『SAKAMOTO DAYS』『メダリスト』の名シーンを彩る楽曲──林ゆうき「劇伴は、お客さんの注文に応える料理なんです」
クラシック
インタビュー
林ゆうき(写真:ヒダキトモコ)
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すべて見るアニメやドラマの中で、登場人物の心情やストーリーの流れを表現する「劇中伴奏音楽」は略して「劇伴(げきばん)」と呼ばれる。アニメ『僕のヒーローアカデミア』『ハイキュー!!』やテレビドラマ『リーガルハイ』『緊急取調室』など数々の人気作品を手掛ける作曲家・林ゆうきのコンサートが、12月27日に東京国際フォーラム・ホールCで開催される。映像作品では実現しない、生演奏のコンサートでしか味わえない名場面とは──。
曲のポテンシャル100%
──映像作品のために作られた「劇伴」を生のコンサートで聴くと、どんな楽しみがありますか。
林:ドラマやアニメでは、映像に音を合わせるために曲を編集するので、1曲がそのままの形で使われることってあまりないんです。曲の一部分だけ使われていたり、ベースやドラムの音が消えていたり……。でも、コンサートでは曲のポテンシャルを100%引き出した演奏をするので、「あのシーンに使われていた音楽って、こんな曲だったんだ!」と驚いてもらえると思います。
──映像に合わせて作曲しているのかと思っていました。
林:海外では「フィルムスコアリング」といって、完成した映像に合わせて作曲する方法が主流ですが、日本では事前に音響監督からもらう「オーダーシート」をもとに作曲することがほとんどです。メインテーマ、バトル、ラブロマンス、コミカルといった場面ごとに「絶体絶命のピンチで、主人公が新たな力に目覚める」というような1、2行の説明が書いてあるので、シーンの映像をイメージしながら作曲します。

──1作品で何曲になるんでしょうか。
林:だいたいドラマで20〜30曲、アニメで50〜60曲、朝ドラだと100曲くらいです。
──そんなにたくさん! 短い曲ですか?
林:いえ、1曲だいたい3〜4分の長さです。楽曲の展開については任せていただけることが多いので、僕は1曲の中に起承転結をしっかり作るようにしています。
──大変な作業量ですね…
林:以前、静かな場面を想定して曲を作ったら、音響監督から「曲の最後にもう1段階くらい盛り上がってほしかった」と言われたことがありました。「だったら大サビ二つくらい作っといたのに!」って悔しくて(笑)。それからは、どこに盛り上がるシーンが来てもいいように曲の見せ場を入れています。
劇伴は、「お母さん食堂」
──今回4回目となる「劇伴食堂」ですが、タイトルの由来は?
林:僕らは皆さんから「こういう音楽が欲しい」と言われたものを作るのが仕事です。よく、「どうやって曲を作っているんですか?」という質問をいただくんですが、僕はいつも「世の中のお母さんが、家族全員のリクエストに合わせた料理を作るイメージ」と答えています。
──それで、「食堂」。
林:そうです。「今日は肉より魚がいい」とか「さっぱりした味がいいけど、満足感は欲しい」とか。冷蔵庫に何があるか、予算、お腹が空いているご家族のための時間……。その中で最適解を考えて料理を出すのは、作曲と近いところがあります。
──具体的には?
林:たとえば主人公が過去を抱えた女性なら、明るいピアノじゃなくて少しこもったアップライトピアノの音にしようとか。大人のキャラだからチェロでゆったりさせようとか。作品全体のバランスを見ながら組み立てていきます。
──でも、たまには自分が食べたいものもあるのでは。
林:もちろん、あります。初めて本格的に担当した映画の仕事が『神様のカルテ2』だったんですが、最初にもらったオーダーを無視して、ラストの泣かせるシーンまでじわじわ盛り上げる7分くらいの長い曲を作ったんです。あっさりしたものが食べたいと言われていたのに、こってりしたチンジャオロースみたいな曲で、これは怒られるだろうなと覚悟してました(笑)でも、結果的には気に入っていただけました。基本的にオーダーを聞く方ですが、「こっちの方がかっこいいんじゃないか」という感覚は大事にしています。

原点は男子新体操
──林さんは男子新体操の選手出身という異色の経歴ですね。
林:当時は、競技で踊る曲を自分で選んでいました。音楽にものすごくこだわるタイプで、アレンジャーさんの横に三日三晩つきっきりで編集をお願いすることもありました。音楽については素人だから、「この瞬間にこの音がジャジャジャーンってなる感じ!」とか、ほとんど擬音で会話していた。これじゃあダメだと思って、自分で曲を作り始めたんです。最初は原曲を耳コピして、1音ずつ打ち込んでいました。
──そこが作曲家としてのスタートだったんですね。
林:男子新体操は先に振り付けを作ってから、動きに音楽を合わせるので、劇伴の仕事に通じているのかもしれません。また、新体操の大会では何百人もの選手が自分のベストソングを持ってきて踊ります。1日中、体育館でドラマや映画のメインテーマなどキャッチーな曲ばかりを浴びるように聴いていました。すると、踊る側の感覚としてメロディーやコード進行が体に染み付いてくる。この時に得た感覚が、今でも自分の指標になっています。
──スポーツ競技がテーマのアニメ作品も多く手掛けられています。
林:今ちょうどフィギュアスケートのアニメ『メダリスト』の劇場版音楽を作っています。自分でも代表作だと言える作品の一つです。同じ競技者の物語なので、思いが詰まりすぎて泣きながら作曲している時もあるくらい(笑)。コンサートではテレビアニメ版の曲を演奏するので、音楽から作品に興味を持って劇場版も見ていただけたらうれしいです。

あの名シーンも、ひと味違う
──コンサートで、ここを聴いてほしいというところは。
林:数年ぶりの「劇伴食堂」なので、その間に作った新しい作品のメインテーマや印象的な曲を聴いてほしいです。あとは、あまり知られていないけど自分は気に入っているから聴いてもらいたい曲。
──先ほど、100%のポテンシャルで聴かせたい曲があると話されていました。
林:映像では演出などの都合であまり使ってもらえなかったけど、「お前の実力はそんなもんじゃないだろう」という曲もありますから、コンサートでお客さんに聴いてもらいたいと思っています。
──映像と合わせて演奏する曲もあるとか。
林:やっぱり名シーンで使われている楽曲は皆さん思い入れがあるので人気です。普段の劇伴は映像に合わせて曲を編集していますが、コンサートでは曲に合わせて映像を編集します。最高のシーンを合わせたミュージックビデオに近い感覚で、他では見られない演出になっています。
──同じシーンでも、違う感動がありそうです。
林:テレビや映画とは違うアプローチで、曲の良さを届けられたらと思っています。選曲もバラエティに富んでいるので、きっと飽きずにお腹いっぱいになれますよ。

取材・文/北島あや
写真/ヒダキトモコ
<公演情報>
「林ゆうき〜劇伴食堂 肆」
2026年12月27日(日) 16:30開演(16:00開場)
会場:東京国際フォーラム・ホールC
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