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吉田 伊知郎

1978年生まれ 映画評論家

つつんで、ひらいて

ちょうど本作を観る前に新文芸坐の和田誠追悼上映で『快盗ルビイ』を観ていたが、マンションに引っ越してきたヒロインの部屋に梱包が解かれたばかりの本が積まれており、一番上に置かれていたのが『美女と犯罪―映画的なあまりに映画的な』(山田宏一 著/早川書房)だった。実際、この本に触発されて犯罪を犯した女性が実在し、新聞沙汰にもなったのだから、この映画のヒロインも同様だったのではないかと思ったものだが、それはさておき、映画の中に登場する本は『快盗ルビイ』のように一瞬の中でさりげなく、それでいて存在感を見せるものにはなりにくい。物語に関係しない場合は、印象に残る装幀ではノイズになってしまう。そこで美術部が作ったとおぼしい凡庸な装幀が施された本が画面の中に配置されることになったり、時には重要なアイテムになる本にまでひどく簡易な装幀が施されていて興が削がれることもある。 装幀家、菊地信義を被写体としたドキュメンタリー『つつんで、ひらいて』は、〈映画と装幀〉の一筋縄ではいかない関係もつつみこんでしまう豊かさに満ちた作品だ。書名が記された紙を、くしゃくしゃに丸めて丹念に皺を伸ばすことでデザインに取り入れていく冒頭から、装幀家が紙に触れ、戯れる姿が印象深く描かれる。そこにはテレビの密着取材番組にありがちな過剰装飾は見られず、本を作り上げていく行程を装幀の視点から見つめていく。なぜ紙の本なのかという問いかけへの答えのひとつは、本作にあるのではないか。 ところで、この作品の劇場パンフレットは、深紅の紙で巻かれており、それをひらくことで本文を読むことができるものになっている。まさに〈つつんで、ひらいて〉を現す仕様になっており、パンフとしては少々高価い千円という価格ながら、手に取るとすっかり惹かれて買ってしまった。これも菊地信義による装幀だという。公式サイトがあればパンフと変わらない情報が得られると言われがちだが、紙のパンフレットの存在価値を示すものになっており、本作はパンフレットまで含めて1本の映画になっている気がした。

19/12/23(月)

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