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高崎 俊夫
1954年生まれ フリー編集者、映画評論家
未来を乗り換えた男
19/1/12(土)
ヒューマントラストシネマ有楽町
『東ベルリンから来た女』『あの日のように抱きしめて』で東西冷戦、ホロコーストによる悲劇を描いたクリスティアン・ペッツォルトの新作は、やはり過酷な運命に翻弄された人々の受難劇である。架空の現代というかファシズムによって占領されたマルセイユを舞台に、祖国を追われた21世紀の難民たちのイメージが重ね合わされる。 原題の「トランジット」は「通過ビザ」だが、むしろ「亡命途中の一時滞在」の意に近いだろう。自殺した作家になりすました主人公の青年ゲオルクも、作家を棄てたことへの悔恨に苛まれて、街中をさまよう妻マリーも、マリーの愛人の医師も、帰属すべき共同体を追放された亡命者にほかならない。ナレーションの語り...
19/1/8(火)