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【おとなの映画ガイド】関西弁ノワールの傑作──安藤サクラ主演、山田涼介共演の『BAD LANDS バッド・ランズ』

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『BAD LANDS バッド・ランズ』 (C)2023『BAD LANDS』製作委員会

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安藤サクラと山田涼介(Hey! Say! JUMP)が「特殊詐欺」犯の姉弟を演じる『BAD LANDS バッド・ランズ』が、9月29日(金)、いよいよ全国公開される。直木賞作家・黒川博行の小説『勁草』を、原田眞人監督の見事な映画センスで脚色した、大阪が舞台のクライム・サスペンスだ。

『BAD LANDS バッド・ランズ』

原作の『勁草』(けいそう)、『大辞林』によれば「風などに負けない強い草。また、節操・思想の堅固な人のたとえ。」とある。つまり、タフな奴ってことか。原作は特殊詐欺グループと捜査陣の、まるで頭脳戦のような攻防が描かれていて、これだけでも十分すぎる内容なのだが、原田眞人監督は、犯人グループの中心となる主人公を女性に、その相棒を彼女の弟に変え、物語を分厚く、さらにドラマティックなものにした。

オレオレ詐欺などの“特殊詐欺”は組織的な犯行といわれる。分担された役割は隠語で呼ばれる。実行犯には、電話を掛けて騙す役の「掛け子」、振り込ませた金融機関から現金を引き出す「出し子」、被害者に接触して金を受け取る「受け子」がいる。「掛け子」を管理しているのが「番頭」。「出し子」と「受け子」が金を持って逃亡するのを防止するのが「見張り」。と、原作には書かれている。この他にも闇の携帯や架空口座を売る「道具屋」、多重債務者などの名簿を売る「名簿屋」等、驚くほど“職務”が整理されている。しかも、逮捕時のリスク管理のため、お互いの素性は知らない、という巧妙なシステムで動いているのだ。

安藤サクラ扮する煉梨(ネリ)は「見張り」役。「受け子」が被害者と接触してよいかも判断する。仲間には“三塁コーチ”というニックネームで呼ばれている。映画は、ネリが「受け子」を従えて、ある案件を実行中、というところから始まる。詐欺に遭ったとおぼしき中年の女性が、銀行でお金をおろし、「掛け子」の指示通り、受け渡し場所に向かう。ネリは、一部始終を遠巻きに見ながら、「受け子」への最終ジャッジをくだす。が、どうも、中年女性の周辺にいる男がクサい。警察のおとり捜査ではないか……。

そんな特殊詐欺だけでなく、最下層の人たちを食い物にする、様々な、わりとせこい“しのぎ”がネリのかせぎぶちだ。山田涼介演じる弟の穣(ジョー)は刑務所から出所したばかりで、そんなネリの仕事を手伝うことになる。この姉弟が、偶発的なできごとから、ある事件に関わって億単位の金を手にすることになり、警察だけでなく、巨悪から追われるというストーリーだ。

さまざまな人間たちが複雑に絡み合うドラマは『日本のいちばん長い日』を始め、原田眞人監督が得意とするところ。今回も、ネリの属する犯行グループ、警察、そして、ネリを追う別のグループと、幾筋もの人間関係が交錯する。その要所要所に、絶妙にキャスティングされた役者の個性がにじみ出る。

弟ジョー役の山田涼介は、原田監督の『燃えよ剣』で沖田総司役を演じて以来の起用。ナイーブで、血のつながらない姉・ネリを慕う可愛い一面もあるが、冷血でややあぶないサイコパス。まさに現代に蘇った沖田総司というか、彼がまた、いい雰囲気をだしている。

犯行グループのボス格「名簿屋」は、こういうウサンくさい役どころがビシバシ似合う生瀬勝久。ネリを幼いころから知る元ヤクザに宇崎竜童、自分のことをボクと言っちゃうTatooありの、通称“曼荼羅”だ。「道具屋」にはなんと天童よしみ、このセリフを天童さんにふるかあ、と見ていて思わず吹いてしまった。

捜査陣も、刑事役に『どうする家康』の柴田勝家役だった吉原光夫、捜査班の班長に江口のりこ(やけにめがねに凝っている)と個性派をそろえた。

もちろん、真っ向なクライムサスペンスなのだが、注を入れたくなるキャラクターの持ち主ばかりで、使う言葉も関西弁とあって、どこか、そこはかとないユーモアが感じられる。このアンサンブルが、関西ノワールの魅力であり、映画の醍醐味だ。

それだけではない。原田作品では、時折、こんなスゴイ役者がいたか、と驚かされる。例えば、酒向芳を『検察側の罪人』で見たときがそうだった。本作では、ネリとジョーが息抜きに出入りする裏賭場の金庫番、林田役の“サリngROCK”が、得体の知れない感じで、その怪しさがたまらない。大阪の劇団「突撃金魚」の脚本・演出家だそう。

そしてなんといっても、「世界の主演女優賞を全て差し上げたい名演です」と監督が絶賛する安藤サクラ。詐欺師の顔も、妖艶な女性の立ち振る舞いも、キャップを目深にかぶった三塁コーチ役も、弟への優しさとも愛ともとれる姉の顔も、どれをとっても印象に残る。超タフで、すこぶるカッコいい。

安藤さんは、できればこの後、さまざまな監督作品に出演して、他の顔も見せてほしい。まだまだ全貌をみせない日本の宝、ちょっと大袈裟だがそこまで思える俳優だ。

原田作品の魅力。もうひとつは、セットを始め、どこで撮ったのだろうと感心する映像のユニークさ。今回、大阪でロケもしているが、彦根の各所でオープンセットを作ったり、住宅や店舗を改造して、撮影を行っている。例えば、詐欺グループが出入りするプールバーなんて、無国籍でノワール(暗黒)映画にぴったりの舞台。

この店の名前が、タイトルにもなっている「BAD LANDS」。若き日のシシー・スペイセクとマーティン・シーンが共演したテレンス・マリック監督『地獄の逃避行』(1973) の原題からとっている。主人公ネリの名前は、ドストエフスキーの『虐げられた人びと』のネリーからだという。

そんな風に、映画のあちこちに、まるで宝探しでみつける宝物のように、監督の遊び心も隠されている。

文=坂口英明(ぴあ編集部)

【ぴあ水先案内から】

笠井信輔さん(フリーアナウンサー)
「……緻密に計算された配役と演出。キャストの移動をつぶさに追うカメラが画面に躍動感を与え想像を超える犯罪カオスへと向かうのだ」

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