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ぴあ 総合TOP > ぴあ映画 > 第3回:水先案内人による東京国際映画祭ガイド 「ワタシはコレが観たい!」

©Kailidoscope Pictures ©2001 J‐WORKS FILM INITIATIVE (電通+IMAGICA+WOWOW+東京テアトル) ©円谷プロ Ⓒ2022 EPO-FILM, RUTH MADER FILMPRODUKTION ©石森プロ・東映©「仮面ライダーBLACK SUN」PROJECT ©ディレクターズカンパニー ©2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

水先案内人による東京国際映画祭ガイド
「ワタシはコレが観たい!」

メジャー作品からアート作品まで世界各国の映画が集結する東京国際映画祭がいよいよ10月24日から開幕! 今年は昨年より上映作品だけでなく、世界各国から集まった映画人との交流の場も増え、映画ファンにとってはここでしか観られない、多彩な作品に出会える貴重な10日間となりそうだ。

ぴあでは、映画ツウでもあるぴあ水先案内人の方々に注目する部門と作品をリサーチ! 15日には一般発売もスタートするが、映画祭でどれを観ようか迷っている方、ぜひ参考にしてみてください! 

今年のTIFF主要9部門

コンペティション  作品一覧

世界各国から集まった長編映画(今年1月以降に完成した作品が対象)の中から厳正な審査を受けた15本の作品を上映。今年は日本映画が過去最高の3作品入選と快挙‼ クロージングセレモニーでは各賞が決定する。

アジアの未来  作品一覧

今回で10年目を迎えるアジア・コンペティション部門。長編3本までのアジア(日本・中東を含む)の新鋭監督の作品が対象となる。入選10作品すべてが世界初上映となる。合言葉は“アジア発、世界へ!未来へ!” 

ガラ・セレクション  作品一覧

今年の世界の国際映画祭で話題になった作品、巨匠監督の最新作、本国で大ヒットしたエンタメ作品など日本公開前の最新作をプレミア上映。今年は巨匠ソクーロフや、8度のアカデミー賞受賞に輝いたイニャリト ゥ監督の最新作も!

ワールド・フォーカス  作品一覧

カンヌ映画祭やヴェネチア映画祭など世界の国際映画祭で注目された話題作、日本での公開が決まっていない最新作などを上映。また、「ラテンビート映画祭」とのコラボや、東京フィルメックスとの共催で台湾の巨匠「ツァイ・ミンリャン監督デビュー30周年記念特集」も実施!

ユース  作品一覧

名前の通り、若者に映画の素晴らしさを体験してもらうための作品をお届け。「TIFFチルドレン」ではサイレント映画の名作をパフォーマンス付きで、「TIFFティーンズ映画教室」では中高生たちが制作した映画を上映!

Nippon Cinema Now  作品一覧

この1年の日本映画を対象に、特に海外に紹介されるべき日本映画という観点で選考された作品を上映!また、今年3月に急逝した青山真治監督の代表作『ユリイカ』などの追悼上映も実施。

ジャパニーズ・アニメーション  作品一覧

2022年のテーマ「ゼロから世界を創る」に沿った最新アニメを紹介し、レトロスペクティブでは「東京」という世界を描いた諸作品をピックアップ!特撮部門では、放送55周年を迎える『ウルトラセブン』をフィーチャー!

日本映画クラシックス  作品一覧

国立映画アーカイブと共催する特集上映「長谷川和彦とディレクターズ・カンパニー」の枠と連携し、幻の映画会社ディレクターズ・カンパニーのデジタルリマスターされた4作品を上映。

TIFFシリーズ  作品一覧

TV放映、インターネット配信等を目的に製作されたシリーズものを日本国内での公開に先駆けスクリーン上映! 今年は片山慎三監督や白石和彌監督の作品に加え、オリヴィエ・アサイヤス監督の『イルマ・ヴェップ』を上映。

TIFFならではのこちらにも注目!

