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第3回:有村架純×森田剛 対談インタビュー

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映画『前科者』で阿川佳代を演じた有村架純と、工藤誠を演じた森田剛。保護司とその観察対象者という関係性であり、さらに繊細な距離感の心理描写が必要となるふたりを、彼らはどう演じたのか。初共演となった有村と森田に撮影中のエピソードとともに語りあってもらった。

自身の役柄やふたりの関係性
それぞれどう捉えていた?

── 阿川佳代と工藤誠を演じるにあたり、どのようなアプローチを取りましたか?

有村 まずは、原作漫画と保護司に関する資料を読むところから始めました。その上で、佳代のキャラクター性と向き合って。正義を押し売りするような人にするのではなく、彼女が抱えている劣等感、癒えない傷を大切に演じたいと思いました。

森田 工藤を演じる上では、何よりも想像することが大事でした。普通は経験しないような痛みを感じながら育った子ですから、彼が経験したこと、感じたことに向き合う時間が必要だったんです。そうしながら、岸(善幸)さんが書いた脚本をひたすら自分の中に入れていきました。

── 保護司の阿川と保護観察対象者の工藤。このふたりの関係をどう捉えましたか?

有村 佳代にとって、ここまで全力を尽くす保護観察対象者は工藤さんが初めて。なぜこんなにも突き動かされるのか、なぜ母性が爆発したのか、彼女自身も分からない部分はあったと思います。そんな佳代の分からなさが、客観的には恋愛感情に見えてもいいと岸監督はおっしゃっていました。なので、私も一歩引いて考えるようなことはあえてせず、目の前にいる工藤さんをとにかく想う。それだけでしたね。

森田 阿川先生に初めて会ったときの工藤は、彼女も今まで自分が会った人と何も変わらないだろうなと思ったはず。だからこそ、自分のためにどんどん動き、声をかけてくる姿に戸惑ったりもして。その中で、自分の亡き母親に対する気持ちが埋まる瞬間みたいなものが、工藤にはあったような気がします。

── そのせいか、工藤も阿川自身に興味を示しますね。きっと、普段の彼は人に対してそうではないだろうに。

森田 阿川先生の居方とかけてくれる言葉がそうさせたんでしょうね。直感的な部分もあったでしょうし。揺れ動きながらも心を開いていく感じは、演じる上でも意識していました。撮影現場での有村さんがそうさせてくれたのもあります。

── 撮影中、ふたりでそんなお話はしましたか?

有村 あまりしていないですね。常に緊張感のある現場でしたし、集中力もいる現場でした。役柄的にも仲良しこよしという感じでもなかったので、むしろ介入し過ぎないでいようと気をつけていたと思います。

森田 有村さんがそう思ってくれているのを僕も感じていて。会話はしていないですけど、お互いに意識が向いているのは感じていました。実際、僕たち以外のキャストも集まるシーンの撮影で、(刑事役の)マキタスポーツさんがぺちゃぺちゃ喋っていたことにちょっとイラッとしたりもしましたし(笑)。

有村 そうでしたね(笑)。

森田 お弁当を食べながら……。

有村 場をほぐそうとしてくださっていたんだと思います(笑)。

森田 そうですね(笑)。

たくさん食べたり、ビンタしたり……
ふたりの印象的なシーンは?

── 有村さんと森田さんはお互いに対し、どんな印象を持ちましたか?

有村 作品で拝見していましたが、闇を抱えた人物がいい意味でお似合いだと思っていました。でも、すごく澄んだ綺麗な目をしていらっしゃって、ハッとさせられる。森田さんの心根の優しさが瞳に現れていて、それが工藤さんの役にもすごく合っているんです。

森田 そうかもしれないですね……。ちょっとあるのかな……、優しい部分が(笑)。

有村 優しいお方です(笑)。

森田 ありがとうございます。有村さんは本当にパワフルな人という印象ですね。目も、存在もエネルギッシュ。阿川先生を演じていたから、よりそう感じたのかもしれないです。

── 工藤に会う最初のシーンから、阿川はパワフルですよね。

有村 実を言うと、佳代が工藤さんに会うシーンを撮ったのは、撮影がラスト2日くらいのときなんです。クライマックスの重要なシーンも撮り終えた後で。お互いに顔がほぐれている状態での撮影でした。ようやくお喋りができた記念すべき日です(笑)。

森田 記念すべき日!(笑)。

有村 それまではやっぱり緊張していましたし。佳代のお節介な愛らしさの出るシーンを、あのタイミングで撮影できてよかったです。

森田 可愛いシーンですよね。阿川先生は工藤に牛丼を勧めてくれるんですけど、工藤はもう食べてきていて。一生懸命だから、とてもじゃないけど断れない。ふたりとも可愛らしくて、僕も好きなシーンです。阿川先生に会う前に牛丼を食べるシーンは、たしか別の日の撮影だった気がするけど……。でも、実はこの映画、食べる撮影は多かったです。

有村 佳代の家で牛丼を食べるシーンは、ふたりでラーメンを食べるシーンと同じ日に撮影しませんでしたっけ?

