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まさにリドリー・スコットの集大成!
壮大なスケールで描かれるSF超大作

『レイズド・バイ・ウルブス/神なき惑星<シーズン1>』特集

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そのクオリティの高さで知られる米HBO Maxのオリジナル作品として製作され、壮大なスケールと深遠なテーマで高い評価を集めた『レイズド・バイ・ウルブス/神なき惑星』。『エイリアン』『ブレードランナー』『グラディエーター』などのリドリー・スコットがプロデュースだけでなく自ら冒頭2話の監督も務めたとあって、特に映画ファンとしては見逃すわけにはいかない作品だが、いよいよ日本でも本作のDVDレンタルやダウンロード販売がスタートする。本特集では、その物語などを紹介するとともに、リドリー・スコットを“師匠”として信奉する押井守監督にインタビュー。「気がついたら全10話をイッキに観ていた」という本作の魅力について、たっぷり語ってもらった。

気がついたら全10話一気に観ていた!
サー(リドリー・スコット)、久々の本領発揮の作品だね

年を取ってくると淡泊になりそうなのに
サーはどんどん過激になっている

── 『レイズド・バイ・ウルブス/神なき惑星』はリドリー・スコットが製作総指揮を務め、さらに最初の2話を自ら監督しています。作品のクリエイターはドゥニ・ヴィルヌーヴの『プリズナーズ』(13)などの脚本を手がけたアーロン・グジコウスキなんですが、スコットの色がとても強いシリーズになっているので、スコットを深く尊敬し“サー”と呼んでいる押井さんも楽しめるのではないでしょうか? いかがでしたか、押井さん。

押井 そのクリエーターのことは知らないけど、まごうことなきサー(リドリー・スコット)の世界だよ。

リドリー・スコット
Photo:AFLO

サーが監督をした1話の冒頭あたりは、サーにもかかわらずディテールがツルツル。宇宙船の細部を見せないし、ラバー状のスーツやヘルメットだっていい加減。これでいいわけ?って思ったんですよ。私はヘルメットとバトルスーツにはうるさいんで(笑)。

でも、それは最初だけだった。

── 思わず身を乗り出したのは、あのシーンからですか?

押井 そう、あのシーン。ネクロマンサーが登場してからだよ。もうびっくり! “マザー”“ファーザー”と呼ばれている子育てに特化したような男女のアンドロイドがツルツルのスーツを着て、人工子宮で子育てに勤しんでいるあたりで、「なんだこれは? サーのSFホームドラマなのか!?」なんて思っていたんだけど、マザーが突然、手足を伸ばした十字架のようなフォルムで空に舞い上がり、殺戮兵器のネクロマンサーに大変身。奇声を発して敵を木っ端みじんにしてからは、思わず身を乗り出したからね。ツルツルだった身体が青銅色に変わって、顔もまさに魔女のような形相になる。目玉をネクロマンサー仕様に入れ替えるというアイデアも凄い。いやあ、本当にびっくり。で、気がついたら全10話一気に観ていた。だから今日は寝不足です(笑)。

── 分かります。あのネクロマンサー、スコットらしさの塊じゃないですか?

押井 本当に“らしい”よ。母親がネクロマンサー(魔女)になるという発想もらしいし、あのビジュアルもらしい。“マザー”のデザインコンセプトはもちろん『メトロポリス』(27)のマリア。マリアも生身の優しい女性と過激なアンドロイドがいるから、そういう二面性的な部分もかなり意識している。世界観も『メトロポリス』っぽいレトロフューチャーだし。

── スコットはその昔、『来るべき世界』(36)をリメイクするなんて企画もありましたからね。そういう世界観、好きなんだと思います。

押井 でもさ、一番サーらしかったのって、敵を木っ端みじん、つまり肉片というかミンチに変えちゃうところだと思わなかった? そこまでやる必要はないけど、サーはやってしまうんです(笑)。

── 配信の作品なので暴力描写にも寛容ですからね。もしかしたらスコット、この作品で味をしめたかもしれませんよ(笑)。

押井 そもそも内臓感覚の強い人だったけど、今回はより強烈に出ている。肉体が木っ端みじんになるという描写を筆頭に、後半になるとやたら“血”や、身体の内部をかき回すような描写が多くなる。出血はアンドロイドのホワイトブラッドだけかと思っていたら後半、とんでもないからね。

普通、年を取ってくると淡泊になりそうなのに、サーはどんどん過激になっている感じ。エグさがハンパない。いまどきの若い監督の方がサラっとしてますよ。

本作で外せないのはサーの内臓感覚
それは原初的な恐怖に繋がっている

── そうですね。とりわけ今回は、“妊娠”が大きな要素になっていて、それを内臓感覚で捉えている感じでした。

押井 この作品はサーの内臓感覚というか生理的な要素を語らないといけない。最初から人工子宮で育てた子供が出てきて、食料として捕らえた野獣も妊娠していたという設定で、人工睡眠中に聖職者に犯されて妊娠した少女が登場し、伝説の“運命の子”が両親のいない子だとか、しかも最後には……。

── 押井さん、それは言っちゃダメですよ! まだ観てない人のお楽しみなんですから!