黒澤明賞  詳細

なんと14年ぶりに黒澤明賞が復活!世界の映画界に貢献 した映画人、映画界の未来を託してい きたい映画人に贈られる本賞だが、今年の受賞はアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督と深田晃司監督に決定! 会期中は「黒澤明の愛した映画」と題し、彼が愛した名作7作品をスクリーン上映する。

Amazon Prime Video テイクワン賞  詳細

新たな才能の発掘を目的にPrime Videoとタッグを組み、昨年設立。 商業映画の監督・脚本・プロデューサー未経験者で、40分を超える作品の公開実績のない、日本在住の映画作家が制作した15分までの短編作品が対象。 厳正なる審査で選ばれた7作品を上映する。

映画ツウが注目する今年のみどころは!?
水先案内人による東京国際映画祭ガイド

イソガイマサト(フリーライター)

コンペティション『窓辺にて』 ©島本理生/集英社 ©2022「窓辺にて」製作委員会

注目の部門

コンペティションワールド・フォーカスNippon Cinema Now

「コンペティション」は映画祭の顔だからやっぱり期待せずにはいられない。今年はどんな新たな才能が飛び出すのか? 日本から選出された今泉力哉監督の『窓辺にて』、松永大司監督の『エゴイスト』が世界の新鋭たちと肩を並べたときにどんな評価を得るのか? そのあたりも楽しみだし、自分で何が「東京グランプリ」に輝くのか予想しながら観るのがこの部門の楽しくて刺激的なところだ。

「ワールド・フォーカス」は、カンヌやベルリンなどの国際映画祭が高く評価した、普段はあまり馴染みのない国の傑作もいち早く観られる部門だから今年も外せない。「ラテンビート映画祭」とのコラボでスペインや中南米の秀作も上映されるし、台湾の巨匠ツァイ・ミンリャンの特集が組まれるのも嬉しい。

今年は「Nippon Cinema Now」のラインナップも充実。近年、多彩なルートから新しい才能が登場し、以前にも増して勢いが増している日本映画だけに、彼らがどんな人たちとどんな想いで自分の映画を産み落とそうとしているのか見極めたい。故・青山真治監督の傑作『EUREKA ユリイカ』『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』も、デカいスクリーンで観られるなかなかない機会。TIFFで観てしっかり目に焼きつけようと思う。

Nippon Cinema Now『ひとりぼっちじゃない』 ©2023「ひとりぼっちじゃない」製作委員会
©2021 GENSAN PUNCH Production Committee

ワタシはコレが観たい!

『カイマック』(コンペティション)
『バルド、偽りの記録と一握りの真実』(ガラ・セレクション)
『ひとりぼっちじゃない』(Nippon Cinema Now)

今年のTIFFのラインナップを見ていて、いちばん最初に目に飛び込んできたのが『カイマック』だった。何しろ監督が、94年の『ビフォア・ザ・レイン』でヴェネチア国際映画祭金獅子賞(グランプリ)に輝いたマケドニア出身のミルチョ・マンチェフキ。3つの時空を交錯させて描いた『ビフォア~』に魅了されただけに、彼の新作というだけでワクワク! しかも「コンペティション」での参加。タイトルは“菓子”の名前と言うが、果たしてどんな映画なのか? 観る前から勝手に盛り上がっている。

「ガラ・セレクション」の『バルド、偽りの記録と一握りの真実』も、8度のアカデミー賞に輝く『バベル』(06)のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥの7年ぶりの最新作というだけで期待が高まる。内容は全然知らないし、知らないまま観たい。メキシコの鬼才・アレハンドロの新作を国内でいち早く観られるというのも国際映画祭ならでは。その気分を満喫したい。

個人的にいちばん楽しみにしているのが、「Nippon Cinema Now」で上映される『ひとりぼっちじゃない』。『ナラタージュ』(17)を始めとした行定勲監督の作品や押井守監督の『スカイ・クローラ The Sky Crawlers』(08)などの脚本家・伊藤ちひろの長編初監督作だが、文字を通して映画と深い関わりを持ってきた彼女が、どんな映像表現をするのか? ワールド・プレミアでその誕生の瞬間を目撃できるのもTIFFの醍醐味だ。

相田冬二(Bleu et Rose/映画批評家)

