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ぴあ 総合TOP > 新国立劇場『デカローグ』特集 映画ファンに愛され続ける名作『デカローグ』の魅力と舞台化への期待

『デカローグ』舞台化の裏側に迫る!

第1回:映画ファンに愛され続ける名作『デカローグ』の魅力と舞台化への期待

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東京・初台にある新国立劇場で、4月から7月までの4か月間に渡り上演される舞台『デカローグ』。本作は巨匠クシシュトフ・キェシロフスキが手がけた同名映画のシナリオから舞台化し、全10話のエピソードを三期に分けて上演する壮大なプロジェクトだ。

映画ファンを魅了し続けてきた名作はいかにして舞台化されるのか? 10話から成る物語は現代の観客に何を投げかけるのか? 映画『デカローグ』の魅力や、作り手たちの声も交えつつ、2024年演劇界最大の注目作に迫る!

全演劇ファン、映画ファン必見のプロジェクトが始動

新国立劇場は、誰もが知る国内外の古典、名作だけでなく、出演者すべてをオーディションで選ぶ公演や、研修所の活動、海外の新鋭作家の紹介や公演のデジタル配信など、演劇ファンの視野を広げる企画や、世界標準のクオリティの公演を数多く手がけてきた。

そんな彼らが挑む新たな公演が『デカローグ』だ。原作は、ポーランドの映画監督クシシュトフ・キェシロフスキ監督が旧約聖書の十戒をモチーフに描いた十篇の連作集で、本公演では全10話のエピソードを大きく3つのタームに分け、4月から5月は『デカローグ1~4』を、5月から6月は『デカローグ5~6』を、そして6月から7月は『デカローグ7~10』を上演する。

上演台本は、ロイヤルコート劇場との共同プロジェクト、劇作家ワークショップ発の作品『私の一ケ月』(2022年)の作家、須貝英が担当。演出は、新国立劇場演劇芸術監督の小川絵梨子、そして上演時間計7時間半の『エンジェルス・イン・アメリカ』二部作(2023年)の演出を手がけたことも記憶に新しい上村聡史のふたりが務める。

キャストはプログラムA・Bに出演するノゾエ征爾、高橋惠子、千葉哲也、小島聖、前田亜季、益岡徹、近藤芳正、夏子らをはじめ総勢40名以上。映画でも印象的な全篇に登場する“傍観者”を亀田佳明が務める。それぞれのエピソードは独立して楽しめるが、続けて観ることで描かれるドラマやモチーフ、テーマが少しずつ重なり合い、層を成していく構成になっており、劇場に足を運ぶたびに作品の世界がより深く、多面的になっていくだろう。

各プログラムのチケットだけでなく、同時期に上演される複数プログラムのセット券や、10話すべてを鑑賞できるセットも販売中。

舞台『デカローグ 1~10』

原作:クシシュトフ・キェシロフスキ/クシシュトフ・ピェシェヴィチ
翻訳:久山宏一
上演台本:須貝英
演出:小川絵梨子/上村聡史

★2月17日(土)10:00より、チケット一般発売開始!

[プログラムA、B交互上演(デカローグ 1-4)]
公演期間:2024年4月13日(土)~5月6日(月・休)

●プログラムA(演出:小川絵梨子)

主な出演者:上段左から)ノゾエ征爾(1・3)、高橋惠子(1) 下段左から)千葉哲也(3)、小島聖(3)

デカローグ1「ある運命に関する物語」
デカローグ3「あるクリスマス・イヴに関する物語」

●プログラムB(演出:上村聡史)

主な出演者:上段左から)前田亜季(2)、益岡徹(2・4) 下段左から)近藤芳正(4)、夏子(4)

デカローグ2「ある選択に関する物語」
デカローグ4「ある父と娘に関する物語」

[プログラムC(デカローグ 5・6)]
公演期間:2024年5月18日(土)~6月2日(日)

主な出演者:上段左から)福崎那由他(5)、渋谷謙人(5)、寺十吾(5・6)、下段左から、仙名彩世(6)、田中亨(5・6)

デカローグ5「ある殺人に関する物語」(演出:小川絵梨子)
デカローグ6「ある愛に関する物語」(演出:上村聡史)

[プログラムD、E交互上演(デカローグ7~10)]
公演日程:2024年6月22日(土)~7月15日(月・祝)

●プログラムD(演出:上村聡史)

デカローグ7~10主な出演者:上段左から)吉田美月喜(7)、章平(7・8)、津田真澄(7) 下段左から)高田聖子(8)、岡本玲(8)、大滝寛(7・8)

デカローグ7「ある告白に関する物語」
デカローグ8「ある過去に関する物語」

●プログラムE(演出:小川絵梨子)

上段左から)伊達暁(9・10)、万里紗(9)、宮崎秋人(9・10) 下段左から)竪山隼太(10)、石母田史朗(10)

デカローグ9「ある孤独に関する物語」
デカローグ10「ある希望に関する物語」

映画ファンに愛され続ける名作『デカローグ』

アンジェイ・ワイダ(『灰とダイヤモンド』)、イエジー・スコリモフスキ(『水の中のナイフ』)など数多くの人気監督を輩出するポーランド映画界の中でも全世界的に屈指の人気と評価を集める映画作家クシシュトフ・キェシロフスキ(1941-1996)。

