松下洸平×松下優也『ケイン&アベル』対談【後編】~刺激的な稽古場での発見~
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インタビュー

左から)松下洸平、松下優也(撮影:杉映貴子)
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すべて見るイギリスの国民的作家ジェフリー・アーチャーのベストセラー小説『ケイン&アベル』がミュージカルとなって再誕。1月22日、東急シアターオーブにて世界初演の幕を開ける。クリエイター陣には、音楽フランク・ワイルドホーン(『ジキル&ハイド』)、脚本・演出ダニエル・ゴールドスタイン(『ザ・ミュージック・マン』)など世界の精鋭が集結した。ボストンの名家に生まれ、裕福に育ったウィリアム・ケインと、ポーランドの山奥に生まれ孤児となり、苦境を生き抜いて来たアベル・ロスノフスキ。同じ日に生を受けたふたりの青年は、ケインは銀行頭取に、アベルはホテル王へとのし上がり、運命の出会いを果たして激しくぶつかり合う。ケイン役の松下洸平とアベル役の松下優也、ともに俳優であり、また音楽アーティストとしても華々しい活躍を見せるふたりが、激動の人間ドラマを主導。【後編】は、稽古真っ只中に行われたインタビューをお届け。“このふたりならでは”のミュージカルを立ち上げようと奮闘中の稽古場で、作品やそれぞれのキャラクター、そしてお互いを深く見つめて語り合った。
「ミュージカル」の枠に留まらない作品。表現の幅をどれだけ見せられるか

――ここまでの稽古の感触や、作品の状況などをお話いただけますか?
洸平 稽古はついていくのに必死なくらい、ものすごい速さで進んでいます。立ち稽古が始まって一週間くらいで一幕を通したほどです。
優也 通したけど、まだふたりともミザンス(立ち位置や動線)も入っていなくてグダグダでしたね(笑)。
洸平 最後はすごくカッコよく「ジャン!」みたいにして終わるんですけど、あんな情けないジャン!はなかったよね(笑)。でもすごく刺激的な稽古場です。
優也 この作品、ミュージカルにしては会話劇のように台詞が多いんですよ。家に帰ったら「明日たぶんあのシーンやるから台詞覚えとかないと!」みたいに覚えることに追われて。最初の一週間はがむしゃらに過ごした感じでしたね。
洸平 演出や振付、ステージングはブロードウェイで活躍されているスタッフの方々が作ってくださっていることもあって、作品として面白いのは間違いないです。観に来てくださる方々に、ミュージカルだからこその壮大なものをお届けできるのは確信していて。でも、そこからさらに細かいところを、逆に“ミュージカルだから”という部分にこだわらずにやっていこうと思っています。単純に、僕は演劇として、とても面白い作品だと思っているんです。優也君が言ったように、これ本当にミュージカルだっけ!?って思うくらい、ずっとふたりだけで喋っているシーンがあったりします(笑)。
優也 本当にメッチャ会話劇。この会話こそ歌にせえへん!?って。
洸平 そうそう(笑)。でもそうやって会話で見せられるところもあるのがこの作品の面白さだし、我々に課されている部分でもあると思います。
優也 うん!
洸平 ミュージカルとしての素晴らしさと演劇としての素晴らしさ、あとエンターテインメントショーとしての素晴らしさ、この三つが入っているので、あとは僕たちがそれぞれをどれだけ大きくしていけるかが、この作品をより面白くする鍵なんじゃないかなと思います。
優也 本当に洸平君が言ってくれたように、会話劇みたいなところとショーアップされた部分の両方が混在していて、グランドミュージカルには結構珍しいタイプなんじゃないかなと思います。自分はとくに音楽だけ、ミュージカルだけ、みたいにフィールドを限定して活動して来なかったんですが、そこはきっと洸平君も同じですよね。二足の草鞋みたいな活動をしてきたからこそ、この『ケイン&アベル』で表現の幅を見せられるんじゃないかなと。その振れ幅が今回の面白味かなと思います。
稽古場での印象は――「めちゃくちゃカッコいい」「そこにもう答えがあるという感じ」
――稽古場でお互いに向き合って、あらためて発見したことなどはいかがですか?

洸平 優也君はもう、めちゃくちゃカッコいいです。ケインとアベルは対になるキャラクターで、ケインは裕福な家庭に育った、わかりやすく言うとお坊ちゃんのエリートですけど、アベルは真逆で、身寄りのないところからのし上がって来た野生的な人物。優也君の演じるアベルはまさにそういう、メラメラと燃えたぎっている感じです。稽古の段階でこれだけカッコいいアベルなので、本番はもっとヤバいと思います!

優也 洸平君も音楽アーティストとして活躍されているし、自分も音楽活動からミュージカルの世界に入って来た人間だから、洸平君がどんなふうにミュージカルで歌うんだろう、というのは結構興味があったんですよ。初めての本読みをやった時に、歌がものすごく繊細だったんですね。歌の技術として、ケインの心情がすでに本読みの時点で盛り込まれているのに驚きました。二幕にケインのメチャクチャいいソロ曲があるんですけど、それはとくに素晴らしいなと思ったし、純粋に勉強になるなと思いました。立ち稽古が始まってからは、今回は劇場がシアターオーブで結構大きい空間なので、最初はとりあえず大きくやってみるスタートもあると思うんですよ。でも洸平君はもう、そこだけで成立しちゃうお芝居を完成させているのが凄くて。そんなに大きく動かなくてもお芝居が成立するって、本当にお芝居を捉えている人じゃないと出来ないなと自分は思うので。やっぱりそれは映像でもこれだけご活躍されているからこそなのかな、と思いましたね。稽古場で見ていて、そこにもう答えがあるという感じ。そんなふうに、ちょっとしたふたりのやりとりを見ようとする感覚ってあまりミュージカルの現場にはないことだから、そこも純粋に楽しんでいますね。
――ご自身の役柄について、稽古を通して見えてきた人物像について伺いたいと思います。