ワールド・フォーカス『波が去るとき』

注目の部門

ワールド・フォーカスガラ・セレクションコンペティション

エドワード・ヤン、ラヴ・ディアスを擁した《ワールド・フォーカス》がぶっちぎり。いずれも、映画祭ならではの高揚となるだろう。《ガラ・セレクション》は昨年も凄かったが、今年も大盤振る舞い。イニャリトゥ、ソクーロフ、ノア・バームバックを揃え、映画ファンの度肝を抜く。この二部門だけでもクラクラするが、《コンペティション》には、『漂うがごとく』のブイ・タック・チュエンの『輝かしき灰』があり、アクタン・アリム・クバトの『This Is What I Remenber』がある。

前者は、ベトナムで新感覚の女性映画を創造した監督が、今度はトリプル・ヒロイン・ストーリーに挑む。後者は、これまでブランコや自転車、馬といった“乗り物”をモチーフに独自の抒情を醸成してきたキルギスの雄が、記憶喪失をテーマに新たな旅を見せる。映画祭は映画監督の作家性を愉しむ場でもあるが、普段接することのできない国々の文化に触れることにも大きな醍醐味がある。個人的には、それぞれの作品の食事シーンに期待しており、昨年の大変身以降、東京国際映画祭の部門編成は、コトコト時間をかけて煮込む系料理を思わせるラインナップを形成しているとも思う。

ワールド・フォーカス『エドワード・ヤンの恋愛時代 [レストア版]』©Kailidoscope Pictures

ワタシはコレが観たい!

『エドワード・ヤンの恋愛時代[レストア版]』(ワールド・フォーカス)
『波が去るとき』(ワールド・フォーカス)
『SHADY GROVE』(Nippon Cinema Now) ※国立映画アーカイブにて上映

エドワード・ヤンの作品の中で最も正当に評価されていない、しかし間違いなく最高傑作である『恋愛時代』が復活する。最新の台北を視界におさめながら、めくるめくジャンルの横断によって、映画の歴史を俯瞰し、けれどもあくまでもトレンディに、摩天楼を思わせるモザイクドラマを形成する。ガラスの粉から一枚の巨大なガラスを創り上げるかのような、精緻にして心揺さぶる映画の中の映画。いま観ると、当時の批評の黙殺がいかに愚かだったかを知ることになるだろう。

ラヴ・ディアスの最新作にこうして出逢えることに、ただただ感謝したい。麻薬戦争、捜査官、心身の傷。やけにハードボイルドな要素が伝わってくるが、この監督がありきたりのトラウマドラマを構築するはずもなく、素晴らしいタイトルから想起されるメランコリーさえ、いとも簡単に背負い投げするはずだ。

そして、青山真治の最も美しい作品の真価も、彼の死とは無関係に、真っ直ぐに見つめられなければならない。ストーカーとプラトニックと森が、等価のまま、ピチカート・ファイヴとランデヴーする日本映画は、21世紀においても決定的に新しい。まだARATAだった井浦新の黎明期も眩しい。

伊藤さとり(映画パーソナリティ・評論・心理カウンセラー)

『夏へのトンネル、さよならの出口』(ジャパニーズ・アニメーション) ©2022 八目迷・小学館/映画『夏へのトンネル、さよならの出口』製作委員会

注目の部門

コンペティションワールド・フォーカスジャパニーズ・アニメーション

東京フィルメックスの市山尚三氏が昨年から東京国際映画祭のプログラミング・ディレクターになったことで、アート作品のラインナップが増え、華やかさよりも作家性を重視していると感じた昨年。

だからこそTIFFの目玉である「コンペティション」部門は見逃せない。今年は、トランスジェンダーやゲイカップルの姿、格差社会が招く歪みといった“他者を知ること”を意識したラインナップ。

次に世界各国の映画祭に出品された作品が集まる「ワールド・フォーカス」部門は、作家性の強い監督達による“今、伝えたいメッセージ”が詰まった作品と出会える企画として、毎回、刺激を求めに足を運んでいる。

そして、2019年から設立された「ジャパニーズ・アニメーション」部門は、今後、更に話題を呼ぶ企画になるだろう。というのも、もう日本の映画評論家はアニメを避けて通れないところまで来ており、今年の日本における映画興行収入No.1は、現時点では『ONE PIECE FILM RED』。今後公開される新海誠監督『すずめの戸締まり』が、どこまでヒットするのかも注目されている。しかも本部門では、アニメ監督を招いたトークショーも行われるので、“新しい才能とレジェンドに会える場”としても楽しみだ。

コンペティション『This is What I Remember(英題)』 ©Kyrgyzfilm, Oy Art, Bitters End, Volya Films, Mandra Films

ワタシはコレが観たい!

