「何がなんでも絶対にヒットしてほしい!」
樋口真嗣監督が語る『ザ・クリエイター/創造者』
『ザ・クリエイター/創造者』は、『GODZILLA ゴジラ』『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』のギャレス・エドワーズ監督が手がけるオリジナル作品。画面の細部まで監督のこだわりと愛情がつまった1作だ。
そこで、『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』など大ヒットを連発している樋口真嗣監督に本作を観てもらい、話を聞いた。飛び出したのは、熱いコメントと、エドワーズ監督への共感。「5行に一度“ギャレス、頑張れ!”って入れて下さい」と語る樋口監督の応援トークをお届けします!
樋口真嗣監督が語る
『ザ・クリエイター/創造者』
アクション、未来への警告、そして感動のドラマ『ザ・クリエイター/創造者』の
魅力に迫る!
『ザ・クリエイター/創造者』は俺たちの夢がつまった映画
── 今日は映画監督の樋口真嗣さんにギャレス・エドワーズの新作SF『ザ・クリエイター/創造者』をご覧いただきました。
樋口 もう、何がなんでも絶対にヒットしてほしい映画です。なぜならオリジナルのSFなんですよ! 今のハリウッドのスタジオで主流となっているのはアメコミ系かリメイクものやリブート。そういう中にあってオリジナルのSFは絶滅危惧種。だからこそヒットしてほしい。声を大にして言いたいですよ。「みんな、劇場に行け!」
── 脚本はギャレスが『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)の後から温めていたオリジナル。テーマとしては、これまで何度も映画化されてきたAI vs.人類です。
樋口 そのテーマのSF映画として、真っ先に頭に浮かぶのはジェームズ・キャメロンの『ターミネーター』(1984)。僕は本作をその1作目と、続編の『ターミネーター2』(1991)を合わせたようなSF映画だと思った。『1』では(アーノルド・)シュワルツェネッガー扮するターミネーターが人類の敵として未来からやって来るけど、『2』では味方として現れる。本作も主人公(ジョン・デヴィッド・ワシントン)にとってAIは最初は敵、中盤あたりから味方になる。
そのキャメロンで言えば、『アバター』シリーズ(2009~)も思い出した。舞台となる衛星のパンドラの森や海はまるで理想郷のように描かれていて、本作ではAIと人類が共存している東南アジアがあたかもシャングリラのような理想郷だった。そこに邪悪な植民地主義者がやってくるという構成もよく似ている。
こういう映画がオリジナルのストーリーとして生まれるのは、多くの人がアメリカという国に少なからず不信感を抱いているということ。今の世相を反映した物語になっているんだと思う。ギャレスはイギリス人なのでアメリカに対して批評的スタンスなのも納得できる。それに『ローグ・ワン』のときからドニー・イェンや、中国人役者のチアン・ウェンを出したりして、アジア愛は強かったし。
── ということは、ギャレスが“キャメロンした”ということですか?
樋口 というより、俺たちのロマンなんです。キャメロンのその2作も彼自身によるオリジナルのストーリーであり脚本。先ほども言ったように、今の時代にオリジナルのSFを創るというのはまさに俺たちのロマンだってこと!
かつて自身のオリジナルストーリー『第9地区』(2009)で華々しくハリウッド・デビューを果たしたニール・ブロムカンプは、その後も『エリジウム』(2013)、『チャッピー』(2015)とオリジナルにこだわってSF映画を作り続けたけれど、結局はどんどんハリウッドのルールによって鋭いエッジは丸まってしまう。つまりギャレスは彼の後、そのイバラの道を今、ひとりで走っている。オレとしては「その道は落とし穴や地雷だらけだけど、走れ!ギャレス!」と応援したくなる。もう、それしかできない!
いや、マジでお願いですから、5行に一度「ギャレス、頑張れ!」って入れて下さいよ。「ギャレス、よくやった!」「ギャレス、ありがとう!」って、ホント頑張ってくれたと思うんで。
── 分かりました!
樋口 もう好きとか嫌いとか、気に入ったや気に入らないというレベルの話じゃないんです。こういう映画は絶対に残さなきゃダメ。考えてみてくださいよ。これから先のハリウッドで、どの映画もフランチャイズものやコミック系ばかりだったらSF映画ファンとしてはディストピア。『ザ・クリエイター』のような野心あふれるビッグバジェットのオリジナルSFを、せめて3年に一度は観せてもらいたい。野心あふれるというか、俺たちの夢がつまった映画なんだから!
