【おとな向け映画ガイド】
これはホラー? コメディ!? 黒木華・柄本佑の『先生、私の隣に座っていただけませんか？』
ぴあ編集部 坂口英明
21/9/5(日)
今週末（9/10〜11）に公開される映画は14本。全国100スクリーン以上で拡大公開される作品が『映画 おかあさんといっしょ ヘンテコ世界からの脱出！』の1本。中規模公開、ミニシアター系の作品が13本です。今回はその中から、オトナにこそおすすめの『先生、私の隣に座っていただけませんか？』をご紹介します。
始まりは夫の浮気から
『先生、私の隣に座っていただけませんか？』
学園もの? と一瞬思われたかもしれません。私もそうでしたが、違います。結婚五年目を迎えた若い夫婦の危機、というか揉めごとを、コミカルな味を加えて描いています。ひとの家のトラブルは面白い。一体どうなるんだろうこの夫婦、と最後まで目が離せません。原作ものではなく、「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM」という映画の企画コンペで準グランプリをとったオリジナル脚本です。監督・脚本は堀江貴大。
黒木華と柄本佑が漫画家同士の夫婦役。映画やドラマに出てくる漫画家さんの仕事スタイルだと、たいていアシスタントさんがいて、背景を描くなどしていますが、夫の方がスランプで、妻のアシスタントをやっています。割り切ってはいるものの、多少プライドが傷ついていて、その腹いせでもないでしょうが、担当編集者とできてしまいます。出来心、火遊び? 妻は勘づいているようないないような……。
連載が終わって、さて次の作品はどうしようかというときに、田舎に住む妻の母が事故で怪我をしてしまいます。車がないと生活できない場所。会社勤めでない気軽さ、どこにいても漫画は描けますから、とふたりは実家で暮らすことにします。胸に一物ある夫は、とても優しく、いいタイミングだから自動車教習所でも通ったらと妻に勧めます。妻は次回作のラフを描き始めるのですが。そのラフを夫がチラ見して、絶句します。 なんと、設定がまるで自分たち！
『重版出来！』のような明るいがんばります系でなく、多少ホラーテイストも入った黒木華、怖い。つい浮気をしてしまう一方で、妻の浮気には過敏に反応しパニックにおちいる、コメディタッチの柄本佑、情けない。相手の気持ちを推し量るふたりの心理戦のようなやりとりがスリリングです。風吹ジュンがお母さん役、金子大地は教習所のイケメン教官役、奈緒はこじらせる浮気相手の編集者役です。
コロナのせいで、リモートワークが多い今、共働き夫婦が自宅で仕事をする機会は多くなっています。広い家ならいいけれど、狭いと時々行き詰まることがありますよね。たまにはこういう映画を観て、気分転換はいかがでしょう。……ならないか。
【ぴあ水先案内から】
中川 右介さん（作家、編集者）
「……黒木華がいつもながら真意がつかめない役を、柄本佑がいつもながら自分の置かれている状況がわからない役を、それぞれ見事に演じている。観客は、柄本同様に、黒木に翻弄される……」
平辻哲也さん（映画ジャーナリスト）
「……創作世界と現実のはざまがあいまいになるといった手法は少なくないが、夫婦というミニマムな世界で展開され、身近に感じられる。しかも、演者が達者……」
(C)2021「先生、私の隣に座っていただけませんか?」製作委員会