『山女』(コンペティション)
『This is What I Remember(英題)』(コンペティション)
『ラ・ハウリア/ルーム・メイド』(ワールド・フォーカス)

まず今一番、日本人監督で注目している福永壮志監督の新作がいち早く観られること、そして各国の映画と並んだ際にどう観えるのかを確認したい。『リベリアの白い血』『アイヌモシリ』で目にした、ルーツと向き合いながら現代の風景とのコントラストにため息を吐き、『シルマシ』で確信したセリフに頼らずに情景と俳優の演技を信じ切った力強い画力が、今度は同じ遠野を舞台にした『山女』でどう進化を遂げたのか? 目が物語る演技力に定評がある山田杏奈を迎えた新作に期待している。

そしてキルギスを舞台にひとりの男の家族の姿に目を奪われた『馬を放つ』のアクタン・アリム・クバト監督の新作『This is What I Remember』は、必ずや観に行く作品。アクタン・アリム・クバト監督の作風は、登場人物を静かに見守るカメラワークの中で、民族を学べ、人との出会いで人生はいかようにも変化していくと伝える“生活”の違いから発見をもたらす作風が魅力だ。

また、エッジの効いた作品を選出するカンヌ国際映画祭批評家週間グランプリを受賞した『ラ・ハウリア/ルーム・メイド』(コロンビア/フランス)は、犯罪を犯した子ども達に焦点を当てた劇映画としてどんな切り口で描いているのか、非常に興味深い。

坂口英明(ぴあ編集部)

青山真治監督の作品が「Nippon Cinema Now」部門で2本、国立映画アーカイブ企画で2本上映 撮影:池田正之

注目の部門

長谷川和彦とディレクターズ・カンパニー+追悼:青山真治※国立映画アーカイブ/日本映画クラシックスNippon Cinema Now 監督特集<追悼 青山真治>

注目したのは、実は"会場"だ。長かった六本木から、昨年、日比谷・有楽町・銀座地区に会場を移した。日本を代表する映画の街での開催。今年は、丸の内ピカデリー、丸の内TOEIも加わり、この地区の映画館すべてが会場となる。映画祭の楽しみのひとつは、プログラムをながめて、何をどの順で観ようかと考えること。映画館をはしごして観たり、空き時間や観た後の過ごし方もこのエリアなら最高だ。

さらに、歩ける距離、京橋の国立映画アーカイブでもTIFFの共催企画が開催される。「長谷川和彦とディレクターズ・カンパニー+追悼:青山真治」。1982年に伝説の映画監督長谷川和彦が呼びかけ当時の若手監督が結集した制作会社、ディレクターズ・カンパニーの野心的な作品4本を「日本映画クラシックス」部門でデジタルリマスター上映するほか、この国立映画アーカイブの企画でも9本がかけられる。

そして、昨年はコンペの審査委員だったというのに、早逝が本当に悔やまれる青山真治監督の作品が「Nippon Cinema Now」部門で2本、国立映画アーカイブ企画で2本上映される。こんな風に、映画祭の枠を広げ、プログラムが作られたのは、面白い試みと思う。

ガラ・セレクション『モリコーネ 映画が恋した音楽家』©2021 Piano b produzioni, gaga, potemkino, terras

ワタシはコレが観たい!

『モリコーネ 映画が恋した音楽家』(ガラ・セレクション)
『消えゆく燈火』(アジアの未来)
『DOOR[デジタルリマスター版]』(日本映画クラシックス)

3月の公開予定が延期となりがっかりしていた『モリコーネ 映画が恋した音楽家』がガラ・セレクションで特別上映される。2021年に他界した映画音楽の巨匠、エンニオ・モリコーネの人生と作品を70人以上の映画人へのインタビューや秘蔵映像などで解き明かすドキュメンタリー。監督が、モリコーネとコンビを組み『ニュー・シネマ・パラダイス』『海の上のピアニスト』という極上の作品を作り上げたジュゼッペ・トルナトーレだというのも期待がふくらむ理由だ。