アイデア&SF愛で映画を埋め尽くす!
── そういうギャレスのSFマインドはガジェットにも感じましたよね。一番人気はあの自爆ロボット。
樋口 あれはかわいい(笑)。まさにボストン・ダイナミクスの自律歩行ロボットのような動きが素晴らしい。彼らの作ったロボットは人間の足のように動く。蹴とばすと人間のようによろけて体勢を整えるし、2本足になった今はバク転もできる。動きの数々がとても健気なせいもあって、よく似ていますよ。そういう意味ではちゃんと現在と地続き感もあるということ。
あとは車のデザインもいい。警察の車両やリムジンなど、ちょっと手を加えたものが出てきて、隅から隅まで作り込んでいる感じ。ギャレスは自分のアイデアで埋め尽くしたんだと思う。
ヘンな日本語が出てくるのも『ブレードランナー』(1982)からの伝統じゃないですか。まあ、各チャプターの日本語のロゴやエンドクレジットの日本語の書体が全部、勘亭流になって緊張感が台無しなのはご愛敬だけど(笑)、そういうところにもSF愛を感じまくってしまう。
一度でもSFが面白かったと思ったことがある人類は是非とも劇場に!
── なるほど! ところで樋口さんはギャレスの他の作品についてはどういう感想を?
樋口 最初に観た彼の作品はBBCの『世界沈没』(『Perfect Disasters』/2006)。邦題が『日本沈没』(2006)のパクりみたいだったのでなんだこりゃ、アライサムかよ?って気持ちで観たんだけど、何と監督&脚本はギャレスだった。ニュース映像だけを繋いで作ったディザスターもので、もちろん低予算。このときからオレ的にはかなりシンパシーがあった。
その後の長編デビュー作でオリジナルSFの『モンスターズ/地球外生命体』(2010)は相当悔しい思いをした。ローバジェットでも見せ方ひとつでこれだけエモーショナルになるんだ!っていう意味ではジェームズ・キャメロンの登場と同じだった。先にやられたー!という気持ちで。その後はその実績から抜擢されるけどどれもフランチャイズ系。そういうSFすら作らせてもらえないところにもシンパシーを感じてしまうわけですよ、オレは(笑)。もちろん、『ゴジラ』や『スター・ウォーズ』とオレのやっている作品とはバジェットも規模も段違いだけど、気持ちは一緒。同じように地団太踏んで「オリジナル、撮らせてくれよ」と思っている。オリジナルSFを撮るのは本当に俺たちのロマンなんだから!
── 『GODZILLA/ゴジラ』で成功し、『ローグ・ワン』につなげたわけですけど、この2本は樋口さん的にはどうでした?
樋口 2作とも人気のシリーズだし、大きな金を管理しなきゃいけないから、すべてが彼の望んだようにはならなかったと思うよ。やりたくてもできなかったこともありそうだよね。悔しい感じじゃない?
── ということは、やっと自分の撮りたい映画が撮れた?
樋口 だって自分のオリジナルだし、あのラストを考えると望んだように作れたんじゃないかと思うよね。いや、本当に次の展開はどうなるんだろうという映画は久しぶりだった。
そういう意味でもオレは『ターミネーター』を思い出した。初めて観たとき「よかった!」と思ったあの感じ。リドリー・スコットの最初の『エイリアン』(79)もそう。オリジナルのSFだからこその感動ですよ。
── そうですね。
樋口 いや、本当にみんなに観てもらいたいんだけど、その強い想いを上手く言葉にできなくてモヤモヤしてしまう。これまで一度でもSFが面白かった、よかったと思ったことがある人類は是非とも劇場に行ってほしい。そして、できるならIMAXの大画面で観てほしい。というか俺もIMAXで観たい!あの美しいエスタブリッシュショットをラージフォーマットで堪能してほしい。もちろん、オレももう一度、劇場に行くから!
最後にもう一度言わせてください。
「ギャレス、あー!りー!がー!とー!う!」
取材・文:渡辺麻紀
撮影:源賀津己
『ザ・クリエイター/創造者』
10月20日(金)全国劇場にて公開
(C)2023 20th Century Studios
樋口真嗣監督が語る
『ザ・クリエイター/創造者』
アクション、未来への警告、そして感動のドラマ『ザ・クリエイター/創造者』の
魅力に迫る!