Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
ぴあ 総合TOP > ぴあ映画 > ウディ・アレンの新作『サン・セバスチャンへ、ようこそ』は、ぴり辛な自虐ユーモアと映画への愛に溢れている。【おとなの映画ガイド】

ウディ・アレンの新作『サン・セバスチャンへ、ようこそ』は、ぴり辛な自虐ユーモアと映画への愛に溢れている。【おとなの映画ガイド】

映画

ニュース

ぴあ

『サン・セバスチャンへ、ようこそ』 (C)2020 Mediaproducción S.L.U., Gravier Productions, Inc. & Wildside S.r.L.

続きを読む

養女をめぐるスキャンダルでハリウッドから敬遠された感のあるウディ・アレン。『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』以来久々の新作『サン・セバスチャンへ、ようこそ』が1月19日(金)、日本公開される。御年88歳、イーストウッド、山田洋次と並ぶ長老監督の、サン・セバスチャン国際映画祭で繰り広げられるロマンティック・コメディは、相変わらず軽快で、愛らしい毒舌が満載。大好きなクラシック映画への思いも存分に盛り込んだ、シネフィル(映画通)にはたまらない一本だ。

『サン・セバスチャンへ、ようこそ』

今回もウディ・アレンがオリジナル脚本を手がけ監督している。出演はしていないのだが、『アニー・ホール』などの初期作品群を思い起こさせるシーンや、設定もあり、アレン映画の楽しさで満ちあふれている。長く見続けてきたファンにとっては、なんともうれしい。

舞台となる「サン・セバスチャン国際映画祭」は、スペインの北部、フランスとの国境に近いサン・セバスチャンで毎年秋に開催される。カンヌ、ヴェネツィア、ベルリンに次ぐ歴史と権威があるもの。昨年の第71回では、藤竜也が『大いなる不在』(2024年公開予定) で最優秀俳優賞を日本人として初めて受賞した。このロケ地のカラっと晴れたおしゃれなリゾート風景、映画祭の醸し出すゴージャスな雰囲気も、この映画の醍醐味だ。

主人公のモートは、かつて大学で映画を教え、いまは小説を執筆中という、物書き。プレスエージェントとして活躍する妻が、新作を携えフランス人監督と映画祭に参加するのに同行して、ニューヨークからサン・セバスチャンにやってきた。

モートを演じているのはウォーレス・ショーン。『マンハッタン』でダイアン・キートンの元夫役を演じて以来、アレン作品の常連役者。妻役は『フェイス/オフ』などアクション作品も多いジーナ・ガーション、監督役は『オフィサー・アンド・スパイ』でドレフュスに扮したルイ・ガレル。

「ハイポコンドリア(病的心配症)」という言葉を覚えたのは『ハンナとその姉妹』というアレンの映画だったと記憶する。ちょっとした耳鳴りから悩みはじめ、脳腫瘍まで心配してしまう男をウディ・アレンが演じていた。モートもまた、この心配性患者だ。

映画祭についてきたのは妻が監督とできていやしないかという猜疑心から。小説が書けないいらだちと、妻の浮気の心配によるストレスで、毎晩変な夢をみるし、胸に痛みを感じる。これはかなりの病気に違いない……。

映画祭で会った友人から、いい医者がいると紹介され、暇に任せ思い切って現地のクリニックに出かけるモート。ジョーという名前の医師は、魅力的なスペイン女性(エレナ・アナヤ)だった。ニューヨークへの留学経験があり、話をすると、映画の趣味も合う。既婚者の彼女に、モートはすっかりのぼせ上がってしまう。妻の浮気を心配しておきながら!

病的心配症、猜疑心の塊、惚れっぽい、そして、自分の才能にも容姿にも自信がない。とくれば、ウディ・アレンがこれまで演じてきた、愛すべきだめ男そのもの。いってみれば、アレンの分身だ。

そんなモートがみる変な夢が、本当に変。まさにアレンの映画的嗜好の反映で、ヨーロッパ映画の名作のシーンがモノクロでおもしろ可笑しく登場する。『地獄の黙示録』などを担当し、アレンとはこのところコンビが続く名撮影監督ヴィットリオ・ストラーロの腕の見せどころだ。

「ほとんどの人はカラーで夢を見るけれど、モートはモノクロ映画をこよなく愛しているので、モノクロで夢を見ると思う。考えてみれば、モノクロ写真は現実よりもファンタジーなんだ。自然界にモノクロは存在しないからね」とストラーロは語る。

黄色い上着を着ているのが撮影監督ヴィットリオ・ストラーロ

夢のシーンでオマージュを捧げたのは、『市民ケーン』『8 1/2』『突然炎のごとく』『男と女』『勝手にしやがれ』『仮面/ペルソナ』『野いちご』『皆殺しの天使』『第七の封印』の9本。すべて、アレンが崇拝する1950〜60年代のヨーロッパ作品。

モート役のウォーレス・ショーンによれば「当時は“人生の意味とは何か”という問いに大きな関心が向けられていた。ベルイマンもその問いに取りつかれていたし、フェリーニの『甘い生活』もそうした関心に満ちていた……『突然炎のごとく』では、愛は人生における最も重要なテーマだ。モートがフランス映画の影響を受けているのは、人生のこの側面を真剣に扱っているからだと思う」。

この作品の撮影前後に書かれた『唐突ながら ウディ・アレン自伝』によると、クランクインまでには、スキャンダル事件が後を引き、キャスティングを含め、相当難航したようだ。「厄介な人物と喜んで運命をともにしてくれる役者はそうそうみつからない。ありがたいことに、ウォーレスは例外だった」。

モートをアレン自身が演じると、いかにも神経質で面倒くさい奴になると思うのだけど、好人物のウォーレス・ショーンが演じることもあり、これまでよりややマイルド。

そのせいか、より強く感じるのは自己愛より、映画への愛。

「人生は映画のように、想定外」、チラシに書かれたコピーはなかなかしゃれている。

文=坂口英明(ぴあ編集部)

(C)2020 Mediaproducción S.L.U., Gravier Productions, Inc. & Wildside S.r.L.

【ぴあ水先案内から】

植草信和さん(フリー編集者、元キネマ旬報編集長)
「……映画オタクのアレン監督ならではの、“映画と人生”の物語……」

植草信和さんの水先案内をもっと見る

高松啓二さん(イラストレーター)
「……思わぬキャスティングに心が躍った。」

高松啓二さんの水先案内をもっと見る