厳しい政治状況のなかで作られる現代の香港映画に注目したい。かつては香港の象徴で、いまや次々と撤去されていく街のネオンがテーマの『消えゆく燈火』、シルヴィア・チャンとサイモン・ヤムがネオン職人の夫婦役を演じる。大好きな名優ふたりの円熟の味と香港の魅力を重ね合わせて観たい。監督はアナスタシア・ツァン。

最新作『夜明けまでバス停で』が好評の高橋伴明監督。1988年にディレクターズ・カンパニーで制作した『DOOR』がデジタルリマスター版で上映される。主演は高橋惠子。日本版スプラッター映画の先駆的な作品。なかなか観る機会を得られなかったこの作品が、今回スクリーンで拝めるのは嬉しい。

よしひろまさみち(オネエ系映画ライター)ほか水先案内人5名の「ワタシはコレが観たい!」

よしひろまさみち(オネエ系映画ライター)

ジャパニーズ・アニメーション『メガゾーン23』 ©Victor Entertainment, Inc.

注目の部門

ジャパニーズ・アニメーション黒澤明が愛した映画日本映画クラシックス

注目しどころがひねくれててごめんなさい。今年はド派手系のコンペよりもガラよりも、貴重な旧作上映がたまらんのですよ。まず「ジャパニーズ・アニメーション」。『メガゾーン23』とか『幻魔大戦』とか、まさか令和の今、スクリーンで観るチャンスが到来するとは! とワクワクが止まらず。

また、「黒澤明が愛した映画」では『カルメン故郷に帰る[デジタル修復版]』や『ミツバチのささやき』など驚愕のラインナップだし、「日本映画クラシックス」では『地獄の警備員[デジタルリマスター版]』や『台風クラブ』などカルトがわんさか。映画大好きなアラフィフとして、これで盛り上がらずにはいられませんがな。

日本では配給がつきにくい世界の新作を楽しむ、というのがこの映画祭の醍醐味。もちろんこれら以外の部門でその醍醐味は存分に味わえるんですが、「名作を修復し、後世に伝える」という映画祭のもうひとつの役割が、今年のTIFFには感じられます。マジ、これらの部門の作品を、今のシネコンのスクリーン&音響システムで観られるのは超貴重なチャンスだと思ってくださいませ。

ワールド・フォーカス『鬼火』© Films Boutique

ワタシはコレが観たい!

『エゴイスト』(コンペティション)
『ファビュラスな人たち』(コンペティション)
『鬼火』(ワールド・フォーカス)

注目部門とは全く関係ないんですが、あたしにジャストなクィア映画が多くラインナップされているのも胸アツなんです。コンペの『エゴイスト』は、じつは亡くなった知人が書いた小説が原作でして(しかも傑作よ)、来年公開が決まっているものの、いちはやく映画好きには観てもらいたいなー。

また、同部門の『ファビュラスな人たち』はトランス女性たちのコミュニティヴィラを舞台にしたコメディ、「アジアの未来」の『私たちの場所』はインドのトランスジェンダーをめぐる生きにくい社会を描いたシリアスドラマ、と、世界のトランスジェンダーをとりまく環境が垣間見られるのもナイス。

個人的に超観たいのは「ワールド・フォーカス(共催ラテンビート映画祭)」の『鬼火』。カンヌ国際映画祭の監督週間で上映された作品で、内容は黒人と白人の消防士(!!!!)のラブロマンス・ミュージカル!? 他国映画祭のように、クィア部門(もしくはLGBTQ+部門)をちゃんと作って欲しい、と思っていたけど、こうやってしれっとまぎれこんでいるのも悪くない……かな(いや、やっぱ部門がほしい)。ちなみに、台湾クィア映画の巨匠、ツァイ・ミンリャンの旧作、『青春神話』や『楽日』、短編集などがドドーンと一挙上映というのも、TIFFじゃないとできない企画。おまけに本人降臨予定で、深田晃司監督と対談も企画されているとな。あぁ、待ち遠しい。

村山 章(映画ライター)

