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ぴあ 総合TOP > ぴあ映画 > いま、ドキュメンタリーがアツい! TBS DOCS特集③ 『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』特集

いま、ドキュメンタリーがアツい! TBS DOCS特集③

TBSドキュメンタリー史上最大の問題作が
半世紀の時を経て、現代に蘇る!

『日の丸〜寺山修司40年目の挑発〜』

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独自の視点や幅広いテーマなどでドキュメンタリー作品制作には定評のあるTBS。彼らが新たに立ち上げたブランド“TBS DOCS”作品の劇場公開プロジェクトが続いている。2022年秋に公開された『人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界 完全版』、年末に公開された『戦場記者』に続くのが、本作『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』だ。同局のドキュメンタリーの中でも“最大の問題作”と呼ばれた作品を現代に蘇らせるという挑戦的な試み、その真意とは?

1967年に放送されたドキュメンタリー『日の丸』は
なぜ“最大の問題作”となったのか?

寺山修司

1955年の開局から現在に至るまで数々のドキュメンタリー番組を制作してきたTBSテレビ。その歴史ある同局のドキュメンタリー番組史において、“史上最大の問題作”と呼ばれるのが1967年に放送された『現代の主役 日の丸』だ。

番組は、一般の人々への街頭インタビューをまとめた至ってシンプルな作り。

では、何が問題となったかといえば、インタビューで一般人へ投げかけられた問いに他ならない。劇作家、歌人として時代や社会に鋭く斬りこむ作品を発表していた寺山修司が構成担当としてかかわり、街ゆく人々に投げかけられた質問は「日の丸の赤は何を意味していますか?」「あなたに外国人の友だちはいますか?」「もし戦争になったらその人と戦えますか?」など、なかなか答えに窮するもの。日本の“国家”や“体制”に対して問うような挑発的な内容だった。しかも、日本で初めて建国記念の日が施行される2日前に放送された。

すると放送直後から局には抗議の電話が殺到。その抗議の声はやむことなく国にまで及ぶことに。政府は閣議で取り上げると番組を「日の丸への侮辱」と断罪。「偏向番組」として、TBSは郵政省に調査を受ける事態にまでなった。

このいわくつきの超問題作『現代の主役 日の丸』を、今回の『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』はベースにしている。

若干28歳のTVディレクターが大問題作に挑む!
“同じ質問”から見出されるものとは?

街頭で道行く人に質問する佐井監督
寺山修司を知る映画作家・安藤紘平

1967年の放送以後、封印された『日の丸』を、寺山修司の没後40年となる2023年に新たな形で蘇らせようとしたのが本作『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』だ。

“問題あり”のレッテルを貼られた過去の番組に敢えて光を当て、その挑発的な試みにもう一度挑んでみようとしたのは、ドラマ制作部に所属する28歳の若手TVディレクターの佐井大紀。新人研修で『日の丸』を観て衝撃を受けた彼は、時代も生活様式も様変わりした“現在”の日本で同じ問いを投げかけたとき、「何か見えてくるのだろうか?」と考える。

考えてみると、1967年の日本は東京オリンピックから3年後、その3年後の1970年には大阪万博が控えていた。当時、国際社会はベトナム戦争で大きく揺らいでいた。そこから現代の2022年の日本に目を移すと、東京オリンピックを終え、3年後の2025年に大阪万博が控える。そして、国際社会はコロナパンデミックなどが暗い影を落としている。何やら類似する1967年と2022年。このふたつの時代を対比したとき、「何が見えるのか?」と、佐井は『日の丸』で投げかけられた同じ質問とマイクを手に街頭に立つ。

その一方で、寺山を良く知る映画作家の安藤紘平や番組にかかわったスタッフ、彼らをよく知る関係者を取材。寺山が当時の番組スタッフとともに『日の丸』を通して、何を伝えようとしたのかを紐解こうとする。

こうして半世紀の時を経て、気鋭の若手ディレクターによって新たに生まれた『日の丸』は、何を語るのか? いったい何が露わになるのか、注目を!

なぜ『日の丸』だったのか? なぜこの手法だったのか?
佐井大紀監督が語る制作の裏側

『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』の佐井大紀監督

なぜ、50年以上前に発表された問題作『日の丸』の試みを、現代でトライしようと考えたのか?1967年と同じ質問を現代の街行く人々にして、何を感じ、何が見えてきたのか? 佐井監督に制作の舞台裏を語ってもらった。

「まずなぜ『日の丸』にそれほどの衝撃を受けたかというと、今自分はドラマ制作部にいて番組を作る上で、何にトッププライオリティを置いているかというと、いかに視聴者の方に気持ちよく楽しんでいただけるものを届けるか。そのことを第一に考えているんです。

でも、『日の丸』がやっていたことは真逆で。視聴者の気持ちを逆撫でするというか。“日の丸の赤は何を意味していますか?”という質問が象徴しているように、ほとんどの人が戸惑うことを投げかけて、視聴者の感情を揺り動かすようなことをしている。

今、テレビはもう成熟しきってしまって新たな可能性を切り拓くことができないような状態にある。でも、1967年のテレビはこんな自由でテレビの可能性を追求できていた。そのことに衝撃を受けたんです。それで、局でドキュメンタリー企画の募集があったときに、『日の丸』がやった映像実験みたいなものを、もう一度今やってみたら面白んじゃないかと思ったのがこの作品へ向かう第一のきっかけでした。

