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『クエンティン・タランティーノ』映画シリーズ完全ガイドVol.3

人気のシリーズの映画の歴代作品をおさらいし、各作品の解説、あらすじ、作品が公開された背景、トリビア、そして最新作の情報をまとめて紹介します。

1分でわかる
『クエンティン・タランティーノ』

✅ 1963年、米テネシー州出身の映画監督、脚本家、俳優。1992年に『レザボア・ドッグス』で長編デビューを果たし、これまでに9本の長編映画を発表している。

✅ 幼少期から映画を愛する生粋の映画マニアで、劇中には大量の映画の引用、オマージュが散りばめられている。

✅ 時制の入れ替えや、章立ての構成など語り口に注目が集まるが、描かれるドラマやキャラクターは王道で魅力的。彼の作風に影響を受けた作品も多い。

目次

1.監督作品の紹介
  1-1.『レザボア・ドッグス』
  1-2.『パルプ・フィクション』
  1-3.『ジャッキー・ブラウン』
  1-4.『キル・ビル Vol.1/Vol.2』
  1-5.『デス・プルーフ in グラインドハウス』
  1-6.『イングロリアス・バスターズ』
  1-7.『ジャンゴ 繋がれざる者』
  1-8.『ヘイトフル・エイト』
  1-9.『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
    ⇒⇒水先案内人はこう観た!
2.【ぴあ編集部による“新視点”】
 シリーズの背景と時代

  2-1.“いつでも”映画が観られる時代の寵児
  2-2.“映画でしか描けないこと”に挑み続ける
3.【続編】今後の展開は?

シリーズ作品の紹介

『レザボア・ドッグス』

(1992年/米/100分)

出演:ハーヴェイ・カイテル、ティム・ロス、マイケル・マドセン、クリス・ペン、スティーヴ・ブシェミ

映画監督を目指して脚本を書き続けるも実現に至らないことが続いたタランティーノが、自主映画として撮ろうと決めて脚本を書いた作品。結果、この脚本を読んだ名優ハーヴェイ・カイテルが出演だけでなく、製作まで買って出たことで、タランティーノの長編デビュー作が実現した。

絶対に成功すると言われた宝石店の強盗計画。集まったプロフェッショナルたちは素性を隠すためにお互いをコードネームで呼び合い、現地に向かうが、計画は一瞬にして破綻。逃走して倉庫に逃げ込んだ男たちは“この中に裏切り者がいるのでは?”と壮絶な駆け引きを繰り広げる。

冒頭のレストランシーンの駄話で観客のハートを掴み、タイトルが出るとすでに肝心の強盗シーンが終わっている予想外の展開。以降、時制を組み替えながら、それぞれのキャラクターの背景とトラブルの真相が浮かび上がってくる。デビュー作とは思えない脚本のうまさと、映像の語りの引き出しの多さ、そして描かれる“仁義”のドラマ。

タランティーノの長編デビュー作としてだけでなく、90年代の映画に多大な影響を与えた1本として、現在に至るまで多くのファンを獲得している。

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『パルプ・フィクション』

(1994年/米/154分)

長編デビュー作から2年後。2作目にしてカンヌ映画祭最高賞パルムドールに輝き、アカデミー脚本賞を受賞した作品。

レストランで強盗を企むカップル、ギャングのボスから妻の世話を頼まれた男、八百長試合を持ちかけられるも裏切ったボクサーなどのエピソードがバラバラに語られ、やがて時系列が明らかになっていく構成で、パルプ=B級犯罪小説のアンソロジー的な内容だ。

大量のセリフの応酬、観客を翻弄するような展開、油断させておいて突然出現するショック演出、そして愛する映画へのオマージュなど、タランティーノの得意技が次から次へと繰り出される154分。

前作に続いてハーヴェイ・カイテル、ティム・ロスが出演するほか、ジョン・トラヴォルタ、サミュエル・L・ジャクソン、ユマ・サーマン、ブルース・ウィリス、クリストファー・ウォーケンらが出演。

ディック・デイル&ザ・デルトーンズ「ミザルー」など劇中で使用された音楽も話題になり、サントラ盤も大ヒット。タランティーノが“時代の寵児”として話題にのぼることが多かった時期を代表する初期の代表作だ。

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『ジャッキー・ブラウン』

(1997年/米/154分)