黒澤明が愛した映画『フィツカラルド』©Werner Herzog Film

注目の部門

ワールド・フォーカス黒澤明が愛した映画Amazon Prime Video テイクワン賞

毎年気になっている部門「ワールド・フォーカス」は、今年は「第19回ラテンビート映画祭 in TIFF」と銘打ってラテンビート映画祭とコラボするとのこと。ラテンビート映画祭も、毎年気になっているのになかなか都合が合わずあまり行けていない映画祭であり、この機会にラテンビートならではの映画がTIFFで観られるのは嬉しい。これに限らず、映画祭同士のコラボはこれからも積極的に進めてほしい。

「黒澤明が愛した映画」は、定番の名画が並んでいるが、どの作品もスクリーンで観られるのは貴重。そして個人的にはヴェルナー・ヘルツォークの『フィツカラルド』が入っていることに感謝。あの人力で船を山越えさせる無茶を成し遂げた狂気を、多くの観客と一緒に味わえると思うだけでワクワクする。

今年が二年目となる「Amazon Prime Video テイクワン賞」は、長編映画未体験の新人監督を発掘する企画。候補となる監督の短編作品が特設サイトでオンラインで観られるなど、配信サービスとのコラボらしい試みを楽しみたい。

ガラ・セレクション『ホワイト・ノイズ』

ワタシはコレが観たい!

『アシュカル』(コンペティション)
『マンティコア』(コンペティション)
『ホワイト・ノイズ』(ガラ・セレクション)

コンペティション部門で気になっているのがチュニジアとフランスの合作映画『アシュカル』と、スペイン映画の『マンティコア』。『アシュカル』は政治的なテーマを扱った人体自然発火のお話だそうで、もう「なんだそりゃ?」と気になってしょうがない。『マンティコア』は、日本のアニメをグロテスクに取り入れた『マジカルガール』のカルロス・ベルムト監督だけに、独自路線に突っ走ってくれていることを期待。

『ホワイト・ノイズ』はノア・バームバック監督の最新作であり、こういうメジャーとインディペンデントの境目で活動する監督の作品がお披露目されると「ああ大きな映画祭だなあ」という気持ちになる。2019年の東京国際映画祭で上映されたバームバックの前作『マリッジ・ストーリー』と同様にNetflixオリジナルなので、あまり映画館で観られないであろう作品がスクリーンで観られる機会としてもありがたい。

水上賢治(映画ライター)

ワールド・フォーカスのツァイ・ミンリャン特集から『西遊』©Homegreen Films

注目の部門

ワールド・フォーカスコンペティションアジアの未来

東京国際映画祭クラスの映画祭というのはやっかいで、おそらく気になる作品の3割を見れたら上出来。「あれを見そびれた」などと後悔することがほとんどだ。そう心にとどめていても今年は見逃し続出しそうなラインナップで恨めしい。

もはや部門でさえどれにしようか頭を悩ませるが、中でも毎年楽しみにしている「ワールド・フォーカス」のラインナップは「なんなんだ!」とでも言いたくなる豪華さ。ラブ・ディアス、アルベルト・セラ、エドワード・ヤンの修復版にツァイ・ミンリャンの特集まである。もうどこから手をつければいいかわからない。

コンペティションも市山尚三プログラミング・ディレクターらしい独自の作家性をもった気鋭の監督たちの作品が集まった印象。『ハーモニー・レッスン』のエミール・バイガジン監督、『馬を放つ』のキルギスを代表する映画作家アクタン・アリム・クバトなど、名の知れた監督の顔もあれば、今泉力哉監督の『窓辺にて』など日本映画も3作品選出され期待が高まる。

アジアの未来は今回もすべてワールド・プレミア。純粋に新たな才能と新たな映画との出会いを楽しみたい。

NIPPON CINEMA NOW 『アイ アム ア コメディアン』©DOCUMENTARY JAPAN INC.

ワタシはコレが観たい!