押井 いやいや、10話まで来てアレだからね。もうぶっ飛びましたよ。その<シーズン1>の最終話を観ると、まさにサーです。これが他のクリエーターが創ったストーリーだとは思えないほどサー色が強い。

── 最終話の監督はスコットの息子のルーク・スコットです。親子でこの物語が気に入ったんじゃないですか?

押井 親子揃ってアアいう趣味ってこと? だったら凄い親子ですよ。人間の生理に訴えてくるのがスコット・ファミリーの“血”ってことか……。

── そういう内臓感覚というか生理的な描写は、デヴィッド・クローネンバーグの特色でもありますけど、スコットとの違いは何なんでしょう?

押井 私は、クローネンバーグは子供っぽいと思っている。お腹にビデオテープを突っ込む(『ヴィデオドローム』(82))のような感覚は幼児的な発想だよ。一方、サーの内臓感覚は原初的な恐怖に繋がっている。女性の場合は、お腹に子供を宿すのが本能だから、そこに違和感や恐怖感はないだろうけど、男性にはある人もいるんです。おそらくサーは“ある人”。『エイリアン』だって、そういう描写のオンパレードじゃない。あれはサー独特の恐怖の表現なんですよ。

── 『エイリアン』(79)ではジョン・ハートのお腹を食い破ってエイリアンが出てきますね。

押井 そうです。『プロメテウス』(12)なんて、自分でお腹の子供を取り出して、その傷口をホッチキスで留めていたじゃない! 私はもう卒倒しそうだった。だから、そういうのはサーの恐怖演出のひとつだよ。

でも今回は、それが怖いだけじゃなく、ストーリーにかかわる大きな意味も持っている。『エイリアン:コヴェナント』(17)以来、久々に本領発揮の作品なんじゃないの?

サーらしさが爆発した作品を
TVシリーズで観られるとは思わなかった

── 私もそう思いました。SF的な表現ではどうでしょう?

押井 『エイリアン』シリーズのようなゴシック的じゃなく、『オデッセイ』(15)のようなリアル系でもない。これまでサーが手がけてきたことのない新しい世界観であり表現。80歳を過ぎて、まだ新しい表現やスタイルを追求するというのは、そう簡単にできることじゃない。さすがとしかいいようがないよ。

── 今回は宗教色も強い。ミトラ教というのはローマ帝国時代に実在していた宗教のようですね。

押井 ミトラ教はいわば当時の密教のひとつだよね。そもそもタイトルからして“狼に育てられた”なんだから、おそらくローマの建国神話のひとつ“ロームルスとレムス”に由来しているんじゃないの。狼に育てられた双子で、ローマ帝国建国の王とされているから。

それにマザーとファーザーにも、聖母マリアと、マリアの夫であるナザレのヨセフの関係性が投影されていると思うよ。

── なるほど! 確かに第1話には、マザーの乳首が6つあって、そこからチューブで栄養を取っているような描写もありましたね。宗教色も強いですが、かなり否定的じゃないですか? 私が昔、スコットにインタビューしたときは、「私は無神論者ではないが、不可知論者ではある」と言っていました。不可知論者って、神の存在についてはよく分からないという立ち位置みたいですね。

押井 欧米で無神論者というのはかなりキツい言葉だから不可知論者といったのかもしれないけど、さほど変わらない。不可知論者という言葉の方が哲学的ではあるよね。

サーのそういう宗教観もよく出ているし、そもそも人間否定色がとんでもなく強い。

── 凄いですよね。ここまで来たかというくらいに人間を否定している。

押井 年を取って隠さなくなった……というか、文字どおり開き直った。ここまで開き直るなんて、これもなかなかできることじゃない(笑)。

まさか、そういうサーらしさが爆発した作品を、こういうTVシリーズで観られるとは思わなかったので、そこにも驚いてしまった。実は最初、そこまでは期待していなかっただけに驚きも大きいんだよね。

── ということは、スコットを通して観ても面白いし、宗教や映画など、そういう知識があると、深読みをする楽しみ方もある。いろんな楽しみ方ができますね。

押井 そうです。過去の映画や宗教や歴史など、いろんな要素が詰まっている。寓意が強いシリーズなので、観る度に発見もあるんじゃないの? TVシリーズだから、そういうところを端折らなくてもいいという利点がある。だからサーも、好きなだけやったのかもしれない。

で、最後はアレだからね! 本当に驚いた。これ続編あるの?

── あります! 評判が良かったので<シーズン2>は決定していますね。

押井 それは良かった! そうじゃないとアレで終わりは困りますよ(笑)。

左:セル/右:レンタル

『レイズド・バイ・ウルブス/神なき惑星<シーズン1>』

2/2(水)より DVDレンタル、デジタル配信開始

4/27(水)よりブルーレイ コンプリート・ボックス発売決定

発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元: NBC ユニバーサル・エンターテイメント

©2022 WarnerMedia Direct, LLC. All Rights Reserved. HBO Max™ is used under license.

取材・文:渡辺麻紀
撮影:源賀津己

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