そして、考えてみると、番組の放送された1967年は東京オリンピックと大阪万博の間にあって、現在というのも東京オリンピックが終わって、大阪万博を控えているときに当たる。1967年はベトナム戦争が世界を揺るがしていて、今はコロナパンデミックが世界に大きな影響を及ぼしている。時代はまったく違うのだけれど、重なることが非常に多い。そうとらえると、今もう一度『日の丸』の試みをやってみる価値はあるんじゃないか、何か見えることがあるんじゃないかと考えたんです。

現在と1967年に同じ質問を投げかけることで、日本社会や日本人の心の在り様みたいなもの、それらの時代を経ての変化みたいなものが見えてくるのではないかなと。

それからもうひとつ、自分自身、大きな影響を受けている寺山修司が『日の丸』で日本の何を描こうとしたのか、この番組で何を表現しようとしていたのか、そもそもこの番組は偏向報道だったのか、問題作なのかも検証したかった。

こうして完成したのが『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』です。

ドキュメンタリーを作るのは初めてだったので探り探りでしたけど、僕は世の中を斜めから疑ってみる性格で。そういう別角度から物事を見て、新たな視点や考え方、ものの見方を提示することが自分の唯一できることではないかなと思っています。それはこの作品でもできたのではないかと自負しています。

ひと言で“こういう映画です”となかなか形容するのが難しいのですが、自分について、社会について、日本について思考を巡らせる旅に出るようなユニークな作品になったのではないかと思っています」

Review
50年以上前の質問が、現代でも色褪せない。その意味とは

「日の丸の赤は何を意味していますか?」。いきなりこう問われたら、おそらく多くは答えに困るのではないだろうか?

「あなたに外国人の友達はいますか?」「もし戦争になったらその人と戦えますか?」とドキュメンタリー番組『日の丸』は、「なんで今そのことに答えなければならないのか」とでも言いたくなる、その場から離れたくなるような居心地の悪い質問を街の人々に投げかける。そして、ある意味、予想どおり、ドキュメンタリー番組『日の丸』の1967年においても、本作『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』の2022年においても、何かズバリと断言するような明快な答えはほぼ返ってこない。となると、「こんな質問をして意味があるのか」「何の答えも出ることのない質問をしてなんになるのか」ということになるのだろう。

ただ、ここでよく考えてほしい。ここに用意された質問はすべて50年以上前に作られた質問であることを。

そのことを前にしたとき、ふと気づくことがある。それは、これらの質問は確かに「答えにくい」が、「答えられない」ものはひとつもない。50年以上の時を経ているにもかかわらず、「質問の意味が通じない」ものもなければ、「もはや過去のことでは?」で片付けられるものもない。ある意味、現代に通じる、ほとんど色褪せていない質問ばかりなのだ。

つまり、それは日本人が、日本という国が、日本という社会が50年以上経ってもずっと抱え続けている問いといってもいい。そして、その問いのひとつひとつを丹念に紐解くと、そこにはずっと先送りを繰り返して、避け続けている問題がしのばせてあることに気づかされる。

50年以上前の質問が、現代でも色褪せない問いになる。このことが物語る日本の現実とは? この事実を私たちは深く考え受け止めなければならない。

Check!

テレビでは伝えきれない真実をドキュメンタリー映画として発信する“TBS DOCS”

TBSは1955年の開局以来ドキュメンタリーを制作、放送し続けてきたが、2021年11月、歴史的な事件やいま起きている出来事、市井の人々の日常を追い続け、テレビでは伝えきれない真実や声なき心の声をドキュメンタリー映画として世の中に発進する新ブランド“TBS DOCS”(海外ではドキュメンタリーのことを“ドックス”と呼ぶ)を設立した。

既に劇場公開された『人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界 完全版』や『戦場記者』も元々は深夜のドキュメンタリー番組の放送から。2022年春開催の『TBSドキュメンタリー映画祭2022』で上映された映画版が好評を受け、この度《完全版》として、“TBS DOCS”作品の1本となった。

本ページで取り上げた『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』が公開された後の2023年3月には、『TBSドキュメンタリー映画祭2023』が開催されることも決定。その多彩なラインナップの中には『日の丸…』佐井監督の新作『カリスマ~国葬・拳銃・宗教~』や、『戦場記者』須賀川拓監督の新作『アフガン・ドラッグトレイル』も含まれている。“TBS DOCS”から目が離せない!

■『TBSドキュメンタリー映画祭2023』

2023年3月17日(金)~30日(木)
東京:ヒューマントラストシネマ渋谷

2023年3月24日(金)~4月6日(木)
大阪:シネ・リーブル梅田

2023年3月24日(金)~4月6日(木)
名古屋:伏見ミリオン座

2023年4月15日(土)~21日(金)
札幌:札幌シアターキノ

■公式サイト:
https://www.tbs.co.jp/TBSDOCS_eigasai/

『日の丸~寺山修二40年目の挑発~』

2月24日(金)より公開
https://hinomaru-movie.com/

Text:水上賢治