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吉田鋼太郎「全作品の中で一番素敵なラストシーンになる」シェイクスピア・シリーズ遂に完結!

ぴあ

吉田鋼太郎 撮影:HIRO KIMURA

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1998年のスタート以来、芸術監督・蜷川幸雄のもと、シェイクスピア全37戯曲の完全上演を目指す「彩の国シェイクスピア・シリーズ」は、蜷川亡き後、2016年10月に二代目芸術監督・吉田鋼太郎が就任し、翌年12月に『アテネのタイモン』によって再開された。そのシリーズ最後の作品となる『終わりよければすべてよし』について、演出・出演の吉田鋼太郎に話を聞いた。

「なんとか希望を見出そうとしている人」はすごく美しい

――お稽古がスタートして、現時点で感じている手応えをお聞かせください。

『終わりよければすべてよし』は、シェイクスピア作品の中でもあまり上演されないものです。なぜかと言うと、不備な点があるとか、扱いづらいとか、終わり方がちょっと苦いとか、カタルシスがないとか、そういうことらしいのですが、実際に稽古をしてみて、ひょっとしたらこれは『ハムレット』と双璧の面白い芝居なんじゃないかと思い始めています。これはアピールでも宣伝でもなんでもなくてね。

――それはなぜですか?

この作品の主人公でもある(石原さとみ演じる)ヘレンは、自分の運命を自分の力で切り拓いていき、自分の思うような人生を手に入れるという人なんです。そのパワー、その力強さ、そのひたむきさ、そして可憐さがとても魅力的で、その一言一言に、その行動に、目が釘付けになります。

『終わりよければすべてよし』メインビジュアル

――それをうかがうと、逆になぜこの作品が「問題劇」と言われているのかが気になります。

物語の序盤でヘレンは、(藤原竜也演じる)バートラムと結婚をするのですが、その結婚は王の権力によって決められたもので、バートラムはそれを拒否するんですよ。それでヘレンも一度は身を引くけれども、やっぱりバートラムが好き、自分のものにしたいと、ある策略をします。一言でいうと、バートラムをだましてベッドを共にする。それで妊娠するんですけど、え、それやっていいことなの!? って話じゃないですか。

それはちょっとダークな話なんじゃないの?と。そういう苦さがある芝居なんですよ。ただそれは、裏を返せば非常に現実的なんですけどね。そこには夢も希望もないかもしれないけども。

――なるほど。

そういうこともあって、みんなこの芝居をどう解釈していいかわからなかったというところがある。でもそれは戯曲を“読んで”思うことであって、実際に稽古をしてみると、全然そうじゃないんです。そこがシェイクスピアのすごいところ。やっぱり人間は、自分のしあわせを勝ち取るためにあらゆる努力を惜しまない、あるいは、惜しまないほうがいいじゃないですか。諦めちゃうよりも。

そういう「なんとか希望を見出そうとしている人」はすごく美しいわけです。それによって周りの人間たちも感化されて、どんどん変わっていくんですね。この作品はそういう美しい構造を持っていることが、稽古しているうちにわかってきて、これはものすごく感動するんじゃないかと思っています。

蜷川組の血を受け継ぐ藤原竜也と、“全部持ってる”石原さとみの共演

――どんな芝居になりますか?

盛りだくさんな芝居になると思いますよ。俳優たちがすごく個性的だし、役も人間臭くて、いつにも増して個性的だから。

――さらに描かれるものも盛りだくさんで。

そう、そこが面白いところなんですよ。しめやかなところはしめやかだし、悲しみのどん底になることもあるし、だけど賑やかなところはめっちゃ賑やかっていう。ふり幅がすごく激しい芝居です。それを俳優さんたちがキッチリ体現してくれれば、どこを観ていいかわからないくらい盛りだくさんな芝居になると思います。

――藤原竜也さんがこのシェイクスピア・シリーズの最後の作品に出演されるのが嬉しいです。

やっぱ竜也が出ないとね。蜷川さんなしには語れない俳優人生だから。ぜひこの作品には出てほしいとオファーしました。

――稽古場ではいかがですか?

もうね、蜷川組の血を受け継いでいますから。「そこでそんなことする?」「そこでそんな大きい声出す!?」「そこで転がる!?」みたいな(笑)。やりたい放題やっていますよ。やっぱり竜也が芝居すると、蜷川さんがいるなって感じがしますね。他のキャストも、「こういうところなんだ、蜷川組の稽古場は」とびっくりしていますしね。楽しいです。

――石原さとみさんはどんな方ですか?

役にピッタリですよ。悲しむ時はその悲しみ方も深いし、そこから立ち直るパワーもすごいし、行動していく賢さ、パワー、情緒、頭脳……石原さとみは全部持ってるから。

――それ以外の皆さんも個性的ですよね。

そう。だから、それぞれの個性を出して、やりたいようにやってくれと言っています。強烈だと思うよ~(笑)。

――ご自身も出演されますが。

強烈だと思う!(笑)

――(笑)。登場人物も個性的なのですか?

基本的にこの芝居の登場人物は、人間の“負”の部分を持っています。例えば(横田栄司演じる)パローレスはいつも嘘ばかりついて、自分を良く見せようとする。僕が演じるフランス王は、権力を振りかざしてみんなに言うことを聞かせようとする専制君主。道化のラヴァッチも常に軽口を叩いていて、その軽口は肉欲、性欲のことなんです。でもそういう人はおそらく現実にもいますよね。つまりみんな非常に人間的。これでもかというくらい人間的な登場人物です。




今作は蜷川さんが残した“無名な作品”の最たるもの

――「彩の国シェイクスピア・シリーズ」の最終作品となりますが、そこはどうお感じですか?

