ワッツ・オン・ブロードウェイ?~B’wayミュージカル非公式ガイド

ワッツ・オン・ブロードウェイ?~B’wayミュージカル非公式ガイド【2026年夏号】

年4回更新

第12回

トニー賞が発表された。新作部門を賑わせた『シュミガドーン!』と『ロストボーイ』は筆者が訪れた3月中旬にはまだ始まっていなかったため未見だが、リバイバル部門の作品賞に輝いた『ラグライム』と、演出賞や振付賞などを獲得した『キャッツ:ザ・ジェリクル・ボール』は観てきたので、今号はそのミニレポートをお届け。それにしても、脚本と音楽が対象にならないリバイバル部門において、演出と振付という主要賞を制した作品が作品賞を逃すとは。『ラグライム』は脚本と音楽が10年に1本級に素晴らしいにもかかわらず、1998年の初演版は『ライオンキング』、2009年のリバイバル版は『ラ・カージュ・オ・フォール』という強すぎる対抗馬の陰に隠れて作品賞を逃す不運に見舞われてきたため(初演で脚本賞と音楽賞は受賞)、なんとなく過去の上演の分も含んだ受賞なのかなと思って納得はしているのだが、個人的にはやはり『キャッツ』に一票。というわけで以下、詳細。

■とにかく観てほしい『キャッツ:ザ・ジェリクル・ボール』

筆者は前知識を最小限に留めたいタイプのおたくなので、ブロードウェイでも開演前にプレイビルを眺める程度にしているのだが、本作のプレイビルのスタッフ欄にはSensitivity Specialist、Gender Consultant、Ballroom Culture Consultantなどの見慣れない肩書が並んでいたため、さすがにボールルームカルチャーくらいは知っておかないと楽しめないのではと思い、軽く検索してから臨んだ。この予習は、おそらく必須。20世紀後半のアメリカで、差別されていた非白人のクィアたちがヴォーギングと呼ばれる独特のダンスで自己表現をしたというこのカルチャーの発祥と、舞台にはそのカルチャーのアイコンのような人たちも出演していることを認識していなければ、カルチャー特有のスタイルやアクションが現れる度に扇子をバタバタと鳴らして喝采を送るという、これまたカルチャー特有の反応を見せる周りの観客に、取り残されること山のごとしだったに違いない。

いや、正直に言えば、認識していても結構取り残された。周りの観客が何に反応しているのか分からなくても、よく知っているはずの“猫たちの着ぐるみミュージカル”が新しいコンセプト、新しいセットと衣裳と振付と編曲、そしてジェンダーレスキャスティングによって、全く異なる作品になっていることへの興奮はもちろん覚えながらも、それより先に踏み込めないことに一抹の寂しさも抱えながら観ていたというのが実情。だが終盤に至って、興奮と寂しさは感嘆に変わった。強烈な自己表現の嵐の末に《The Ad-Dressing of Cats》が大合唱されるフィナーレを観ていたら、言われてみれば『キャッツ』って、もともと自由な自己表現とか多様性を礼賛する作品だったのかも!と思ったからだ。猫には1匹1匹、簡単には教えない名前があるとか、猫と仲良くなるには敬意を持って接することが肝要だとか、そんな猫は人間に似ているとか。原作はT.S.エリオットの詩であるため、解釈はきっと人それぞれだが、思えば着ぐるみミュージカルだった頃から猫たちはそう歌っていたではないかと。

そう考えると、これは古典的名作をただ奇をてらって、見た目に斬新な演出で蘇らせた新バージョンなどではまるでなく、現代の視点から歌詞と音楽の深いところまで潜り、社会的メッセージも織り込みながら再構築したリバイバル。……なんて、エリオットについてもボールカルチャーについてもチャッピーに聞いた程度の知識しかなく、世界情勢にも疎い身で軽々しく言うべきことではないのだが、それってリバイバルの真髄じゃない?と一ミュージカルおたくとして思うことは止められず、ゆえに心の一票を投じていた次第。というかこの舞台、言葉での説明が難し過ぎてなかなか感嘆を共有できないので皆さんぜひ観てください。

■名作を丁寧に蘇らせる『ラグライム』

実際のトニー賞審査員たちが票を投じたこちらにも、もちろん感動はしたのだ。前述の通り、脚本と音楽がそれはもう作者たち渾身の力作なので、何度観ても涙は出るし、移民の国においては避けられない人種間の軋轢、そしてそこにある一縷の希望という、めちゃくちゃアメリカ的な物語をアメリカの芸術形式であるミュージカルで描いたことそのものに、大きな意義があるとも改めて思った。だがそれは「何度観ても」「改めて」であって、子どもの頃に観てよく分からないながらも衝撃を受けた1998年版や、少し分かって立ち上がれなくなった2009年版の感動と、本質的には変わらないもの。名作の新たな側面を打ち出すというより、まだこの名作に出会っていない人向けに丁寧に演出されたリバイバル版といった印象があり、前者を好む筆者には少々物足りなかったのだった。とはいえ、もともと大好きな作品がついに受賞したことは心から喜ばしい。3度目の正直、おめでとうございました。

【2026-27シーズンの新作】

*情報は2026年6月28日時点のもの

『Wanted』10月15日プレビュー開始予定

1893年のテキサスで白人に扮して暮らしていた黒人姉妹の壮絶な実話に基づく新作。
https://wantedmusical.com/

『ファンタスティックス』10月22日プレビュー開始予定

日本でもたびたび上演されてきたオフの古典がC・ガテリ演出・振付で初のオンBWへ!
https://2st.com/shows/season-48

『Galileo』11月10日プレビュー開始予定

ガリレオをロック音楽で綴る。M・メイヤー演出、R・エスパルザ主演で地方公演の評判上々。
https://galileomusical.com/

『エビータ』2027年2月27日プレビュー開始予定

ロンドンで大評判を取ったJ・ロイド演出、R・ゼグラー主演版がいよいよBWへ!
https://evitathemusical.com/

『サウンド・オブ・ミュージック』2027年3月23日プレビュー開始予定

言わずと知れた名作を『ラグタイム』の演出家と『シュミガドーン』の振付家がリバイバル。
https://www.lct.org/shows/26-27-season/