出演:パム・グリア、サミュエル・L・ジャクソン、ロバート・フォスター、ロバート・デ・ニーロ、ブリジット・フォンダ

映画界だけでなく、90年代のポップカルチャーを象徴するひとりして注目を集めていたタランティーノの第3作はなんと、大人のラブストーリー。

生活苦のために副業で武器商人の運び屋もやっている中年キャビンアテンダントのジャッキーは、人生の一発逆転を狙って保釈屋のマックスと一攫千金の計画に挑む。

タランティーノが敬愛する作家エルモア・レナードの小説『ラム・パンチ』を基に書かれた脚本で、『コフィー』『フォクシー・ブラウン』など70年代ブラックスプロイテーションで活躍したスター女優パム・グリアが主演。

これまでの作品同様、凝った構成や速射砲のように繰り出されるセリフ、観客の隙をついて繰り出されるバイオレンスは健在だが、ベースにあるのは人生の半ばを過ぎた大人の愛のドラマ。パム・グリアとロバート・フォスターの見せる演技は必見で、当時の“タランティーノブーム”が去った今だからこそ、再評価、再鑑賞されるべき作品だ。

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『キル・ビル Vol.1』

(2003年/米/113分)

出演:ユマ・サーマン、ルーシー・リュー、デビッド・キャラダイン、千葉真一、栗山千明

5年で3本の長編を発表し、人気監督の座に登りつめたタランティーノはここで歩みを少し止めて、自宅で大好きな映画を観まくる日々を送っていたようだ。大好きなクンフー映画、怪獣映画、ヤクザものに、マカロニウェスタン……彼の愛する映画たちのエッセンスがひとつの作品に凝縮(悪魔合体)する。

世界最強の暗殺者集団に属するも妊娠を機に組織から抜けることを決めたブライドは、組織の首領ビルと配下の殺し屋から襲撃を受け、婚約者と胎内の子を失い、4年間の昏睡状態に陥る。奇跡的に目を覚ましたブライドがやることはひとつ。組織への復讐、ビルを殺る(KILL BILL)ことだ!

過去の名作、B級映画の引用、オマージュ、好きすぎて同じことがやりたいシーンなどが満載のタランティーノ史上最大の怪作。劇中のアニメーションパートをプロダクション・アイジーが手がけるほか、栗山千明、大葉健二、菅田俊ら日本人キャストが多数出演。

そして、タランティーノ最愛のアイドルにして敬愛する名優、千葉真一が主人公ブライドを導く服部半蔵役で登場する。

なお、本作は一部の国では流血、残虐シーンの一部がモノクロになるなど映像に加工が施されているが、日本版は真っ赤な血しぶきが飛び交うオリジナルバージョン。日本版のみ冒頭に「この映画を偉大なる監督、深作欣二に捧ぐ」のテロップが登場する。

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『キル・ビル Vol.2』

(2004年/米/136分)

出演:ユマ・サーマン、マイケル・マドセン、ダリル・ハンナ、デビッド・キャラダイン、ゴードン・ラウ

あまりにもやりたいことが多過ぎて1本の映画に収まりきらなくなったため、本作は2部作で製作された。

ヴァニータ・グリーンとオーレン・イシイに復讐を果たしたブライドは、残る2人の殺し屋と、首領ビルへの復讐を開始する。

前作でも顔を見せていた名優リュー・チャーフィー(ゴードン・ラウ)が、本作ではブライドの武術の師匠パイ・メイ役で登場。往年の香港映画のカメラワークやズーム処理が完全再現され、なぜかゾンビ映画のオマージュが登場したり、『燃えよ!カンフー』のデイヴィッド・キャラダイン演じるビルとブライドの一騎打ちが描かれるなど、後編も見どころ満載。

なお、本作のラストシーンは、幼少期、シングルマザーで映画ファンだった母と一緒にテレビで映画を観て育ったタランティーノが、母に捧げるべく描いたシーンと思われる。荒唐無稽、衝撃続きの二部作の最後に待つ感動のラストは必見!

