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森崎ウィン Aiming To Overseas

答えが出ない役への問い LGBTQやジェンダーについて考える

月2回連載

第56回

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こんにちは。森崎ウィンです。

いよいよ『ジェイミー』の稽古も大づめ。そんな中、改めてこのジェイミーという役を僕が演じる意味はなんだろうと考えることがありました。

きっかけになったのは、『片袖の魚』という30分くらいの短編映画です。あるトランスジェンダー女性のお話で、それを本人もトランスジェンダー女性である役者さんが演じています。ジェイミーのことをもっと深く知る手がかりとして観に行ったんだけど、想像以上に考えさせられたというか。当事者だからこそ伝えられるものがそこにあって。自分の今までの価値観ががらりと変わるような衝撃に打ちのめされました。

もちろん『ジェイミー』という作品もLGBTQやジェンダーをテーマに扱っていて。それはやる前からわかっていたし、お話を頂いたとき、役者として挑戦すべきだと思ったから本国オーディションに出してくださいってパクチー澤井さんにお願いしたんだけど。ただ内容はあくまでエンターテインメントだし、LGBTQやジェンダーという1点に絞った話ではなくて、自分らしく生きることって大事だよねという大きなメッセージを持った作品なので、正直、観終わったあとにそこまでLGBTQやジェンダーについて深く考えるというものではないんだけど。

なんて言うんだろう。本当にそこで終わっていいんだろうかって。もちろん台本も歌もすばらしい。だから、何も考えずにやっても絶対に観てくれた人たちに感動してもらえる作品だって自信がある。でも、その上、もう一歩先へ踏み込んで、「あなたならどうしますか?」ということをお客さんに問いかけることができるんじゃないかって。そんなことを、『片袖の魚』を観てから、いろいろ考えはじめています。

僕が『片袖の魚』を観て、何がそんなにショックだったかと言うと、自分がこれは正しいと思ってやっていたことが、もしかしたら当事者の方を傷つける可能性があるのかもしれないということでした。

たとえば、『片袖の魚』でこんなシーンがありました。主人公のトランス女性が久しぶりに高校時代の友人たちが集まる場に行って、そこで女性の姿をした主人公を見た同級生のみんなが「しっかり女の子だね」「飲もう飲もう」って言うんです。でも、彼女はその対応に傷ついてしまう。

僕は、それを観たときに、なぜ彼女が傷ついてしまうのがわからなかった。友人たちはみんな悪意がないし、フラットに主人公と接しているつもり。きっと僕がその場にいたとしても、同じような態度で接すると思うんです。トランスジェンダーだろうがなんだろうか変わらない。お前はお前だって。だけど、それが相手を傷つけることになる。じゃあ、どう接するのが正しいんだろう。難しくて、難しくて、考えれば考えるほどわからなくなった。

そして、その瞬間、じゃあ僕が今演じているジェイミーは?って、わからなくなった。自分が今まで考えていたことが一気に全部覆されたような感覚になりました。

演じるのって、本当に難しい。たとえば美容師の役をやるとします。そしたら、僕はハサミの持ち方から研究して、どうすれば本物の美容師に見えるかを役づくりする。

じゃあドラァグクイーンはどうかというと、ドレスのさばき方とかは練習次第でどうにでもなる。でも、そういう形じゃない内面の部分はどうなんだろうって。相手の気持ちに寄り添っているつもりでやっていることが意外と相手を傷つけていることにもなる。そのことを知った今、僕にジェイミーを演じることはできるんだろうか、ということを考え続けています。

これが全然答えが出なくて。どんどん本番は近づいてくるし、やらなきゃいけないということはわかっているんだけど、ちょっと迷宮に入ったような感覚で、ジェイミーを演じながら「わあああ」って言葉にできないモヤモヤを抱えている自分がいる。

すごく難しいです。今、自分が何に迷っているのか、それをこうして言葉にしていく作業も難しい。ちょっとこの1回だけでは僕の思っていることを伝えきれないので、このことに関してはまたもう1回整理して話させてください。

でも少なくとも、ここまで役について考えたのは初めてというか。もちろん今までもその役の性格とか生い立ちとか考えながら演じてきたけど、ジェイミーに関しては今の社会に向けて問いかけているものが大きくて。しかもそれがまだ誰も正解がわからないところだからこそ、すごく迷うし悩んでいます。でも、こうやって考えることが、何かにつながっていると信じたいな。

森崎ウィンでした。

★編集部より★

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プロフィール

森崎ウィン

1990年生まれ、ミャンマー出身。小学校4年生の時に日本へ渡る。2008年よりダンスボーカルユニット・PRIZMAX(現、解散)のメインボーカルとして活躍した。俳優としても様々な映画、ドラマ、舞台に出演し、2014年には『シェリー』で映画初主演を務める。2018年、日緬共同制作映画『My Country My Home』に出演、そのスピンオフであるドラマ版『My Dream My Life』では主演を務め、現地のテレビ局mntvで冠番組「Win`s Shooow Time!」を持ち、様々な広告に出演するなどミャンマーで大ブレイク。スティーブン・スピルバーグ監督『レディ・プレイヤー1』のオーディションでメインキャストであるダイトウ/トシロウ役に抜擢され、ハリウッドデビューを果たした。近年の映画出演作に、 『海獣の子供』『トゥレップ』『蜜蜂と遠雷』(19)、『キャッツ』(20)などがある。映画『蜜蜂と遠雷』で第43回日本アカデミー賞の新人俳優賞を受賞。またメ〜テレ制作の連続ドラマ『本気のしるし』(19)にて初の連ドラ主演を果たした。2020年は世界中で再演を重ねているミュージカルの金字塔「ウエスト・サイド・ストーリー」の日本キャスト版Season2(主演:トニー役)に出演。

撮影/鬼澤礼門、取材・文/横川良明、企画・構成/藤坂美樹、ヘアメイク/速水昭仁、スタイリング/小渕竜哉、衣装協力/シャツ¥26,400/saby(HEMT PR 03-6721-0882)、パンツ¥11,000(tk.TAKEO KIKUCHI 03-6851-4604)、ブレスレット¥60,500/SHINGO KUZUNO(Sian PR 03-6662-5525)

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