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ぴあ 総合TOP > ぴあ映画 > 『ウィッシュ』特集 ディズニーが最新作で描く“願い”

第2回:ディズニーが最新作で描く“願い”

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100周年を迎えたディズニー・アニメーション・スタジオの最新作『ウィッシュ』が公開され、好評を集めている。本作はディズニーのレガシーを引き継ぎながら、次の100年にバトンと想いをわたす完全オリジナル作品だ。

作り手たちは本作にどんな想いを込めたのか? そして映画『ウィッシュ』が描く“願い”とは? これから映画館に足を運ぶ予定の人も、すでに『ウィッシュ』を楽しんだ人にも読んでもらいたい。

“100年”を経たからこそ描ける物語を!

1923年に「ディズニー・ブラザース・カートゥーン・スタジオ」の名前で活動を開始したウォルト・ディズニー・カンパニーは、創立100周年を迎える2023年にどんな映画をつくるべきか? スタジオのメンバーは2018年頃からアイデアを形にしていったという。

「ディズニーのクラシック映画のような、ノスタルジーを感じるけれども、まったく新しい映画をつくりたいと最初から考えていました」と本作の監督を務めたクリス・バックは振り返る。

「スタジオはこれまでに多くの素晴らしい映画を作り上げてきましたから、まずは自分たちのレガシーを振り返ることから創作を始めたいと思ったのです。ウォルト・ディズニーもきっと自分たちがこれまでに作り上げた映画からインスピレーションを受けていたはずですから」

バック監督はディズニーがこれまでに手がけた長編映画すべての画像を廊下のボードに貼り付け、『アナと雪の女王』の脚本と監督を手がけ、現在はディズニー・アニメーション・スタジオのクリエイティブ全体を束ねるCCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)を務めるジェニファー・リーがアイデアを練り始めた。

そこで彼らが見つけたのは、これまで多くのディズニー作品で“ウィッシュ=願い”が描かれてきたことだ。ある者は星に願いをかけ、ある者は願いが叶わない逆境に立ち向かった。彼らは“ウィッシュ”をキーワードにアイデアを積み重ね、ストーリーを綴っていった。それはまだ誰も観たことのない完全オリジナルの物語とキャラクターだ。

バック監督とタッグを組んだファウン・ヴィーラスンソーン監督は「この映画で大事だったのは、次の100年の“はじまり”を告げる映画にすること。ウォルトが大事にした“革新”を大切にした新しい映画をつくることでした。過去の作品を振り返るだけの映画をつくることもできました。でも、次の100年を見据えたもの、これからも観る人にインスピレーションを与えるもの、観客の境界線を押し広げるような映画を作りたいと思ったんです」と語る。

その想いはストーリーだけでなく、映像にも及んだ。本作では、最新のデジタル技術を駆使して水彩画のようなタッチで世界が描かれる。創作を開始した当初、このアイデアを実現させる手法は確立されていなかったが、スタッフたちは本作でも“安全”よりも“挑戦”を選択した。

「私たちは常に新しいことにトライしています」とクリス・バック監督は力説する。

「もちろん、我々がまず最初に考えることはストーリーとキャラクターです。しかし、私たちは映像表現についても挑戦を続けたいと考えています。それは他でもないウォルト・ディズニーにインスピレーションを受けているからです。彼は常にテクノロジーをどんなふうに革新できるのか、自分と観客がワクワクできる新しい視覚的な映像表現がないのか考え続けた人でした。映画をつくる上で誰からインスピレーションを受けるか考えた時に、ウォルトほど最適な人はいませんからね」

物語の舞台は地中海に浮かぶ架空の島が設定され、劇中の衣装や建物は南ヨーロッパと北アフリカの意匠や文化が巧みに取り入れられている。大きなスクリーンで観ると登場人物たちのアクセサリーや洋服の細部まで徹底的に考え抜かれてデザインされていることがわかるだろう。さらに本作ではそれらが、まるで人がひと筆ひと筆ていねいに描いたような温かみのあるタッチで表現されているのだ。100年に渡って新しい技術、新しい表現方法に挑み続けてきたスタジオだから達成できた映像といえるだろう。

ちなみに劇中には、ディズニー100年の歴史を思い起こさせる表現やキャラクターが随所に登場する。これまでのディズニー作品を愛してきた人であれば思わずニヤリとしてしまう場面が見つかるはずだ。

