ジョン・ファヴロー監督が語る『ライオン・キング』

8月9日(金)全国公開

映画史にその名を刻む名作『ライオン・キング』を2019年の観客に向けて再び描く際、誰が監督にふさわしいのか？動物を描くのに長けた人物？オリジナルの大ファン？製作陣が選んだのは、『ジャングル・ブック』の実写化を成功させたジョン・ファヴローだった。彼はオリジナルに最大限の敬意を払い、その上で現代の観客に向けて作品を“進化”させることに挑んだ。

オリジナル版『ライオン・キング』への敬意

ファヴロー監督は1966年生まれで、オリジナル版の『ライオン・キング』が公開された時には28歳。すでに俳優としてのキャリアをスタートさせていた。

「そうだね。僕はもう大人になっていた。でも、アメリカで暮らしていると、子どもの頃に『ライオン・キング』を観て育ったという人が本当にたくさんいるんだ。もしかしたら、『ライオン・キング』を観て、初めて物語の中で“死”と向き合ったのかもしれない。その後に身内や親しい人を失った時に『ライオン・キング』のことを思い出すこともあるだろう。オリジナルの『ライオン・キング』はアニメーション映画だけど、人間のスピリチュアルな部分に響く作品なんだよ」

だからこそファヴロー監督は“超実写映画”にする際も、過剰な改変は行わずに、オリジナル版に最大限の敬意を払ったという。

「もちろん、改めて語りなおす意味はなかったんじゃないの？って言われてしまったら困るけど（笑）、この物語は多くの人にとって“クラシック＝永遠の名作”だから、変な改変はせずに映画化したかった。そこで新しい映像技術を導入して『ライオン・キング』を“超実写版”で語る、というアイデアを思いついたんだ」

動物も大自然も“感情”を描き出している

ファヴロー監督は本作で、ライオンのシンバをはじめとする動物たちでなく、舞台になったアフリカの風景や、そこに吹く風や降り注ぐ太陽の光……すべてを使って“感情”を描いたという。

「黒澤明監督の作品のことをずっと考えていたよ。彼は人間だけでなく、風や光や雨を使って物語を語っていく。仮に画面に俳優の顔が描かれていなくても、自然や音楽や、風、光、カメラの動きが感情を喚起させてくれるんだ。『ライオン・キング』に登場するのは動物たちだけなので“人間の顔の表情”を使うことはできない。でも僕はネイチャー・ドキュメンタリーを観ている時にすごく感情的になることに気づいたんだ。そこに人間の表情がなくても、動物の動きや自然や光が僕たちの感情をかき立ててくれる。そこで『ライオン・キング』でも同じ手法を用いることにしたんだよ」

地平線から太陽が昇り、周囲を明るく照らすがいつしか世界は夕闇に包まれる。それはシンバの父でありサバンナの王ムファサが語る“王は継承されるものだ”という考えとシンクロする。シンバが不安や葛藤を感じると空を雲が覆い、ジャングルも彼の心も先が見通せなくなってしまう。本作では風も夜空の星もキャラクターの考えや感情を描く大切な要素なのだ。

「カメラを使って日本語でいう“ワビサビ”を捉えていったんだ。だから僕は日本の観客が世界で一番『ライオン・キング』のことを理解してくれると思っている。日本の方は自然や、自然と人の関係や、ディズニー作品について理解が深いし、物語の寓話性に慣れ親しんでいるからね。だから日本の観客に早くこの映画を観てほしい！と同時に少し緊張もしているんだよ（笑）」

ファヴロー監督は作品を構成するすべての要素を駆使してキャラクターの感情や深いテーマを描き『ライオン・キング』を“進化”させた。同時にそれは“映画監督ジョン・ファヴロー”の進化でもある。彼は『アイアンマン』や『ジャングル・ブック』など、これまでの監督作で繰り返し同じテーマを描いてきたからだ。

「次回作を選ぶ時に意識しているわけではないけど、これまでの監督作を振り返ってみると、喪失だったり、孤独だったり、主人公がより大きな世界の一部なんだと発見していく物語だったり……同じ題材やテーマに惹かれていると気づくんだ」

偉大な父に背くように生きてきた『アイアンマン』のトニー・スタークのように、自分がどこで生まれてどこから来たのかわからない『ジャングル・ブック』のモーグリのように、『ライオン・キング』のシンバも孤独に耐えながら、自分が誰のために生きるべきか、どの道に進むべきかを見出していく。ファヴロー監督がキャリアを重ねて得たものをさらに“進化”させて描かれたのが最新作『ライオン・キング』だ。

「僕はいつだって人生は困難に満ちているけど、映画の最後には希望を描きたいと思っている。最近は特に若い人たちに語りかけたいんだ。『大変なことがあるかもしれないけど、こんな風にすれば人生を前向きに捉えられるよ』ってね」