感慨深いです。僕自身が俳優として鍛えてもらったシリーズですし、僕の人生において絶対に大切な現場だったので。まさかその最後の演出を自分がやるとは思ってもいませんでした。責任は重大であるというプレッシャーはあるんだけれども、それは心地よい……と言うとカッコつけすぎなんだろうけど。このシリーズを楽しみされているお客さんはたくさんいらっしゃいますし、このシリーズに出演してきた綺羅星の如き俳優さんたちもたくさんいらっしゃいますし、その人たちが最後に「よかったね」と言えるような作品に、絶対にしてやろうと思っています。

――楽しみです。

自画自賛になりますが、このシリーズでは「え、この戯曲がこんなふうになるの!?」とよく言っていただけるんですよ。というのも、蜷川さんが残したのが無名な作品ばかりだったから。今回はその最たるものになると思います。

シリーズファイナルの演出は、最初のシーンで劇場の半数の人が泣く!?

――おっしゃる通り、吉田鋼太郎演出のシェイクスピアはわかりやすい、ということは、シリーズのキャストの方々からも何度もうかがいました。なぜなのでしょうか?

それはおそらく僕が18歳からシェイクスピア作品をやっているからだと思います。ものすごい本数をやってきましたから。だいたい、本で読むシェイクスピアって全然面白くないんですよ。やっぱり芝居でやってこそ。そこは絶対に守らなきゃいけないというか。本で読んだほうが面白かったと思われないようにしなきゃいけない、というのはずっと自分の使命のようになっています。

――余談ですが、ラストならではの演出もあったりするのでしょうか?

あります。最初のシーンを見たらわかるようにしてあります。そこで劇場の半数の人が泣くと思います。

――半数も泣くんですか!?

(笑)。具体的には言えないけどね。俺だったら泣きます。

――コロナ禍での上演についてはどう思われていますか?

今年の1月に『スルース~探偵~』(演出・出演)という芝居をやった時に、お客さんって本当に芝居が観たいなんだなってことがよくわかったんですよ。もうね、ものすごい観ますもん。食い入るようにして。「今観なきゃ、いつ観られなくなるかわからない!」というような感じで。観る側にそれだけの意欲があるのであれば、こっちはそんなに工夫しなくてもいいんじゃないかという気すらしました。そうなると、こっちの負担は減るんですよ。怠けられるという意味ではなくてね。いい関係性ができるから、「さあ観てくれ! がんばるから観てくれ!」じゃなくていいわけです。どちらかというと今までの俺は「さあ観てくれ!」が強いほうだったので、それでお客さんは「ちょっとうるさいな」とか「そんな大きい声出さなくてもいいのにな」とか(笑)。

――ちなみに前作『ジョン王』の中止はどう思われていますか?

そこは延期と考えていただきたいです。近い将来、必ずやります。小栗(旬)くんも久しぶりのシェイクスピア作品でとても意気込んでいたからね。必ずやるつもりです。

――では最後に、個人的に楽しみになさっていることを教えてください。

ラストシーンです。「問題劇」と言われる所以のひとつで、なんとなく気持ち悪いラストシーンなんです、本で読むとね。でも多分、シェイクスピア全作品の中で一番素敵なラストシーンだと思う。よくぞこの『終わりよければすべてよし』を書いてくれたと思うくらい。この大団円に、こういうシーンを持ってきてくれるっていうのがね。もう全部がうまくいっている感じがして。もちろん、蜷川さんは亡くなったし、コロナ禍でもあるから、「すべてよし」とは言えないけれど、「終わりよければすべてよし」は願いでもあるので。幕が開くのを楽しみにしていてください。

取材・文:中川實穗 撮影:HIRO KIMURA



公演情報
彩の国シェイクスピア・シリーズ第37弾
『終わりよければすべてよし』
作:W・シェイクスピア
翻訳:松岡和子
演出:吉田鋼太郎
出演:藤原竜也 / 石原さとみ / 溝端淳平 / 正名僕蔵 / 山谷花純 / 河内大和 / 宮本裕子 / 横田栄司 / 吉田鋼太郎
廣田高志 / 原慎一郎 / 佐々木誠 / 橋本好弘 / 鈴木彰紀 / 堀源起 / 齋藤慎平 / 山田美波 / 坂田周子 / 沢海陽子

【埼玉公演】
2021年5月12日(水)~2021年5月29日(土)
会場:彩の国さいたま芸術劇場 大ホール

【宮城公演】
2021年6月4日(金)~2021年6月6日(日)
会場:名取市文化会館 大ホール

【大阪公演】
2021年6月10日(木)~2021年6月13日(日)
会場:梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ

【豊橋公演】
2021年6月18日(金)~2021年6月20日(日)
会場:穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール

【鳥栖公演】
2021年6月26日(土)~2021年6月28日(月)
会場:鳥栖市民文化会館 大ホール

最新の公演情報につきましては、公式サイトにてご確認ください。
https://horipro-stage.jp/stage/owayoshi2021/
(本ページに掲載された情報は5月7日時点のもの)

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