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『デス・プルーフ in グラインドハウス』

(2007年/米/113分)

出演:カート・ラッセル、ヴァネッサ・フェルリト、ローズ・マッゴーワン、ロザリオ・ドーソン、ゾーイ・ベル

低予算のB級映画ばかりをまとめて上映する映画館“グラインドハウス”にオマージュを捧げた映画『グラインドハウス』のために製作された1作。一部の劇場では本作と、タランティーノの朋友ロバート・ロドリゲス監督の『プラネット・テラー』、オリジナル予告編集が合わせて公開になった。

テキサスの地元ラジオ局のDJジャングル・ジュリアは、友人と出かけたバーで“スタントマン・マイク”と名乗る男に出会う。彼の車はスタント用に耐死仕様=デス・プルーフされたものだという。彼らは揃って店を出るが……

意図的につけられたフィルム傷や、タイトル名を差し替えた痕跡など“B級映画風”の演出が随所に凝らされているのは主に前半までで、映画の半分はタランティーノお得意の会話シーンが延々と続く奇妙な展開に。しかし、マイクを演じるカート・ラッセルが暗闇から姿を現し、車のエンジンがうなりをあげると、映画は観客の予想もしなかった方向へと突き進んでいく。

疾走する1970年型ダッジ・チャレンジャー、身体を張ったスタントの凄み、そしてラストシーンの圧倒的な爽快感! 映画ファンの中には本作をタランティーノの最高傑作と評する人も多い。

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『イングロリアス・バスターズ』

(2009年/米/153分)

出演:ブラッド・ピット、クリストフ・ヴァルツ、マイケル・ファスベンダー、イーライ・ロス、ダイアン・クルーガー

エンツォ・G・カステラーリ監督の『地獄のバスターズ』の英題と同じ響き(スペルは異なる)を持つ歴史超大作。

第二次世界大戦中の欧州。ナチス親衛隊のランダ大佐に家族を殺された娘ショシャナ、ナチスを血祭りにあげるために結成された特殊部隊を率いるレイン中尉と部下たちは、それぞれに戦争を生き延び、ある場所で一堂に会する。場所はパリの映画館。映画『国家の誇り』のプレミア上映の日。そこには別人になりすましたショシャナ、レインたち、そして……ナチスを率いるあの男もいた。

ブラッド・ピットが初めてタランティーノとタッグを組みレイン中尉を演じたほか、“ユダヤハンター”の異名をもつランダ大佐をクリストフ・ヴァルツが演じ、アカデミー助演男優賞を受賞。

5つのチャプターに分かれる構成で、淡々とした会話の中に緊迫感があふれる第一章、マカロニ・ウェスタン風の第二章、フランス映画風の第三章……と各チャプターで異なる語り口が楽しめる。歴史を題材にしながらも、史実を大胆に逸脱して“映画は何だってできる”ことを証明しようとする作劇が近年のタランティーノの特徴のひとつだが、その傾向は本作からはじまったといえる。

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『ジャンゴ 繋がれざる者』

(2012年/米/165分)

出演:ジェイミー・フォックス、レオナルド・ディカプリオ、クリストフ・ヴァルツ、ケリー・ワシントン、サミュエル・L・ジャクソン

愛する西部劇の世界を描いた監督第7作。

南北戦争が始まる直前のアメリカ南部。ドイツ人賞金稼ぎのシュルツは黒人奴隷ジャンゴを手に入れるが、奴隷制を嫌悪するシュルツはジャンゴを解放して“相棒”として共に行動する。ある日、ジャンゴは生き別れになった妻がある農場にいると知り、現地に向かうが、農場主のカルヴィンは想像を絶する残酷な男だった。

日本では『続・荒野の用心棒』のタイトルで知られるセルジオ・コルブッチ監督の『ジャンゴ』からインスピレーションを受けた作品で、ジェイミー・フォックスがジャンゴを演じるほか、クリストフ・ヴァルツが前作に続いて出演し、賞金稼ぎのシュルツを演じる。そして、農場主カルヴィン役でレオナルド・ディカプリオがタランティーノ作品に初登場。映画は大ヒットを記録し、アカデミー脚本賞と助演男優賞(クリストフ・ヴァルツ)を受賞した。

本作も『キル・ビル』や『イングロリアス・バスターズ』と同じく復讐劇。クライマックスの痛快な展開に注目だ。

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『ヘイトフル・エイト』

(2015年/米/167分)

出演:サミュエル・L・ジャクソン、カート・ラッセル、ティム・ロス、マイケル・マドセン、ブルース・ダーン

タランティーノ8作目は波乱の幕開けだった。執筆した初稿の脚本がネット上に流出。タランティーノはこのことに怒り、一度はこのプロジェクトを凍結したが、この脚本を上演する一夜だけの朗読劇が行われたことで、状況は好転。彼は脚本を改稿、完成させ、豪華キャストが集結した。

南北戦争が終わって数年後。猛吹雪で誰も外に出ることができない中、ある山荘に男たちが集う。元北軍少佐だった賞金稼ぎ、1万ドルの賞金がかかった者、新人保安官を名乗る男、カウボーイ、元南軍の将軍、クセだらけの者たちが集い、密室ミステリー劇が繰り広げられる。

