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【おとな向け映画ガイド】“1億俳優”ファン・ジョンミンが自身を演じる極限サスペンス『人質 韓国トップスター誘拐事件』

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イラストレーション:高松啓二

今週末(9月9日〜10日)の公開映画数は20本。全国100館以上で拡大公開される作品が『HiGH&LOW THE WORST X』『百花』『グッバイ・クルエル・ワールド』『ビースト』の4本、中規模公開・ミニシアター系が16本です。その中から、破天荒な韓国サスペンス 『人質 韓国トップスター誘拐事件』をご紹介します。

『人質 韓国トップスター誘拐事件』

人気トップの俳優が誘拐されるというサスペンス……その俳優の役は自身が演じる、簡単そうでなかなか難しいこのアイデアに、韓国トップスターのファン・ジョンミンが挑戦した。コンセプトをきいただけでも面白いと思ったが、ホンモノはすごい。これがかなりリアルで、最後まで緊張感がある。韓国映画の底ヂカラを感じる作品だ。

韓国には「1億俳優」というわかりやすい呼び名がある。出演映画の累計観客数が1億人を超えた俳優に与えられる称号のようなもので、『ベイビー・ブローカー』のソン・ガンホ、『神と共に』のハ・ジョンウ、そしてファン・ジョンミン、この3人が1億超えした名実ともにトップスター。3人とも演技賞を数多く受賞し、海外でも知名度のある実力派俳優だ。

ファン・ジョンミンは、いわゆるアクションスターではない。刑事ものにも出演して武闘を繰り広げることもあるが、『ユア・マイ・サンシャイン』では純愛に生きる青年役、『哭声/コクソン』のようなホラーに出ることもある。守備範囲がものすごく広い役者だ。ここ数年の作品では、北朝鮮に工作員として潜入する『工作 黒金星と呼ばれた男』が印象的だった。甘いマスクというよりは、ややシブメ。日本で言えば、性格俳優といわれるタイプだ。

そのジョンミンが、新作主演映画の記者会見のあと、関係者との飲み会を早めに終え、「今日はお先に失礼するわ」とひとりで帰宅。途中に寄った家の近くのコンビニ前で、数人のチンピラにからまれたところから、事件が始まる。いったんやり過ごすが、突然狂暴になったチンピラに、拉致されてしまうのだ。人通りの少ない住宅街。目撃者はいない。実は彼らは、ソウルを震撼させている猟奇的な「カフェ店主誘拐・切断殺人事件」の犯人グループだった。

事件は偶発的なものだったが、犯人たちは、「カフェ店主誘拐事件」用に用意した隠れ家にジョンミンを連れ去り、パイプ椅子にしばりつけ、監禁する。その家には、店主誘拐事件で巻き添えになり捕らえられたバイトの女性店員もいた。殺害の模様を収めた動画を見せつけられ、彼らの凶暴さを知ったジョンミンは、5億ウォンという彼らの身代金要求に応じることにしたのだが……。

元は、実話を下敷きにしたアンディ・ラウ主演の中国映画『誘拐捜査』(日本ではビデオ発売)。新人監督のピル・カムソンがそれを大胆にアレンジし、脚本も担当して映画化した。

ジョンミン以外は、あえて、あまり知られていない実力のある俳優をキャスティングしたという。感情を表にださない冷酷な誘拐犯の首謀者、ギワン役のキム・ジェボムはミュージカル界で活躍する俳優だが、1000人以上のオーディションから選ばれた。5人の犯人グループはほかに、ナンバー2のドンフン(リュ・ギョンス)、ジョンミンのファンだと名乗るヨンテ(チョン・ジェウォン)、手作り爆弾を作る紅一点のセッピョル(イ・ホジョン)、狂暴な武闘派コ・ヨンノク(イ・ギュウォン)。リュ・ギョンスは『梨泰院クラス』にも出ているイケメンだが、すっかり坊主頭のワルが板についている。一緒に監禁される店員役は『イカゲーム』のイ・ユミ。

彼らとの息詰まるやりとりは確かにリアルだ。過去にジョンミンが出演した映画のセリフや役名をうまく使ったファン向けの目配せもある。なによりも、卓越した演技力と知恵を武器に、なんとかこの逆境から抜けだそうとするあたりが本当っぽい。まさに迫真の演技だ。

そういえば、日本でも、三谷幸喜の古畑任三郎シリーズに『古畑任三郎 VS SMAP(スマップ)』という一編があったなと思い出した。あれは、メンバー全員を犯人役に起用したものだった。

この映画、日本でリメイクしたら誰が演じるか。そんな質問に監督が答えている。「まず、私が好きな香川照之さん、福山雅治さんが思い浮かびます。極限の状況のなかでどんな演技を見せるか気になる俳優は、木村拓哉さんと妻夫木聡さん。悪役は森山未來さん」。ぴあの水先案内では真魚八重子さんが、ファン・ジョンミンを日本の俳優で例えたら西島秀俊あたりか、と書いている。そんなことを考えながら観るのも一興かと。

【ぴあ水先案内から】

真魚八重子さん(映画評論家)
「……特にラストはそれまでの軽快さと違い、意外な後味を残す。この描写ひとつによって、本作は記憶に棘が刺さるような余韻を残すことに成功している。」

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立川直樹さん(プロデューサー、ディレクター映画評論家)
「……十分に練り上げられ、スピード感も申し分ないストーリー展開と、完全に役柄になりきっている共演者たち。美術も撮影も音楽も文句のつけようがなく……」

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植草信和さん(フリー編集者)
「……安直そうに思われがちな企画だが、ファンが実名で主演したことによる虚実皮膜性がたかまり、最後まで飽きさせずに手に汗握らせる……」

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佐々木俊尚さん(フリー編集者)
「……このようなシンプルな物語こそが最近の韓国映画の鉄板だと思う。破たんがなくしっかりと練り込まれたプロット、余計な要素を削ぎ落とした脚本、スピード感あふれる演出、そして主演俳優の見せ場をキッチリつくる……」

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