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よりよく生きた、それぞれの道程を祝福する舞台 asatte produce『ピエタ』

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asatte produce『ピエタ』より  撮影:山崎伸康

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小泉今日子が大島真寿美の原作小説に心酔し、舞台化を熱望してから3年以上の時が過ぎた。コロナ禍を含む紆余曲折を経て、今夏ついに舞台『ピエタ』がペヤンヌマキの脚本・演出で開幕した。作曲家ヴィヴァルディが、孤児を育成するピエタ慈善院で少女たちに音楽教育を施していた史実をモチーフに、ピエタで育ち、後にその事務を司るエミーリア(小泉)、ピエタに通って音楽を学んだ貴族の娘ヴェロニカ(石田ひかり)、高級娼婦のクラウディア(峯村リエ)など、彼と因縁のあった女性たちがヴィヴァルディの没後に交流するさまを描いた物語だ。運河を渡るゴンドラ、水紋、五線譜などを想起させる美術(田中敏恵)、オフホワイトで統一した衣裳(宇都宮いく子)など、ペヤンヌは18世紀ヴェネチアの背景を寓話的にぼやかして、そこに息づく女性たちの心の機微をソフトに、されど着実に今を生きる我々へと結びつけた。

ジロー嬢を演じる橋本朗子(手前)、奥左から音楽監督兼演奏者の向島ゆり子、演奏者でアンナ・マリーアを演じる会田桃子

ヴィヴァルディが遺した一片の楽譜、それを探し出すためにエミーリアが奔走するミステリー調の筋を追いながら、その過程で交錯する女性たちの生きざまが色彩豊かに展開する。プリマドンナのジロー嬢に扮するソプラノ歌手の橋本朗子と、ピエタの楽団のスター奏者アンナ・マリーアを演じるヴァイオリニストの会田桃子、ヴィヴァルディのもとで才能を開花させた愛弟子ふたりの存在は、卓越した技量が十分な説得力となってドラマの質を厚くする。それのみならず、才能あるがゆえに抱くジロー嬢の純真な嫉妬や苛立ち、アンナ・マリーアの不安や寂寥といった繊細な表現にも目を奪われた。

左から)エミーリア役・小泉今日子、ジロー嬢役・橋本朗子
左から)エミーリア役・小泉今日子、アンナ・マリーア役・会田桃子

妹であるジロー嬢の世話を取り仕切るパオリーナ(広岡由里子)の神経質そうなふるまい、病気の姉を看病するヴィヴァルディの妹ザネータ(伊勢志摩)が醸す倦怠は共感の笑みを誘い、また彼女たちの誠実な献身、家族愛が深く胸に沁み渡る。その二人が友となって支え合い、思い出を語らう。誰しもが身に覚えのある、もしくは憧れる情景を広岡と伊勢がふくよかに立ち上げた。

左から)パオリーナ役・広岡由里子、ザネータ役・伊勢志摩

楽譜が引き寄せたエミーリア、ヴェロニカ、クラウディアの熱い信頼関係は、ピエタ育ちで薬屋となったジーナ(高野ゆらこ)も加わって、クライマックスへ向けてさざなみの感動を紡ぐ。ヴィヴァルディから恩恵を受けた彼女たちに共通するのは、その恩を次の誰かに渡していこうとする神聖な眼差しだ。その“恩送り”の精神を実直に発揮するジーナが非常に頼もしく、高野の抑えた丁寧な表現が光る。芸術の道に進まなかった人生を悔い、ジロー嬢に嫉妬する人間味も愛おしい。

ジーナ役・高野ゆらこ
クラウディア役・峯村リエ

クラウディアは、原作小説からはいわゆるカリスマ、神秘性漂うクールな女性をイメージしていたが、峯村はそこに少女特有のきらめきを混ぜて来た。時を巻き戻すかのような躍動感あふれる語り口が瑞々しく、相手を虜にする存在感は年老いた姿になっても色褪せない。その魅力を瞬時にキャッチするヴェロニカもまた、心の揺れに寄り添いたくなる素敵な女性である。未亡人である身の、財を持ちながらも満たされぬ孤独を憂い、貴族政治の腐敗に怒りをぶつけ、少女時代の仲間との絆を心から尊ぶ。感情の大きな振り幅を真っ直ぐに体現する石田の、清らかな声の響きに救われる。楽譜の謎が解かれた時に溢れ出る、ヴェロニカの澄んだ涙に打ち震えずにはいられない。

ヴェロニカ役・石田ひかり

それぞれに輝く石を繋げ合わせる糸となり、慎ましく駆け巡るエミーリアには、この『ピエタ』実現に最高の布陣を構えたプロデューサー小泉がどうしても重なってしまう。一人一人の華を背後から押し出して物語を運ぶ役回りに徹するも、やはり強く美しい支柱であることは明白だ。音楽監督の向島ゆり子が自ら演奏者として届ける、ヴィヴァルディのエッセンスを香らせた穏やかな旋律、キーボード江藤直子による雨垂れのようなシロフォンの音色を思い出しながら、小泉がこの物語に託した願いを想像する。登場する誰もが懸命に生き、また誰かに支えられ、誰かを支えている。過去に綴られた「よりよく生きよ」の激励は、さまざまな波を潜り抜けてここまで生きた娘たちを肯定し、その生を祝福する言葉であると受け取った。ペヤンヌが語っていたのは「一筋の希望となる舞台を作りたい」。生きること、生きたことを祝福する希望の光は、我々のもとにも確かに射し込まれた。

取材・文:上野紀子 撮影:山崎伸康

★石田ひかりさんとペヤンヌマキさんの対談記事も掲載中!
石田ひかり×ペヤンヌマキ ひと筋の希望になるような「優しい舞台」を 待望の舞台化『ピエタ』がいよいよ開幕

<公演情報>
asatte produce『ピエタ』

原作:大島真寿美(ポプラ社)

【東京公演】
2023年7月27日(木)~8月6日(日)
会場:本多劇場

【愛知公演】
2023年8月9日(水)・10日(木)
会場:穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール

【富山公演】
2023年8月19日(土)・20日(日)
会場:オーバード・ホール 中ホール

公式サイト
https://asatte.tokyo/pieta2023/

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