカルなメディアを周年の記念に据える選択は、「インターネットにいない存在」を志向するこのバンドらしい、筋の通ったものに映る。

そして、2026年最大のクライマックスとして待ち構えるのが、11月1日(日)にSGC HALL ARIAKEで開催される『25th Anniversary「 (This Is The) Base Ball Bear part.4」』だ。「 (This Is The) Base Ball Bear」は、2010年、2012年、2022年とキャリアの節目のたびに日本武道館で行われてきた象徴的なシリーズ公演であり、第4弾は今年3月にオープンしたばかりの新会場に舞台を移して行われる。小出はこの公演を「現時点でのキャリアハイを目指し、いずれそれを超えていこうという覚悟」を見せるためのものだと予告しているが、『SHIBUYA NONFICTION Ⅲ』で目撃したスリーピースの現在地は、その言葉がはったりではないと確信させるに足るものだった。四半世紀を経てなお、Base Ball Bearは更新の途上にある。この祝祭の続きが、11月1日(日)に、響く。

Text:三宅正一 Photo:AZUSA TAKADA
<公演概要>
Base Ball Bear『SHIBUYA NONFICTION Ⅲ』
9月4日東京・LINE CUBE SHIBUYA
<リリース情報>
Base Ball Bear『天使だったじゃないか』アナログ盤
11月11日(水) 発売
価格:4,400円(税込)
商品ページ:https://victor-store.jp/item/110428
Base Ball Bear『Lyrical Tattoo』アナログ盤
11月11日(水) 発売
価格:4,400円(税込)
商品ページ:https://victor-store.jp/item/110429
オリジナルポータブルアナログプレーヤー
価格:29,700円(税込)
商品ページ:https://victor-store.jp/item/110445
特典付き3点セット
価格:38,500円(税込)
商品ページ:https://victor-store.jp/item/110446
<ライブ情報>
25th Anniversary『 (This Is The) Base Ball Bear part.4』
11月1日(日) 東京・SGC HALL ARIAKE
開場16:00 / 開演 17:00
全席指定 7,500円(税込)
『新春ベースボールベアーちゃん祭りツアー 2027』
1月8日(金) 大阪・BIGCAT
開場 18:15/開演 19:00
1月9日(土) 愛知・中日ホール
開場 16:00/開演 17:00
1月11日(月・祝) 神奈川・KT Zepp Yokohama
開場 16:00/開演 17:00
出演:Base Ball Bear
MC:大阪・遠山大輔(グランジ)/愛知・神奈川・蓮見翔(ダウ90000)
料金:全席指定 6,500円(税込)
『Base Ball Bear Tour「LIVE IN LIVE ~Lyrical じゃないか~」』
2月11日(木・祝) 茨城・水戸LIGHT HOUSE
2月13日(土) 兵庫・神戸VARIT.
2月20日(土) 広島・広島CAVE-BE
2月21日(日) 鹿児島・鹿児島SR HALL
2月23日(火・祝) 愛知・名古屋CLUB QUATTRO
2月28日(日) 大阪・梅田CLUB QUATTRO
3月6日(土) 岩手・盛岡CLUB CHANGE WAVE
3月13日(土) 高知・高知X-pt.
3月14日(日) 香川・高松DIME
3月20日(土) 北海道・函館ARARA
3月22日(月・休) 北海道・苫小牧ELLCUBE
3月24日(水) 東京・LIQUIDROOM
料金:スタンディング 6,500円(税込)
詳細:https://www.baseballbear.com/live/
Base Ball Bear Official Site
Base Ball Bear Official SNS
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Instagram:https://www.instagram.com/baseballbear_official/
YouTube:https://www.youtube.com/@baseballbear
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