黒沢清監督&ダニエル・レイム監督が“小津映画の魔力”を語る 『小津ダイアリー』公開記念レポート到着
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映画『The Ozu Diaries/小津ダイアリー』公開記念トークイベントより
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すべて見る映画監督・小津安二郎の新作ドキュメンタリー映画『The Ozu Diaries/小津ダイアリー』が、10月9日よりBunkamuraル・シネマ渋谷宮下で公開中。この度、9月28日に行われた公開記念トークイベントのレポートと、小津作品を愛する海外映画監督からのコメントが到着した。
イベントには来日を果たしたダニエル・レイム監督と、本作に出演している黒沢清監督、プロデューサーの町田雪が登壇。MC・奥浜レイラの進行のもと、世界が小津に魅了され続ける理由から笠智衆の演技論まで、映画監督同士ならではの視点から熱いトークが繰り広げられた。
上映直後、観客の拍手に迎えられて登壇した黒沢監督は、開口一番、「小津についての映画であると同時に、白黒サイレントから突然声が出始めるトーキーへ、戦争を経てやがてカラーへと移り変わっていく。映画の歴史そのものを2時間少しで観たかのような感覚になりました。本当に素晴らしい作品です」と独自の視点で作品の構成を讃えた。これに対しレイム監督は、会場を用意した劇場や配給関係者、来場者への感謝を述べるとともに、「敬愛する黒沢監督と同じステージに立てることを心から光栄に思います」と応じた。

本作が長編ドキュメンタリーとして完成した経緯について、レイム監督は2003年に初めて観た『秋刀魚の味』の衝撃を起点として挙げ、「2017年に短編を手がけた際、アメリカではアクセスできない貴重な日記やアーカイブに触れ、“これだけの宝物があるなら長編として突き詰めたい”と企画をスタートさせました」と明かした。本作でのインタビューに黒沢監督を選んだ理由についても、「歴史学者ではなく、現場に立つフィルムメーカーの視点で小津監督の内面を語っていただきたかった。黒沢監督が以前語られていた小津監督と山中貞雄監督の関係性についてもお聞きしたかったのです」と語った。
黒沢監督はロサンゼルスでのインタビューを振り返り、「レイム監督が僕よりはるかに詳しく、乗せられてマニア同士のおしゃべりのように夢中で話しました。完成作を観たら“こんなに使われているのか”と照れくさくもありましたが、僕が大好きな『秋刀魚の味』のバーのシーン(軍艦マーチが流れて敬礼する場面)を作品の重要な基調として何度も使ってくださり、深く感銘を受けました」と感慨深げに振り返った。レイム監督も「黒沢監督がそのシーンを“不気味だった”と表現されたことが強烈に記憶に残り、作品の核になりました」と応じた。
話題は、小津が生涯気にかけ続けた盟友・山中貞雄監督へと及んだ。山中監督は日中戦争にて戦病死した夭折の天才であり、本作での扱いの大きさについて黒沢監督は「海外の観客には馴染みが薄い山中貞雄をここまで大きく扱っていることに驚いた」と触れつつ、「小津だって1980年前後までは海外で広く知られていたわけではありませんでした。現存する山中作品は3本しかないので、1日あれば専門家になれる(笑)。このドキュメンタリーが山中作品に触れるきっかけになればうれしいですね」と期待を寄せた。
劇中で小津の日記を読み上げるナレーションの“声”については、町田プロデューサーより、劇団「大人計画」の演出などを手がける大堀光威であることが明かされた。町田プロデューサーは「iPhoneに吹き込んでもらったテスト音声を聴いた際、似ているかどうか以上にフィーリングが素晴らしく、依頼を決めました」と経緯を説明。レイム監督は「大堀さんは依頼当時、小津作品をご存じありませんでした。あえて“小津っぽく”とは注文せず、一人芝居のように人生を語ってほしいとお願いしました。何年も編集を重ねるうち、私自身が大堀さんの声に恋をしてしまいました」と明かした。
さらにトークは、小津映画に欠かせない名優・笠智衆の演技論へと発展した。黒沢監督は「笠智衆さんは相当変わった俳優です。“これが普通です”という顔をして演技をされるのですが、どこもかしこも全く普通ではない。日本人でも初めて小津映画の笠さんを観ると、それまでの俳優の概念が壊されるような異様なインパクトを受けます」と語り、アメリカでの受け止め方をレイム監督に問いかけた。レイム監督が「アメリカでも素晴らしい俳優として評価されています。ヴィム・ヴェンダース監督の『東京画』で自然体に話す姿を見て以来大ファンです」と答えると、黒沢監督は「笠さんはロボットのように無表情に徹しているわけでもない。だからこそ真似ができないんです。映画の作り手は誰もが一度は笠智衆のように俳優を動かそうとしますが、絶対に失敗する。ヴェンダースもツァイ・ミンリャンもダルデンヌ兄弟も、小津を深く敬愛しながら、決してスタイルや笠智衆の演技を真似しようとはしない。そこに小津の凄みと、作り手が決して侵してはならない領域があるのだと思います」と小津映画における演出の難しさを分析した。

