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後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)の INU COMMUNICATION

ウィケットがやって来たヤァ!ヤァ!ヤァ!

毎月連載

第19回

21/1/10(日)

コロナ禍に突入し、『犬コミュニケーション』の連載が休止になってからどのくらい経っただろうか。

俺はスタジオに籠もって本業である楽曲制作に没頭したり、炊飯を極めるべく釜飯に凝ったり、いろいろなことをしていた。それは新型コロナウイルスによる様々な脅威に心がへし折られてしまわないための自己防衛の策だったが、改めて、料理を含む様々な創作は生きるためのエネルギーそのものだと思い知る体験だった。

連載の休止期間中には、永久凍土から蘇ったという狼と人間のミックスのような生命体(ジャンケン・ジョニーという方で、俺よりも日本語が流暢であった)と対談する機会があった。しかし、それ以外に犬と触れ合う機会は皆無で、連載を通して和らいでいった犬への恐怖感や、新たに抱いた愛着と興味といった感情が雲散霧消するくらい、犬のことを考えない日々が続いていた。

そうこうしているうちに、「Go To」というキャンペーンが始まり、世の中の雰囲気としても以前の生活を取り戻そうという機運が高まった。その機運に便乗したのか、あるいは「Go To」を後藤と読んだのかは知らないが、「そろそろ犬コミュの連載を再開してはどうか」と編集部から打診を受けたのが、秋口くらいだったと記憶している。そして、第3波と言われる新型コロナウイルスの感染拡大が明らかになる前に取材の予定が立った。

飼い主や犬との対面を基本とする連載の再開されるタイミングが適切かどうかについては、考え方にばらつきがあると想像する。俺は十分な感染予防対策をして、約束どおり都内のカフェに向かったのだった。

今回の犬はウィケット君。飼い主はtricotというバンドのギターボーカルを担当している中嶋イッキュウさん。

tricotは変拍子などを取り入れた複雑な演奏とキャッチーなメロディが印象的なバンドで、海外でも大変に人気がある。数理的な感覚が反映されたユニークなアンサンブルが最大の魅力だと俺は思う。複雑な構成を格好良く自然に聴かせるところに、バンドの知性を感じる。

そうした知的なバンドのボーカルがイッキュウと名乗っている。

ふと思い出したのはアニメ『一休さん』の屏風絵のエピソードだ。うろ覚えなので詳細は割愛するが、将軍から虎の退治を頼まれるも、肝心な虎が屏風絵であることを知った一休さんが、「さあ、捕まえますから虎を屏風から出してください」という頓智でもって、意地悪な将軍の鼻を明かすような話だったと記憶している。

イッキュウというニックネームは、『一休さん』が由来であるかもしれない。そうなると、やはり頓智についての並々ならぬこだわりや、ある種の知への執着のようなものがあるかもしれない。tricotのユニークな演奏も頓智のようなものだと言えなくもない。

「愛犬のウィケットです」と紹介するイッキュウさん。しかし、そこには犬が描かれた屏風が存在するのみだ。犬だけに居ぬ、みたいな頓智なのかもしれない。ぴあの編集者たちが意地悪将軍のような面持ちで、へらへらと笑いながら俺の挙動を眺めている。そんな恐ろしいシーンを脳裏に思い浮かべながら、俺はカフェのドアを開けたのだった。

店内にはすでにイッキュウさんとウィケット君が到着しており、編集者とカメラマン、スタッフたちがワキャワキャと談笑中だった。足元をモフモフとした犬が行き来していた。

屏風絵ではなく、ウィケット君が実在することに安堵しながら、いろいろな話をうかがった。

ウィケット君は保護犬であった。

前の飼い主が老齢によって飼育を諦めたため、ウィケット君は保健所に引き取られた。新たな飼い主に譲渡される犬もいるが、持病を持つ犬などは適性に問題があるとして、処分の対象になってしまう。

ウィケット君にはチェリーアイという持病があった。しかし、治療が可能な程度であったため、手術を受け、保護団体を通してイッキュウさんの元に来ることになったのだという。

多くの犬たちが、愛犬家たちの元で素敵な犬生を送っている。一方で、いくらかの犬たちが人間の愛玩の対象に収まることができずに処分されたり、野に放たれたりしている。犬と人間の幸せな関係を見ると、心だけでなく体も含めた自分の存在そのものが和むような感覚になるが、根源的には、動物との共生の範囲を超えたエゴイズムが、人間の側をすっぽりと包んでいるような気もする。

中学生のときにカツアゲにあったことがある。俺から小遣いを巻き上げた不良が、事後に妙に優しかったことを覚えている。茶畑でウンコ座りをしながら、なんだかよくわからない身勝手なアドバイスを延々と聞かされた。「困ったら俺に言え」というような内容だった。犬にとっての人間が、あのときの不良のような存在だったら嫌だなと思う。

