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海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔

ジョージ・クルーニー

連載

第47回

── 今回はジョージ・クルーニーをお願いします。Netflixで配信中で一部劇場で公開もされた『ミッドナイト・スカイ』は、彼の監督&主演作です。

渡辺 リリー・ブルックス=ダルトンの『世界の終りの天文台』というSF小説の映画化です。原作は読んでいませんが、ある日突然、世界が崩壊し始め、たったひとり北極の天文台に残ることにした科学者の話。テーマはズバリ、家族です。

生涯、家族を持たなかった科学者の孤独と、家族が待つ地球に帰還しようする宇宙船のクルーたちの決断によって、家族の絆や大切さが浮き彫りになる。ちょっとセンチメンタルなんですが、私は好きでした。というか、ジョージも家族を持ち、価値観が変わったんだなーって思いましたね。

『ミッドナイト・スカイ』

── ジョージが日本で知られるようになったのはTVシリーズの『ER緊急救命室』(94~09)でした。プレイボーイのロス先生を演じていましたね。

渡辺 私も『ER』で彼のファンになり、しばらくは“ロス先生”と呼んでいましたから。70年代後半から映画やTVに端役出演していて、初めての大きな役が『ER』だったようですね。過去の写真を見ると、10代、20代のジョージは顔が濃すぎていただけない。『ER』は、年齢と濃さがマッチした30代だったので良かったんだと思います。

ジョージの出世作といえばやはり、小児科医ロス先生を演じた『ER緊急救命室』。1994年のスタートから第5シーズン(2000年)までレギュラー出演し、並行して大作映画にも立て続けに出演するようになった。ちなみに写真の右の女性は、同作にゲスト出演した叔母で女優のローズマリー・クルーニー。

── 最初に彼のインタビューをしたのはどの作品だったんですか?

渡辺 『パーフェクト ストーム』(00)です。私は彼の大ファンだったので、凄くときめいてしまいましたね。喋ることがいちいちウィットに富んでいると言うかスマートなんです。

「某インタビューで、人生で一番大切なものは仕事、そして友人とおっしゃっていましたが、恋人は何番目?」と聞いたら「それは違う。一番大切なのは友達で、その次がキャリア。で、君は恋人いるの?」と反対に質問を振られたので「いや、いません」と答えたら「お互い、いないものに順位をつけるのはやめようよ」と言われたんです。

しかも、部屋を去るとき「イイ男を探せよ」と励まされました(笑)。

── 確かにスマートですね(笑)。

渡辺 ちなみに、そのとき着ていたジャケットは『アウト・オブ・サイト』(98)のときと同じでした。裏地が真っ赤だったんでよく覚えていたんです。ジョージはファッションには無頓着で、履いているパンツは誰かがバナナリパブリックで買ってきたもの、みたいな話を聞いたことがある。そのときもきっと、コスチュームをもらって着ていたんじゃないですかね。今は、おしゃれそうな奥さんがいるから、少しは気にかけているかもしれませんが。

── ジョージって、豚と暮らしてましたよね?

渡辺 マックスという黒くてデカい豚でした。18歳もの長寿をまっとうしたようです。ジョージは、いろんな女性と浮名を流していたけど、いつも女性よりマックスの方を選んでいたという印象ですよね。そういうところも好きだったんですけど。

── あとは“アニキ”という印象が強い。

渡辺 『パーフェクト ストーム』で共演したマーク・ウォルバーグも当時は彼をとても慕っていましたよね。「ジョージとは『スリー・キングス』(00)で共演し、『パーフェクト ストーム』の出演は彼が僕をプッシュしてくれて実現したんだ。以来、僕は彼にピッタリはりついて離れないんだよ」と言っていました。

『スリー・キングス』を引っ提げてベルリン国際映画祭に参加した際のジョージ、マーク・ウォルバーグ(左)、共演していたアイス・キューブ(中央)。マークのルックスがちょっと衝撃的!

ただ、そういう仲も、『スリー・キングス』の監督デヴィッド・O・ラッセルの役者やスタッフに対する暴力や暴言の件で、ウォルバーグが彼の方につき、決裂してしまったと言われてましたね。

その後は、『オーシャンズ11』(02)に出演して以来、ブラピ(ブラッド・ピット)とかマット・デイモンらとつるんでいる感じ。マットなんて『オーシャンズ12』(05)のときのインタビューは、まるでジョージのようなジョークとウィットを交えながらの受け答えで、彼の大きな影響を感じたくらいですよ。

── ジョージは監督としても活躍していますよね。『ミッドナイト・スカイ』も監督してますから。

渡辺 ジョージの初監督作品『コンフェッション』(02)のときインタビューしたんですが、本当に映画が大好きなようで、すっごく楽しそうに話していました。

『コンフェッション』はTVプロデューサーとして人気番組を作りつつ、その陰ではCIAの工作員をしていたという、二足の草鞋を履いた実在の男を描いたものです。時代も50年代から80年代までなので、その変遷をちゃんと考慮していると言っていました。

『コンフェッション』にはジョージ自身も出演。主演のサム・ロックウェルの他、ドリュー・バリモア、ジュリア・ロバーツなどキャストが豪華なうえ、“兄弟分”のブラッド・ピット、マット・デイモンもカメオ出演するなど、初監督作にもかかわらず周囲の大きな期待と人望がうかがえます。

「参考にしたのはアラン・J・パクラやマイク・ニコルスの映画。シドニー・ルメットは映画の中の視点を描くのが上手い。サウンドに関してはボブ・フォッシー。彼の『オール・ザット・ジャズ』(79)はサウンドの取り出し方が驚くほど見事なので、彼の映画でサウンドの勉強をした。