『パディントン』2027年3月30日プレビュー開始予定

こちらもロンドンのヒット作。あの愛すべきクマちゃん(パペット)が歌う(俳優)。
https://broadway.paddingtonthemusical.com/

【2025-26シーズンの準新作】

『キャッツ:ザ・ジェリクル・ボール』

新解釈すぎるボールカルチャー版キャッツ!トニー賞で演出・振付・衣裳賞を制した。
https://catsthejellicleball.com/

『ロストボーイ』

1987年公開のホラー映画をM・アーデン演出で。トニー賞で装置・照明賞など4冠。
https://www.lostboysmusical.com/

『ラグタイム』8月16日まで

2023年に日本でも初演された1998年初演作。3度目の正直でリバイバル作品賞含む4冠。
https://www.lct.org/shows/ragtime/

『ロッキー・ホラー・ショー』11月29日まで

映画版がカルト的人気を誇る1970年代初演作。トニー賞リバイバル作品賞ノミネート。
https://www.roundabouttheatre.org/get-tickets/2025-2026-season/rocky-horror

『シュミガドーン!』2027年1月3日まで

『ブリガドーン』をパロディ化した米ドラマをミュージカル化。トニー賞で作品賞含む4冠。
https://schmigadoonbroadway.com/

『Titanique』9月20日まで

セリーヌ・ディオンの楽曲で綴る『タイタニック』のパロディ。トニー賞作品賞ノミネート。
https://titaniquebroadway.com/

『two strangers(carry a cake across new york)』

イギリス発のラブコメ。出演者二人のみで爆笑をかっさらう。トニー賞作品賞ノミネート。
https://twostrangersmusical.com/

【ロングラン作品】

■日本で既に上演された/されている作品

『アラジン』

ディズニーアニメが舞台ならではの手法で表現された秀作。魔法の絨毯は本当に魔法。
https://www.aladdinthemusical.com/

『シカゴ』

1996年から続く最長ロングラン作。『オペラ座の怪人』超え(2031年)も視野に入ってきた。
https://chicagothemusical.com/

『メイビー、ハッピーエンディング』

韓国発の作品が2025年のトニー賞を席巻。作品・演出・脚本・楽曲賞ほか6冠を達成した。
https://www.maybehappyending.com/
2025年春号でレポート済

『ムーラン・ルージュ!』 8月30日まで

2021年のトニー賞受賞作もついにクローズ。1か月延長され、夏休みがラストチャンスに。
https://moulinrougemusical.com/

『SIX: The Musical』

ヘンリー8世の6人の妻たちが暴れ回る痛快作。日本版が上演された今こそ観比べたい。
https://sixonbroadway.com/

『ライオンキング』

『シカゴ』に次ぐロングラン第2位を安定飛行中の大名作。相変わらず満席を誇る。
https://www.lionking.com/

『ウィキッド』

定期的に観たい傑作。ブロードウェイ版は格別なので映画版でファンになった方もぜひ。
https://wickedthemusical.com/

■日本未上演の作品

『&ジュリエット』

ロミジュリの後日譚をマックス・マーティンの大ヒット曲で綴るロンドン発の傑作。
https://andjulietbroadway.com/

『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』

キューバ音楽のアルバムのジュークボックス。2024年トニー賞で振付・編曲賞ほか4冠。
https://buenavistamusical.com/

『ジャスト・イン・タイム』

米歌手ボビー・ダーリンのジュークボックス。『ニュージーズ』のJ・ジョーダンが主演中。
https://justintimebroadway.com/

『ヘイディズタウン』

『グレコメ』の演出家が現代的に描くギリシャ神話。2019年のトニー賞で8冠を達成。
https://www.hadestown.com/

『ハミルトン』

2016年のトニー賞総なめ作。最近ようやく、入場率が100%を超えない回も出てきた。
https://hamiltonmusical.com/

『MJ The Musical』

M・ジャクソンのジュークボックス。今年予定されているアジアツアーの続報はまだか!?
https://mjthemusical.com/

『オペレーション・ミンスミート』

第二次大戦中の英国軍の“奇策”を描くロンドンのヒット作。2月にキャストが一新された。
https://operationbroadway.com/
2026年冬号でレポート済

『ブック・オブ・モルモン』

2011年のトニー賞を制した、もはや古典の領域の傑作。15周年の記念イヤーを満喫中。
https://bookofmormonbroadway.com/

『グレート・ギャツビー』

宝塚版でもよく知られる名作小説をJ・ハウランドの音楽で。2024年トニー賞衣裳賞。
https://broadwaygatsby.com/
2026年冬号でレポート済

『アウトサイダー』

原作は同名小説および巨匠コッポラ監督による映画版。2024年トニー賞で作品賞含む4冠。
https://outsidersmusical.com/
2025年秋号でレポート済

プロフィール

町田麻子(まちだ・あさこ)
1980年ロンドン生まれ、横浜育ちのミュージカル文筆家。2002年早大一文演劇専修、2022年東京藝大楽理科卒。公演パンフレット、演劇誌、WEB等で主にミュージカルの解説文、インタビューやレポート記事を執筆。10代からブロードウェイ観劇旅行を毎年続けるミュージカルおたく。趣味は翻訳版の妄想キャスティング。

町田麻子ウェブサイト
https://www.rodsputs.com/