小津映画が世界で愛され続ける理由について、レイム監督は「ロサンゼルスで『秋日和』が上映された際、若い世代で満席でした。観客は笑い、ため息をつき、上映後はどこか浮遊したような不思議な表情で劇場を出ていく。小津監督がよく口にされていた言葉にできない“後味”こそが、世界を惹きつける最大の魅力なのだと感じます」と小津自身の言葉を引用しながら語った。
トークの締めくくりとして、初めて小津作品を観る観客へのおすすめ作品も紹介された。黒沢監督は佐分利信主演作として『彼岸花』『お茶漬の味』『戸田家の兄妹』を挙げ、「笠智衆主演作はハードルが高いので後回しで(笑)。佐分利信は核心をズバッと突く小気味よさがあり、入り口として最適です。そこを経てから笠智衆作品を観ると、より衝撃を味わえます」とアピールした。レイム監督は「私自身の原点である『秋刀魚の味』、原節子さんが出演する『晩春』『麦秋』『東京物語』、そして個人的に愛してやまない『長屋紳士録』をぜひ観てほしいです」と呼びかけた。

<作品情報>
『The Ozu Diaries/小津ダイアリー』
公開中

小津安二郎監督作品を愛する海外映画監督からのコメント全文
■リチャード・リンクレイター監督(『6才のボクが、大人になるまで。』『ブルームーン』)
小津がこの世を去ってから60年以上を経た今、映画界で最も偉大で、最も謎めいた芸術家のひとりと、これほど親密に向き合えるとは、何という贈り物だろう。
彼の日記の世界に浸り、野田高梧との深夜の酒席をともにし、この作品が蘇らせた素晴らしい資料の数々に触れるうちに、私は小津のことを、以前より少し身近に感じられるようになった気がする。映画作家としての小津だけではない。ひとりの人間としての小津をも。
私のような小津マニアにとって、これほどうれしい出会いはない。まさに、かけがえのない作品だ。
■アレクサンダー・ペイン監督(『サイドウェイ』『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』)
映画界への、静かながら意義深い貢献。映画を愛するすべての人に必見の1本。
■コゴナダ監督(『コロンバス』『アフター・ヤン』)
世界への、そして私自身への贈り物。この映画が存在してくれることに、心から感謝。
■エニェディ・イルディコー監督(『心と体と』『静かな友人』)
雨のヴェネチアの朝、このドキュメンタリーを観た。小津の作品はよく知っているし、彼についてのドキュメンタリーもすでに2本観ていた。それでも、その朝、映画館を出ると、なぜか涙があふれ、長いあいだ止まらなかった。この映画の静かな佇まいは、実に稀なことを成し遂げている──この素晴らしい映画作家の魂そのものに触れているのだ。
■ケン・クワピス監督(『旅するジーンズと16歳の夏』『そんな彼なら捨てちゃえば?』)
ダニエル・レイムによる、精緻で味わい深いこの作品は、小津自身の言葉を通して、映画界の巨匠をひとりの人間として浮かび上がらせる。そこに現れる小津は、彼が描いた印象深い登場人物たちと同じように、繊細で、ユーモラスで、欠点も抱えた存在だ。レイムは、数々の作品のなかに、小津の人生がかすかに響いているさまを見出していく。そこから見えてくるのは、小津の作品群が人間性への深い洞察であるだけでなく、きわめて私的な証しでもあるということだ。
(C)2025 Adama Films; Photo: Shochiku Co., Ltd.
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