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【おとな向け映画ガイド】ディオールが全面協力。ロンドンの普通のおばさんが見た夢──『ミセス・ハリス、パリへ行く』

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イラストレーション:高松啓二

今週末(11月18日〜19日)の公開映画数は29本。全国100館以上で拡大公開される作品が『ある男』『​​ザリガニの鳴くところ』『ザ・メニュー』の3本、中規模公開・ミニシアター系が26本です。今回はその中から、イギリスの人情ドラマ『ミセス・ハリス、パリへ行く』をご紹介します。

『ミセス・ハリス、パリへ行く』

夢を持つこと、勇気をだして自分の足でまず一歩を踏み出すこと、誇りを失わないこと。子どもの頃に、ポール・ギャリコの小説「ハリスおばさん」シリーズで教えられたのはそういうことだった。ハリスおばさんは、1950年代のロンドン、単身者やお金持ちの家をいくつも掛け持ちし、家事を引き受ける通いの家政婦さん。人情にもろく、曲がったことが嫌い。つい他人のためにひと踏ん張りしてしまい、思いがけずにニューヨークへ行き、モスクワに行き、ついには国会議員になってしまう。そのハリスおばさんが映画になるなんて、それこそ夢のようだ。

最初に出版された翻訳本のタイトルは『ハリスおばさんパリへ行く』。上田とし子さんのイラストがとても愛らしく、いかにも元気な“おばさん“だった。最近再出版された翻訳本や映画タイトルは『ミセス・ハリス、パリへ行く』となっている。イギリス本国でシリーズがTVドラマ化されたことがあり、その時はアンジェラ・ランズベリーが演じた。彼女はどちらかというとアガサ・クリスティーの名探偵ミス・マープルの方が似合う感じ。この映画のレスリー・マンヴィルは、もう少し若く、ちょっぴり色気もある。実は、映画では、ちょっとしたラブアフェアもあって、“ハリスおばさん”も愛着があるけれど、やはり“ミセス・ハリス”の方がしっくりくる。

さてそのミセス・ハリスがなぜ、パリに行くことになったのか。

映画は、この原作に惚れ込んだアンソニー・ファビアン監督が、設定を多少変えて、ハリスのキャラクターにいくつか肉付けをしている。例えば、従軍後にずっと行方がわからなかった夫の戦死通知を突然受けとって、何か生きがいを失いかけていた、といった彼女の精神状態の描写は、映画独自の脚色。心に隙間がぽっかりでき、どこか空虚な日々を送る中、ミセス・ハリスは仕事先のお屋敷で、ディオールのドレスを見かけるのだ。これまで、つましい生活を送り、服に贅沢などしたことのない彼女にとって、これは体中に雷鳴が轟くような衝撃だった。この心震わすドレスが欲しい、心からそう思ったのだ。年収の2倍はするというディオールのドレス。でも、買うと決めたらミセス・ハリスの行動はまっしぐら。倹約を徹底するだけでなく、仕事を増やし、ドッグレースに手を出したりと大奮闘。パリに行かなければ手に入らないと聞けば、あらゆる手立てを使ってフランス行きの飛行機のチケットを手にする……。

けれども、パリのオートクチュールはそう甘くはなかった!

お店に行き、服を選んで現金で買い、ロンドンにとんぼ返り、なんて、簡単に考えていたハリスだが、とんでもない。ドレス選びのためには、ファッションショーを見なければいけない。これが招待客限定で誰でも入れるものではない。買えたとしても仕立てに数週間。途中仮縫いが何度かあり、その間、パリに滞在しなければならない。

ディオールの敏腕支配人役を演じているのは、フランスの名女優イサベル・ユペール。ミセス・ハリスが敷居の高いディオールの店頭で途方に暮れているときに、暖かく援助の手を差し伸べる侯爵役にベテラン俳優のランベール・ウィルソン。初めての土地、誰も知らない環境で、夢だけを信じて苦闘するハリスさんの“大冒険”に、多くのパリっ子たちが、協力をする。そんなお話です。

3月に公開された『オートクチュール』や、ドキュメンタリー『ディオールと私』ではお針子さんたちが活躍するアトリエ内部が映像に収められていたが、この映画でも、ディオール本社が全面協力し、1957年という時代設定通り、当時のディオールを現出させている。同社のアーカイブコレクションから5着が貸し出され、それをもとに映画の衣装として再現されている。これは“眼福”。

わくわくさせるストーリーに身をゆだね、素直な気持ちでご覧になることをオススメします。人の善意をもういちど思い出し、そうだよな、夢を持つことに早いも遅いもないよな、そんな気持ちになれる、おとなのおとぎ話です。

文=坂口英明(ぴあ編集部)

【ぴあ水先案内から】

高松啓二さん(イラストレーター)
「……〝彼女の善意は伝染し、奇跡を呼び寄せるのだ。改めて夢を持つ尊さを教えてくれる……」

高松啓二さんの水先案内をもっと見る

渡辺祥子さん(映画評論家)
「……メゾンの内情、繰り返される仮縫い、お針子さんの劣悪労働条件などが暖かな人柄のミセス・ハリスの束の間のパリ滞在の合間に丁寧に描かれ、ほのぼのとした楽しさが生まれている。」

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