映画祭PFFが「李相日スカラシップ基金」を設立。新人監督の創作をサポート
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(左より)矢内廣(一般社団法人 PFF理事長)、李相日監督、松岡宏泰(東宝株式会社 代表取締役社長)
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すべて見る9月25日(金)国立映画アーカイブの小ホールにて、PFFの新たな取り組みである「李相日スカラシップ基金」の設立記者会見が行われた。
本基金は、PFF入選をきっかけにデビューした、李相日監督の『国宝』の歴史的大ヒットを受け、その成果を次世代の映画人育成へと循環させるべく、李相日監督の承諾のもと設立されるもの。会見には、李相日監督、一般社団法人PFFの矢内廣理事長、東宝株式会社の松岡宏泰代表取締役社長が出席し、設立に至った背景や今後の取り組みについて説明した。

会見の冒頭、矢内理事長は新たな基金設立の背景について「PFFは“映画の新しい才能の発見と育成”を掲げて48年間取り組んでまいりました。自主映画のコンペティションであるPFFアワードで新しい才能を発見し、その入選者からの次回作の企画書を、審査した上で長編映画をつくってきました。以前は『PFFスカラシップ』、現在は『PFFプロデュース作品』と呼んでいますが、単に製作費を渡して終わりではなく、プロのスタッフやプロデューサーを配備し、本格的な映画制作に挑戦できる環境を整えてきました。これまで31人の監督がこの取り組みで映画をつくってきました」と説明。
その31人の中のひとりに名を連ねるのが、李相日監督。2000年、学生時代に制作した『青〜chong〜』で「PFFアワード2000」グランプリをはじめ4賞を受賞。その後、PFFスカラシップの権利を獲得し、2003年に『BORDER LINE』でプロデビューを果たした。
そんな李監督が、2025年の映画『国宝』で実写邦画映画における歴代1位という偉業を成し遂げたことについて矢内理事長は「PFFにとって心から誇らしく、とてつもなく嬉しい事件でした。この事件を、第2、第3の李監督が生まれるための大きなチャンスに変えたいと思い、まず李監督にご相談したところ、『大変いいことだし、素晴らしい。ぜひやりましょう』と熱い思いを共有していただきました。次に、日頃から親しくさせていただいている東宝の松岡社長にご相談したところ、趣旨にご賛同いただき、基金の拠出を決めてくださいました」と説明する。

新設された「李相日スカラシップ基金」の骨子は次の通り。現時点での基金は3億円(ぴあ株式会社 2億円、東宝株式会社 1億円)。今後は趣旨に賛同する他企業にも1億円単位で出資・協賛を呼びかけ、最終目標額として10億円を目指す。また運用体制としては、一般社団法人PFFが管理・運営を担当。出資ではなく「寄付金」の建付けとすることで、安定した長期運用を行う。
本基金は、10年計画で運用し、年間3000万円が製作費に充当される予定だ。現在のPFFプロデュース作品の予算規模は助成金を含めて1本あたり約3000万〜5000万円となるが、本基金からの拠出により、1本あたり約6000万〜8000万円の規模へと引き上げられる。そしてその対象者は、現在開催中の「PFFアワード2026」入選者から選出され、翌年以降に決定するPFFプロデュース作品から即時適用される。今回の基金を使って新しく制作される映画は、撮った監督に対して配給収入の10パーセントを配分することとなり、監督自身にも直接収益が渡るシステムとなる。
会見中、矢内理事長、李監督ともに強く強調したのは「李監督は作品の選考には一切関与しない」ということ。李監督の作家性や思想性、演出手法に沿った企画であるかどうかは選考基準に一切含まれず、あくまでPFF独自の選考によって監督が選ばれる。矢内理事長は「大きな第一歩ですが、まだまだ足りないと思っています。これからも目標に向けて頑張っていきたい」と強い意欲をにじませた。

東宝の松岡社長も、PFFが50年近くにわたって担ってきた新人の発掘・育成という実績に敬意を表しつつ、「ひとつの形として、李監督が実写邦画映画の興収記録を塗り替えたことがあります。それをきっかけに基金でアップグレードさせたいというお話を伺いました。我々もぜひそのプロジェクトに参加させていただきたい、とお答えしました」とコメント。「ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、映画『国宝』は我々も企画開発に取り組んだものの、その難しさから一度断念したことがありました。しかし縁あって、わたしたちのもとに戻ってきてくれて、一緒に参加できたということは本当に大きな幸運だし、縁というものを感じざるを得ない。その縁に対する感謝の思いもありますし、もっと大きな理由としては、日本の映画業界の将来のためでもあります。その理念に対しても、わたしたちもそのメンバーのひとりとして参加させていただきたいということになりました。我々だけでなく、もっと多くの方たちにこの流れに乗っていただき、もっと盛り上がる形になればいいなと思っております」。

一方、基金にその名を冠された李監督は「先ほどから自分の名前が連呼されているのを聞いて、妙な心持ち。僕自身も20数年前にPFFによって世に出ることができたひとりなので、こういう形でお役に立てるということを光栄に思うと同時に、正直言って少々荷が勝ちすぎると感じています。監督としてのキャリアは道半ば、途上であるという身ですから」と苦笑いしつつも、「しかし若手のための、あるいは日本映画界全体の底上げになるための一助となればということ。矢内理事長の驚異的な熱意に押されて、うんと言ってしまったところもあります」と付け加えた。
その上で「才能というものは踏み潰されても雑草のように生えてくるものだし、泥の中でも花を咲かせられるもの。それくらい強いものだと思っている。ただし僕が20数年前に『BORDER LINE』を撮った時と今では、実際にかかる予算や日数も倍くらいになったのに、実際の制作の予算や環境はそう大きく変わっていない。そういった意味で、それぞれの監督が自分の発想を広げる、最も大事な創造力のための予算というものが、こういった形でプールできるということは非常に重要なことだと思っています」とコメントすると、「(新たな才能を発掘・育成する)PFFという卵のようなところと、日本で一番大きなマーケットを確保しておられる東宝という大きな映画会社と、その両端がこういう形でつながる。それこそ映画を底上げしていく重要な循環の形だと思っています。『国宝』という作品を通じてこの縁をつないでいただいたということで、松岡さんにも非常に感謝を申し上げたいですし、今は目標額に達していく過程ですので、この基金がさらに広がっていく一助になればと思っています」と語った。

また李監督は「つくり手の立場から言えば、つくったものが誰かの目に留まらなければ、次はありません。今回うまくいったからといって、次が安定しているということもない。やはり誰かの目に触れる機会をいただくということは非常に重要だと思うんです。商業と芸術、文化という様々な要素が絡み合う中で、素晴らしい芸術だからといって必ず多くの人に届くとは限らない。だからこそ、我々作り手は全力で球を投げ続けるしかない。その一球に自分のすべてを注ぎ込まなければ、人の心を動かすような事象は絶対に起きません。古くさい言い方ですが、1本目の作品には“覚悟”が問われるんじゃないかと思っています。そこにすべてを注ぎ込むことで何かが宿るだろうし、だからこそ誰かに届く。次にもつながる。作り手の強烈な意志と思いが詰まった作品はたくさんの人に届く、あるいは少なくとも心に刺さると思う。映画ってそういうものだと思うので、『次はないぞ』という思いで取り組まないといけないと思います」と力強く語った。
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