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ぴあ 総合TOP > ぴあ映画 > 第1回:東京国際映画祭はどこへ向かうのか? チェアマン&ディレクターに聞く今年のポイント

第35回東京国際映画祭

第1回:東京国際映画祭はどこへ向かうのか? チェアマン&ディレクターに聞く今年のポイント

日本最大級の映画祭「東京国際映画祭」が今年も10月24日(月)から11月2日(水)まで開催される。

1985年に渋谷でスタートした本映画祭はこれまで様々な変遷を経てきたが、2019年に安藤裕康氏がチェアマンに、長年に渡って東京フィルメックスのディレクターを務めてきた市山尚三氏が昨年にプログラミングディレクターに就任し、様々な改善と改革を実行中だ。日本の映画ファンなら絶対に見逃せない映画祭、海外の映画人からも注目される映画祭を目指す改善は作品の選定、新しい企画など様々なかたちで陽の目をみており、今年は昨年よりも上映の規模、会場数を大幅に拡大して開催される。

多くの人は映画祭とは一定期間に複数の映画を上映するものと思っているかもしれない。しかし、市山氏は「“映画を観られるから映画祭に行く”というだけの時代はすでに終わっている」と言う。では、東京国際映画祭はどこへ向かうのか?

安藤チェアマンと市山ディレクターに話を聞いた。

1:なぜ、東京国際映画祭は“銀座エリア”を開催地に選んだのか?

昨年から会場が“銀座エリア”に ©TIFF 2021

本映画祭の最大の変革のひとつとして昨年から開催地が六本木エリアから日比谷、有楽町、銀座、丸の内(以下、銀座エリア)に変更になった。江戸から続く老舗や高級ホテル、ブランドショップなども並ぶ国際的にも知名度の高いエリアで、大規模な映画館や劇場が集う場所でもある。

今年は上映会場を拡大し、昨年はクロージング上映のみで使用されたTOHOシネマズ日比谷をはじめ、丸の内TOEI、丸の内ピカデリーが加わり、丸の内でもイベントを開催。このことで主要9部門の上映本数が昨年の86本から110本に増えた。

安藤  開催地が銀座エリアに移った昨年の時点から可能であれば、この地域の主要な映画館で上映させていただきたいと思っていましたし、昨年の開催後にお客様からも「どうして大きな映画館で上映しないの?」という声をたくさんいただきました。そこで各劇場の方とお話をさせていただいて、更に多くの会場を使わせていただけることになりました。結果として昨年よりも大きなスクリーンでご覧いただけることになったので、それは良かったと思っています。上映する以上は少しでも良い環境で観ていただきたいと思っていますし、1本でも多くの作品を観ていただきたいんです。それにこの地域の複数の映画館で開催できることで、“街ぐるみ”で開催されている感じが出てきたと思います。

市山 シネコンは比較的、小さいスクリーンが多く、100席から200席のスクリーンも多くて、新作上映の際には複数のスクリーンで上映することになると思うのですが、映画祭での上映となるとひとつの会場になるのでシネコンの小さいスクリーンでは観られる人が限られてしまう。映画祭の会場が六本木だった時代も大きなスクリーンはありましたけど、他は小さい劇場が多くて、すぐに満席になっていました。銀座エリアは大きい劇場が多くて、これまで以上に多くの方に映画を観てもらえると思っています。新宿や渋谷などほかの街と比較しても今のエリアは各劇場への移動もしやすいですし、街との親和性も高いと思います。

安藤 東京国際映画祭を開催する上では新宿や渋谷も候補になるとは思うのですが、内外の方に映画という観点から「ここが東京ですよ」と言える場所はどこかと考えた時にやはり、銀座エリアだと思うんですね。それに周囲にあるホテルやレストランなどの施設のことも考えた時に、東京を“映画の街”としてアピールする上ではこのエリアが最適だと思うんです。

市山 それにフィルメックスをやっている時に気がついたのですが、日比谷のガード下の店が海外のゲストに人気なんですよ(笑)。上映が終わるとみんなガード下の居酒屋に移動して飲んでいて、そこに一般のお客さんも混ざって一緒に飲んだりしていたんです。あのガード下の雰囲気というのは海外の人からすると珍しい。このエリアにはそういう“ミーティング・プレイス”が多くて、それも特徴のひとつだと思います。