ある家屋に閉じ込められた8人の登場人物たちの駆け引きを全6章で描いた作品。本作でも大胆な時制の入れ替えが行われており、最後の最後まで観客の予想を裏切る展開が続出する。劇中でしのぎを削るのはサミュエル・L・ジャクソン、カート・ラッセル、ティム・ロス、マイケル・マドセンらタランティーノ作品常連の面々。巨匠エンニオ・モリコーネがスコアを手がけ、アカデミー作曲賞を受賞している。

密室劇だが全編が65ミリフィルムで撮影され、2.76:1の超ワイド画面で物語が綴られる。密室でありながら、空間的な広がりがあるセットを設計したプロダクションデザイナーは種田陽平。名撮影監督ロバート・リチャードソンとのコンビで生み出される“映画でしかありえない贅沢な空間”を楽しめる1作でもある。

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『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

(2019年/米/161分)

出演:レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー、ブルース・ダーン、アル・パチーノ

レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットが初共演を果たした第9作目。

1969年のハリウッド。テレビスターとして活躍している俳優リック・ダルトンと、親友で彼の専属スタントマンのクリフ・ブースは時代の流れに取り残されつつあった。ある日、リックの隣の家に映画監督のロマン・ポランスキーとその妻で人気急上昇中の女優シャロン・テートが引っ越してくる。

カウンターカルチャーが時代を席巻する69年のハリウッドを舞台に、当時の映画界にいた者たちの日常と、当時起こった“ある事件”をモチーフにした衝撃の展開が描かれる大作。

公開と同時に大ヒットを記録し、ブラッド・ピットは本作の演技でアカデミー助演男優賞を受賞。劇中のセットやセリフのやりとり、シャロン・テートが自身の出演作を観に映画館を訪れるシーンなど全編に渡って映画への愛情が爆発している作品で、ラストの流れるようなカメラワークも必見!

なお、本作の公開後、タランティーノは本作と同じ題材で小説『その昔、ハリウッドで』を発表した。

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水先案内人はこう見た!

村山 章
映画ライター

タランティーノは、1969年のハリウッドを描く本作の企画を思いついたときに『ジャッキー・ブラウン』の原作者エルモア・レナードの小説スタイルに似た、複数のプロットが絡み合う群像劇を想定していたという。しかし途中で考え直し、「ストーリーなんていらないんじゃないか」という結論に達した。ある意味蛮勇にも思えるコンセプトだが、これが非常に効果的に、そして新鮮に機能している。

本作は、落ち目のテレビスターのリック(ディカプリオ)、マイペースなスタントマンのクリフ(ブラピ)、そして実在の女優シャロン・テート(マーゴット・ロビー)の数日間をスケッチしつつ、殺人教団と言われたチャールズ・マンソン一味の存在が不吉に浮かび上がる。ただし“プロットが絡み合う構成の妙”みたいな褒め方は絶対にできない。ただただ無造作にシーンを並べたような荒っぽい手触りが、不思議なほど心地いいのだ。

そして筋の通ったストーリーよりも、69年という時代の終わりと始まりを感じ取っている登場人物たちの“夢と希望と哀愁と諦念”こそがドラマの核であると気づかされる。つまりはタランティーノが描く“感覚”を味わうことが本作の醍醐味。いつまでも観ていられる豊かな時間の映画だと思う。

そのほかの水先案内文はこちら

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【ぴあ編集部による“新視点”】
シリーズの背景と時代

1:“いつでも”映画が観られる時代の寵児

1963年に生まれたクエンティン・タランティーノは、幼少期から母と一緒に映画を観て育った。その後、演技の道に進むが、彼の人生を大きく変えたのは、22歳の時から働き始めたビデオショップ「マンハッタン・ビーチ・ビデオ・アーカイブ」の存在だろう。

彼は働きながら(同僚には後に『レザボア・ドッグス』や『パルプ・フィクション』でもコンビを組む映画監督・脚本家のロジャー・エイヴァリーもいた)、延々と映画を観て、訪れた観客と映画について語る日々を過ごした。おそらく、観客と話が盛り上がった際には店内から、話題になっているビデオを持ってきて、該当のシーンを一緒に確認したり、繰り返し観たはずだ。

タランティーノの登場は「ビデオで繰り返し映画を観る世代」が映画の作り手になったことを象徴する出来事だった。その結果、彼は一時期、“時代の寵児”のように紹介され、タランティーノ作品を真似たと思われる映画が続出した。

