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【おとな向け映画ガイド】

レジェンドたちから絶大の信頼『キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性』

ぴあ編集部 坂口英明
22/3/27(日)

イラストレーション:高松啓二

今週末(4/1〜2)の映画公開は24本。うち全国100館以上で拡大公開される作品が『モービウス』『東西ジャニーズJr. ぼくらのサバイバルウォーズ』の2本。中規模公開、ミニシアター系が22本です。今回はそのなかから、アメリカ映画ファン必見のドキュメンタリー『キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性』を紹介します。

『キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性』

クリント・イーストウッド、ロバート・デ・ニーロ、ロバート・レッドフォード、ダスティン・ホフマン、アル・パチーノ、ウディ・アレン、マーティン・スコセッシ……アメリカ映画のレジェンドたちがインタビューに答える──なんとも豪華なドキュメンタリーです。ハリウッドにおけるキャスティング(配役)という仕事を変えた先駆者、マリオン・ドハティとその後継者たち、キャスティング・ディレクターにスポットを当てています。

マリオン・ドハティ(1923-2011)。といっても、それほど知名度はありません。この作品の監督トム・ドナヒューですら「ともだちから教えられた。何年も映画について学び、業界で働いてきたが、初めて聞く名前だった」といいます。

米アカデミー賞には、製作者に贈られる作品賞をはじめ、監督、主演男女優、助演男女優の主要6部門のほかに、技術者部門として12の賞があります。脚本、脚色、撮影、録音、編集、音楽、美術デザイン……メイクアップ&ヘアスタイルまであるのに、キャスティングには賞がありません。キャスティング・ディレクターに光を! というのがこの映画のテーマです。

ハリウッドのスタジオ全盛期は、各社が専属の役者をかかえていました。キャスティング担当は、手持ちの俳優リストから求められているタイプを選んで配役するだけ。特にクリエイティブな仕事ではありません。

1950年代にはじまるテレビは制作の中心がニューヨークで、スタジオシステムとは無縁。独自に人材を発掘する必要がありました。エージェントが活躍しだし、演劇界からつぎつぎ個性的な俳優を起用するようになります。ドハティもその頃、テレビのキャスティングからこの世界に入ります。

60年代末から70年代にかけて、映画界はかつての勢いを失い、スタジオシステムも崩壊します。ロケ撮影を中心とする“アメリカン・ニュー・シネマ”という新潮流に席巻され、ウケる役者も様変わりします。時代は、ムービースターでなく、アクターを求めていたのです。この機に映画に進出したのが、ドハティをはじめとする、俳優の個性を尊重する新しいタイプのキャスティング・ディレクターでした。

オフ・ブロードウェイのコメディに出ていたロバート・レッドフォードを『明日に向って撃て!』に、ダスティン・ホフマンとジョン・ボイトを『真夜中のカーボーイ』に、アル・パチーノを『哀しみの街かど』にキャスティングしたのも、ドハティです。

彼女はその後、パラマントとワーナーというメジャー撮影所のキャスティング担当役員になります。そのときの仕事のひとつに『リーサル・ウェポン』があります。オーストラリアからメル・ギブソンを抜擢、特に黒人という設定でもないのに、『カラーパープル』にでていたダニー・グローヴァーを相棒役に起用。監督も驚くキャスティングでヒットシリーズに仕立てあげます。

確かに、完成した脚本にどの役者をどう組み合わせるか、キャスティングは映画のかなり重要な要素です。この作品でも、あの名作は最初こんな配役だった、という秘話がつぎつぎと紹介されます。名優の新人時代の映像も多くでてきますが、こんな原石からよくその才能を発見できたものだと感心します。

アカデミー賞にキャスティングの賞がないのは、全米監督協会がかたくなに拒否しているからです。配役を決めるのは監督の仕事だ、というのがその反対理由です。マリオン・ドハティにアカデミー功労賞を贈ろうという動きがあり、レッドフォードなど名だたる俳優や監督が推薦文を書き、キャンペーンをはったのですが実現しませんでした。

彼女は2011年に他界。この映画は、その翌年に製作された作品で、ドハティに捧げられています。

「俳優を続ける中で好きになった言葉のひとつが“励まし”だが、マリオン・ドハティは“励まし”そのもののような人だった。そんな人を私は彼女以外に知らない」、アル・パチーノの言葉です。

この映画が作られてから10年。依然としてアカデミー賞にキャスティング部門はありません。その後におしよせるインターネット、SNSの波のなかで、キャスティング・ディレクターの仕事にも変化があることでしょう。が、才能を発掘し、チャンスをあたえ、励まし、見守る……映画人の伴走者のような存在はますます重要になってくると思います。

【ぴあ水先案内から】

中川右介さん(作家、編集者)
「……舞台出身者たちによって、1960年代以降のハリウッド映画が作られていたことが改めて分かる。美男美女スターから、演技派スターへの大転換には、ドハティという存在が必要だった……」

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野村正昭さん(映画評論家)
「……主役から脇役まで、誰でもない誰が、その役を演じるのか。キャスティングこそが、映画の生命線……」

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植草信和さん(フリー編集者)
「……篇中でマーティン・スコセッシは『映画監督の仕事の9割はキャスティングの質で決まってしまう』……」

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首都圏は4月2日(土) からシアター・イメージフォーラムで、以降全国で順次公開。

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