イッキュウさんは小さい頃から犬が好きで、いつか保護犬を飼いたいと思っていたそうだ。そして、ウィケットとの出会いがあった。

引き取り手の候補には、飼育するのに条件の良さそうな家族もあったそうだが、どういうわけかイッキュウさんが選ばれたのだという。ペットとの居住が可能なマンションに引っ越し、大阪の保護団体からウィケットを引き受け、以来、朝晩の散歩も欠かしていないそうだ。

ウィケットとのこれまでの話や、自粛期間中の話なども交えながら、「犬と暮らすのはとても楽しい」とイッキュウさんは言う。そして、自分と犬の楽しい暮らしを見て、保護犬に興味を持つ人がいてくれたら嬉しいと語ってくれた。

俺のようなペシミストがうだうだと脳内で御託を練り込む間に、多くの人が実際に保護された犬を引き受け、かげがえのない関係性を築いている。とても素敵なことだ。

隣では、あっけらかんとポップに、ウィケットがイッキュウさんに甘えていた。イッキュウさんは頓智の利いた小坊主ではなく、菩薩のように輝いていらした。南無。

そう言えば、カフェに入ってからずっと、ウィケットは俺のことを無視していた。日頃から面倒なことを考えているのを見透かされていたのかもしれない。

思えば、件の不良が絡んできた理由は、「自分のことを見たから」であった。変なやつは見ると怒る。そうした面倒を避けるためのウィケットの知恵だったのかもしれない。

悲しいことだと思った。

後天的に捩れ上がったややこしい性分を反省しながら、餌を与えさせてもらった。

ウィケットが俺をじっくりと見ることは最後までなかったが、抱っこした際にペロリと髭を舐めてくれた。餌の効果とはいえ、とても嬉しかった。

ウィケットと散歩がてらの撮影に向かう前に、カフェのトイレに寄った。壁面には、店長の趣味と思しきトップレスの女性のサイン入りポスターが貼ってあった。

「好き好き好き好き好き好き、愛してる」。アニメ『一休さん』の主題歌が脳内で再生された。

我々人間は煩悩まみれで、俺と店長はその代表のような存在だろう。

犬と仲良くなるための道は険しい。

ウィケット

年齢:不明
犬種:ミックス(ダックスフント、シーズー、トイプードル、マルチーズ)
性別:男の子
飼い主さん:中嶋イッキュウさん(tricot/ジェニーハイ)

4人組ロックバンドtricotのボーカル&ギターであり、2017年より川谷絵音、小籔千豊、くっきー!、新垣隆からなる5人組バンド、ジェニーハイのボーカルとしても活動。また、ソロプロジェクト 「SUSU by Ikkyu Nakajima」では、ファッションと音楽との融合をテーマにシーンに捉われない自由な発想で活動している。tricotとしては、2020年10月21日にオリジナル・フルアルバム「10」を発表。2021年2月27日(土)には、EX THEATER ROPPONGIにて「tricot サイレントショー秘蜜」を開催予定。ジェニーハイとしては、2021年2月7日(日)に国立代々木競技場 第一体育館にて「アリーナジェニー」を開催予定。

■tricot
https://tricot-official.jp/
■ジェニーハイ
http://genie-high.com/

アメリカでは、コロナでリモートやステイホームが増えた事で、各都市部近郊のシェルターから保護犬が一匹もいなくなったというニュースを目にしました。日本でもペットショップでは仔犬や仔猫が売れに売れて供給不足から価格が高騰しプチバブルだったとの噂もありました。

我が家の預かりっ子のタオちゃんも例に漏れず、自粛解除と同時に立て続に4件もの問い合わせを頂きました。その内3件は残念ながら先住犬が居ないご家庭でした。(タオちゃんの譲渡条件に先住犬が居るお宅というのがあります)残り1件の先住犬が居るご家庭の希望者様が遠路遥々お見合いにいらして下さったのですが、タオちゃんの警戒心の想像以上の強さに飼育していく自信が持てませんとの事で、ご辞退されました。

通常、保護犬の譲渡条件は厳しく様々な審査をクリアしていかなくてはなりません。

住居がペット可であっても、殆どの団体は60歳以上、独身者、小さいお子さんのいる家庭、継続的な収入源の無い方、同棲中のカップル、等は譲渡不可となっています。保護犬の認知度も上り、引き取りを希望する方も本当に増えている今こそ、これまでのマニュアル一辺倒を辞め、柔軟に対応していく必要があると考えています。

パートナーと籍が入っていないだけで駄目なんてナンセンスだし、大人よりきちんとルールを守れる子供も沢山います。ちょっと視点を変えるだけで、救われる命がもっと増えるはずです。

沢山の候補者から選ばれたイッキュウさん、ウィケットくんと余程相性が良かったのでしょうね、これぞご縁なのですね。

僕は個人的に保護した犬の場合、たとえ独身者、60歳以上であっても犬との相性を第一に考え大丈夫と判断した場合は譲渡させていただいています。真剣に話をすれば、この人になら託せる、と分かります。

