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【おとな向け映画ガイド】

放送できない本音ネタ!『テレビで会えない芸人』松元ヒロを追ったドキュメンタリー

ぴあ編集部 坂口英明
22/1/23(日)

イラストレーション:高松啓二

今週末(1/28〜29)の映画公開は28本。うち全国100館以上で拡大公開される作品が『ノイズ』『バイオハザード:ウェルカム・トゥ・ラクーンシティ』『アダムス・ファミリー2 アメリカ横断旅行!』『前科者』『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』の5本。中規模公開、ミニシアター系が23本です。今回はそのなかから、ドキュメンタリー『テレビで会えない芸人』をご紹介します。

ステージはいつも満席

『テレビで会えない芸人』

このドキュメンタリーの主人公、スタンダップコメディアン・松元ヒロさんの演技をテレビで観ることはありません。「テレビじゃこの笑いネタは、無理です。」、そう言われると、そうだと思います。でも、そう思ってしまう自分の感覚って……。

松元ヒロの舞台は、昔風にいうと漫談またはコント。現代風にいえばスタンダップコメディ。得意のパントマイムをいれたコントもある、ひとり芝居ともいえます。年間120ステージ行われる公演はいつも大人気。例えば、新宿紀伊國屋ホールの『松元ヒロ ひとり立ち』は年に2回、4日間の連続公演で、チケットは即完売です。

彼は、1987年、35歳の時にコントトリオ、笑パーティーで「お笑いスター誕生」優勝。89年に「NHK新人演芸コンクール」演芸部門優秀賞を受け、その後コント集団「ザ・ニュースペーパー」の一員として数々のテレビ番組に出演し人気を博しました。90年代末に独立。“本音で語る芸”を選び、制約の多いテレビではなく、舞台の道に進みました。

他人のハンディキャップをからかったり、犯罪や法律違反を助長するようなネタが売りなわけでも、ましてや、エロが過ぎるわけでもありません。政治や社会風刺の切れ味が鋭いだけ。そんな芸人は今、テレビでは観られないのです。

そんな芸人の人気の秘密をドキュメンタリーにしたのは、なんと、テレビ局。松元ヒロの故郷にある、KTS鹿児島テレビが製作したテレビ番組です。それがフジテレビ系列のFNSドキュメンタリー大賞グランプリをはじめ、2020年日本民間放送連盟賞最優秀賞などを受賞しました。「モノが言いづらい世の中……社会の空気に流される自分たち(テレビ)……」これからのテレビはどう在るべきか、という思いに突き動かされたと四元良隆監督は言います。大賞の候補になったとき、東京でも放送されたのですが、その時間は、7月21日(火) 27:00〜27:55。それって深夜の3時ですよ。なぜかたまたまこの放送をみていたのが、私の自慢です。すごく面白かったんです。それが再編集され、映画になりました。

彼のネタは、もちろん政治だけではありません、ニュースの天気予報にパントマイムで当て振りをする大爆笑のネタは傑作です。感銘を受けた本からインスパイアされた演目もあります。この映画でも、『こんな夜更けにバナナかよ』という筋ジストロフィーの著者によるノンフィクションを題材にした演技を、ビルの一室で5時間稽古し続ける松元の姿がカメラに映し出されます。

舞台の前に行く渋谷の床屋さん。壁には、永六輔さんの色紙が飾られています。永さんは立川談志さんとともに、苦しかった頃の松元ヒロを認め、励ましたひとり。「亡くなる4カ月前、永さんのラジオ番組に出演した。その日、ご本人は体調をこわし、スタジオに来られなかったが、「9条をよろしく」というメッセージが残されていた。」と彼は語ります。日本国憲法を擬人化した『憲法くん』というネタを演じ続けてくれとの、いわば遺言だったそうです。

「こんにちは、憲法です。わたしがリストラになるかもしれないという噂を耳にしたんですけど、本当ですか? ……」と切り出すお笑いネタです。憲法くんが、力強くうたいあげる「日本国憲法前文」、元気のでる詩の朗読のようで新鮮です。

松元ヒロが笑いとともに演じるのは、テレビで流せば炎上するかもしれないテーマ。でも実は、「日々の暮らしの中にある話」。常に一般市民の目線。それは、そこはかとない人間愛というか、この人の人間性が感じられるものばかりです。

【ぴあ水先案内から】

水上賢治さん(映画ライター)
「……テレビ局への自己批判が含まれている。ただ、これをテレビ局だけのせいにしていいのか。視聴する側に求められる点はなにもないのか?……」

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野村正昭さん(映画評論家)
「……テレビを棄て、主戦場を舞台に移す。なぜ彼はそうしたのかが、映画を観るうちに理解できた……」

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首都圏は1月29日(土) からポレポレ東中野で、中部は2月12日(土) から名古屋シネマテーク、関西は1月29日(土) から第七藝術劇場ほかで、それぞれ公開。

(C) 2021 鹿児島テレビ放送