「とは言え、制作の最初にオマージュを捧げるためのリストをつくったわけではないんですよ」とジェニファー・リーは笑う。

「本作はオリジナルの作品をつくりたいと思って創作を始めましたから、オマージュについてはまったく考えていませんでした。やがて、参加するスタッフの数が増えてくると、キャリアのあるスタッフは過去の経験や、当時のエピソードをたくさん持っていて、“過去にこんなことがあった”とか“このシーンはこうやって描いたんだ”という話をみんなにしてくれるわけです。みんなはその話をまるで“ドリンク”のように飲み込んで、インパクトを受けて創作にあたりました。

だから、劇中のオマージュは意図的にやったというよりは、エモーショナルで有機的な流れの中から生まれたものです。それに私たちはみんな幼いころからディズニー作品を愛していますから、過去の作品は私たちのDNAのようなもの。すでにそこにあるものなんです」

ディズニー・アニメーション・スタジオは、作品ごとにスタッフを招集し、完成すると解散してしまうのではなく、メンバーが集まって共に働き、経験を共有してきた。ベテランのメンバーは若いスタッフを育て、スタッフはいつでも過去のディズニー作品の原画や脚本、背景画にアクセスできる環境が整っている。

『ウィッシュ』は、途切れることなく100年続いてきたスタジオだから描ける映画なのだ。

本作が描く“願い”とは?

映画『ウィッシュ』ではタイトルにもある通り、“願い”が重要なモチーフになっている。映画の舞台は、どんな願いも叶うという魔法の王国ロサス。主人公のアーシャは、そこで王国の隠された真実を知ってしまうが、みんなの願いを叶えたいと行動を開始する。

そもそも“願い”とは何なのだろう? 将来は宇宙飛行士になりたいと願う子もいれば、次の休みには旅行に行きたいと願うこともある。このふたつは同じ"願い”なのだろか?

クリス・バック監督は「ジェニファーとは“願い”に関して本当に何度も何度もいろんな話をしました」と笑みを見せる。

「"願い”というものが人にとってどんな意味を持っているのか? みんなで話し合い、時にストーリールームがセラピー・セッションのような時間になることもありました(笑)。創作の過程では、自分の気持ちをオープンにして、個人的な問題や自身の歴史について話したりもしますからね。

そこで『時に人はとても深い願いを持っているよね』という話になりました。この映画で描く“願い”は、その人にとって最も大事なものです。『アイスクリームを食べたいなぁ』というような願いではなくて(笑)、その人にとって本当に大切で大事な願いは何なのか? この問題を掘り下げていくことで、私たちはアーシャの願いにたどり着いたんです」

本作の最初のアイデアを構想し、脚本も手がけたジェニファー・リーは「願いを持っていたとしても、それを追いかけることは簡単なことではない」と語る。

「これまでのディズニー作品を振り返ってみると、登場人物が星に願ったり、自分の願っていることを映画の冒頭で歌にして表現していて私たちはワクワクするわけですが、それは願いが、そのキャラクターの“生命の源”のようなものとして表現されているから私たちはワクワクするわけです。つまり、願いは“目的”なのではなく、そこにいたるまでの“道のり”が大事だと思うのです」

王国の秘密を知ってしまったアーシャは、星に強く願う。すると、空から願い星“スター”が落ちてくる。次々と奇跡を起こすスターの魔法の力にアーシャは驚くが、スターは直接、アーシャや王国を助けたりはしない。スターが常に寄り添い、励ます中、アーシャはたったひとり行動を起こすのだ。

「アーシャはロサスを愛しています。でも、王国の秘密を知り、自分だけでなく、すべての人の願いや希望を取り返すことができないのか考えます。アーシャがこれまでのディズニー作品の主人公と違うのは、その願いが自分のためだけではなく、他の人のため、コミュニティ全員のためにあるということです」(ファウン・ヴィーラスンソーン監督)

本作で大事なのは、願いが叶ったり、叶わなかったりすることではない。何かを願い、そこに向かって行動し、選択し、時に失敗したり、仲間を見つけたりしながら、願いに向かっていく“道のり”の大切さを本作は描いている。

「おとぎ話では星に願いをかけて、それが叶ったりするわけですが、人生はそうじゃないですよね」とジェニファー・リーは言い切る。

「自分自身で夢を追っていく。それは人生でできるパワフルなことのひとつだと思います。夢を見て、世界を変えていく。いま、この世界に存在する多くのものは、かつて誰かが“ウィッシュ=願い”を抱いたことで生まれてきたわけです。ですから、この映画では“願い”というアクション=行動を祝福する映画にしたいと思いました」

“これから”の100年へ。ディズニーが守り続けるもの

このようなテーマとストーリー、キャラクターが生まれるまでに、多くのスタッフが時間をかけて話し合い、アイデアを積み重ねたが、その流れをさかのぼっていくと、その始まりにあるのは、ジェニファー・リーの個人的な“想い”だったようだ。