安藤 銀座エリアは街全体で映画祭を盛り上げていくのに適していると思うんです。それにカンヌやヴェネチアなどの映画祭に行くと、開催期間は街そのものが映画祭の会場のようになっているわけで、まったく同じことができるとは思っていませんが、あのかたちに近づけるのは銀座エリアじゃないかと思っています。

2:映画祭の主役は“人”

人と人とが出会う場に ©TIFF 2021

映画祭は作品を上映して、観客が単に観るだけでなく、そこに映画人やジャーナリスト、関係者が集まり、上映の前後に交流し、そこで生まれた縁が次の作品につながったり、映画祭をきっかけに新しい才能が発見されたり、成長したりする場所だ。

通常、映画館に出かける際は目当ての映画を“観ること”が目的だが、東京国際映画祭は無料で参加できるイベントや上映以外の関連行事も多く、まずは現地に“行くこと”で様々な発見や楽しみが見つかるはずだ。毎年、この時期は映画人が会場付近を歩いていることも多く、映画祭に足を運ぶことで予想外の出会いが待っているかもしれない。

安藤 これまで東京国際映画祭では集まった人が交流できるような場所が常設でなかったので、昨年から“交流ラウンジ”を作り始めたんですが、場所をつくっただけでは人は集まらないんですよね。

そもそも昨年はコロナ禍もあって海外から人が来ることができなかった。だから昨年はリモートのトークショーに力を入れざるをえなかったんです。でも今年はトークイベントもやりますけど、“あそこに行けば、誰かに会えるよ”という本来の目的を主にやっていきたい。

昨年は海外から来たゲストの方が8人しかいなかったんですが、今年は審査員や映画祭の関係者や監督など100人近くの方が来ることになっていて、来年以降はさらに増えていく。そういう人たちが空いた時間にフラッとやってきて、日本の人たちだったり、様々な国の映画人と会うことができるようにしたいわけです。

市山 もちろんスクリーンで観たいですけど、いまは仮に映画祭で見逃してしまっても後で配信であったり、ブルーレイなどで観ることができるようになってきました。

でも、会場で誰かに会って、上映の合間にお茶や食事をしながら話すことは映画祭に行かないとできない。その点では“映画を観られるから映画祭に行く”というだけの時代はすでに終わっていると思います。だから“人と人が現地で出会うこと”を大切にしていくことで、海外の人たちに「毎年この時期は東京国際映画祭だな。あそこに行けば様々なアジアの監督やプロデューサーに会える」と思ってもらえるようにしたい。

安藤 まったく同感で、映画祭の役割は“人と人とのふれあい”が国境を超えて行われることだと思うですね。有楽町駅前のチケットスペースも改善して昨年よりもさらに良いものになる予定ですし、銀座エリアのお店にポスターを掲出してもらうようにお願いもしています。お店の方にも協力していただいて、街ぐるみで映画祭が開催できるようにしたいですね。

また今年から、黒澤明賞が復活します。その理由はふたつあって、ひとつは「世界の中の日本映画の位置付けをしっかりとしていきたい」ということです。国際的に最も名前の知られている日本の映画監督はおそらく黒澤さんなわけで、彼の名を冠した賞が東京国際映画祭と世界の映画人の絆のひとつとして存在していてほしい。映画祭の国際性を強化するためにこの賞があるということです。

もうひとつは、映画祭が新しい人を育てていくのが重要なので、第二、第三の黒澤明のような存在を見つけてきて、その方たちを顕彰して、若い才能を助けるために賞をやっていきたい。

これらの取り組みはまだ途についたばかりではあるんですけど、映画祭の魅力をもっと増していくことで、国内の人たちにも海外の人たちにも「毎年、この時期は東京国際映画祭がある。ここに行けば誰かに会えるな」と思ってもらえるようにしたいと思っています。

3:東京国際映画祭は“世界基準”の映画祭

東京国際映画祭2021 ©TIFF 2021

ポイントは観客や映画人が集まり、作品を観たり、語り合ったりしながら絆を深めていくことが“国境を超えて”実現することだ。日本の観客にだけ知名度や人気のある映画ばかりが並ぶ映画祭では、海外のゲストは集まらないだろう。

