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監督が解説。『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』が描く“これまでにないテーマ”とは?

ぴあ

撮影中のカリ・スコグランド監督 (C)2021 Marvel.

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ディズニープラスで配信中のマーベルの新作ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』は、主人公コンビが謎の組織を追う中で、我々の社会が抱えている問題や歪みが浮き彫りになり、彼らは自身の方法で問題に立ち向かっていく。これまでもマーベル作品は驚異的な能力を持つヒーローを主人公にアクションをふんだんに盛り込みながら、現実社会の問題や偏見を描き出してきた。本作の監督を務めたカリ・スコグランドは「私たちが本作で取り組んだテーマは、どんな映画やヒーローものでも見ることができないもの」だと語る。

スコグランド監督はカナダ生まれの映画監督。ウェズリー・スナイプス主演の『スナイパー』やテロ組織に潜入した捜査官の物語を実話を基に描いた『インファナル・ミッション』などを手がけ、『ウォーキング・デッド』や『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』などドラマ作品も数多く演出している。

本シリーズではアクション、サスペンス、ドラマなど様々な要素が6つのエピソードに凝縮されて描かれるが、スコグランド監督はふたつの重要なテーマに取り組んだ。ひとつは“アフリカ系アメリカ人がキャプテン・アメリカの盾を継承できるのか?”。主人公のひとり“ファルコン”ことサム・ウィルソンはアフリカ系アメリカ人の男性で、アベンジャーズを率いるキャプテン・アメリカと知り合いになったことから自身も戦うことになり、やがてキャプテンから、その存在の象徴とも言うべき“星条旗の盾”を託された。しかし、ファルコンは迷う。自分が盾を受け継いでいいのか? 自分がアメリカの象徴的な存在になれるのか?

「創作の初期の段階からすべてのアイデアが織り込まれていたんです」とスコグランド監督は振り返る。「星条旗の盾は白人の象徴的なシンボルです。それをアフリカ系アメリカ人であるファルコンが取ることができるのか考えてみたかった。私はこのストーリーは非常に重要な“世紀の物語”になると感じていました」

本作の配信がスタートした当初、多くの評論家や観客が本作では現代的なテーマが描かれているといった。しかし、正確には”私たちがずっと認識しているのに、現代においてもまだ解決できていない問題”が描かれているのではないだろうか?

「このシリーズは表面的にはアクションやバディものだと思われています。でも、奥底には重要なテーマがしっかりとありました。帝国主義や人種差別、寛容、正義……。だから私たちは重要なアイデアすべてをキャラクターたちに入れ込むことで、観る者を倫理的に“グレーな領域”につれていこうとしました。正しいこと、間違っていることの間にある”グレーな領域”にね」

本作ではファルコンとウィンター・ソルジャーだけでなく様々な勢力が入り乱れて物語が進んでいくが、明確な正義や悪が描かれず、観客は迷路の中を歩いているような緊張感を味わう。劇中で語られる様々な主張や言い分について考えるだけで、本シリーズはさらに深みを増していくだろう。

そして、スコグランド監督がもうひとつ重視したテーマがある。“改革主義”だ。これは急激な革命や体制転覆ではなく、少しずつ穏やかに社会を変化させていくことで、理想的な社会を目指そうとする考えだ。とても平和的な考えに思えるが、そこに落とし穴がないとは言い切れない。本作に登場する正体不明の集団“フラッグスマッシャーズ”は、国境や境界のない“ひとつの世界”を目指して活動する集団で、難民を救うと宣言して物資を強奪して、貧しい人に与えている。世界中に支援者のいる彼らは自分たちの活動がやがて良い世界を生み出すと信じて疑わない。しかし、彼らの行動はやがて過激化していく。

スコグランド監督はその道のりを「危険な坂道」と表現する。「だから意図的にシリーズの冒頭では(フラッグスマッシャーズのリーダー)カーリは正しいことを言い、正しい意図を持って行動するように描いています。彼らが暴力的になるにつれ、さらに権利が与えられていき、自分たちにはこれまで以上に権利があるのだと感じるようになっていきます。彼らはロビン・フッドのようなもので、善良なサイドに立って行動しているからです。そしてそれがある時……有害なものになるのです」

カーリと仲間たちは悪の組織ではない。困っている人を助けたいと思っているし、平和で偏見のない社会が訪れてほしいと思っている。しかし、彼らの行動は結果的に様々な悲劇を生み、害をおよぼしてしまう。

「だからファルコン=サム・ウィルソンは、彼らに対して闘争的になるのではなく、その想いやエネルギーを受け入れて、良い方向に向かわせようとします。ファルコンはカーリたちの言っていることの多くに同意しているからです。確かにカーリたちの言っていることは理にかなっている。しかし、それがどのようにしてゆっくりと暴力的で、止めなければならないものになっていったのか? 本作ではそのことを描こうとしたわけです」

本作の主人公は対峙する組織の主張にある意味では同意している。しかし、その行動は何があっても阻止しなければならない。つまり、単に倒したり、説教したり、考えを改めろと言うだけでは解決しない状況だ。

「私たちが本作で取り組んだテーマは、どんな映画やヒーローものでも見ることができないものだと思います。このテーマに全6話、約6時間かけて取り組むことができたのは本当に素晴らしいことでした」

私たちの社会に存在する、しかし過去のヒーローものでは扱われてこなかった状況を描く『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』の結末は、やはりこれまでのヒーローものでは決して描かれなかったものになっているはずだ。

『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』
ディズニープラスで全話独占配信中
(C)2021 Marvel.

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