「私は幼いころから、ディズニーのアニメーターになりたいと思っていました。でも、ここまで来るのに本当に紆余曲折があったんですよ」とジェニファー・リーは振り返る。

「当時の私は自分が脚本を書いたり、監督したりする“ストーリーテラー”だと気づいていませんでした。アニメーターになりたいと願い続けたのですが、結果的に私はディズニーでアニメーターとしてではなく脚本家として仕事を始めることになりました。でもそこまでにいろんな道のりを経たからこそ、いろんな経験をして、それまでとは違う自分になり、違う夢を追うようになったわけです。

私たちは『いま夢を持たなければ! いまの夢を叶えなければ』と思いがちです。でも、大事なのは最初の一歩を踏み出すこと。そして歩き続けること。それこそが大事で“ウィッシュ”という言葉のシンプルな部分だけを描いてしまうと、ウィッシュの持っているパワフルな部分がたくさんあるのにそれが描けないと思ったのです」

この想いに共感したのが、ファウン・ヴィーラスンソーン監督だ。タイで生まれ育った彼女は、18歳の時にフロリダのディズニー・アニメーション・スタジオでタイ出身のアーティストが働いていることを知り、アニメーションの道を志す。学校で美術学士号を取得し、いくつかのアニメーション・スタジオで働いた彼女がディズニーに入社したのは12年前だ。

「それまでも画コンテを使ってストーリーを語る仕事はしてきましたが、ディズニーに入ってからは毎日、挑戦が待っていました。自分自身をどうやってストーリーに反映させるのか、物語と観客の心、自分の心をどうやってつなげるのか? 自分の人生には大切なものがあり、それがあるから人に伝えることができると思うのですが、自分にとってそれは何なのか? それを見つけることが大事でした。

この映画では”願い”をテーマにしていますが、なぜ私がこの物語を伝えたいと思ったのか? それは願いに向かっていく道のりに喜びがあると思うからです。私たちそれぞれの想いがまずストーリー部門に伝わり、やがてアニメーション部門、背景部門……とすべてのスタッフに伝わっていったように思います」

歴史に名を残す巨大なスタジオの、記念すべき100周年映画が、作り手の“個人的な想い”から生まれている。これは驚くべきことだろうか?

『アナと雪の女王』などを手がけ、本作でもプロデューサーを担当したピーター・デルベッコは「それこそが、ディズニー・アニメーション・スタジオの伝統だ」と語る。

「フィルムメイカーの想いをくみとる作品をつくる。これこそがディズニーの最大の特徴であり、他のスタジオにはない強みだと思います。私たちは彼らに"このような映画をつくってくれ”とも“こんなストーリーを書いてほしい”とも言いません。フィルムメイカーが情熱を持って語りたいものがある時、スタジオはあらゆる手段を使って、助けたり、サポートしようとするのです。

ディズニーはフィルムメイカーが牽引しているスタジオ、フィルムメイカーありきのスタジオです。ですからプロデューサーも含めてフィルムメイカーなんだと私は理解していますし、監督の個人的なアイデアや情熱を実際に映画にして公開するまでの伴走者でありパートナーがプロデューサーだと考えています」

ディズニーが100年をかけて守り、積み上げてきたもの。それは“作り手の想いを尊重する映画づくり”だ。夢と魔法の世界、美しい映像、歌い継がれる音楽、その根底には個人の想いや“願い”がある。

「これまでにつくられた映画は、どれも違う映画ですし、監督も違います。ですがどの作品も、スタッフそれぞれが『自分がこの物語を語りたい、この物語を観客と分かち合いたい』と思えなければ、映画はつくることができません。『ウィッシュ』という作品では、500人ほどのスタッフがひとつのチームになって、ひとつのアイデアを信じて、美しいストーリーを観客に語ろうとしています。だから映画の作り手は集団ではあるのですが、そこには個々の想いがある。そう感じ取ってもらえたらうれしいです」(クリス・バック監督)

たったひとりの願いを大切にする。そしてその願いが周囲に広がり、共鳴し、それぞれの願いをつぶすことなく集団、コミュニティ全体に広がっていき、大きなドラマに結実する。ディズニー・アニメーション・スタジオが100年かけて守り続けてきた最大にして最も重要なレガシーはそこにある。そして、このことを頭の片隅に置いて『ウィッシュ』を観ると、そのクライマックスがさらに深く楽しめるはずだ。

『ウィッシュ』
公開中
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