また、カンヌ国際映画祭やヴェネチア国際映画祭など世界の有名な映画祭に足を運ぶ映画ファンや映画人から見て東京で上映される作品のクオリティが低ければ、足は自然と遠のくだろう。

市山 東京フィルメックスのディレクターをしている時からその視点がありました。もちろん日本のお客さんにも観ていただきたいのですが、海外の人がこのラインナップを見た時にどう思うのか?はいつも意識しています。

世界の映画祭と並んだ時に「なぜ、この映画祭はこんなものを上映するの?」と思われないようにしたいですし、東京国際映画祭でもその点は踏襲しています。もちろん、カンヌ映画祭に行ってもフランスの娯楽映画が上映されていたりはするんですけど、そういうものは単に消費されるだけで、やはり話題にあがるのは作家性のあるコンペティション部門の作品なんです。だから東京国際映画祭も世界の映画祭と比較してもおかしくない作品をちゃんと選びたいと思っています。

安藤 作品がグローバルスタンダードから見ておかしくないものを上映したいですし、日本だけでなく海外の方から見ても「この映画祭で上映される作品はいいな」と思ってもらいたい。映画にはいろんな作品があって、観る人によって見方や解釈もそれぞれにあるわけですから、良い/悪いというのは千差万別ではあるんですが、それでも世界的には“ある基準”がある。世界的な基準と日本での基準がズレているのであれば、それは無くしていきたいです。

日本の映画館で公開されている作品にも素晴らしいものがたくさんあるが、海外の映画祭や劇場ではまだ日本では公開されていない名作、問題作が数多く存在する。東京国際映画祭は日本最大の映画祭にして、“世界基準”でセレクトされた作品をまとめて楽しめる絶好の機会でもある。

会場を足を運べば、何かしらの出会いがある。上映に参加すればまだ観たことのない作品に出会える。そんな10日間になりそうだ。

TIFFオープニングセレモニーに5組10名様をご招待! (10月17日(月)応募締め切り)

応募資格:よくばり❣ぴあニスト
お申し込みはこちら≫

プロフィール

安藤裕康(あんどう ひろやす)

1944年生まれ。1970年に東京大学を卒業後、外務省に入省。外交官として米国、フィリピンや英国での勤務を経て、内閣総理大臣秘書官、在米国日本国大使館公使(特命全権)、中東アフリカ局長、在ニューヨーク総領事(大使)、内閣官房副長官補、駐イタリア特命全権大使等を歴任。2011年10月より2020年9月まで国際交流基金理事長として、外国との文化交流に取り組む。2019年の第32回TIFFよりチェアマンに就任。

市山尚三(いちやま しょうぞう)

1963年生まれ。松竹、オフィス北野をベースに主に海外の映画作家の作品をプロデュースする。主な作品にホウ・シャオシェン監督の『フラワーズ・オブ・シャンハイ』(1998)、カンヌ映画祭審査員賞を受賞したサミラ・マフマルバフ監督の『ブラックボード』(2000) 、カンヌ映画祭脚本賞を受賞したジャ・ジャンクー監督の『罪の手ざわり』(2013) 等がある。また1992年から1999年まで東京国際映画祭の作品選定を担当。2000年に映画祭「東京フィルメックス」を立ち上げ、ディレクターを務めた。2013年より東京藝術大学大学院映像研究科の客員教授。2019年、川喜多賞受賞。2021年、東京国際映画祭プログラミング・ディレクターに就任。

開催概要

第35回東京国際映画祭

期間:2022年10月24日(月)~11月2日(水)

会場:【日比谷】東京ミッドタウン日比谷/TOHOシネマズ 日比谷、日比谷ステップ広場、BASE Q、TOHOシネマズ シャンテ、東京宝塚劇場
【有楽町】東京国際フォーラム、有楽町よみうりホール、角川シネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ有楽町、丸の内ピカデリー、有楽町 micro FOOD & IDEA MARKET
【銀座】シネスイッチ銀座、丸の内 TOEI
【丸の内】マルキューブ(MARUCUBE)

※映画祭公式サイトにて、メルマガ会員向け抽選販売、先行抽選販売に続いて、10/15(土)に一般販売を部門別で開始。詳細はこちら

(c)2022 TIFF