彼の存在は1991年に発表された『ふたりのベロニカ』で圧倒的なものになり、フランス政府からの依頼で製作された『トリコロール』三部作(青の愛/白の愛/赤の愛)はヴェネツィア国際映画祭で最高賞を(青の愛)、ベルリン国際映画祭では監督賞を(白の愛)を受賞。1996年に心臓発作でこの世を去るまでに彼が遺した作品は、現在も映画ファンから熱狂的な支持を得ている。

そんなキェシロフスキが1988年から数年に渡って製作した傑作連作集が『デカローグ』だ。

舞台は、1980年代のポーランド・ワルシャワにある団地。そこで暮らす人々のドラマが独立した全10話のエピソードで描かれるが、それぞれのエピソードが旧約聖書に登場する“十戒”がモチーフになっている。十戒はモーセがエジプト出発前にシナイ山で神から授かった10(デカ)の言葉(ローグ)で、殺人や盗みの禁止、偶像崇拝の禁止、安息日を守ることなどが記されている。

キェシロフスキは、脚本家のクシシュトフ・ピェシェヴィチと共に“10の戒律”からイメージを膨らませ、現代のポーランドを生きる人々の道徳や倫理をめぐる物語を紡いでいった。十戒の“主が唯一の神である”がモチーフの第1話「ある運命に関する物語」では、無神論者の父と息子、信心深い叔母を中心とした物語が描かれる。“人を殺してはならない”がモチーフの第5話では殺人を犯した青年と、彼の弁護を担当する新米弁護士のドラマが展開する。各話は約60分で、独立した作品としてそれぞれを短編として楽しむことができるし、続けて観ることで内容がゆるやかにつながっていることを発見できる魅力もある。

本作は、テレビドラマとして製作されたが、撮影は全編35ミリフィルムで行われ、放送から数年後にはポーランド国外で“映画”として公開され、圧倒的な人気を獲得した。第46回ヴェネツィア国際映画祭では国際映画批評家連盟賞に輝き、映画監督のスタンリー・キューブリックや、手厳しいことで知られる映画評論家のロジャー・イーバートらから絶賛を集めた。

また、製作する過程で第5話と第6話のロングバージョンが製作され、テレビ放送より先に『殺人に関する短いフィルム』『愛に関する短いフィルム』のタイトルで公開。『殺人に関する…』はカンヌ国際映画祭で審査員賞に輝いている。

全編を通して観ると572分におよぶ超大作だが、映画ファンの間では圧倒的な人気を得ており、繰り返し上映やソフト発売が行われ、新たなファンを獲得している。日本でも1996年に劇場で初公開され、2005年にはリバイバル上映。キェシロフスキ没後25年にあたる2021年にはデジタル・リマスター版が劇場公開され、往年の映画ファンと新世代の観客を魅了し、驚きを与え続けている。

デカローグ クシシュトフ・キェシロフスキ 初期作品集収録特別盤

発売元:アイ・ヴィー・シー
価格:Blu-ray 26400円(税込)

© TVP – Telewizja Polska S.A.

https://www.ivc-tokyo.co.jp/titles/ta/a0486.html

名作の舞台化に寄せる期待

そんな名作が日本で舞台化される。

映画『デカローグ』は1980年代のポーランドを舞台にしているが、そこで描かれる物語は普遍的なもので、2024年の観客にも“現在の問題”として響くことになるだろう。それぞれのエピソードは殺人や信仰、親子の問題、正義/不正義などについて描いているが、通して観ると本作は、そのすべてが何らかの”コミュニケーション”のドラマであると言える。人間関係や思いやり、誠実な態度が希薄になっていく世界で、人はどうやって生きていくべきだろうか? その問いは、映画が発表された1980年代よりも現代の方がより切実に感じられるのではないだろうか。

キェシロフスキは常に“愛を描く作家”と言われてきた。登場人物たちに特別な者は誰もいないが、みな日常の中で悩み、苦労し、迷い、激動する時代の波や複雑な人間関係の中で逡巡する。彼は生涯に渡って大きな物語やスペクタクルを描くことはなかったが、その作劇からは、日々繰り返される人間の営みの背後に哲学的なテーマや、人間の不完全さ、倫理と神の問題、国や共同体などの境界の問題が浮かび上がってくる。

舞台『デカローグ』では、俳優たちが会話を交わし、苦悩するドラマが観客の目の前で立ち上がることで、キェシロフスキが描き続けた人間関係の問題、それぞれの倫理や迷いのドラマ、人間の不確かさがより深く観る者の心に刻まれることになるだろう。彼は映画『デカローグ』についてこう語っている。

『デカローグ』の仕事をしながら考えていたのは、こんなことだ。本質的に何が正しくて、何が誤っているのか? 何が虚偽で、何が真実なのか? 何が誠実で、何が不誠実なのか? それに対して、人はどのような態度をとったらよいのだろうか?(河出書房新社刊『キェシロフスキの世界』より引用)

映画『デカローグ』の本質が“演劇だからできる方法”で深く浮かび上がる舞台『デカローグ』は、全演劇ファン、全映画ファン必見の公演になることは間違いない。

新国立劇場の演劇『デカローグ 1~10』
2024年4月13日(土)~7月15日(月・祝)
会場:東京・新国立劇場 小劇場
https://www.nntt.jac.go.jp/play/dekalog/