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【おとな向け映画ガイド】カンバーバッチに負けないネコの名演必見! 『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』

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イラストレーション:高松啓二

今週(12月1日〜3日)の公開映画数は27本。全国100館以上で拡大公開される作品が『THE FIRST SLAM DUNK』『月の満ち欠け​​』『ブラックアダム』の3本、中規模公開・ミニシアター系が24本です。今回は、ベネディクト・カンバーバッチ主演の『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』をご紹介します。

『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』

江戸時代の広重や国芳の浮世絵に猫は登場するし、明治の夏目漱石は猫を主人公にして小説を書いた。猫愛は古今東西、同じ、と思っていたが、イギリスではそうでもなかったらしい。どちらかというと、ワンちゃんが人気、ネコちゃんはネズミを退治する動物であり、むしろ不吉な存在として恐れられていたという。その猫を愛すべき友人的な存在に昇華させた立役者が、猫のイラストで一世を風靡した、ルイス・ウェインというイラストレーターだ。

彼の人生を描くこの映画の舞台は1880年代。シャーロック・ホームズが活躍したヴィクトリア朝時代のイギリス。ウェインは上流階級の出身だが、そんなに財産のある家ではなく、父が亡くなったあとは「The Illustrated London News」の挿絵の仕事で母と5人の妹を養っている。そろそろ写真の時代が訪れようとしているが、まだ、ニュースにイラストを添えたスタイルの週刊紙は人気の存在だった。それと、犬の肖像画も彼の得意分野。貴族からの注文で描くといい金儲けになった。 

よく言えば天才肌、あけすけにいえば変わり者。服も髪型も無頓着。もっぱら電気の研究とか発明に凝っていた彼が、なぜ、猫のイラストを描くことになったのか。

すべては愛、から始まった。妹たちの家庭教師に雇われたエミリーという年上の女性にひと目ぼれ。周囲の猛反対にもかかわらず、結婚に踏み切り、家を出る。ところが、結婚後、半年で、エミリーにがんが見つかる。絶望のなかにいたふたりに、救世主のように現れたのが黒白の子猫だった。ピーターと名付けた可愛らしいこの子は、彼女の心の支えになる。エミリーをなぐさめるためにピーターを描いたイラスト。彼女のアドバイスで新聞に持ち込むと、これがクリスマスの紙面を飾り、大人気を博す。彼の猫のイラストはやがて新聞の花形企画となり、それからイギリスでも猫は愛すべき存在になっていったのだ。

ウェインを演じるのは、イギリスを代表する名優ベネディクト・カンバーバッチ。BBCのTVドラマ『SHERLOCK』のシャーロック・ホームズでおなじみ。こういうクラシカルで個性的な役どころはぴったりだ。エミリー役はNetflixのドラマ『ザ・クラウン』ではエリザベス女王に扮し評判となったクレア・フォイ。そして、ふたりの間で素晴らしい演技を見せてくれるのが、ピーター役の猫、フェリックス。とんでもなく愛らしいだけでなく、彼のシーンはCGなしという名演をみせてくれる。

監督と脚本を担当したのは日系英国人のウィル・シャープ。「初めてルイスの絵を見た時、日常生活の些細な事柄が楽しく描かれたユーモア溢れる絵でありながら、時々不安や心配、そして悲しみさえもが底に流れているのに共感した」というのが映画化のきっかけという。

ルイス・ウェインが残した膨大な猫の絵。大きな目の可愛らしい猫や、擬人化した憎々しい猫……、あなたも、知らない間に目にしているはず。かの夏目漱石の『吾輩は猫である』にでてくる猫の絵はがきも、ウェインが描いたものといわれている。彼の心情に添うように画風もかなり変化していく。そのイラストの深みと、映画に登場するさまざまなネコたちの表情にも注目だ。

そして、名女優オリヴィア・コールマンのナレーション「おかしな偏見に満ちていて、フンの匂いで臭かったが、ヴィクトリア朝のイギリスは発明と発見の場だった」で始まり、留学した漱石が暮らした頃の、蒸気機関車が走り、馬車が行き交い、活気あふれるロンドンの風俗が再現されているのも、この映画の魅力のひとつ。

ルイスと同様にエミリーも、封建的な当時としては少し風変わりな女性として描かれている。例えば、河原で拾った石ころを集めていたり、猫のピーターとのコミュニケーションもとれる。かなり魅力的な人物だ。エミリー、ルイス、ピーター、“3人”が共有した彼らだけの愛の世界の描き方も素敵で、ちょっと、嫉妬さえしてしまうほど。そのロマンティックな情景にも、不思議な安らぎを感じます。

文=坂口英明(ぴあ編集部)

【ぴあ水先案内から】

高松啓二さん(イラストレーター)
「……晩年、精神疾患で入院していたが、やっぱり絵に救われる。魅力的な絵は金銭を超えた価値があるのだ!」

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伊藤さとりさん(映画パーソナリティ)
「……ルイスの動揺や心の変化を視線だけで見事に表現するベネディクト・カンバーバッチは流石だ……」

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堀晃和さん(ライター、編集者映画)
「……ウェインが絵について「教えるべきルールはひとつだけだ」と説く場面が印象に残った。「それは見ることだ」……」

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