森田 でしたね! お腹がすごいいっぱいになった日がありました(笑)。美味しかったですけど。

── そんな可愛らしいシーンより前に、クライマックスを撮影したんですね。詳細は控えますが、阿川からも工藤からも痛みを感じるシーンでした。

有村 佳代が工藤さんをビンタした後、ふたりで座って話すという展開で。一連のシーンを1日で撮りきりました。私としてはまず、森田さんの顔をビンタしなきゃいけない物理的な緊張があって。でも、躊躇して失敗したらただ痛みを負わせるだけになっちゃうし。とにかく気持ちを込め、一発で上手くいくように構えていたら、緊張で強張り過ぎて首を痛めちゃいました(笑)。

森田 殴る方が痛いですしね。精神的にも大変だったと思います。僕の方はとにかく余計なことは考えず。特に、座って話すカットは阿川先生の言葉を「聞こう!」としていたから、ある意味自然でした。お芝居を超える瞬間というか、心を持っていかれる瞬間があったと思います。貴重な経験でしたね。

── 工藤の涙が印象的でした。

森田 なんか、戻って来られなくなっちゃって。

有村 それまではずっと、気持ちを表に出すシーンがなかったですもんね。

森田 工藤には、自分の中に封印していた部分があって。阿川先生に芯を食うことを言われ、そこが緩んだんでしょうね。このお話をいただいたとき、すごく演じてみたいと思えた箇所だったので、いいシーンになってよかったです。

共演を経て感じる役への向き合い方
ふたりは同じタイプ!?

── クライマックスから話は遡りますが、工藤が阿川の前から姿を消す展開上、中盤からは直接の共演シーンが減りますね。

有村 だから、中盤からは撮影現場で見ていない工藤さんのシーンも多くて。完成した作品を観たとき、森田さんのお芝居の1つ1つがグサグサ刺さってきて、とても感情移入してしまいました。自分が出ていることも忘れ、一観客として感情移入できたのが心地よかったです。

森田 逆に僕も、自分と一緒じゃない阿川先生のシーンが新鮮でした。やっぱり、阿川先生ってチャーミングで真っすぐなんですよね。それでいて、力強い。どんなに重くつらいシーンがあっても、希望になっている。有村さんにぴったりだし、有村さん自身の力も感じました。

── 共演を経た役者同士として、お互いに対する敬意も増しましたか?

有村 もちろんです。森田さんは本当に静かにその場にいらっしゃって、オンオフの切り替えが分からない。自然に生きていらっしゃるんですよね。肩に力が入っている様子もないし。ご本人は緊張されやすいとおっしゃっていますけど、それが全く見えなくて。隠すのが上手いなあって(笑)。そんな森田さんに、佳代として心を動かされまくりました。

森田 でも、有村さんも(役と)静かに向き合いますよね。

有村 確かに。タイプは似ているかもしれません。

森田 す~って感じです。ただ、オンオフの話で言うと、有村さん自身ではなく、普段の阿川先生とスイッチが入ったときの阿川先生の変わりぶりが本当にすごくて。ちょっと恐怖を感じるくらいに変わるから、面白かったですね。「ガッ!」っと出るエネルギーがすごくて、それも素敵でした。

有村 佳代のスイッチは私にも分かりません(笑)。それも彼女の魅力なんですけどね。

── 最後に、物語が放つメッセージについて意見を聞かせてください。

有村 今の世の中に限ったことではないかもしれませんが、人は誰かを裁きたくなる。その傾向が、最近はより強まっている気がして。もちろん、罪を犯すことは肯定できませんし、何が正解かも分かりませんが、それでも加害者の背景を想像することで捉え方が変わってくることはあると思います。工藤さんの場合は特にそうですよね。難しい問題ではありますが、表面的なところだけで判断してはいけないなと感じました。

森田 有村さんの言うとおり、想像できない人が今は増えていますよね。これを言ったら相手はこう思うだろう、これをやったら周りが迷惑だろうと考えられる人が少なくなってきている。だから、簡単に人を傷つけるし。それが決していいはずもなくて。工藤は罪を犯していて、罪を犯した事実が消えることもないけれど、彼がちゃんと責任を持てる状況にあるならば、更生のチャンスは与えてほしいなと思いました。

取材・文:渡邉ひかる
撮影:川野結李歌
ヘアメイク(有村):尾曲いずみ スタイリング(有村):瀬川結美子
衣装協力(有村):エボニー、ルーム エイト/オットデザイン、リューク、マナ
ヘアメイク(森田):TAKAI スタイリング(森田):吉本知嗣

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