『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』(NIPPON CINEMA NOW)
『アイ アム ア コメディアン』(NIPPON CINEMA NOW)
『水の上を歩く/西遊』(ワールド・フォーカス)

自身の基本姿勢としては、映画祭では、まったく名前の知らない新鋭監督やあまりなじみのない国の映画、おそらく日本で今後公開はないであろう映画を積極的にチェックしている。また、そういうまだ見ぬ映画との出会いに期待している。ということで、旧作や日本公開が予定される映画については後回しとなるのだが、今回に限っては「未見であればみてほしい」というおすすめの気持ちも込めて旧作も含む3本をあえて挙げたい。

まずはNippon Cinema Now監督特集 〈追悼 青山真治〉から『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』。9月に行われた《ぴあフィルムフェスティバル》でも特集が組まれた青山監督だが、東京国際映画祭では昨年、審査員を務め、元気な姿を見せてくれていたことが思い出される。本作は、正体不明の致死ウィルス〈レミング病〉が蔓延した世界といういまを予見しているような出来事が背景。発病を抑制する唯一の方法がミュージシャンが演奏する“音”というところが、いまみると胸を熱くさせる。

同部門の『アイ アム ア コメディアン』は、注目しているドキュメンタリスト、日向史有監督の新作。「東京クルド」で日本の入管、移民問題に向き合った彼が、政治的発言からテレビ出演が激減した芸人、村本大輔を通していまの日本に何を感じたのか気になる。

最後は、ツァイ・ミンリャン監督と盟友、リー・カンションによる『ウォーカー』シリーズの一編『西遊』(※『水の上を歩く』を併映)。リー・カンションが托鉢僧となり超スローで歩く。ただ、それだけなのに何かが目の前に広がる映像の不思議な力を体感したい。

平辻 哲也(映画ジャーナリスト)

日本映画クラシックス『光る女 修復版』©ヤングシネマ'85共同事業体/KADOKAWA

注目の部門

NIPPON CINEMA NOW日本映画クラシックス黒澤明の愛した映画

日ごろから日本映画を追いかけているので、映画祭でも日本映画をフューチャーした部門が気になる。特にNippon Cinema Now 部門は来年公開の作品も先取りできるのがいい。去年も荻上直子監督の『川っぺりムコリッタ』(現在公開中)を始め、良作がピックアップされていた。

日本映画クラシックス部門は、長谷川和彦特集を行う国立映画アーカイブとのコラボレーションで、今はめったにスクリーンで観られない作品を取り上げてくれるのがうれしい。4本の中では、今も愛される相米慎二監督の『光る女 修復版』は今回がワールドプレミアで、チケットは争奪戦になりそう。

「黒澤明の愛した映画」では、ビクトル・エリセ監督の『ミツバチのささやき』が目を引く。73年製作の監督デビュー作だが、日本ではミニシアターブームのさなかの1985年に劇場公開され、話題になった。今は配信でお手軽にホームシアターが楽しめるが、映画館で観る醍醐味を味わえそうだ。

コンペティション『山女』 ©YAMAONNA FILM COMMITTEE

ワタシはコレが観たい!

『山女』(コンペティション)
『ひとりぼっちじゃない』(NIPPON CINEMA NOW)
『生きる LIVING』(クロージング)

コンペ部門唯一出品の日本映画『山女』は福永壮志監督作。北海道出身、米ニューヨーク市立大学で映画を学んだ鬼才は、国際感覚と日本の民俗にも造詣が深く、日本文化を世界に発信できる力を持つ。俳優・斉藤工は、第2作『アイヌモシリ』でスチールをボランティア志願したほど。「『アイヌモシリ』は日本の映画界にとって超大事な作品だったが、日本の映画界は無視した」と怒っていたのが印象に残っている。18世紀末の東北を舞台にした本作は、『ひらいて』の好演が光る山田杏奈が主演し、森山未來、永瀬正敏が共演。キャスティングからも期待大。

『ひとりぼっちじゃない』は行定勲監督作品の脚本家、伊藤ちひろの監督デビュー作。10年かけた自身の処女小説が原作、行定がプロデュース。伊藤が描く繊細な世界がどう映像化されているのか注目したい。

『生きる LIVING』は世界に誇る黒澤明監督作品のリメーク。最も好きな黒澤作品のひとつだが、脚本が世界のカズオ・イシグロ。「世界」の2乗だから、間違いない作品になっているはず。

中谷祐介(ぴあ編集部)