それまでの世代は、映画は気軽にいつでも観られるものではなかった。映画館での上映が終わってしまうと、次に観られるチャンスはテレビで放映されるか、二番館やリバイバルで上映されるのを待つのみ。観客から映画の作り手にまわった者たちは、自分の中にある“記憶”をベースに映画をつくっていた。

しかし、タランティーノたちはビデオの登場によって、好きなシーンをいつでも、繰り返し観ることができる最初の世代の作り手だ。よって自作でオマージュやサンプリングが行われる際もそのこだわりは細部にまでおよぶ。

さらに映画が繰り返し観られることが当たり前になった作り手たちは、自作を観る観客も“繰り返し観る”ことを想定する。結果、ストーリーの構成は複雑になり、一度観ただけでは気づかないかもしれない細かな設定や伏線、描写がどんどん増えていく。

これまでも情報量の多い映画、観客が難解だと音を上げる映画はあったが、このあたりから映画はそれまでにない語り口を獲得したのではないだろうか。

この傾向はタランティーノに限った話ではなく、ポール・トーマス・アンダーソンや、ダーレン・アロノフスキー、クリストファー・ノーランなどの作品にも感じられるはずだ。映画館で1回キリ、ではなく何度も楽しめる。繰り返し観ることでさらなる発見がある。そのことを明らかに意識した映画づくりが行われている。

これを機に過去に観たタランティーノ作品を改めて観ることで、以前には気づかなかったポイントに気づくかもしれない。

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2:“映画でしか描けないこと”に挑み続ける

タランティーノについて語る際には必ず“映画オタク”という言葉が登場する。事実、彼はオタクだし、映画を愛している。

結果、彼の作品は過去の映画の引用、言及、影響で埋め尽くされており、タランティーノ作品をきっかけに引用元になった映画を観てみようとする観客も多いようだ。

一方で、彼は好きなもので作品を彩りながらも同時に“映画でしか描けないこと”にキャリアをかけて挑んでいるようにも見える。映画は現実ではない。映画は映画の中だけで完結していていい。その結果、登場人物にちゃんとした名前は必要ない場合だってあるし、登場するセットは現実に存在しないデザインでもいい。史実をベースにした物語でも史実どおりに展開する必要もない。映画として良いか? 映画でしか描けないことなのか? が最大の関心だ。

そんな態度は時に“閉じた世界”と批判されることもあるが、自分のやりたいことを突き詰め、密室劇でも全編65ミリフィルムで撮影したくなってしまうタランティーノの情熱には圧倒されるものがある。そして、そんな中から時おり『デス・プルーフ』のような“映画の根源的な魅力”に満ちた映画が生まれてしまうのもまた面白いところだ。

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【続編】今後の展開は?

Photo:AFLO

タランティーノは以前から「長編映画を10本制作したら監督を引退する」と繰り返し発言しており、監督9作目の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の公開前のプレス取材でも「次の作品で引退する」と改めて宣言している。

第10作目は一体、どんな作品になるのか? 現在、報道されているのは『The Movie Critic』と題した作品で、1970年代のLAを舞台に映画評論家ポーリン・ケイルを主人公にしたドラマが描かれるようだ。

ポーリン・ケイルと言えばアメリカで最も著名な映画評論家のひとりとして知られ、多くの映画監督のキャリアに良かれ悪しかれ多大な影響を与えてきた人物でもある。タランティーノは彼女をモチーフにどんな作品を描くのだろうか?

とは言え、タランティーノは大ファンの『スター・トレック』の最新作を手がけるとも宣言しており、そうなると10本ではなくなるような……。映画監督とプロレスラーの引退は信用してはならない、という話もあるので未来がどうなるかは分からないが、何にせよ、長編第10作目は現在、進行しており、そう遠くない時期に公開されることになりそうだ。

『レザボア・ドッグス デジタルリマスター版』
公開中

https://reservoir-movie.com/
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◎文:中谷祐介(ぴあ編集部)
ぴあ編集部所属。映画、レジャーなどの取材、記事執筆、インタビューを行っている。これまでにマーティン・スコセッシ、クリストファー・マッカリーら映画監督や、ハリソン・フォード、マーゴット・ロビーらハリウッド俳優にも取材。イベント、配信番組への出演も多い。Voicyにて音声番組「ぴあ映画のトリセツ」を担当中。好きな食べ物はちくわ。

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