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【おとな向け映画ガイド】

巨匠ポランスキー監督、渾身の歴史スリラー!『オフィサー・アンド・スパイ』

ぴあ編集部 坂口英明
22/5/29(日)

イラストレーション:高松啓二

今週(6/3〜4) の公開映画数は21本。うち全国100館以上で拡大公開される作品が『太陽とボレロ』『極主夫道 ザ・シネマ』『東京2020オリンピック SIDE:A』『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』の4本。中規模公開、ミニシアター系が17本です。そのなかから、ベネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞した巨匠ロマン・ポランスキー監督の『オフィサー・アンド・スパイ』をご紹介します。

『オフィサー・アンド・スパイ』

『ローズマリーの赤ちゃん』『チャイナタウン』『戦場のピアニスト』など、挙げだしたらきりがないほど傑作を生み出してきた巨匠ロマン・ポランスキー監督の、堂々たる歴史スリラーです。19世紀末フランス、印象派がもてはやされ、アルセーヌ・ルパン(フィクションですが)が活躍する、そんな時代に起きた歴史上の大事件が、壮大な映像で蘇ります。

“ドレフュス事件”、スパイ罪で終身刑を言い渡された仏陸軍ドレフュス大尉の冤罪事件です。実はわたし、子どもの頃『タイムトンネル』というアメリカのSF・TVドラマで観た記憶があります。タイムトラベル施設の実験中に事故が起き、ふたりの科学者が過去と未来を漂流してしまう、という設定なんですが、タイタニック事件やノルマンディー上陸作戦と同様の扱いで、このドレフュス事件と流刑された“悪魔島”のエピソードがありました。

手元にある「もういちど読む 新 山川世界史」なんて教科書のような本で探すと、「ドレフュス事件をめぐり“世論を二分する激しい対立”があった」と書かれています。図版の多い歴史参考書だと、絵入りで大きくとりあげられています。その絵には、サーベルをへし折られるところを直立不動で見ているドレフュスが描かれているのですが、映画の冒頭、官位を剥奪するセレモニーの場面で、まさにこれが再現されていました。

広大な士官学校の広場を行進させられ、軍服の肩章などを引き剥がされるという、名誉を重んじる軍人にとって屈辱的な仕打ち。圧巻の映像です。自分がそこにいて、歴史の立会人になってしまった気分になります。このシーンから映画は始まります。

ドラマの中心になるのは、ドレフュス自身ではなく、情報局で“防諜”、つまりスパイの取締りを担当する部門の責任者ピカール中佐(オスカー俳優ジャン・デュジャルダン)です。彼はドレフュスの士官学校時代の恩師。古い組織体質を改革しようとする中で、ドレフュスが冤罪であることの証拠をつかんでしまうのです。石畳の街を馬車が行き交う時代の防諜活動は、張り込み、手紙の盗み読みによる文書の証拠集め、筆跡鑑定など。独自捜査をするピカールの行動は軍中枢の知るところとなり、彼の身にも危険がおしよせ……。スパイ捜査、軍上層部の暗躍などすべてがスリリングなタッチで展開していきます。

ドレフュス大尉はユダヤ系。この事件を政治問題にまで広げた要因のひとつです。士官学校時代にふたりが会話する回想シーンで、成績の評価が低いのはユダヤ人だからでは、と問いただすドレフュスに対し「私はユダヤ人は嫌いだが、成績とは無関係」とピカールは言い放ちます。世論を二分していく事件で、ピカールは正義を重んじ、ドレフュス擁護の旗頭となっていくのです。

ロマン・ポランスキー監督は、ユダヤ系ポーランド人。大戦中のユダヤ人迫害を描き、カンヌ国際映画祭でパルムドール、米アカデミー賞を受賞した『戦場のピアニスト』に続き、今回も自己のルーツにかかわるテーマをとりあげています。ピカールが事件の真相を探り出し、文豪ゾラや当時のフランス言論界までが軍首脳を告発したこの事件。監督は「ゾラの半生を描いたアメリカ映画(『ゾラの生涯』1937年)でドレフュスが失脚するシーンを観て打ち震えました。いつかこの忌まわしい事件を映画化すると自分に言い聞かせました」と語っています。

ことし88歳になるポランスキーの戦いはまだ続いているのです。

【ぴあ水先案内から】

立川直樹さん(プロデューサー、ディレクター)
「……非の打ち所なし。スクリーンの前で“映画の芸術”に酔いしれて欲しい。」

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植草信和さん(フリー編集者、元キネマ旬報編集長)
「……“アンチ真実”の現代だからこそ、ポランスキーが挑まなければならなかった題材……」

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高松啓二さん(イラストレーター)
「……妨害されても真相が明らかにされるのは正義をあきらめない者がいるから……」

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