そして高齢者こそ犬を飼うべきと思っています。年齢なんてただの数字!今の高齢者は僕の親もそうですが健康な人は本当に元気です。定年退職して一日中お家にいられるわけですから、穏やかで時間のたっぷりある、お留守番の少ない家庭に貰われた犬達は、お世話も至れり尽くせりで本当に幸せそうです。

僕自身も社会人になり、初めて自分の犬を迎えた25の時は独身でした。確かに部屋も狭く貧乏で贅沢をさせてあげることは出来ませんでした。それでも一生懸命自分が出来る限りのベストを尽くしました。最後の半年は車椅子生活で介護が必要でしたが、寿命を全うする過程に寄り添い、見送ることが出来ました。その子のお陰で今の僕があります。

お金も学歴も無かった僕ですが、その子を幸せにしたい、その子のお陰で仕事への活力も貰い、お互いに励まし合いながら頑張って来た結果です。

たった1頭の犬との出会いが人間の人生を変えてしまうことは珍しくありません。当時は早起きが非常に苦手でしたがその子のお陰で規則正しい健全な生活が体に染みつきました。

話はコロナに戻りますが、リモートやステイホームで飼い主さんとずっと一緒に居ることが出来て幸せだったワンコも飼い主さんも沢山居ました。

僕のお店(トマークス)は中目黒、那須の両店舗共、2ヶ月間閉店し、通販のみで対応しましたが、うちはインポート物がメインなので海外からの荷物がなかなか届かないと言うトラブルに見舞われ、それが現在も続いています。輸出も日本からアメリカに送る荷物が何故か船便のみという制限がかかり、今も海の上で漂っているであろう荷物が心配です。

自粛解除後、とりわけGo Toのタイミングでは、那須も連日沢山のお客様で賑わいました。
自粛期間中は、折角だからフランス人を気取ってヴァカンスの如く休みを満喫しよう!と気持ちを切り替え、スーパーの空になった棚を思い、自給自足の生活に少しでも近付けるよう畑を耕したり、春の山菜を採るなどして過ごしました。

ステイホームで時間を持て余していた方も多かったであろうあの頃、犬との生活で恩恵を受けた方々は世界中に居たのではないでしょうか?
ヨーロッパでは罰金を課される程厳しい外出禁止令が出ていましたが、犬の散歩だけは許され、犬1頭につき1人のみという条件で家族で犬の散歩の奪い合いだったとか。犬との暮らしで免疫力も低下せずに何とかやり過ごすことが出来たのかもしれません。

TOMARCTUS(トマークス)
野村さんが経営するドッグ雑貨店。店舗は中目黒と那須の2店。
犬の訓練、問題行動の解決方法の相談にも乗ってくれます。

トマークス
http://www.tomarctus.net/index.html
那須blog
https://nasu2014.exblog.jp//

PHOTO:かくたみほ / 取材協力:市民酒場ジョー

プロフィール

後藤正文

ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル&ギターであり、ほとんどの楽曲の作詞・作曲を手がける。これまでにキューンミュージック(ソニー)から9枚のオリジナル・アルバムを発表。2010年には自身主宰のレーベル「only in dreams」を発足。
Gotch名義として『Can’t Be Forever Young』(2014)やプロデューサーに元Death Cab for CutieのChris Wallaを迎えバンド録音を行った2ndソロアルバム『Good New Times』(2016)を発表。2020年12月2日、約4年半ぶりとなる3rdソロアルバム『Lives By The Sea』をデジタル配信リリース。2021年3月3日にLPとCDが発売となる。
また、バンドの傍ら執筆活動も積極的に行い、著書に『何度でもオールライトと歌え』、『YOROZU~妄想の民俗史~』、『銀河鉄道の星』(原作:宮沢賢治, 編:後藤正文, 絵:牡丹靖佳) 他。
ASIAN KUNG-FU GENERATIONとしては、2020年10月に1年5ヶ月振りとなるシングル『ダイアローグ / 触れたい 確かめたい』をリリース。中村佑介氏が書き下ろしたジャケット・イラストがプリントされたTシャツ付きの完全生産限定盤A / Bと、通常盤の3形態で発売。
今年、結成25周年を迎える。

シングル情報

シングル
ASIAN KUNG-FU GENERATION『ダイアローグ / 触れたい 確かめたい』

【完全生産限定盤A (CD+Tシャツ) 】
発売中
¥3,500+税
KSCL-3260 ~ KSCL-3261

【完全生産限定盤B (CD+Tシャツ) 】
発売中
¥3,500+税
KSCL-3262 ~ KSCL-3263

【通常盤】
発売中
¥1,200+税
KSCL-3264

アルバム情報

ALBUM
Gotch『Lives By The Sea』

デジタル配信
※配信一覧はこちら

LP:¥4,182+税 / CD:¥2,273+税
※3月3日一般発売


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