洸平 ケインは、台本を読んで僕がイメージした通りかなとは思いましたが、演出を受けて動いてみると意外とチャーミングなところもあるなと感じています。あとは意外と短気です(笑)。ちゃんと自分の意見を言って、信念が強くて頑固なので。その強さは本読みをした時よりも二割増しくらいになっているなと感じています。それは演出のダニエルの要望で、それくらい強い人間じゃないと、銀行の頭取になんてなれないだろうなと思うので、僕もすごく納得しています。誠実な人間ではあるけれど、頑固さや強さといったものをこれからもっと足していけたらなと思っています。

優也 アベルはポーランドからアメリカに移民としてやって来て、ここから上にのし上がっていく!という強い野望を掲げたところからスタートするんです。非常に喜怒哀楽が激しい、アップダウンの激しい人だなと思いますね。実際アベルの周りでいろんなことが巻き起こるからというのはあるんだけど、その激しい感情の揺れを一つひとつ、繋いでいけるようにしていきたいですね。
ケインとアベル、役としての野心と表現者としての野心
――ケインとアベル、それぞれの野心のぶつかり合いが両者の対立を引き起こすわけですが、その野心についてはどのように理解、共鳴しているのでしょうか。
洸平 ケインはアベルに対して、出会った時から基本的にはリスペクトの気持ちがあるんです。投資をする上で彼のプレゼンを聞いて、銀行としてはお金は貸せないけど個人として貸せるだけの素晴らしい人材だということは感じていた。でもその気持ちをケインはあまり表には出さなかったんです。それがいつしか憎しみ合う存在になってしまったことに対しても、どこか悲しさをずっと抱きながら暮らしていたのではないかと思います。僕は台本を読みながら、これだけ相手をリスペクトしていたのに、ボタンの掛け違いひとつでこうなってしまうなんて、すごく数奇な人生だなと感じました。素直になれないことの辛さのような感じです。そうしたふたりを歯がゆい気持ちで観ていただくのも、この作品の面白さじゃないかなと思います。

優也 アベルの野心的なところは表面化されてるからわかりやすいと思うんです。ケインかアベル、どっちのほうが共感できるかといったら、自分は絶対的にアベルなんですよね。ケインとアベルは同じ年、同じ日に生まれたけれど、その境遇はまったく違う。で、ケインがアベルに対して色眼鏡で見ていると、アベルはそう思っているんだけど、実は逆で、アベルの方がケインに対して色眼鏡で見ているんだなと思うんですよね。普通の人なら経験しないような壮絶な体験をして、命からがら生き延びてアメリカにやって来た。そんなふうにして這い上がって来た人間だから、おそらくケインのことを「あなたはいいよね。最初からいい環境でやってきた」と偏った見方をしている。そこは、ちょっと自分もそういう面を持っているかもしれないなと思ったりします。今こうして素晴らしい仕事をさせていただけていることはありがたい、でも元々そうだったわけじゃない、やっと今ここに辿り着いて来た人間だと思っているので。まあでも、もちろん皆それぞれ表に出さないだけで、いろんな経験や苦しみがあるとは思いますけど。アベル自身は、ケインに対してそういう先入観で見てしまっているのだなと思います。
――では最後におふたり個人の、表現者としての洸平さんの野心、優也さんの野心をお聞きしたいです。
洸平 僕自身の野心としては、今はとにかくこの作品を面白くすることだけです。そのために自分に何が出来るのか、そのことしか考えていないです。野心なんてカッコいいものじゃないですけど、とにかく常に全体を見ながら、自分のことばかりにならずに、一人ひとりの顔を見ながら芝居をすることが大切だなと思っています。この先に向けた野心というのも、今やるべきことを一生懸命やることが明日につながっていくと思っています。
優也 自分も洸平君と似ていますね。最終的に自分がこのキャリアにおいて、どこまでたどり着けるかはすごく興味があります。でもそれもこうした作品との出会いで意味を成すことなので、今回は『ケイン&アベル』に向き合った時に、この作品をどれだけいいものにできるか、そこに自分の価値があると思うんですね。今やっている作品に集中する、自分のやるべきことに向き合う、それが次の仕事に繋がっていくのだと思っています。
取材・文:上野紀子 撮影:杉映貴子
<公演情報>
ミュージカル『ケイン&アベル』
原作:ジェフリー・アーチャー
音楽:フランク・ワイルドホーン
歌詞:ネイサン・タイセン
編曲:ジェイソン・ハウランド
振付:ジェニファー・ウェーバー
脚本・演出:ダニエル・ゴールドスタイン
【配役・キャスト】
ウィリアム・ケイン:松下洸平
アベル・ロスノフスキ:松下優也
フロレンティナ:咲妃みゆ
ザフィア:知念里奈
ケイト・ブルックス:愛加あゆ
ジョージ・ノヴァク:上川一哉
マシュー・レスター:植原卓也
リチャード・ケイン:竹内將人
ヘンリー・オズボーン:今拓哉
アラン・ロイド:益岡徹
デイヴィス・リロイ:山口祐一郎
【東京公演】
2025年1月22日(水)~2月16日(日)
会場:東急シアターオーブ
【大阪公演】
2025年2月23日(日)~3月2日(日)
会場:新歌舞伎座
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/kaneandabel/
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