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ぴあ 総合TOP > ぴあ映画 > 『デカローグ』舞台化の裏側に迫る! 第3回:高田聖子×万里紗×亀田佳明インタビュー

左から)『デカローグ』に出演する高田聖子、亀田佳明、万里紗(撮影:石阪大輔)

『デカローグ』舞台化の裏側に迫る!

第3回:高田聖子×万里紗×亀田佳明インタビュー

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ポーランドの名匠クシシュトフ・キェシロフスキが旧約聖書の十戒をモチーフに、1980年代のワルシャワの団地に暮らす人々の人間模様を連作で描いた『デカローグ』が新国立劇場にて小川絵梨子、上村聡の演出によって完全舞台化。4か月にわたるプロジェクトのスタートを切る『デカローグ1~4』(プログラムA・B交互上演)が、4月13日より上演中だ。今回は全十篇の中からデカローグ8「ある過去に関する物語」(プログラムD)に出演する高田聖子、デカローグ9「ある孤独に関する物語」(プログラムE)に出演する万里紗、そして、キャストの中で唯一、全十篇に出演する亀田佳明が本作への思いを語ってくれた。

月に1回、団地に遊びに行くような感覚で覗きにきて

高田 私は詳細を伺う前に「新国立劇場さんからお話が……」と聞いて「やります!」と即答しました。新国立劇場さんは、普段と違うことをやらせてくださる場所なので。その後で「デカローグ」と聞いて、若い頃に(キェシロフスキ監督の)「トリコロール」三部作を観て「オシャレだなぁ……、ジュリエット・ビノシュが素敵だな」と思っていたので、あの世界に触れられるんだと嬉しかったです。

万里紗 私は先にラインナップ発表で『デカローグ』を上演すると聞いて「出たいな」と思っていたので、お呼びがかかって「わーい!」と喜んでいたんですが、マネージャーに「これまで(小川)絵梨子さんにいただいた役は、若くて明るい天真爛漫な役が多かったけど、今回は年相応の役で、密度も濃いドラマだから地に足をつけなさい」と釘を刺されました(笑)。

亀田 僕は何年か前に小川さんとの雑談の中で「いつかやりたい」と聞いていたので、お話をいただいた時は「ついに動き出したんだ」と思い、すぐに「やります」とお返事させていただきました。

高田が演じるゾフィアは大学の教授。ある日、彼女の著作の英訳者であるエルジュビェタ(岡本玲)が彼女の元を訪ねてきたことから、彼女の抱えるある過去が明らかになっていく。

高田 歴史的な背景などを含めて、すごく難しいですし、ある過去があって、それから数十年が経った一昼夜の物語なので、そこをどう表現すればいいんだろうかと……。ただ、重苦しいけれど不思議と優しくて柔らかいムードに包まれた物語で、そこに乗せられていく心地よさも感じられました。

一方、万里紗が演じるのは、医師に性的不能を告げられた夫のロマン(伊達暁)と暮らす若き妻・ハンカ。話し合いの末、結婚生活を続けることを確認するも、実は彼女には若い大学生の愛人がいる……。

万里紗 映像を観終わった時「生気を抜かれる」という感じで立てなかったです。自分自身に置き換えても、“愛”って言葉にするのがすごく難しくて、「肉体じゃない」と言っても、やっぱり肉体が必要だったり、抱きしめ合って満たされたつもりでも、心は満たされていない自分がいたり……。すごく共感もできたし、肉体を持って暮らしている私たちがどう生きていくのか? 現代の私たちが性差と向き合った時に、問われている部分が描かれていると思いました。

亀田が演じるのは、全十篇に登場する謎めいた男。何者であるのか説明されないが、重要な局面で必ず姿を見せる。

亀田 僕は最初に映像を小説にしたものを読んだんですけど、それだと人間味の感じられない“ある男”といった感じの存在なんです。でも、映像で観ると体温がしっかりと感じられるんですね。面白いのがこの男、無表情でしゃべらないし、主人公たちを救うわけでも引きずり落とすわけでもなく、何か示唆するわけでもないんですけど、そんな在り方が、ある意味ですごく生々しいんですよね。批評家の間では“天使”と言われることもあるみたいですけど、むしろ僕は人間っぽさを感じました。

小川が演出を務める5本と上村が演出する5本の計10本に出演することになる亀田。この取材の時点でも複数の稽古場を行き来しており、さらに幕が開けば、本番中の舞台と進行中の稽古場を行ったり来たりすることに……。

亀田 いや、もう大忙しです(苦笑)。あっちに行って、こっちに行って……。ただ、身体は忙しいけど、不思議と心は落ち着いています。こんなにセリフがない役も珍しいですけど。

万里紗 あんなに長いセリフが得意な亀田さんがこんなにもしゃべらない役をやるのも面白いですね(笑)。

亀田 それが逆に自分でもすごく興味深くて、普段はセリフに追われて、つい近視眼的になっちゃうところがあるんですけど、セリフがないことで落ち着いて客観的にいろんなことを見られているなと思います。

