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【おとな向け映画ガイド】巨匠ウォン・カーウァイが惚れ込んだタイの才能──『プアン/友だちと呼ばせて』

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イラストレーション:高松啓二

今週(8/5〜6) の公開映画数は21本。そのうち全国100館以上で拡大公開される作品が『ONE PIECE FILM RED』の1本。中規模公開、ミニシアター系が20本です。その中から、タイのちょっぴりほろ苦い青春映画『プアン/友だちと呼ばせて』をご紹介します。

『プアン/友だちと呼ばせて』

スタイリッシュでカッコいい香港映画の代表格、といえばウォン・カーウァイ監督。世界の映画ファンが次回作を心待ちにしている、そんな存在だ。日本でも8月19日から『恋する惑星』『天使の涙』『ブエノスアイレス』『花様年華』『2046』の5本が4Kリストアされ、再公開される。

その彼が、才能に惚れ込み、新作をプロデュース(製作総指揮)したいとまで思ったのが、タイの新鋭バズ・プーンピリア監督。2017年に公開された『バッド・ジー二アス 危険な天才たち』はたしかに衝撃的だった。国際的な難関試験で、高校生たちがまるでビジネスのように大がかりなカンニングをするというコンゲーム・サスペンスだが、青春映画のみずみずしさとスリリングな展開が魅力の傑作だった。タイ本国では歴代ナンバーワンヒットの映画だ。

プーンピリア監督にとっては、まさにあこがれの存在からのオファー。「フィルムメーカーにとって、彼にNOをいえる人はいない」と語る。

ウォン・カーウァイほどの巨匠が製作に加わるというと、名前を貸して若い才能の資金集めを協力するくらいだろうと思ってしまうが、さにあらず。かなり本気で関わっている。特に作品の題材選びには積極的にアイデアをだしたそうだ。

カーウァイの最初のアイデアは「バケットリスト(死ぬまでにやりたいことリスト)ムービーで行こう」だった。それに応えたプーンピリアのシナリオは、余命宣告を受けた中国の有名なポップスターが、世界中を旅する途中にタイで出会った女性と恋におちるというもの。しかし、カーウァイの答えは、「ノー」。「もっと自分を投影したストーリーにした方がいい」というアドバイスだった。そこで閃いたのが「死を目前にした男性が、元カノたちに感謝と謝罪、そしてそれと悟られずに最後のさよならを言いに行く」というプロット。

ニューヨークでバーを経営する主人公ボスが、タイに住む白血病で余命宣言を受けた親友ウードの希望をきき、ふたりで車に乗って、かつての恋人を訪ねるというストーリーだ。

OKを出し、キャスティングが決まり、脚本が完成すると、カーウァイは「ここからは君の仕事」とプーンピリアにすべてをまかせ、撮影現場にも顔をださなかったという。実に理想的なベテランと新鋭の映画コラボだ。

バンコク、チェンマイ、パタヤ……タイを旅するロードムービー。

都会的な風景のなかに突然巨大な仏像が登場したり、緑の色濃い自然や、豪華なリゾートなども描かれている。魅力的な映像で、様々な“現代のタイ”が垣間見える。

そのなかに様々なモノ、コトが実にスタイリッシュに映し出される。車は、ウードの父親が残したヴィンテージのBMW。道中、車では、人気DJだったお父さんのラジオ番組をカセットテープで聴く。そこから流れる音楽が、ザ・ローリング・ストーンズ、エルトン・ジョン、キャット・スティーブンス……、これまた泣かせるものばかりだ。

ボスとウードが知り合うきっかけになったのは、ニューヨークのバー。映画の随所にカクテルやお酒もオシャレな小道具として登場する。原題『One for the Road』はフランク・シナトラのスタンダードソング。英語の辞書には「別れを惜しんでくみ交わす一杯」と書かれている。このタイトルも、終盤、なるほど、と響いてくる。

そういえば、フランスの巨匠ジュリアン・デュヴィヴィエの名作『舞踏会の手帖』は、舞踏会で愛をささやいた男性たちの名前が書かれた手帖を手に、彼らのいまを訪ねる、というものだった。今回、ウードは、スマホを手に訪ね「連絡先」をひとつずつ消していく──。

主人公ボス役は「Tor」のニックネームで知られる人気俳優トー・タナポップ、余命宣告を受けた親友ウード役はモデルとしても活躍するアイス・ナッタラットが演じている。元カノたちは、監督自身のかつての恋人たちのキャラクターが色濃く反映されているという。演じている女優も、みなチャーミングで魅力的だ。そのなかのひとり、ヌーナー役は、とくに見覚えがある人も多いのではないだろうか。そう、『バッド・ジーニアス』で、きりりとしたヒロイン高校生を演じたオークベープ・チュティモンだ。今回はウェディングドレス姿で登場している。

タイ映画は、ムエタイを使う『マッハ!』や『チョコレート・ファイター』などの超絶アクション映画、公開中の“凄いホラー”『女神の継承』、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督の土俗的な世界を描く作品など、東南アジアらしい独特な湿度を感じさせる印象が強い。

が、一方で、オークベープ・チュティモン主演の『ハッピー・オールド・イヤー』のような“都会派”の映画も作られている。監督のナワポン・タムロンラタナリットは昨年のぴあフィルムフェスティバルでも特集された。これからもこうした傾向の作品はふえそう。そんな多様性のなかのタイ映画、目がはなせない存在だ。

そして、元カノを巡る旅は意外な結末を迎える……。この夏、オススメの青春映画。

【ぴあ水先案内から】

伊藤さとりさん(映画パーソナリティ)
「……とびきりロマンチックに過去を通して未来と向き合っていく男ふたりの心を映し出した映画……」

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植草信和さん(フリー編集者、元キネマ旬報編集長)
「……人生の象徴である数々のカクテル、カーステレオから流れる曲が、嫉妬、愛憎、羨望に苦しむ若かりし頃の苦い記憶をよみがえらせていく……」

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