トム・クルーズ主演『DIGGER/ディガー』監督が語る。「観ながら発見していく作品に」
映画
インタビュー
フォトギャラリー(13件)
すべて見る『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』『レヴェナント: 蘇えりし者』のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の新作映画『DIGGER/ディガー』が本日から公開されている。本作で彼はトム・クルーズとタッグを組み、複数の物語、複数のリアリティが重層的に描かれる挑戦的なプロジェクトに挑んだ。観れば観るほど新たな発見がある、観終わってもまだ観客の想像力を刺激する“深掘り”必至の作品だ。

メキシコ出身のイニャリトゥは、2000年に『アモーレス・ペロス』で長編映画デビューし、『21グラム』『バベル』などの作品で注目を集めた。重厚な人間ドラマ、登場人物を時に極限状態に立たせる緊迫感のある物語運び、美しく詩的な映像、そしてメタファーがふんだんに盛り込まれ、観客が連想したり、考察する余地を与える映画づくりで人気を博している。
本プロジェクトは、設定やストーリーよりもイニャリトゥ監督と原案・脚本のサビーナ・バーマンで“言葉の力”について考察するところから始まったという。
「最初に考えたのは、やっぱり“言葉の力”です。言葉には、まるで魔術かまじないのような力がありますよね。誰かの言葉を聞くことで、現実の見え方が変わってしまうことはありますが、私たちが生きている時代はむしろ“現実のそのもの”よりも“何かについて語られている言葉やストーリー”の方を信じてしまうところがあります。ですから、この作品の仮のタイトルは“blah-blah-blah(とかなんとか)”でした(笑)。私たちは現実よりも、それについて語られた言葉の方を信じてしまう。これは怖い状態で、この問題を考えることからプロジェクトが始まっていきました」

映画の冒頭では、泡が浮かぶ夢の国のような世界が登場し、やがてあちこちに凝った装飾が施された豪邸で大富豪ディガー・ロックウェルが目を覚ます場面が描かれる。石油採掘会社のCEOで、傲慢な権力者のディガーは、今朝も自分のペースで、自分の理屈だけを優先して朝の時間を過ごすが、彼の部下から想像を絶する報告がもたらされる。ディガーの石油採掘所が爆発したことを機に次々に自然災害が勃発。彼は世界中から非難の声を浴びながら、なぜか自分で世界を救うために動き出す。
本作は監督が語る通り、真実ではなく“それについて語られる言葉”が次々に出現し、その意味が塗り変わっていく。通常の映画の場合は隠されていた内容があって、それがサプライズを生んだり、“ネタバレ厳禁”のワードを出現させるが、本作では目の前の世界が次々に装いを変えていくのだ。ある時は現実、ある時は人の語った話、ある時は妄想、ある時は……
「この映画では物語が進んでいくごとに、これまで見ていたものが自分の“思い込み”でしかなかった、とわかってくる構造になっています。海の中に浮かぶ美しい泡だと思ったら、それは地球を危機に陥らせるガスだったり、自然の光景だと思ったら実は人工物だったり、逆に人工的なものだと思ったら自然だったり。物語が進んでいくと観客は“実は違うストーリーを観ていたんだ”とわかるようになっています。何がリアリティなのか? 重層的な構造を観ながら発見していくような作品になっているわけです」

この作品を実現させるため、重層的な語りを理解し、ユーモアをもって演じられる主演俳優が必要だった。トム・クルーズは現代きってのスター俳優であり、映画製作者だが、それ以上に“複雑なストーリーを語ることに多大な関心を寄せる人物”だ。言い方を変えると“取り憑かれている”と言ってもいい。彼が関わると、アクション満載のスパイ映画も、なぜか複雑な状況の中で感情的に引き裂かれる主人公の話になってしまう。
「私もそう思います。トムは役者なんですけど、考える範囲がキャラクターを超えていて、まるでフィルムメイカーのような考え方で取り組むんです。おそらく彼が46年にわたって世界中のすごいフィルムメイカーたちと仕事をしてきた結果だと思うのですが、ビジョンや思考がとにかく広くて、その範囲が映画製作の全工程にわたっているんですよ。だから彼のコメントや意見は、映画づくりにおいて、すごく理に適っています。そのストーリーが何を表現しようとしているのか? その意味や複雑さをちゃんと理解した上で、どうすれば複雑さを失わずに観客にクリアに伝えられるのかを考え続けている。彼のこだわりというのは、やはり他の俳優にはないものですね」

さらに彼は、撮影監督のエマニュエル・ルベッキ、プロダクション・デザイナーのデニス・ガスナー、リチャード・ジョンソンなど腕利きのスタッフを選んで撮影に入った。描かれる映像は、シーンによってトーンやルックが微妙に異なり、監督が語る通り「重層的な構造を観ながら発見していく」ものになっている。
「最初からイメージしていたのは絵画的な映像です。被写界深度の深い、画面の前面、中面、背面がすべてくっきりとしたものにしようとしました。VistaVision(35ミリフィルムを縦ではなく水平方向に動かして撮影する方式)で撮影したので調整が本当に大変でした。照明はいつもの4倍必要でしたし、カメラの音が大きいので仕上げ時の整音に1年かかりました。ディガーの登場する場面ではあえて色が薄い、まるで漂白したようなトーンにしています。通常のLEDライトで白くしようとすると画面が白飛びしてしまうので、チヴォ(ルベッキの愛称)と試行錯誤を繰り返して、モノクロームなルックのためにグレイ・スケール・ライティングというものを開発しました」

漂白された空間の中で、観客が“色”を見つけていき、やがてその色が“思い込み”でしかなかったと気づく感覚が、本作を観る醍醐味だ。『DIGGER/ディガー』は最後の最後まで安心できない。自分の解釈や理解が上映が進むたびに塗り変わっていくからだ。
「この映画に出てくるものは、現実のレプリゼンテーション(Representation)なのだと思います。画面に映っているのはいくつかのシンボルだけで、実は私たちが目にしていないものが存在することがわかる仕掛けになっています。実は私たちは言葉やシンボルを見ていて、現実を見ていない状況が視覚的に表現されるわけです」

だから本作を観ていて、迷ったり、あれ?さっきの自分の理解は間違いなのか?と思っても大丈夫。むしろ、本作について明快に考察したり、何かを言い切る言葉に出会った時は注意した方がいい。その言葉が映画と現実を見えなくさせるからだ。世界の危機も、目の前の家族の小さな危機も、逡巡や後悔もすべてそこにある。しかし、私たちは誰かの声や情報ばかり気にしている。
『DIGGER/ディガー』は、多くの普遍的な物語がそうであるように、観るたびに違った印象や解釈を与えてくれるだろう。
「この映画を創作する過程で、僕や周囲の人間がみんな死んでしまった後にもこの作品が残っていて、僕らのまったく知らない時代の人たちが観てくれて、また違った意味をこの映画に与えてくれるかもしれない、と考えるようになりました。私はこの映画がずっと残っていてほしい、この物語を残したいということだけが願いなんです。だから、このような題材の映画をこの規模で、トム・クルーズというスターと共に創作できたことに驚いていますし、恵まれていると思っています。この映画は未来をX線で透視するような要素のある作品だと自負していますから、こうした作品が実現し、完成したことを誇りに思っているんです」
『DIGGER/ディガー』
公開中
C) 2026 WBEI and Legendary
取材・文:中谷祐介(ぴあ)
フォトギャラリー(13件)
すべて見る