高田 私は演出の上村さんも含めて、亀ちゃん以外のみなさんは「はじめまして」なんですよね。

亀田 そうなんですか⁉

高田 これだけ年齢を重ねると、そういう現場ってなかなかないので新鮮で楽しみです。初めての方と難しいことをするというのは……。

亀田 楽しいですよね、新しい人と出会うって。

高田 共演する岡本(玲)さんに詰められるかと思うとゾクゾクします(笑)。

万里紗 私は絵梨子さんとご一緒して、初めて演劇の組み立て方が腑に落ちたような気がします。物語を紡ぐということに関して、本当に優れている方で、何か突飛なことをするのではなく、物語の強さを信じ、丁寧に細部を見つめ、創っていく、という演劇の純粋な喜びを教えてもらいました。

高田 たくさんしゃべってくれるのがいいよね。俳優ってどうしても俳優の目線でしか見られない部分があるけど、いろんなことを話してくださるので視野が広がるんですよね。

万里紗 どんな物語であろうと、いまこの瞬間、このふたりの関係性の中で何が起きているのか? 言葉を尽くして共有してくれるんですよね。

亀田 “その場で”ということを大切にするよね。

万里紗 そのぶん、いまをきちんと生きていないと、すぐ見抜かれるんじゃないかとヒリヒリしますけどね(笑)。あと、初日の本番前には必ずみんなにハグをしてくれて、すごく安心させてくれるのも素敵です。

亀田 (小川と上村の)ふたりに共通しているのは、書かれている台本の流れにとにかく忠実であること。演劇的な手法や見せ方はそれぞれ違うけど、作品の世界観をすごく大事にしていて、俳優の中で起きている苦悩や葛藤をそれぞれのやり方であぶり出そうとしているんですよね。観てくださる方も、違いを感じつつ、でも十篇でひとつの作品になっているので、そこも面白く観ていただけると思います。

万里紗 稽古はこれからですけど、人生でこれほど人と向き合う機会ってあまりないんじゃないかと思っています。みんな傷つけ合って、でも何とか乗り越えようとする――人間にとってここまで言葉を尽くして、心を開くことって、限られた回数だと思うし、それを伊達(暁)さんとどう紡いでいけるか楽しみです。伊達さんとは、10年前ほどに相手役で共演させていただいたんですが、その時は手も足も出なかったし、ナイフみたいな方で……(苦笑)。

高田 いまは鞘に納めてるけど、昔はとがってたから(笑)。

万里紗 当時は雑談もろくにできなかったです(苦笑)。でも、先日の制作発表会見の時は、普通に話しかけてくださって、10年越しに夫婦として共演できるのが楽しみです。

高田 ウワサによると十篇でほとんど同じセットを組み替えて使われるということなので、月に1回、あの団地に遊びに行くというような感覚で、覗きに来ていただけると面白いと思います。

万里紗 映像版ともまた違った、私たちならではの『デカローグ』ができるんじゃないかと思います。日常に戻った時、すれ違う他人さえも愛おしくなるんじゃないかって気がしています。

亀田 映像版がこれだけみなさんの心に残っているのは、人間の繊細さや苦悩を揺るぎなく的確なアングルや表情で表現しているからだと思います。それをあえて演劇でやる意味――鮮度の高さや俳優の呼吸を感じていただき、より立体的に見えれば、映像とはまた違う形で心にしみこんでいく作品になるのではないかと思います。

高田 あとは、私たちの稽古の頃に会う亀ちゃんがどんな感じになっているか楽しみです(笑)。

万里紗 舞台でしゃべらないぶん、すごいおしゃべりになってたり(笑)。

亀田 すごい境地にたどり着いて、遠い目をしてるかも(笑)。

取材・文:黒豆直樹 撮影:石阪大輔

プロフィール

高田聖子(たかだ・しょうこ)
1967年、奈良県出身。1987年『阿修羅城の瞳』より劇団☆新感線に入団。1995年に自身が立ち上げたプロデュースユニット「月影十番勝負」続く「月影番外地」では、さまざまな演劇人とコラボレートするなど新たな挑戦を続けており、2016年『どどめ雪』で、第51回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞。近年の客演公演はシス・カンパニー『カラカラ天気と五人の紳士』(24)、劇壇ガルバ『THE PRICE』(22)、『アンチポデス』(22)ほか。テレビドラマ、映画出演多数。

万里紗(まりさ)
1990年、神奈川県出身。ミュージカル『赤毛のアン』で初舞台。2011年『レ・ミゼラブル』、2013年『レミングー世界の涯まで連れてってー』など舞台で活躍するほか、テレビドラマや映画、バラエティ番組にも出演。近年の出演作は『レオポルトシュタット』(22)『屠殺人ブッチャー』(23)、「音楽劇『不思議な国のエロス』〜アリストパネス「女の平和」より〜」(24)

亀田佳明(かめだ・よしあき)
1978年、東京都出身。2001年に文学座附属演劇研究所に入所し、2006年座員となる。文学座公演『ガラスの動物園』『タージマハルの衛兵』で第54回紀伊國屋演劇賞・個人賞を受賞。近年の出演作は『ライカムで待っとく』(22)、『ブレイキング・ザ・コード』(23)、『パートタイマー・秋子』(24)ほか。2024年10月上演の新国立劇場公演『ピローマン』にも出演を予定している。

『デカローグ 1~10』
2024年4月13日(土)~7月15日(月・祝)
会場:東京・新国立劇場 小劇場
https://www.nntt.jac.go.jp/play/dekalog/