TIFFシリーズ『仮面ライダーBLACK SUN』©石森プロ・東映©「仮面ライダーBLACK SUN」PROJECT

注目の部門

コンペティションワールド・フォーカスTIFFシリーズ

どんな映画祭であってもコンペティション部門が最重要。有名な監督の映画を観るのではなく、数年後に「あの時に観たあの映画の監督、すごい活躍してる!」と思えるのが映画祭の最大の喜びだと私は信じております。今年は15作品が揃ったコンペ部門は今年もおそらく傾向などあろうはずもなく“質重視”で選んだ結果のラインナップだと思います。

ワールド・フォーカス部門は毎年、海外の有名監督の新作が並ぶ部門ではある(ラヴ・ディアスやクリスティアン・ムンジウの新作もある!)のですが、「なんだ、これは?」と公式サイトの説明文だけでは予想もつかない映画に実はお宝が眠っていると思います。上映作品もドキュメンタリー、コメディなど多種多彩。『エドワード・ヤンの恋愛時代』の修復版については私が改めておススメするまでもありません。全員、集合です。またあのラストで心震わせましょう!

映画祭は映画を愛し、同時に変化していく映画のあり方にも柔軟に対応していく姿勢が必要だと思います。TIFFシリーズ部門はTVやネット配信のシリーズものが上映される部門で、これらの作品も“良いものであれば紹介する”姿勢がとても信頼できます。オリヴィエ・アサイヤスの『イルマ・ヴェップ』のリメイクや、白石和彌監督&高橋泉脚本の真剣勝負作『仮面ライダーBLACK SUN』など映画ファンは避けて通れない作品が並んでおります。

コンペティション『マンティコア』 © Aquí y Allí Films, Bteam Prods, Magnética Cine, 34T Cinema y Punto Nemo AIE

ワタシはコレが観たい!

『マンティコア』(コンペティション)
『This Is What I Remember(英題)』(コンペティション)
『楽日』(ワールド・フォーカス)

異形の傑作『マジカルガール』のカルロス・ベルムト監督の新作『マンティコア』は気になるところ。映画祭サイトには「ゲームのデザイナーとして働く若い男性とボーイッシュな少女との恋愛の行方」と書いてありますが、絶対にそんな展開で終わるわけないだろう、という予感。『マジカル…』同様、予想外の場所に連れて行かれたい。そんな期待。

東京フィルメックスで観た『馬を放つ』のアクタン・アリム・クバト監督の新作『This Is What I Remember(英題)』も気になる1作。前作はシンプルなドラマの中に躍動感のある瞬間あり、人智を超えた人間と世界との関わりを感じさせる瞬間ありで、かなり素晴らしい作品でした。本作は「ロシアに出稼ぎに行っている間に記憶を失い、20年ぶりにキルギスに戻ってきた男とその家族を描くドラマ」だそうです。キルギスの映画を頻繁に観られるわけではないので、このタイミングで観ておきたいです!

そして映画を、映画館を愛するすべての人におすすめしたいツァイ・ミンリャンの『楽日』がデジタル修復版で上映!東京国際映画祭で『さらば、龍門客棧』のタイトルで観たのも良い思い出です。間もなく閉館になる映画館では、ある武侠映画が上映されており、客席には映画に出演していた俳優たちの姿が……。過ぎていく時間、いつまでもそこあるスクリーンの姿、そして消えゆく映画館。全映画ファン感涙の傑作です!みなさまもぜひ!

TIFFオープニングセレモニーに5組10名様をご招待! (10月17日(月)応募締め切り)

応募資格:よくばり❣ぴあニスト
お申し込みはこちら≫

開催概要

第35回東京国際映画祭

期間:2022年10月24日(月)~11月2日(水)

会場:【日比谷】東京ミッドタウン日比谷/TOHOシネマズ 日比谷、日比谷ステップ広場、BASE Q、TOHOシネマズ シャンテ、東京宝塚劇場
【有楽町】東京国際フォーラム、有楽町よみうりホール、角川シネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ有楽町、丸の内ピカデリー、有楽町 micro FOOD & IDEA MARKET
【銀座】シネスイッチ銀座、丸の内 TOEI
【丸の内】マルキューブ(MARUCUBE)

※映画祭公式サイトにて、メルマガ会員向け抽選販売、先行抽選販売に続いて、10/15(土)に一般販売を部門別で開始。詳細はこちら

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