演技ではサム(・ロックウェル)に『愛の狩人』(71)と『アルフィー』(66)を観てもらった。なぜこの2本かと言うと、人に愛されるタイプの男優が、人に嫌われて成長しないキャラクターを演じているから。そして、そういう人物にもかからず、人の心に残るということを成し遂げているからだ。サムはちゃんとやってくれたんだよ」

この他にもプレストン・スタージェス(※30~40年代頃に活躍したスクリューボールコメディ作品で知られる監督・脚本家)の話が出てきたりして、後々『かけひきは、恋のはじまり』(08)を作った理由も分かる感じなんです。

── ジョージは、そういう昔の映画が好きな感じがしますよね。

渡辺 そうですね。監督として高い評価を得た『グッドナイト&グッドラック』(05)も50年代のニュースキャスターの話でモノクロだったし、製作総指揮を担当し、出演もしていたTVドラマ『FAIL SAFE 未知への飛行』(00)は、ルメットの『未知への飛行』(64)をモノクロ&生放送の多元中継という前代未聞のスタイルでリメイクしていましたからね。

監督2作目の『グッドナイト&グッドラック』は、アカデミー賞作品賞、監督賞、主演男優賞など6部門でノミネートされるという高評価に。

ジョージは『ER』のエピソードもライブでやったことがあるので、こういうオールドファッションのスタイルが好きなんだと思います。彼のルックス自体、クラシックな感じもしますからね。

で、今回、彼の昔のインタビューを読み直してみて、ひとつ発見があったんです。

── というと?

渡辺 クリストファー・ノーランについてなんですが、何とジョージのインタビューによると彼をワーナーに紹介したのはジョージと(スティーヴン・)ソダーバーグだったんですよ。

というのも、彼らはノーランの『インソムニア』(02)の製作総指揮をやっているんですが、それについてこんなことを言っていたんです。

「スティーヴンと僕はクリス・ノーランの『メメント』(00)を初期の段階で観る機会があって、これは凄い才能だと思い、ワーナーに強力プッシュしたんだ。もちろんワーナーは彼のことは何も知らず“誰だ、そいつは?”って感じでいろいろ言われたんだが、私たちはゴリ押ししたんだよ。

アル(・パチーノ)にも『メメント』を観てもらってクリス応援団に入ってもらった。そうやってようやく『インソムニア』が作れることになり、僕たちもプロデューサー料をもらったわけさ。まあ、その金はすべて次回作につぎ込んじゃったけどね(笑)」って言っていたんですよ!

なんとノーランの出世にひと役買っていたというジョージとソダーバーグ(右)。ちなみにこのふたりは、『アウト・オブ・サイト』以降度々手を組んでいて、『オーシャンズ11』シリーズも監督はソダーバーグ。『コンフェッション』などのジョージ監督作にもソダーバーグはプロデュースで名を連ねている。

── ということは。ジョージのおかげでワーナーとノーランの絆が生まれたってことですか?

渡辺 そうなりますよね。当時はまるで気にもしてなかったし、そもそも日本で『インソムニア』は日本ヘラルド映画が配給していましたし、私はさほど面白いとは思わなかったので、ほとんど気に留めてなかった。だからこそ、びっくりだったんです。

その後、ノーランはワーナーの下で大監督になったわけですが、ジョージとは再度手は組んでいませんけどね。

── チャンスがなかったんでしょうか?

渡辺 どうなんでしょう、よく分かんないですね。

渡辺 私がジョージに最後にインタビューしたのはディズニーの『トゥモローランド』(15)でした。ジョージは隠遁している偏屈の男を演じていたけど、妙にすっきりしていて隠遁者には見えなかった。隠遁度でいえば『ミッドナイト・スカイ』の方が俄然、高いですよ。というか、ディズニー映画が合ってない感じ(笑)。早い話、ミスキャストっぽかったですね。

このときはヤリ手の国際弁護士アルマ・アラムディンと結婚した後だったので、奥さんの話も出ていました。「妻と結婚したのは、彼女の名前が“アラムディン”だからだろう。より広い支持者を得たいための政治的戦略だ、なんて言われたよ」とか言って笑ってましたよ。

2016年当時のジョージと、スタイル抜群のアマルさん。マックスが亡くなって「もう豚は飼わない」と誓ったというジョージですが、2015年に捨てられていたバセットハウンドのミリー(写真)を引き取ったり、犬の保護施設に1万ドル寄付したりと、すっかりワンコ界の聖人に。

そして「僕がこの映画に出演したのは、自分の声が届かないと考えている若者たちに、そう嘆く前に自分で行動をとるべきだと伝えたかったから。陰鬱な未来が気に喰わないなら、自分で行動しろ!」と言っていましたね。

アルマさんは国際法と人権を専門とした弁護士で、人権活動家でもあり政治や社会に目が向きまくっている人。そういう知性もジョージと気が合ったんでしょうね。

昔からジョージは政治にも一家言あることで知られていますが、このときのインタビューでは「妥協しないと何も始まらない政治の世界には興味がない」ときっぱり言ってました。当時はカリフォルニアの州知事に立候補するんじゃないかなどの噂がありましたから、あえて言いきったというところなのかもしれません。

── 奥さんとはラブラブみたいですよね。

渡辺 双子の子供も生まれて、価値観が“家族”に大きく傾いている。その結果としての『ミッドナイト・スカイ』なんです。切ない映画なんですが、その向こうには幸せなジョージがいるんですよ(笑)。

※次回は2/9(火)に掲載予定です。

文:渡辺麻紀
Photo:AFLO



『ミッドナイト・スカイ』Netflixにて独占配信中

一部劇場にて上映中